4 / 22
Soul 2 虜
4
しおりを挟む
日陰は霊羅の部屋の前まで来た。
障子を開けた先は畳のにおいがする霊羅の部屋では無かった。
何処までも果てしなく続く何もない空間。
上も下も右も左さえ分からない。
日陰は恐る恐る足を踏み入れた。
足の下には床が無いのに落ちるわけではなく空間の上に浮いている感じがする。
空間の奥を観察すると、遠くに光るものがある。
日陰はその光を目指して走り出した。
光りに近づくにつれて人型をしているのがわかった。そしてその人型の光の近くに二人の人が居るのがわかる。二人は人型の光を奪い合っているようだった。
さらに近づくと日陰は息を呑んだ。
人型の光は紛れもなく日陰が合いに来た霊羅だったからだ。
霊羅は気を失っていて抵抗なく、仮面の人の腕に収まっていた。
霊羅を助ける為、日陰は仮面の人の所へ行こうとした。
だが誰かに足首を掴まれて前に進めない。手を振りほどこうともがくが掴まれた足を離してもらえる気配はない。仕方無く足を掴んでいる人を確認した。
傷だらけの十五から十七ぐらいの男が倒れている。
そして男の背中には蝙蝠に似た翼が生えていたのだ。
それは紛れもなく悪魔の翼だった。
「行くな」
悪魔は、日陰の足を必死につかむ。
だが視線は霊羅と仮面の人を捕らえていた。
彼の霊羅を見る瞳は真剣そのものだった。
霊羅や岬介が話してくれた悪魔は彼だと直感した。
「……。あんた、父母が大事にしている悪魔?」
「おまえオレの事知って!……そうかお前が日陰か。ずっと」
「ずっと?」
「会って話してみたいと思っていたぜ」
ドキン。
日陰の心が高なった。
同時に、今日はじめて会ったはずなのに悪魔とどこかで合った事がある気がした。が、そんな事を考えている場合じゃないと、未だに足を掴んでいる悪魔を睨みつけた。
「離して」
「だめだ」
「何で。あんたは父母の知り合い。それも深い結びつきを感じた。だったら協力してくれるならともかく邪魔される筋合いはない」
他人だったら一瞬で震えあがる眼で睨んでも、悪魔は一向にひるむ気配がしなかった。
むしろ日陰の足を強く握り直し、悪魔は真っ直ぐ日陰の目を見て説得を開始する。
「お前には奴を倒すことは無理だ。オレだって全く歯が立たなかったんだ」
「あきらめた方が無難だよ」
仮面の人の声が降って来た。悪魔が傷だらけなのに対し、仮面の人は、全く無傷だ。
「そうきみたちは、オレにはかなわない。力の差が大きすぎるからね」
「返して」
「ん」
「母を返して」
「そうだ霊羅を返しやがれ」
「ひどい言われようだな。オレはただ」
仮面の人が片腕を上げ日陰を指差す。
「きみの望を叶えてあげているだけなのに」
「……。あたしの望は母を取られる事じゃない」
「そうだね。これはきみの望を叶える為の第一歩に過ぎない」
「……」
「オレはきみの望が叶う事を祈っているよ」
仮面の人は悲しみに耐えるように、懇願するように、囁いた。
「待て!」
仮面の人は霊羅を捕らえたままいなくなった。
同時に空間がゆがみ出し、本来の部屋に戻った。
畳の上には、意識を失っている霊羅が倒れていた。
日陰の横には、蝙蝠のような翼をはためかせている悪魔がいる。
日陰は霊羅が居ることに安心した。だが隣にいる悪魔の表情は曇ったままだった。
「母さん無事だった」
「身体はな。でも魂は……」
霊羅は気を失ったまま起きる気配はない。
それもそのはず。
霊羅の魂は身体の中にはないのだから。霊羅の魂は仮面の人に捕まってしまった。
足音が鳴り響く。
真行寺神社の人々が違和感を覚えてやってくる音だ。
日陰はとっさに悪魔を連れてその場を逃げ出した。
日陰達が逃げ出した後、霊羅の部屋は大騒ぎだ。
日陰は何とか離れまで戻ってきた。
「大丈夫か」
悪魔が日陰の顔を覗き込む。
日陰は覗き込まれるのが恥ずかしくて、無愛想に目をそらす。
「あんた傷大丈夫」
「ああ。これか」
悪魔は自分についた傷を見回した。さっき見た時より傷は少なくなっていた。
「ここ空気がいいんだよ。だから傷が早く治ってく」
「変」
「なんでだよ」
「ここは神社であんたは悪魔。だから変」
「なるほど。神社って悪魔は入れないようになっているし、無理やり入ってもかなり力を消耗されるからな」
日陰の心配よりも悪魔にとってはそっちの方が大事なはずなのに、全然関係ない顔をしている。
むしろ日陰を心配する時の方が真剣だった事に気づき顔が赤くなる。
日陰の気持ちなど知らずに悪魔は辺りを観察している。
仮面の人の虜になってしまったのは霊羅の魂。
けれど、日陰の心も悪魔(彼)の虜になってしまったように感じるのは、気のせいだろうか?
