42 / 48
第42説
しおりを挟む
「ああ、ここやここや。ほら、おったおった。あの子が昨日、ワイにお花を売ってくれた女の子や」
城下町の肉屋や魚屋、野菜屋や果物屋のある通りの途中で、その少女はカゴに色とりどりの綺麗なお花を持って立っていた。
僕たちが近づいてくる足音が聴こえたのか、少女はおずおずと口を開いた。
「あっ……お客さま……?もしよろしければ、お花おひとついかがですか……?」
少女は、その両の目に包帯を巻いていた。
足音で僕たちのいる方向は分かったようだが、まだ少女に向けて言葉を発していないため、僕たちの顔がどこにあるかは分からないようで、少女の目がこちらを向くことはなかった。
少女は目が見えていないようだった。
僕は、少女には努めて驚きを悟られないように、明るい感じで少女に語りかけた。
「こんにちは。綺麗なお花だね。これ、キミが育ててるの?」
僕の問いに、少女はこくりと頷く。
「はい。お日さまの光をたっぷりと浴びせて、毎日お家でお水をあげています。お食事のあとは音楽を聴かせてあげると、お花たちとっても喜んでくれるんです」
僕は色とりどりのお花を前にしゃがむと、少女と同じ目線に立った。
少女の目は見えていないのかもしれなかったけど、包帯の奥にあるはずの、少女の目と自分の目を通い合わせた。
「そうか。一目見たら分かるよ。キミに大事に大事に育てられたお花たちなんだってこと。一つとして同じ花なんかない、みんなとっても元気に、美しく輝いてる」
僕がそう言って微笑むと、少女は嬉しさや照れくささを隠すように、恥ずかしそうに頬を赤らめた。
見れば、タロピンが昨日購入したお花も、普通ならもう萎れてるかもしれないのに、未だにタロピンの胸元で美しく咲き誇っているのだから、ただ綺麗なだけでなく、その内面に『強さ』というものを兼ね備えたお花に違いなかった。
そして、そんなお花を育てられるこの少女もまた、一見儚く散ってしまう花のように弱々しく見えても、その内面には凛とした美しい『強さ』を兼ね備えているのかもしれない。
作品と作者は似るって言うからね……。このお花は正に、この少女の歩んできた人生そのものなのかもしれない……。
「ほんなら、ワイがフラジールはんに合うお花を見繕いまひょか。そうやな~、この正に勇者の心、紅蓮のように燃え盛る、赤色のお花なんかどうでっか」
「おお~、確かにいいなタロピンのセンスは。しかし、こっちの青色のお花もいいんじゃないかい?このピンクのお花も別に女性に限った色ではないよ?……って、キミに選んでもらう約束だったのに、僕が真剣に選び出してどうする」
少女にも意見を求めたりしながら、僕とタロピンと少女は、しばらく三人で笑いあった。
その結果、何故か最終的にはタロピンではなく少女に選んでもらうことになって、僕は少女に綺麗な空色のお花を選んでもらった。(なんと、少女は色は見えなくても、毎日育てているともう手触りだけでどの花かが分かるらしい。(!!)貴重なお花だ……大事にしなくちゃ……)
「おお~!!ええなぁフラジールはん!!さすがやねキミ、空色が映えてよく似合いそうや!!」
「あっ……わたし、アベリアっていいます。わたし、毎日ここにいるので、よかったらまた、お花たちをよろしくお願いします」
約束通りタロピンが代金を支払ってくれて、アベリアがお花を僕の胸元に付けてくれた。
「ありがとうアベリア。キミが選んでくれたこのお花、ずっとずっと、大事にするからね」
「……この空色は、『しあわせ』の色なんです」
「しあわせ……?」
「はい。フラジールさんとタロピンさんの旅に、どうかしあわせが訪れますように」
アベリアはそう言ってニッコリと笑って、僕たちに手を振ってくれた。
帰り際、僕たちがお花を購入しているところを見ていたのか、野菜屋のおばさんが話しかけてきた。
「あんたたち、ありがとうね。あの子からお花を買ってくれて」
「いえいえ、綺麗なお花だったのでこちらも嬉しいです。何かあの子のお知り合いの方ですか」
「いやぁ、アタシゃ毎日心配してあの子を見守ってるだけの、ただのお節介焼きさ。かわいそうな子だよねぇ。まだ小さいのに、毎日懸命にあそこに立ち続けて、お花を売って。なんでも、病弱なお母様と二人暮らしだそうだよ。そのご看病と療養費を稼ぐために、学校にも通えてないみたいだし……。アタシも見てるとなんだか心苦しくて、定期的にお花を買ってあげてるんだけど、それだけじゃ追いつかなくてね……。あんたたちみたいに買ってくれてる人を見ると、心が少し軽くなるのさ」
そうだったのか……。
