ギゼル

覗見ユニシア

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Soul 2 虜

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 日陰は霊羅の部屋の前まで来た。

 障子を開けた先は畳のにおいがする霊羅の部屋では無かった。
 何処までも果てしなく続く何もない空間。
 上も下も右も左さえ分からない。

 日陰は恐る恐る足を踏み入れた。
 足の下には床が無いのに落ちるわけではなく空間の上に浮いている感じがする。

 空間の奥を観察すると、遠くに光るものがある。
 日陰はその光を目指して走り出した。

 光りに近づくにつれて人型をしているのがわかった。そしてその人型の光の近くに二人の人が居るのがわかる。二人は人型の光を奪い合っているようだった。

 さらに近づくと日陰は息を呑んだ。

 人型の光は紛れもなく日陰が合いに来た霊羅だったからだ。

 霊羅は気を失っていて抵抗なく、仮面の人の腕に収まっていた。

 霊羅を助ける為、日陰は仮面の人の所へ行こうとした。

 だが誰かに足首を掴まれて前に進めない。手を振りほどこうともがくが掴まれた足を離してもらえる気配はない。仕方無く足を掴んでいる人を確認した。

 傷だらけの十五から十七ぐらいの男が倒れている。

 そして男の背中には蝙蝠に似た翼が生えていたのだ。

 それは紛れもなく悪魔の翼だった。

「行くな」

 悪魔は、日陰の足を必死につかむ。

 だが視線は霊羅と仮面の人を捕らえていた。

 彼の霊羅を見る瞳は真剣そのものだった。

霊羅や岬介が話してくれた悪魔は彼だと直感した。

「……。あんた、父母が大事にしている悪魔?」

「おまえオレの事知って!……そうかお前が日陰か。ずっと」

「ずっと?」

「会って話してみたいと思っていたぜ」

 ドキン。
 日陰の心が高なった。

  同時に、今日はじめて会ったはずなのに悪魔とどこかで合った事がある気がした。が、そんな事を考えている場合じゃないと、未だに足を掴んでいる悪魔を睨みつけた。

「離して」
「だめだ」
「何で。あんたは父母の知り合い。それも深い結びつきを感じた。だったら協力してくれるならともかく邪魔される筋合いはない」

 他人だったら一瞬で震えあがる眼で睨んでも、悪魔は一向にひるむ気配がしなかった。

 むしろ日陰の足を強く握り直し、悪魔は真っ直ぐ日陰の目を見て説得を開始する。

「お前には奴を倒すことは無理だ。オレだって全く歯が立たなかったんだ」

「あきらめた方が無難だよ」

 仮面の人の声が降って来た。悪魔が傷だらけなのに対し、仮面の人は、全く無傷だ。

「そうきみたちは、オレにはかなわない。力の差が大きすぎるからね」
「返して」
「ん」
「母を返して」
「そうだ霊羅を返しやがれ」
「ひどい言われようだな。オレはただ」

 仮面の人が片腕を上げ日陰を指差す。

「きみの望を叶えてあげているだけなのに」

「……。あたしの望は母を取られる事じゃない」
「そうだね。これはきみの望を叶える為の第一歩に過ぎない」
「……」

「オレはきみの望が叶う事を祈っているよ」

 仮面の人は悲しみに耐えるように、懇願するように、囁いた。

「待て!」

 仮面の人は霊羅を捕らえたままいなくなった。

 同時に空間がゆがみ出し、本来の部屋に戻った。

 畳の上には、意識を失っている霊羅が倒れていた。

 日陰の横には、蝙蝠のような翼をはためかせている悪魔がいる。 

 日陰は霊羅が居ることに安心した。だが隣にいる悪魔の表情は曇ったままだった。

「母さん無事だった」
「身体はな。でも魂は……」

 霊羅は気を失ったまま起きる気配はない。

 それもそのはず。

 霊羅の魂は身体の中にはないのだから。霊羅の魂は仮面の人に捕まってしまった。

 足音が鳴り響く。

 真行寺神社の人々が違和感を覚えてやってくる音だ。

 日陰はとっさに悪魔を連れてその場を逃げ出した。
 日陰達が逃げ出した後、霊羅の部屋は大騒ぎだ。
 日陰は何とか離れまで戻ってきた。

「大丈夫か」

 悪魔が日陰の顔を覗き込む。
 日陰は覗き込まれるのが恥ずかしくて、無愛想に目をそらす。

「あんた傷大丈夫」
「ああ。これか」

 悪魔は自分についた傷を見回した。さっき見た時より傷は少なくなっていた。

「ここ空気がいいんだよ。だから傷が早く治ってく」
「変」
「なんでだよ」
「ここは神社であんたは悪魔。だから変」
「なるほど。神社って悪魔は入れないようになっているし、無理やり入ってもかなり力を消耗されるからな」

 日陰の心配よりも悪魔にとってはそっちの方が大事なはずなのに、全然関係ない顔をしている。

     むしろ日陰を心配する時の方が真剣だった事に気づき顔が赤くなる。

 日陰の気持ちなど知らずに悪魔は辺りを観察している。

 仮面の人の虜になってしまったのは霊羅の魂。

 けれど、日陰の心も悪魔(彼)の虜になってしまったように感じるのは、気のせいだろうか? 


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