障子を開けた先は畳のにおいがする霊羅の部屋では無かった。
何処までも果てしなく続く何もない空間。
上も下も右も左さえ分からない。
日陰は恐る恐る足を踏み入れた。
足の下には床が無いのに落ちるわけではなく空間の上に浮いている感じがする。
空間の奥を観察すると、遠くに光るものがある。
日陰はその光を目指して走り出した。
光りに近づくにつれて人型をしているのがわかった。そしてその人型の光の近くに二人の人が居るのがわかる。二人は人型の光を奪い合っているようだった。
さらに近づくと日陰は息を呑んだ。
人型の光は紛れもなく日陰が合いに来た霊羅だったからだ。
霊羅は気を失っていて抵抗なく、仮面の人の腕に収まっていた。
霊羅を助ける為、日陰は仮面の人の所へ行こうとした。
だが誰かに足首を掴まれて前に進めない。手を振りほどこうともがくが掴まれた足を離してもらえる気配はない。仕方無く足を掴んでいる人を確認した。
傷だらけの十五から十七ぐらいの男が倒れている。
そして男の背中には蝙蝠に似た翼が生えていたのだ。
それは紛れもなく悪魔の翼だった。
「行くな」
悪魔は、日陰の足を必死につかむ。
だが視線は霊羅と仮面の人を捕らえていた。
彼の霊羅を見る瞳は真剣そのものだった。
霊羅や岬介が話してくれた悪魔は彼だと直感した。
「……。あんた、父母が大事にしている悪魔?」
「おまえオレの事知って!……そうかお前が日陰か。ずっと」
「ずっと?」
「会って話してみたいと思っていたぜ」
ドキン。
日陰の心が高なった。
同時に、今日はじめて会ったはずなのに悪魔とどこかで合った事がある気がした。が、そんな事を考えている場合じゃないと、未だに足を掴んでいる悪魔を睨みつけた。
「離して」
「だめだ」
「何で。あんたは父母の知り合い。それも深い結びつきを感じた。だったら協力してくれるならともかく邪魔される筋合いはない」
他人だったら一瞬で震えあがる眼で睨んでも、悪魔は一向にひるむ気配がしなかった。
むしろ日陰の足を強く握り直し、悪魔は真っ直ぐ日陰の目を見て説得を開始する。
「お前には奴を倒すことは無理だ。オレだって全く歯が立たなかったんだ」
「あきらめた方が無難だよ」
仮面の人の声が降って来た。悪魔が傷だらけなのに対し、仮面の人は、全く無傷だ。
「そうきみたちは、オレにはかなわない。力の差が大きすぎるからね」
「返して」
「ん」
「母を返して」
「そうだ霊羅を返しやがれ」
「ひどい言われようだな。オレはただ」
仮面の人が片腕を上げ日陰を指差す。
「きみの望を叶えてあげているだけなのに」
「……。あたしの望は母を取られる事じゃない」
「そうだね。これはきみの望を叶える為の第一歩に過ぎない」
「……」
「オレはきみの望が叶う事を祈っているよ」
仮面の人は悲しみに耐えるように、懇願するように、囁いた。
「待て!」
仮面の人は霊羅を捕らえたままいなくなった。
同時に空間がゆがみ出し、本来の部屋に戻った。
畳の上には、意識を失っている霊羅が倒れていた。
日陰の横には、蝙蝠のような翼をはためかせている悪魔がいる。
日陰は霊羅が居ることに安心した。だが隣にいる悪魔の表情は曇ったままだった。
「母さん無事だった」
「身体はな。でも魂は……」
霊羅は気を失ったまま起きる気配はない。
それもそのはず。
霊羅の魂は身体の中にはないのだから。霊羅の魂は仮面の人に捕まってしまった。
足音が鳴り響く。
真行寺神社の人々が違和感を覚えてやってくる音だ。
日陰はとっさに悪魔を連れてその場を逃げ出した。