僕は振り返って、もう一度アベリアの姿を見た。
ちょうど次のお客さんが来ていたようで、アベリアはニコニコしながらお客さんに対応していた。
「フラジールはん……」
「分かってるよタロピン……。しかし、僕たちに何かできることがあるだろうか……」
アベリアのために、僕たちに何ができるのか……。
分からない……。しかし、このまま放っておくのは違うということだけは分かる。
何故なら、僕は勇者なんだから。
苦しんでる一人の少女も救えないで、何が勇者だ、そんなことで世界を救えるはずがないだろう。
「……力になってあげなきゃダメだ。僕に何ができるのかは分からないけど」
「フラジールはん……。もちろんワイも、お供させてもらいまっせ」
僕たちは、アベリアを救う。
いや、救うなんて言葉はおこがましいのかもしれない。
彼女は辛くても自分の現実を受け止めて、その両足でしっかりと立っている。
僕なんかより、遥かに強い、彼女が選んでくれたこの花のように、その内面に凛とした美しい強さを持っている。
そんな彼女を大上段から救うだなんて、自分のできることを懸命に頑張っている彼女に失礼じゃないか。
僕は、彼女を救うなんて言うんじゃなく、ただ、手を伸ばしたかった。
そうして差し伸べた手を、彼女が自分の手で掴んでくれたら、それでいいと思ったんだ。
城下町の肉屋や魚屋、野菜屋や果物屋のある通りの途中で、その少女はカゴに色とりどりの綺麗なお花を持って立っていた。
僕たちが近づいてくる足音が聴こえたのか、少女はおずおずと口を開いた。
「あっ……お客さま……?もしよろしければ、お花おひとついかがですか……?」
少女は、その両の目に包帯を巻いていた。
足音で僕たちのいる方向は分かったようだが、まだ少女に向けて言葉を発していないため、僕たちの顔がどこにあるかは分からないようで、少女の目がこちらを向くことはなかった。
少女は目が見えていないようだった。
僕は、少女には努めて驚きを悟られないように、明るい感じで少女に語りかけた。
「こんにちは。綺麗なお花だね。これ、キミが育ててるの?」
僕の問いに、少女はこくりと頷く。
「はい。お日さまの光をたっぷりと浴びせて、毎日お家でお水をあげています。お食事のあとは音楽を聴かせてあげると、お花たちとっても喜んでくれるんです」
僕は色とりどりのお花を前にしゃがむと、少女と同じ目線に立った。
少女の目は見えていないのかもしれなかったけど、包帯の奥にあるはずの、少女の目と自分の目を通い合わせた。
「そうか。一目見たら分かるよ。キミに大事に大事に育てられたお花たちなんだってこと。一つとして同じ花なんかない、みんなとっても元気に、美しく輝いてる」
僕がそう言って微笑むと、少女は嬉しさや照れくささを隠すように、恥ずかしそうに頬を赤らめた。
見れば、タロピンが昨日購入したお花も、普通ならもう萎れてるかもしれないのに、未だにタロピンの胸元で美しく咲き誇っているのだから、ただ綺麗なだけでなく、その内面に『強さ』というものを兼ね備えたお花に違いなかった。
そして、そんなお花を育てられるこの少女もまた、一見儚く散ってしまう花のように弱々しく見えても、その内面には凛とした美しい『強さ』を兼ね備えているのかもしれない。
作品と作者は似るって言うからね……。このお花は正に、この少女の歩んできた人生そのものなのかもしれない……。
「ほんなら、ワイがフラジールはんに合うお花を見繕いまひょか。そうやな~、この正に勇者の心、紅蓮のように燃え盛る、赤色のお花なんかどうでっか」
「おお~、確かにいいなタロピンのセンスは。しかし、こっちの青色のお花もいいんじゃないかい?このピンクのお花も別に女性に限った色ではないよ?……って、キミに選んでもらう約束だったのに、僕が真剣に選び出してどうする」
少女にも意見を求めたりしながら、僕とタロピンと少女は、しばらく三人で笑いあった。
その結果、何故か最終的にはタロピンではなく少女に選んでもらうことになって、僕は少女に綺麗な空色のお花を選んでもらった。(なんと、少女は色は見えなくても、毎日育てているともう手触りだけでどの花かが分かるらしい。(!!)貴重なお花だ……大事にしなくちゃ……)
「おお~!!ええなぁフラジールはん!!さすがやねキミ、空色が映えてよく似合いそうや!!」
「あっ……わたし、アベリアっていいます。わたし、毎日ここにいるので、よかったらまた、お花たちをよろしくお願いします」
約束通りタロピンが代金を支払ってくれて、アベリアがお花を僕の胸元に付けてくれた。
「ありがとうアベリア。キミが選んでくれたこのお花、ずっとずっと、大事にするからね」
