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第6話

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翌日、女と別れた犯人は、私たちを財布に入れて『ある場所』へと向かった。

このようなあぶく銭を得た自堕落な人間が、次に考えることは概ね想像がつく。

そう、『賭博』である。

強盗で得た私たちを原資にして、働かずに労せずして人生の一発逆転を狙うというのが、この手の悪党の黄金パターンであり、そのような生態はかつて私が生きていた時代から何も変わってはいない。

そもそもが、地道に研鑽を積むようなことができないからこそ犯罪に走る訳であって、その次はそれを博打によって増やそうと考えるのは自明の理であろう。

犯人の財布の中でしばらく電車に揺られながら、酔いで思わず吐きそうになるのを我慢しつつ、たどり着いたのは『競馬場』だった。

この競馬というものは、競輪、競艇、オートレースと並んで、今では公的機関が国民に合法的に提供している賭博場として、広く認知されているらしい。

この国の法律で、賭博行為は違法とされているにも関わらず、公営のギャンブルは許されるという理屈は、私にはよく分からなかった。

結局、お上が儲かれば合法で、儲からなければ違法とするということなのか?

まあこのようなお上に都合の良い理屈は、昔から枚挙にいとまがないが、それにしてもあまりに傍若無人な振る舞いというか、民衆を騙すにしても、もう少し論理に一貫性というものを持たせてほしいと思う。

更に、この競馬というギャンブル、馬券に元々10%の税金が掛かっているにも関わらず、馬券が的中するとそこに更に税金が掛かるらしく、私から見ると二重に課税されているようにしか見えないのだが、それが何故かこの国の法律ではヨシとされているらしい。

民衆が一発逆転を夢見て、元々分の悪い賭けに一縷の望みを託してなけなしの金を賭けるというのに、賭けに勝ったとしても儲けは税金で持っていかれるとは、いやはや、何とも夢も希望もない話だ。

もう死んでいる私が言うことでもないのかもしれないが、この国の国民はこのように上にいいようにやられているということに、もっと気付きというか、危機感、目覚めた方が良いのではないだろうか。

と、そんなことを思料している内に、犯人は入場料を支払い中に入ると、もう事前に意中の馬を決めていたのだろう、早速馬券売り場で馬券を購入した。

そこで犯人は無謀にも、なんと財布に私一人を残して、後の金を全て単勝、一頭の馬に突っ込んだのである!!

なんと愚かな……確かに、これで勝てれば良いが、もし負ければ、犯罪を犯してまで得た金が全て水泡に帰すこととなる。

いや、この犯人は所謂『無敵の人』であり、それもまた一興というところなのであろうか?

勝とうと負けようと、どのみち文無しになれば最終的に刑務所に入れば良いと考えているような輩である、そういう意味ではこの男に『リスク』は全く存在せず、行けるところまで金をプッシュすれば良いとでも考えているのであろう。

無謀な行動とはいえ、万が一外れた時のことを考え、財布に私を一人だけ残す理性の部分はまだ残っていたようだが……。

意中の馬券を購入した犯人は、今度はパドックへと向かった。

パドックで大勢の客が馬を見守る中、犯人は自分が賭けたその馬を見ながら、「ククク……今日のこいつは固いからな。これで確実に儲けが倍になるって寸法だ」と、小声で独りごちた。

『確実に』などと、一個人の妄想の中であれば通るかもしれないが、現実には『確実』などというものは存在しない。

そもそも、不確実だからこそ当たった時に儲けが返ってくる訳であって、確実なものは『賭博』や『ギャンブル』などと言わないのである。

そのような、自分にとって『都合の悪いことがら』には目を背け、自分が勝った時の天国のような情景だけを固く固く信じている、いや、盲信しているとでも言おうか、この男は完全に賭博に脳が支配された状態、所謂『ギャンブル脳』というものになってしまっているものと思われる。

確かに、見たところ犯人が賭けたその馬は、肌ツヤも馬体の出来も良く、如何にも戦う気力充分といった感じで、その日の人気も一番ではあったが、果たしてそう上手く行くだろうか?

誰もが目論み通り行くのであれば、ギャンブルに敗者は存在しないということになるが、実際は負けた人間の損失を勝った人間の間で『再分配』しているようなもの、勝つよりも負ける人間の方が多いからこそ、この商売は成り立っているのだということに、この愚かな男は一体いつになったら気付くのであろうか。

パドックでひとしきり馬の様子をチェックした後、犯人がスタンドの席に着くと、ほどなくしてレースが始まった。
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