日陰達が逃げ出した後、霊羅の部屋は大騒ぎだ。
日陰は何とか離れまで戻ってきた。
「大丈夫か」
悪魔が日陰の顔を覗き込む。
日陰は覗き込まれるのが恥ずかしくて、無愛想に目をそらす。
「あんた傷大丈夫」
「ああ。これか」
悪魔は自分についた傷を見回した。さっき見た時より傷は少なくなっていた。
「ここ空気がいいんだよ。だから傷が早く治ってく」
「変」
「なんでだよ」
「ここは神社であんたは悪魔。だから変」
「なるほど。神社って悪魔は入れないようになっているし、無理やり入ってもかなり力を消耗されるからな」
日陰の心配よりも悪魔にとってはそっちの方が大事なはずなのに、全然関係ない顔をしている。
むしろ日陰を心配する時の方が真剣だった事に気づき顔が赤くなる。
日陰の気持ちなど知らずに悪魔は辺りを観察している。
仮面の人の虜になってしまったのは霊羅の魂。
けれど、日陰の心も悪魔(彼)の虜になってしまったように感じるのは、気のせいだろうか?
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
大人な軍人の許嫁に、抱き上げられています
真風月花
恋愛
大正浪漫の恋物語。婚約者に子ども扱いされてしまうわたしは、大人びた格好で彼との逢引きに出かけました。今日こそは、手を繋ぐのだと固い決意を胸に。
アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
麗しのラシェール
真弓りの
恋愛
「僕の麗しのラシェール、君は今日も綺麗だ」
わたくしの旦那様は今日も愛の言葉を投げかける。でも、その言葉は美しい姉に捧げられるものだと知っているの。
ねえ、わたくし、貴方の子供を授かったの。……喜んで、くれる?
これは、誤解が元ですれ違った夫婦のお話です。
…………………………………………………………………………………………
短いお話ですが、珍しく冒頭鬱展開ですので、読む方はお気をつけて。
再会したスパダリ社長は強引なプロポーズで私を離す気はないようです
星空永遠
恋愛
6年前、ホームレスだった藤堂樹と出会い、一緒に暮らしていた。しかし、ある日突然、藤堂は桜井千夏の前から姿を消した。それから6年ぶりに再会した藤堂は藤堂ブランド化粧品の社長になっていた!?結婚を前提に交際した二人は45階建てのタマワン最上階で再び同棲を始める。千夏が知らない世界を藤堂は教え、藤堂のスパダリ加減に沼っていく千夏。藤堂は千夏が好きすぎる故に溺愛を超える執着愛で毎日のように愛を囁き続けた。
2024年4月21日 公開
2024年4月21日 完結
☆ベリーズカフェ、魔法のiらんどにて同作品掲載中。
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
10 sweet wedding
国樹田 樹
恋愛
『十年後もお互い独身だったら、結婚しよう』 そんな、どこかのドラマで見た様な約束をした私達。 けれど十年後の今日、私は彼の妻になった。 ……そんな二人の、式後のお話。
骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方
ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。
注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる