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第3説

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「あなたがそこまでやる気がないと言うのであれば、しょうがない、他の冒険者に話を持っていくことにしましょう。そうですね、いくら勇者といえど、人が嫌がっているものを無理強いするのは確かに良くない。あなたの気も知らず、長々と食い下がってしまい申し訳ありませんでした。今回は、ご縁がなかったということで」

やべっ、これ攻守逆転してない!?(?)

僕は慌てて、そのまま奥の暗闇に去ろうとする精霊の肩(?)を掴んだ。

「や、やだなぁ精霊さんったら。別に完全にやらないなんて言ってないじゃないっスかぁ。やりますよやります!!誰がやる気ないなんて言ったんスか、ていっ、ていっ、ダメだぞこの野郎!!ハハハ、やる気ありまくりんぐっスよ!!」

そんな僕の様子を、精霊は白い目で見ていた。

「いや~、引くわ~、マジ引くわ~、今更それはないんじゃない?キミ今までどんな勢いで私に突っ掛かってきてたか分かる?とても若気の至りじゃ済まされないよ?やるやらないの話の前に、まずは人としてやるべき大切なことがあるでしょう?」

僕は、恥も外聞もなく、即座に精霊に土下座して謝った!!

「どうもスンマセンしたっ!!」(半ギレ)

「よろしい。最初からそのような態度でおればよいのだ。全く、無駄に時間を掛けさせおって。では、目覚めたら冒険の旅に出るがよい。色々と紆余曲折ありはしたが、期待はしているぞ、勇者フラジールよ」

「ありがとうございます精霊様。この度はこちら側の不手際により(?)思わぬお時間を取らせてしまい、本当に申し訳ありませんでした。ただ、冒険に出る前に、これだけは了承して頂きたいことがございます」

「なんだ?言ってみるがいい」

「はい、僕は確かに勇者ですが、自分に戦闘のセンスがないことは、誰より自分自身が一番理解しております。なので、僕は自分では絶対に『戦いません』。戦わないのでレベルは1のまま、その代わりに、『自分なりのアプローチ』で世界を救ってみせようと思います」

僕のそんな突拍子もない宣言に、てっきり精霊に怒られるのかと思いきや、精霊はさも愉快そうに笑うと、

「面白い。ならば、お前はお前のやり方で、世界を救ってみるがいい」

そう言って、白いもやの奥に消えていった。

意外にいい人(いい精霊?)だった……こんないい人に生意気なこと言ってしまって、ガチですいませんでした……。

ベッドから目覚めると、窓からは小鳥のさえずりが聴こえて、とても気持ちのいい朝だった。

ここから僕の冒険がスタートするんだと思うと、初めは面倒くさい、だりぃ~、やってらんねぇ~という気持ちもあったけど、一方で少し楽しみな気持ちも確かにあった。

まずは下でまだ眠りについている父、そして朝食を作ってくれている母に、冒険に旅立つことを報告しよう。

階下からは、料理をする母のリズミカルな包丁の音が聴こえていて、僕はその良い匂いのする方へ降りていった。

「あら、おはよう。今日は早いのね」

「母さん。父さんもちょっと起きてきてほしいんだけど。大事な話があるんだ」

父が起きてくるのを待って、食卓に三人が揃ったタイミングで、僕は話を切り出した。

「僕、勇者だった。勇者としてお告げを受けたから、魔王を倒してこの世界を救いにいかなきゃならない。もう、決めたことなんだ」

父と母は驚いた顔をしたけど、やがて覚悟を決めたように、「……いつかはこんな日が来ると思ってた」と、涙ぐみながら呟いた。

「……知ってたの?」

「……」

その問いに口を開くことはなかったけど、両親はこくりと頷いた。

それから、しばらく無言で、ただただ家族の朝食の時間が流れた。

外からは小鳥のさえずりや子供たちが騒いでいる声が聴こえて、母の作ったいつもホカホカの朝食は、とても美味しかった。

「あなたの良いところは、私たちが1番知ってる。自慢の息子よ。この世界の方々のために、胸を張って頑張ってきなさい」

父がいつも同じ時間に、仕事に行ってお金を稼いできてくれるから、僕は生きていられる。

母がいつも同じ時間に、家族の誰よりも早く起きて美味しいご飯を作ってくれるから、僕は生きていられる。

何故か無性に泣けてきて、今日の母が作った朝食は、それまで生きてきた中で1番美味しく感じたんだ。
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