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盗賊編 第九章 水の国と風の国の結婚式
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結婚式当日。
ロティーラ達は、祝福する人々に混ざって、城の中にある広場へ侵入することに成功した。
広場の中心には大きな噴水付の湖があり、ロティーラ達がやってきた谷へとつながる川が流れている。
水の国の魔神が、城内へと入れるように配慮してあるのだ。
人々は、広場から城のバルコニーを見上げた。
バルコニーには、着飾った男女が立っていた。
水の国の王族と、風の国の王族だ。
その中には、当然、ジョンとローラ姫もいた。
二人は、王族らしく国民へと上品に手を振っていた。
だが、心の中では、落ち着かない気持ちだった。
(ぼくが、本当の水の国の王子ではない。
でも、結婚式を成功させないと、国が滅んでしまうかもしれない)
ジョンは、水の魔神の方を窺った。
水の国の魔神は、城内の噴水の近くにいるが、ジョンと目を合わせようとはしない。
水の国の魔神は、海を映したかのような、青い鱗が全身に包まれている。
蛇のような細長い胴体で、頭には、真珠の光沢を放つ角が生えている。
(やっぱり、ぼくが、水の国の王子でないことを察しているのだ。どうしよう?)
ジョンが困惑を表情に出さないように堪えている隣で、ローラ姫は、決意を硬くしていた。
(たとえ、風の国の姫として、一生を終えることになろうとも、私は、私を慕ってくれた火の国を忘れたりしません)
ジョンもローラも相手が偽物であることに、気付かなかった。
結婚式は、お祝いの言葉や、国家音楽隊の楽器演奏で、盛り上がっていた。
いつまでも、行動を起こそうとしない、セイハにロティーラは、焦りを感じていた。
「セイハ。早く友達を助けに行かないの?式、どんどん進んでいくよ?」
「まだ、正体を現さない方がいい。結婚式が成功していると見せかけて、相手を油断させるのだ。幸い、水の国の魔神を使った王子の儀式は、最後だからな」
セイハは、ロティーラを安心させるように微笑んだ。
ロティーラは、セイハの笑った顔を見られなくなると思うと、涙が溢れだしそうになったので、別の話題を振ることにした。
「お姫様。とてもきれい」
ロティーラは、ローラ姫のドレス姿に見とれている。
「ロティーラの方が、きれいだ」
「え?」
ロティーラは、姫様よりも、きれいなはずがないと、首を傾げた。
「ロティーラの方が、ドレス似合っている」
セイハは、ロティーラの目を真剣に見つめている。
見つめられていると、頬が熱を帯びて、ドキドキと胸が高鳴る。
(何?この感じ?セイハが、いきなり恥ずかしい言葉を言うから、びっくりしちゃった)
セイハは、あいかわらず、ロティーラに熱を持った微笑みを向けている。
ロティーラの心臓は、高鳴ってばかりだ。
「ロティーラ。おれ。おまえと盗賊として出会えてよかった。
今、この瞬間を一緒に過ごせてうれしい」
「セイハ」
セイハの言い方は、お別れを告げられているようで、辛かった。
いや、セイハは、別れを告げているのだろう。
これから、セイハは盗賊ではなくなり、水の国の王子として生きていくのだ。
盗賊である、ロティーラと王族であるセイハが、結ばれることはない。
ロティーラは、セイハの服の端を握りしめた。
セイハは、ロティーラの行動に驚きで目を丸くした。
ロティーラの瞳には、今にも泣き出してしまいそうなほど、涙がたまっている。
「セイハ。わたし、セイハの事」
ロティーラは、セイハに自分の気持ちを伝えようとした。
今伝えなければ、セイハに自分の気持ちが伝わることは、一生ないのだから。
「す」
「それでは、お待たせ致しました。結婚式最大の目玉。水の国の王子による、水の国の守護魔神を使役した芸をご覧に入れましょう。王子。宜しくお願い致します」
進行役の声で、ロティーラの声はかき消されてしまった。
「ロティーラ?」
セイハが、心配そうにロティーラの顔を覗き込む。
水の国の王子のふりをしたジョンは、当然水の国の守護魔神を使役できなくて、困惑している。会場にいる国民達も、おかしいとざわめき始める。
ロティーラは、なんとか笑顔を作り、顔を上げた。
「何でもない。わたしこそ、いままで、ありがとう」
「ロティーラ」
「呪文を。水の国の王族属性魔法呪文を唱えて、友達を救ってあげて」
「わかった」
ロティーラに背中を押されて、セイハは、目を閉じる。
真剣な顔つきには、先ほど、ロティーラを心配してくれた表情はどこにもない。
「水の国、ウォーターランド王国の王子として、王国の守護魔神よ。従いたまえ」
セイハの凛とした声が、城の広場に響き渡る。
ジョンには、まったく反応を示さなかった、水の国の守護魔神が、水面から跳びはねた。
広場にいた人々から、拍手が沸き起こる中、セイハは、水の国の守護魔神目指して走って行った。
ロティーラの視界から、セイハの姿が人混みに紛れて見えなくなる。
セイハが、王国の呪文を唱えたことで、盗賊では無くなった。
ロティーラから、いままで耐えていた涙があふれて、とまらなくなった。
(さようならセイハ。わたし、セイハのこと、大好きだったよ)
セイハに言うはずだった言葉は、ロティーラの胸の内にいつまでも、木霊した。
ロティーラ達は、祝福する人々に混ざって、城の中にある広場へ侵入することに成功した。
広場の中心には大きな噴水付の湖があり、ロティーラ達がやってきた谷へとつながる川が流れている。
水の国の魔神が、城内へと入れるように配慮してあるのだ。
人々は、広場から城のバルコニーを見上げた。
バルコニーには、着飾った男女が立っていた。
水の国の王族と、風の国の王族だ。
その中には、当然、ジョンとローラ姫もいた。
二人は、王族らしく国民へと上品に手を振っていた。
だが、心の中では、落ち着かない気持ちだった。
(ぼくが、本当の水の国の王子ではない。
でも、結婚式を成功させないと、国が滅んでしまうかもしれない)
ジョンは、水の魔神の方を窺った。
水の国の魔神は、城内の噴水の近くにいるが、ジョンと目を合わせようとはしない。
水の国の魔神は、海を映したかのような、青い鱗が全身に包まれている。
蛇のような細長い胴体で、頭には、真珠の光沢を放つ角が生えている。
(やっぱり、ぼくが、水の国の王子でないことを察しているのだ。どうしよう?)
ジョンが困惑を表情に出さないように堪えている隣で、ローラ姫は、決意を硬くしていた。
(たとえ、風の国の姫として、一生を終えることになろうとも、私は、私を慕ってくれた火の国を忘れたりしません)
ジョンもローラも相手が偽物であることに、気付かなかった。
結婚式は、お祝いの言葉や、国家音楽隊の楽器演奏で、盛り上がっていた。
いつまでも、行動を起こそうとしない、セイハにロティーラは、焦りを感じていた。
「セイハ。早く友達を助けに行かないの?式、どんどん進んでいくよ?」
「まだ、正体を現さない方がいい。結婚式が成功していると見せかけて、相手を油断させるのだ。幸い、水の国の魔神を使った王子の儀式は、最後だからな」
セイハは、ロティーラを安心させるように微笑んだ。
ロティーラは、セイハの笑った顔を見られなくなると思うと、涙が溢れだしそうになったので、別の話題を振ることにした。
「お姫様。とてもきれい」
ロティーラは、ローラ姫のドレス姿に見とれている。
「ロティーラの方が、きれいだ」
「え?」
ロティーラは、姫様よりも、きれいなはずがないと、首を傾げた。
「ロティーラの方が、ドレス似合っている」
セイハは、ロティーラの目を真剣に見つめている。
見つめられていると、頬が熱を帯びて、ドキドキと胸が高鳴る。
(何?この感じ?セイハが、いきなり恥ずかしい言葉を言うから、びっくりしちゃった)
セイハは、あいかわらず、ロティーラに熱を持った微笑みを向けている。
ロティーラの心臓は、高鳴ってばかりだ。
「ロティーラ。おれ。おまえと盗賊として出会えてよかった。
今、この瞬間を一緒に過ごせてうれしい」
「セイハ」
セイハの言い方は、お別れを告げられているようで、辛かった。
いや、セイハは、別れを告げているのだろう。
これから、セイハは盗賊ではなくなり、水の国の王子として生きていくのだ。
盗賊である、ロティーラと王族であるセイハが、結ばれることはない。
ロティーラは、セイハの服の端を握りしめた。
セイハは、ロティーラの行動に驚きで目を丸くした。
ロティーラの瞳には、今にも泣き出してしまいそうなほど、涙がたまっている。
「セイハ。わたし、セイハの事」
ロティーラは、セイハに自分の気持ちを伝えようとした。
今伝えなければ、セイハに自分の気持ちが伝わることは、一生ないのだから。
「す」
「それでは、お待たせ致しました。結婚式最大の目玉。水の国の王子による、水の国の守護魔神を使役した芸をご覧に入れましょう。王子。宜しくお願い致します」
進行役の声で、ロティーラの声はかき消されてしまった。
「ロティーラ?」
セイハが、心配そうにロティーラの顔を覗き込む。
水の国の王子のふりをしたジョンは、当然水の国の守護魔神を使役できなくて、困惑している。会場にいる国民達も、おかしいとざわめき始める。
ロティーラは、なんとか笑顔を作り、顔を上げた。
「何でもない。わたしこそ、いままで、ありがとう」
「ロティーラ」
「呪文を。水の国の王族属性魔法呪文を唱えて、友達を救ってあげて」
「わかった」
ロティーラに背中を押されて、セイハは、目を閉じる。
真剣な顔つきには、先ほど、ロティーラを心配してくれた表情はどこにもない。
「水の国、ウォーターランド王国の王子として、王国の守護魔神よ。従いたまえ」
セイハの凛とした声が、城の広場に響き渡る。
ジョンには、まったく反応を示さなかった、水の国の守護魔神が、水面から跳びはねた。
広場にいた人々から、拍手が沸き起こる中、セイハは、水の国の守護魔神目指して走って行った。
ロティーラの視界から、セイハの姿が人混みに紛れて見えなくなる。
セイハが、王国の呪文を唱えたことで、盗賊では無くなった。
ロティーラから、いままで耐えていた涙があふれて、とまらなくなった。
(さようならセイハ。わたし、セイハのこと、大好きだったよ)
セイハに言うはずだった言葉は、ロティーラの胸の内にいつまでも、木霊した。
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