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盗賊編 第七章 地の国クエル王国

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 ロティーラは、セイハに向かって、泣きそうな声で、怒っている。
 ミヤとは、ロティーラ達を助けてくれた少女の事だ。
 助けてもらった日依頼、ミヤの家にお世話になっていた。

「雨が、降らないのは、おれのせいじゃねーよ」
「だったら、水の王国の力で△○☆」

 ロティーラの口を、セイハが押さえつけた。

「静かにしろよ」
「……」

 ロティーラが、頷くと、セイハは、手を離した。
 おぼつかない足取りで、ベンチに座る。
 黙り込んだ、ロティーラの隣に、セイハも腰を下ろす。
 俯いたロティーラの様子を窺ったセイハは、ロティーラが泣いていることに気付いた。

「ロティーラ。……大丈夫だから。おれが、なんとかしてやるから、だから、泣くなよ」
「……本当?」

 セイハと視線を合わせたロティーラの目に涙がたまっている。

「本当に、ミヤさんを助けられるの?……ヒック」

 ロティーラは、泣きすぎて、言葉を続けられなかった。
 心配したセイハが、ロティーラの肩に手を置いた。
 セイハは出来るだけ、とびっきりの笑顔を作り、優しく言った。


「大丈夫だ。おれがかならず、助ける。ミヤさんを生贄にはさせない」


 セイハは、ロティーラの涙を開いた手でふき取る。
 ロティーラは、『セイハがいれば、大丈夫』だと思えた。
 不安定な気持ちは、セイハの身体に寄り掛かると、収まって行った。
 




 雨が降らないまま、雨降り祭り当日を迎えた。
 雨降り祭りは、昼から開催される祭りで、朝は、準備の為、祭りの人達は慌ただしく働いていた。

「ついにこの時は着てしまった」

 空は、雲一つない青空で、雨が降りそうには思えない天候だった。
 段々と日が上り、昼が近づいてくる。
 ミヤは、生贄の白い衣装に着替えさせられていた。
 顔は白い布で覆い隠されていた。
 ミヤの身体は、死への恐怖で震えていた。

「私、今日で死んでしまうのかな?」
「ミヤさんを死なせたりしません。絶対に!」
「そうだ。おれ達がいるのだから」
「有難う。ロティーラ。セイハ」

 ミヤから震えが収まり、ロティーラとセイハ安堵した。




 ついに、雨降り祭りが、開催された。
 祭りの内容は、雨乞いの為、踊ったり、祈りを捧げたりするものが多かった。
 ロティーラは、祭りの出し物の一つ、砂押しに参加した。
 砂押しとは、砂を大袋に入れて、大袋の上で踊るシンプルな芸だ。
 大体二十代前後の男女が、宙が入りをしたり、跳ねたり、飛んだりしていた。
 ロティーラも、まざって芸を楽しんでいた。
 でも、楽しんでいる間にも時は流れていく。
 日が沈んでも、雨が降ることはなく、雨降り祭りの大イベントである生贄が、始まろうとしていた。
 生贄は、底が見えないほど深い大きな井戸に落されるのだ。
 井戸の底に住む、魔物に生贄をささげることによって、雨が降ると昔から言い伝えられていた。
 観客は、井戸の周りへと集まっている。

「ねえ、セイハ本当に大丈夫なの?」

 いくらロティーラが問いかけても、セイハは黙って、真剣に何かを考えていた。
 ロティーラは、不安な気持ちになった。


 観客から、叫び声が湧きあがった。
 生贄の衣装に身を包んだミヤが、神官に連れられて、やって来たのだ。
 ミヤの周りには、松明を持った人々が、五、六人囲むように歩いている。
 気のせいかもしれないが、すこし雲行きが怪しくなっている気がする。
 一番偉そうな神官が、呪文を唱えるのに合わせて、他の神官達も復唱を始めた。
 呪文を神官達が唱えている時間が、どのくらいの時間かは、わからない、
 呪文が終われば、ミヤは生贄に捧げられてしまう。

 ロティーラは、ひっしに無い頭を振り絞ったが、何もよい知恵は浮かんでこなかった。
 呪文が終わると、空が暗くなっているのに気付いた。
 夜だからと言うのもあるけれども、それだけではない。
 セイハの作った雨雲が雨を降らせようと、やって来たのだ。

 ミヤが、井戸の前に立たされた。
 張り出された台に乗ったミヤの後ろに神官が立つ。

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