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Episode.04 恐ろしいところ
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しおりを挟む「お手をどうぞ。」
きちりと、騎士らしい美しい姿勢で差し伸べられた手。心配そうな視線を向けるソフィーナを背に、わたしは震わしながら、それでもその手に自らの手を置いた。
緊張のあまり足元がふらつくわたしを見てか、騎士様が緊張に息を飲んだのがわかった。
「騎士様、ありがとうございます。」
自分より下の身分の者に礼はいらないと教えこまれたので、感謝の気持ちは言葉だけに留める。わたし、貴方の手がなければ必ず落っこちていました、と心の中で呟く。
「いえ、仕事ですので。それと、私に様などと敬称は付けぬようお願いします。」
一瞬驚いたような顔を見せたものの、騎士様は真面目そうな、堅い顔つきでそう言った。
知らない人というだけでも十分怖いのに、そんな顔をしないで欲しいと密かに訴えつつ、小さく頷く。案内時の護衛であれば、顔を合わすのも今だけのはずだ。
「お嬢様、お初にお目にかかります。本日よりお嬢様のメイドとして働かせていただきますソフィと申します。」
無駄のない動きで挨拶を終えたメイド服の女性、ソフィは自身に溢れた笑顔でこちらを見る。
どうすればそんな自信の溢れた笑顔を作ることができるのだろう。自分には到底できない笑顔に自然と体が後ろへ下がる。
それは分厚い仮面のようで、わたしは怖くて仕方がなかった。ソフィーナと似た名前なのに、安心なんてできそうにもない。
「…ご挨拶ありがとう、ソフィ。わたくしはルクリア・ピンセアナです、今日からよろしくお願いします。」
逃げずにそう言えただけ成長したと思いたい。にこにこと笑顔のソフィは「それでは、お部屋に案内させていただきます」とゆったりした歩調で歩き出した。
この場から逃げる想像をしては自己嫌悪に陥り、息苦しさを感じながらその後を着いて行く。後ろから聞こえる足音が逃がさないとでもいうようで、さらにわたしを追い詰めた。
「歩きながらの説明にはなりますが、お嬢様が住まわれるのは初等部の校舎を抜けた建物となります。」
ついと、両手を喉元へ持っていきそうになって、我慢する。それは、上品ではない行動だ。
「距離がありますが、これからは寮から毎日歩いて移動しなければならないのでご容赦ください。」
それは困るな、と思った。距離が長ければ長いほど逃げたくなってしまう。近い方が良かったのにと考えていると、次の言葉にその考えは消し飛ばされる。
「私たちメイドは主に身の回りのお世話をさせていただきますので学院の方へはお供できないという決まりになっております。代わりにというわけではありませんが、そちらにいらっしゃる騎士様がルクリアお嬢様の護衛を担当してくださいます。」
足を止め、恐る恐る振り返ると、仏頂づーーー真面目な顔を崩さずにその騎士様はこちらを見る。
「よろしくお願いいたします。」
真面目であることに間違いはないのだろう。やはりきちりとした姿勢で言われ、顔が引き攣るのがわかった。
ああ、今にも息が止まりそう。
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