諭吉の旅

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第8話

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てっきりまた例のコンビニ店員の女に慰めてもらうのかと思いきや、戸口には私が全く知らない、見たこともない別の女が立っていた。

件のコンビニ店員は中年女性であったが、それより一回りほど若い女性である。

犯人は女を招き入れると、あたかもこちらが本命とでも言わんばかりに、昨日とは打って変わった態度で、見ているこっちが気持ち悪くなるほど甘え出した。

全く、このようなクズ男が何故ここまで複数の女人に好かれているのか定かでないが、逆にクズだからこそ一種の『母性本能』でもくすぐられるのだろうか?

この国にとっての大事を成したからこそ、女人にも好かれたのだという自負のある私にとっては、いずれにしても縁遠い話だ。

昨日に引き続き、居間で目を覆いたくなるような光景がひとしきり繰り広げられた後、女は帰っていった。

犯人はまだいいだろと女を引き留めようとしていたのだが、女の方は店の時間があるからとそれを断っており、犯人は元々その店の客で、女は水商売の方面なのではないかと私は推察した。

このようなゴミ屋敷に居を構えるクズ男と、若い女性が交際するということに違和感は感じていたが、なるほど、犯人がその店に相当な額を使い込んでいるのだとしたら、この『特別待遇』も分からないことではない。

というより、犯人がもし今日の競馬を当てていれば、その金を持って店で豪遊するつもりだったのだろう、外れたからこそ消沈して、家にお気に入りの女人を呼んで会っていた訳だ。

若い女の方も、今は金払いが良いため犯人を相手にしているが、この男に金が無くなればいつ袖にされるかも分からない。

なるほどなるほど、心中にはそのような不安が常にあったからこそ、この男は犯罪に手を染め、更にそれをギャンブルによって増やそうとしたのだと、私は思い至った。

犯罪によって得た金を更に増やしたところで、そんなものは所詮は『ハリボテの自信』である。

そんなもので一時的に若い女の歓心を買ったとしても、自身の中身はずっと空虚なままだということに、どうして気付くことが出来ないのだろう。

本当に愚かなことだ……そうして、そのような空虚な人間は、今ではこの国の至るところに、まるで病巣のように増え続けているのだろうと、容易に想像はついた。

心に信念を持つ本物の『侍』、日本の古き良き『大和魂』というものは、一体どこに消え失せてしまったのか……戦争に敗れ、敗戦国として米国に従属的な立場となってしまっていることが、この国の人間から『戦う心』を失わせてしまっているのではないか。

『戦う』とは、別に物理的な意味だけではない。

この世の矛盾や不条理、一見どうしようもないと思われている事柄に、断固として戦っていく『強い心』がなければ、それを未来の子供たちに伝えていかなければ、この国はそう遠くない将来駄目になるのではないかと、現世に今一度生を受けた私は感じたのである。

無論、お札である私の叫びなど、この世界の誰にも届きはしないのだが。

独り言でも良い、せめてここでだけは言わせてほしかった。

私が現代の日本の姿に危機感を覚えていると、戸口の方からまた音がした。

さては先程の女が忘れ物でも取りに来たかと思い、私も犯人も今度は戸口には向かわず、そのまま居間で待っていたのだが、現れた人物に全身が恐怖で凍り付いた。

なんと、そこにはあのコンビニの女店員が、般若のような形相で立っていたのである。
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