「……この空色は、『しあわせ』の色なんです」
「しあわせ……?」
「はい。フラジールさんとタロピンさんの旅に、どうかしあわせが訪れますように」
アベリアはそう言ってニッコリと笑って、僕たちに手を振ってくれた。
帰り際、僕たちがお花を購入しているところを見ていたのか、野菜屋のおばさんが話しかけてきた。
「あんたたち、ありがとうね。あの子からお花を買ってくれて」
「いえいえ、綺麗なお花だったのでこちらも嬉しいです。何かあの子のお知り合いの方ですか」
「いやぁ、アタシゃ毎日心配してあの子を見守ってるだけの、ただのお節介焼きさ。かわいそうな子だよねぇ。まだ小さいのに、毎日懸命にあそこに立ち続けて、お花を売って。なんでも、病弱なお母様と二人暮らしだそうだよ。そのご看病と療養費を稼ぐために、学校にも通えてないみたいだし……。アタシも見てるとなんだか心苦しくて、定期的にお花を買ってあげてるんだけど、それだけじゃ追いつかなくてね……。あんたたちみたいに買ってくれてる人を見ると、心が少し軽くなるのさ」
そうだったのか……。
僕は振り返って、もう一度アベリアの姿を見た。
ちょうど次のお客さんが来ていたようで、アベリアはニコニコしながらお客さんに対応していた。
「フラジールはん……」
「分かってるよタロピン……。しかし、僕たちに何かできることがあるだろうか……」
アベリアのために、僕たちに何ができるのか……。
分からない……。しかし、このまま放っておくのは違うということだけは分かる。
何故なら、僕は勇者なんだから。
苦しんでる一人の少女も救えないで、何が勇者だ、そんなことで世界を救えるはずがないだろう。
「……力になってあげなきゃダメだ。僕に何ができるのかは分からないけど」
「フラジールはん……。もちろんワイも、お供させてもらいまっせ」
僕たちは、アベリアを救う。
いや、救うなんて言葉はおこがましいのかもしれない。
彼女は辛くても自分の現実を受け止めて、その両足でしっかりと立っている。
僕なんかより、遥かに強い、彼女が選んでくれたこの花のように、その内面に凛とした美しい強さを持っている。
そんな彼女を大上段から救うだなんて、自分のできることを懸命に頑張っている彼女に失礼じゃないか。
僕は、彼女を救うなんて言うんじゃなく、ただ、手を伸ばしたかった。
そうして差し伸べた手を、彼女が自分の手で掴んでくれたら、それでいいと思ったんだ。
0
お気に入りに追加
23
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
如月さんは なびかない。~片想い中のクラスで一番の美少女から、急に何故か告白された件~
八木崎(やぎさき)
恋愛
「ねぇ……私と、付き合って」
ある日、クラスで一番可愛い女子生徒である如月心奏に唐突に告白をされ、彼女と付き合う事になった同じクラスの平凡な高校生男子、立花蓮。
蓮は初めて出来た彼女の存在に浮かれる―――なんて事は無く、心奏から思いも寄らない頼み事をされて、それを受ける事になるのであった。
これは不器用で未熟な2人が成長をしていく物語である。彼ら彼女らの歩む物語を是非ともご覧ください。
一緒にいたい、でも近づきたくない―――臆病で内向的な少年と、偏屈で変わり者な少女との恋愛模様を描く、そんな青春物語です。

備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ
ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。
見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は?
異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。
鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?
山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。
2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。
異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。
唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる