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第10話

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「おばちゃん、ここでなにしてるの?」

突如として声を掛けられ、殺人犯はその場で飛び上がらんばかりに驚いた。

なんと、物陰に隠れて周囲を確認しているところを、一人の少女に目撃されていたのである!!

「あ、あのね、おばちゃんいま忙しいから、後にして……」

「あれっ?お洋服のここ、赤くなってる」

そう言って少女は、殺人犯の洋服の袖を指差した。

それは、殺人犯が気付かずに、洋服の袖に残っていた血痕だった。

犯行現場から洋服が掛けられていたところまでは離れていたため、まさかそんなところまで返り血が飛んでいるとは思いも寄らなかったらしい。

殺人犯は努めて平静を装いながらも、その胸に強い動悸と眩暈を覚えているようだった。

そうして胸を抑え過呼吸のような状態になりながらも、何とか次の言葉を絞り出した。

「はあ、はあ、い、いい?これをあげるから、おばちゃんがここにいたことは、他の人には絶対に内緒にしておいてほしいの」

そう言って殺人犯は、財布から私を取り出すと、少女の手に強引に握らせた。

「あっ、これってお金だよね?」

「そうよ~。一万円って言うの。これがあれば、お菓子でもアイスでも、あなたの好きなものたくさん買えるのよ。だけどね、このお金を貰うには、お金を貰ったことも、おばさんがここにいたことも、誰にも言っちゃいけないの。約束、守れる?」

目の前の相手が殺人犯などとは露ほども知らない無垢な少女は、私を受け取ってさも嬉しそうに頷いた。

「うん!!守れる!!」

それを聞いて殺人犯は、偽善と自己保身が凝縮された、悪魔のような笑みを見せた。

「いい?何か欲しくなっても、お金は本当に大事な時に、少しずつ使うのよ。急に物が増えたりしたら、お父さんお母さんに怪しまれちゃうからね。……本当にいい子。私も男にさえ恵まれてたら、こんな子が欲しかった……」

「うん!!ありがとうおばちゃん!!……って、あれれ?どうして泣いてるの?どこか痛いとこある?」

「ううん、なんでもないよ。おばちゃんの方こそ、心配してくれてありがとう。それじゃ、もう行くね。バイバイ」

こうして殺人犯は少女に見送られながら、人目を避けてその場から逃走した。

私は一万円として、今度は少女の人生についていくこととなったのである。

(第一章完)
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