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Soul 4 古
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天使が暴走したのは、あまり日がたっていない時でした。
村に炎が降り注ぎ、草原は瞬く間に、焼け野原になりました。
家は燃えて崩れ、人は怪我や火傷を負いました。
丘の上に避難した人々は、燃え上がる村を見て嘆きました。
「どうしてこんなことになってしまったんだ」「村がオレの家が」「お母さん」
人々がどんなに叫んでも天使の暴走は止まりませんでした。
天使の白銀の翼は炎に照らされて血を吸ったように赤く映りました。
「彼は天使の仮面をかぶった悪魔だったのよ」
「神社は何をしているんだ」
「悪魔退治屋が動いたわ」
村の町並に炎をよけながら天使に近づいていく悪魔退治屋の姿がありました。
その中には向と翁もいました。
「あなたの予想通りになってしまったわ。もう少し真剣に話を聞いて対処していれば、ここまで悲惨な事にならなかったかもしれないわ。ごめんなさい」
「向のせいじゃないよ。それより急ごう」
「ええ」
天使との距離は確実に近付いて行きました。
悪魔退治屋は苦戦を余儀なくされていました。
天使は圧倒的に強かったのです。じわじわと攻撃するので精一杯でした。
天使は大鎌を振りまわし、矢や飛んできた石をはじき返し、人を切り裂きました。
悪魔退治屋は絶望的でした。
見物していた人々も不安に駆られます。悪魔退治屋が倒されれば次は自分たちに襲いかかってくるかもしれないからです。
そういう意味では、悪魔退治屋は皆の希望なのでした。
「このままでは全滅です。ここはひとまず引きましょう」
「皆の者。撤退だ」
「待って下さい」
向は自らの父であり、隊長でもある、厳しい男と向かい合いました。
「今引いては、被害が増える一方です。ここで食い止めなければ」
「だが、我らが死ねば奴を殺せる人はいなくなる」
「でも」
「引け。引くんだ」
隊長が声を張り上げると戦っていた人々が逃げ始めました。
「向。僕等も行こう」
翁は向を慰めるように優しく肩に手を置きました。
「もうどうする事も出来ないの」
「向」
「誰でもいいの。お願い助けて。あたしたちを救って」
「向。あきらめて。今は生きる事だけを考えよう」
「いや―」
翁が押さえつけていなければ、天使に駆け寄って行きそうでした。
向は嘆き祈り続けました。
村の為、人々の為。そして自分自身の為に。
どんなに報われないと分かっていても。
翁はその姿を見ていたたまれなくなりました。
それでも向が大切だったので翁は彼女を離しませんでした。
誰から見ても絶望的だった場所に、黒い影が向かってくるのに気付きました。
黒い影は漆黒の蝙蝠のような翼を持つ悪魔でした。
悪魔は真っ直ぐ天使の元へ向かいます。
天使が気づき炎を悪魔に打ちますが軽々とかわされてしまいました。
錐を取り出し胸元に突き刺そうとする悪魔を大鎌で切り裂こうとしました。
が、その間を数秒早く通り抜け、悪魔の錐は天使の胸を貫きました。
その様子は一瞬だったのでしょうけれど、人々の目にはスローモーションのように映りました。
ゆっくりと崩れ落ちた天使を悪魔が支え、どこかに連れて行きました。
空は雲に覆われて、雨が降り出しました。
消えゆく炎を見て、人々はやっと危険が去った事に安堵しました。
村は順調に復興していきました。
焼けた神社の中には、火傷一つしていない陰が息を引き取っていました。
胸に錐のようなものが突き刺さった跡を残して。
傷のせいか、天使は陰が作り出した悪魔だったのではないかと噂が立ちました。
巫女姫の居なくなった神社には、向が上がることになりました。
ですが愛し合う向と翁を切り離してしまうのはかわいそうだと村人が言い出したので制度は少し変わりました。
巫女姫は神社の外に出てもいいし結婚してもよいと。
月日が流れるに従って巫女姫制度は、巫女姫の子供がなるようになり、悪魔退治屋は、巫女姫と共に村を守る存在になりました。
向はめげずに天使の振りをした悪魔と戦い、その想いで天使を倒す要を呼び出した事を称えられ光の巫女と崇められました。
逆に陰は村を陥れた背徳として人々に闇の巫女と罵られました。
村に炎が降り注ぎ、草原は瞬く間に、焼け野原になりました。
家は燃えて崩れ、人は怪我や火傷を負いました。
丘の上に避難した人々は、燃え上がる村を見て嘆きました。
「どうしてこんなことになってしまったんだ」「村がオレの家が」「お母さん」
人々がどんなに叫んでも天使の暴走は止まりませんでした。
天使の白銀の翼は炎に照らされて血を吸ったように赤く映りました。
「彼は天使の仮面をかぶった悪魔だったのよ」
「神社は何をしているんだ」
「悪魔退治屋が動いたわ」
村の町並に炎をよけながら天使に近づいていく悪魔退治屋の姿がありました。
その中には向と翁もいました。
「あなたの予想通りになってしまったわ。もう少し真剣に話を聞いて対処していれば、ここまで悲惨な事にならなかったかもしれないわ。ごめんなさい」
「向のせいじゃないよ。それより急ごう」
「ええ」
天使との距離は確実に近付いて行きました。
悪魔退治屋は苦戦を余儀なくされていました。
天使は圧倒的に強かったのです。じわじわと攻撃するので精一杯でした。
天使は大鎌を振りまわし、矢や飛んできた石をはじき返し、人を切り裂きました。
悪魔退治屋は絶望的でした。
見物していた人々も不安に駆られます。悪魔退治屋が倒されれば次は自分たちに襲いかかってくるかもしれないからです。
そういう意味では、悪魔退治屋は皆の希望なのでした。
「このままでは全滅です。ここはひとまず引きましょう」
「皆の者。撤退だ」
「待って下さい」
向は自らの父であり、隊長でもある、厳しい男と向かい合いました。
「今引いては、被害が増える一方です。ここで食い止めなければ」
「だが、我らが死ねば奴を殺せる人はいなくなる」
「でも」
「引け。引くんだ」
隊長が声を張り上げると戦っていた人々が逃げ始めました。
「向。僕等も行こう」
翁は向を慰めるように優しく肩に手を置きました。
「もうどうする事も出来ないの」
「向」
「誰でもいいの。お願い助けて。あたしたちを救って」
「向。あきらめて。今は生きる事だけを考えよう」
「いや―」
翁が押さえつけていなければ、天使に駆け寄って行きそうでした。
向は嘆き祈り続けました。
村の為、人々の為。そして自分自身の為に。
どんなに報われないと分かっていても。
翁はその姿を見ていたたまれなくなりました。
それでも向が大切だったので翁は彼女を離しませんでした。
誰から見ても絶望的だった場所に、黒い影が向かってくるのに気付きました。
黒い影は漆黒の蝙蝠のような翼を持つ悪魔でした。
悪魔は真っ直ぐ天使の元へ向かいます。
天使が気づき炎を悪魔に打ちますが軽々とかわされてしまいました。
錐を取り出し胸元に突き刺そうとする悪魔を大鎌で切り裂こうとしました。
が、その間を数秒早く通り抜け、悪魔の錐は天使の胸を貫きました。
その様子は一瞬だったのでしょうけれど、人々の目にはスローモーションのように映りました。
ゆっくりと崩れ落ちた天使を悪魔が支え、どこかに連れて行きました。
空は雲に覆われて、雨が降り出しました。
消えゆく炎を見て、人々はやっと危険が去った事に安堵しました。
村は順調に復興していきました。
焼けた神社の中には、火傷一つしていない陰が息を引き取っていました。
胸に錐のようなものが突き刺さった跡を残して。
傷のせいか、天使は陰が作り出した悪魔だったのではないかと噂が立ちました。
巫女姫の居なくなった神社には、向が上がることになりました。
ですが愛し合う向と翁を切り離してしまうのはかわいそうだと村人が言い出したので制度は少し変わりました。
巫女姫は神社の外に出てもいいし結婚してもよいと。
月日が流れるに従って巫女姫制度は、巫女姫の子供がなるようになり、悪魔退治屋は、巫女姫と共に村を守る存在になりました。
向はめげずに天使の振りをした悪魔と戦い、その想いで天使を倒す要を呼び出した事を称えられ光の巫女と崇められました。
逆に陰は村を陥れた背徳として人々に闇の巫女と罵られました。
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