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第33説

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「やあ、道具屋へようこそ。今日は何をご所望だい?」

『天駆の翼』。

対象が訪れたことのある村や街を念じながら空に放れば、その場所に一瞬で移動できる超スグレモノだ。但し、自分が行ったことがない場所に、手を繋ぐなどして他の人に連れていってもらうといったことはできない。

その破格の性能のため、一つ1000ゴルド(!!)と正直かなり高額なのだけど、サルバトルのためには多少の出費は仕方ない。

僕は今夜のクエストで、また町中を駆けずり回っている自分の姿を想像しながら、天駆の翼を購入した。(その際、またこっそり『おまけ』で薬草を5個付けてもらったのは、サルバトルには内緒だ)

サルバトルとの最後の用事を済ませると、僕たちは道具屋の外に出た。

そう。

サルバトルとの『約束』を果たす時がやってきたのだ。

「サルバトルさん……」

「フラジール。ハハハ、何を泣きそうな顔をしているのだ」

……ダメだ。

洞窟を抜けた時から覚悟はしていたはずなのに、どうしてこんなにも、目から熱いものが溢れてくるのだろう。

「勇者ともあろう者が、そんな顔をするな」

「だって……だってサルバトルさんは……僕の初めてできた、僕の大切な仲間で……」

サルバトルは、涙の重さで俯く僕の頭に。

優しくポンと、その大きくて温かな手を置いた。

「これが今生の別れという訳ではない。また会いたくなったら、いつでも会えるさ」

いつかの旅立ちの日にも見た、サルバトルの温かい笑顔。

僕は涙で顔をくしゃくしゃにしながら、サルバトルに天駆の翼と約束のエッチな本、報酬のお金を渡した。

「ああいや、お金などいらない」

「……えっ?」

「それを受け取った瞬間、私は貴殿の『仲間』ではなくなってしまうから。これから何かと入用になるだろう。私も貴殿とこうして旅をしてきて、何ものにも代え難い貴重な経験をさせてもらった。それはけしてお金では買えない、私の人生の財産だ」

「サルバトルさん……」

「次は『何もなくてもいい』。次は私は見返りではなく、貴殿という人間についていくのだから」

「……サルバトルさぁ~ん!!」

僕はサルバトルにすがりついて号泣した。

そうして号泣しながらもどこか頭の片隅で、いや、それでもしっかり親父のエロ本は持っていくんかいと思ってしまった。(?????)

いや、そこはマジで申し訳ない、せっかく感動のシーンなのに空気を読まずにガチで申し訳ないとしか言えない、でもそういうところを空気を読まずにツッコんでいかなければ僕ではないし、別れが哀しいのも涙が止まらないのも本当なのだけど、それとは全く別個の部分で、ふとした時に細かいところが気になってしまうのも僕の性分なのだ。(?)

それにエッチな本が好きなのは、これはもう漢の本分というか仕方ないというか、そこをつい貰ってしまうのもサルバトルのキャラであり個性だから、何も問題はない。ていうか、これだけ頑張ってもらって報酬は何もなしでは、逆に僕の方が気後れしてしまうし。(??)

僕はサルバトルの言う通り、最後は笑顔で別れようと思った。

戦わない勇者だけど、『勇ましい者』と書いて勇者がこんな顔してちゃいけない。

だってそうしないと、サルバトルが笑顔で安心して帰れないじゃないか。

サルバトルが天駆の翼を空に放ると、サルバトルの全身が少し浮いた。

「あっ、あのっ!!サルバトルさん!!」

空に消えかかるサルバトルに、僕は泣き笑いになりながら、別れの挨拶を投げかけた。

ありがとう。

あなたのおかげで僕は。

何もなかった村人から、ほんの少しだけ『勇者』に近づけました、と。
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