上 下
20 / 115
盗賊編 第八章 火矢の嵐

20

しおりを挟む
 火の範囲は広がり、黒猫亭にも近づいていた。
 セイハは、バルコニーへと続く窓を開けると、熱い風が、部屋へと入り込んでくる。
 魔神サピダジョースンに乗った、ロティーラ達は、外へと飛び出す。
 町の上空を飛ぶと、悲惨な状態が見て取れた。
 町の人達の安否を気にしながら飛ぶ。
 降りしきる雨の中を飛んでいると、疑問点が浮かんだ。

「どうして、雨が降っているのに、火が鎮火されないんだろうね」

 それどころか、火に触れた雨が燃える速度を速めているような気がする。
 セイハは、ロティーラの言葉を聞いて、雨の匂いを嗅いだ。

「雨の匂いじゃないな。これは、石油か!」
「石油ってなに?」
「火を燃えやすくする液体の事だ」
「それって!」

 雨の危険性に気付いた、魔神サピダジョースンが、瞬時にロティーラ達の周りに風の結界を張る。
 雨に濡れなくなった、ロティーラ達目がけて、火矢が飛んできた。
 だが、火矢は、風の結界に阻まれて、ロティーラ達に当たらなかった。

 闇の中から、火の国の住人が現れた。
 黒い服に火の国の紋章が刻まれている。
 髪と目は、黒赤い色をしていた。
 手には、火矢を構えている。
 ロティーラ達は、恐ろしい姿を見て、唾を飲み込んだ。

「どうして、町を焼き払うの!」
「関係がない。……といいたいところだが、この雨の正体が石油だと見破ったご褒美に教えてやろう……といいたいところだが、やめよう」
「……じれったい性格の奴だな。言えない理由でもあるのか?
 たとえば、誰かに操られているとか?」

 一瞬火の国の者は、身体を反応させたが、直ぐに強気に戻った。

「関係ないだろう。どうしても知りたいのならば、火を全て消してごらん。無理だとおもうけれども」

 火の国の住人は言い捨てると、闇の中へと姿を消してしまった。

「火を止める方法か?」
「水で消したらどう?」
「油と水は、混ぜると、火が増すのだ」
「なら、逆効果だね」
「そういえば、火は、酸素が無いと、燃えないのだったよな」
「酸素って何?」
「空気の事だ」
「でも、空気が無いと、死んでしまうよ?」
『つまり、セイハは、空気の無い真空状態を火のある所のみ作り出せと言っているのだな』
「そうだけれども、でもどうやって、そのようなことを」
『たやすい事。わたしを誰だと思っている。朝飯前に決まっているだろう』

 魔神サピダジョースンの毛並から、光の粉が、溢れ出し、火があるところへと飛んでいく。
 火を包むように、光の粒が膨張する。
 光の粒に取り込まれた火は、酸素を失い、瞬時に消え去る。
 火の海と化していた街並みは、魔神サピダジョースンの魔法によって、鎮火された。

『さあ、火を全て消し去った。約束通り教えてもらおうか?』

 魔神サピダジョースンが、闇を睨み付けると、火の国の住人が現れた。

「オレ達は、火の国の魔神を闇の帝国に奪われてしまったんだ。
 だから、仕方なく、闇の帝国に従っているんだ」
「闇の帝国だと!」

 ロティーラ達は、顔を見合った。
 火の国の背後に、闇の帝国が絡んでいるとは、想定していなかったからだ。
 闇の帝国は、生まれて一度も聞いたことのない帝国名だった。
 火の国の住人の数が増える。

「どうか、火の国の魔神をお救いください」
「姫様が、闇の帝国に脅されて、風の国の姫として、水の国の王子と結婚させられそうになっているのです」
「「なんだって!」」

 ロティーラ達は、驚愕の声を上げた。


 つまり、水の国の王子は、セイハで今はいない訳だし、風の国の姫までも、本物の姫ではないことが、発覚してしまったからだ。


「でも、どうして、闇の帝国とやらは、自国の人間とではなく、火に国の人間とわざわざ結婚させようとしているのかが、疑問だ」
「火と水は、お互いをかき消しあう存在。
 火と水の間に生まれた子供は、王族でも、精霊魔法を扱えない子供に生まれてしまう。
 闇の帝国は、火の国と水の国をつぶそうと思っているんだ」
「風の国の姫は、どこにいるのだ」

 セイハは、辛そうだった。
 本来ならば、セイハと風の国の姫が結婚する予定だったからだ。


「風の国の姫ならば、誕生日の日に、川に流されたとか、聞きました」

しおりを挟む

処理中です...