引きこもりたい伯爵令嬢

朱式あめんぼ

文字の大きさ
上 下
18 / 41
Episode.02 白銀の少年との出会い

10

しおりを挟む


 「あー…。先代は厳しい方だったからなあ。」

 話の流れからいうと〝先代〟というのは、お父様の前のピンセアナ伯爵。つまり、お父様のお父様、わたしのお祖父様おじいさまということだろう。

 「先代のピンセアナ伯爵といえば、あの・・?」

 セネシオ様のやけに意味深な発言に首を傾げる。

 「〝あの・・〟?」

 口に出して、ハッと口元を手で覆った。お母様をちらりと見ると、にっこりと笑っている。今のはわたしも貴族らしくなかったと思います、ごめんなさい。

 わたしとお母様のやり取りを見てまたまた驚いた顔を見せるお父様。そして侯爵様は面白そうな顔でこちらを眺めていた。その視線の意味がわからずわたしはそっと視線を逸らした。こちらを見ないでほしい。

 「先代のピンセアナ伯爵はとにかく厳格であると有名だった。規律や礼儀作法に厳しい方で、私もよく怒られたものだ。」

 懐かしそうに笑う侯爵様の言葉になるほど、と思う。つまりお父様にそっくりだということだ。

 しかし、お父様の可愛らしい一面を見たあとなので、もしかするとその先代も実はそういう一面があったのかもしれないとも思う。


 「それよりも侯爵、ルクリアは退室させて良いだろうか。顔を見たい、という望みは叶っただろう。」

 コホン、と前置きを入れてお父様は告げる。

 わたしはやはりまだ人前に出せるような状態ではないということだろう。さっきの発言を考えると納得だ。そしてホッと息を吐いた。

 「…まあ、そうだな。」

 「ハンス。」

 「かしこまりました。」

 キチリと礼でお父様の言葉を受けたハンスはこちらを見てにこりと笑む?それでは行きましょうか、という言葉がなんとなく読めてコクリと頷いた。

 「それでは私は失礼させていただきます。レウコスタキス侯爵様、セネシオ様、本日はお会いしてくださりありがとうございました。」

 「ああ、また会おう。」

 「私こそありがとうございました。」

 視線が集まる中、退室の挨拶をするという苦行に顔を引き攣らせて部屋を出た。



 「…ええと、ハンス?」

 「はい、なんでしょう。」

 にこにこと優しい顔のハンスに、勇気を出して尋ねてみる。

 「わたしの挨拶は正しかったのでしょうか。」

 話の途中で招かれたり、退室したりと不意打ちばかりで上手く対応できた気がしない。というか、できてないだろう。

 「そうですね…。本来ならば話の中で失礼があった場合は最後に謝るべきですが、レウコスタキス侯爵家は楽しんでおられましたし、今回はあの挨拶が適当だったと思います。お嬢様は十分頑張られておられましたよ。」

 にこりと笑ってくれるが、失敗は失敗だ。特に初対面の失敗は後を引く。はあ、と小さく溜め息を吐いて薔薇の香りのする部屋へと戻るのだった。


 「(お嬢様は褒めて伸びるタイプではないのですか…。対策を考えねば)」


しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

私の入る余地なんてないことはわかってる。だけど……。

さくしゃ
恋愛
キャロルは知っていた。 許嫁であるリオンと、親友のサンが互いを想い合っていることを。 幼い頃からずっと想ってきたリオン、失いたくない大切な親友であるサン。キャロルは苦悩の末に、リオンへの想いを封じ、身を引くと決めていた——はずだった。 (ああ、もう、) やり過ごせると思ってた。でも、そんなことを言われたら。 (ずるいよ……) リオンはサンのことだけを見ていると思っていた。けれど——違った。 こんな私なんかのことを。 友情と恋情の狭間で揺れ動くキャロル、リオン、サンの想い。 彼らが最後に選ぶ答えとは——?

【完結】「君を手に入れるためなら、何でもするよ?」――冷徹公爵の執着愛から逃げられません」

21時完結
恋愛
「君との婚約はなかったことにしよう」 そう言い放ったのは、幼い頃から婚約者だった第一王子アレクシス。 理由は簡単――新たな愛を見つけたから。 (まあ、よくある話よね) 私は王子の愛を信じていたわけでもないし、泣き喚くつもりもない。 むしろ、自由になれてラッキー! これで平穏な人生を―― そう思っていたのに。 「お前が王子との婚約を解消したと聞いた時、心が震えたよ」 「これで、ようやく君を手に入れられる」 王都一の冷徹貴族と恐れられる公爵・レオンハルトが、なぜか私に異常な執着を見せ始めた。 それどころか、王子が私に未練がましく接しようとすると―― 「君を奪う者は、例外なく排除する」 と、不穏な笑みを浮かべながら告げてきて――!? (ちょっと待って、これって普通の求愛じゃない!) 冷酷無慈悲と噂される公爵様は、どうやら私のためなら何でもするらしい。 ……って、私の周りから次々と邪魔者が消えていくのは気のせいですか!? 自由を手に入れるはずが、今度は公爵様の異常な愛から逃げられなくなってしまいました――。

命を狙われたお飾り妃の最後の願い

幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】 重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。 イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。 短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。 『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

伯爵令嬢の秘密の知識

シマセイ
ファンタジー
16歳の女子高生 佐藤美咲は、神のミスで交通事故に巻き込まれて死んでしまう。異世界のグランディア王国ルナリス伯爵家のミアとして転生し、前世の記憶と知識チートを授かる。魔法と魔道具を秘密裏に研究しつつ、科学と魔法を融合させた夢を追い、小さな一歩を踏み出す。

身代わりの私は退場します

ピコっぴ
恋愛
本物のお嬢様が帰って来た   身代わりの、偽者の私は退場します ⋯⋯さようなら、婚約者殿

【完】夫に売られて、売られた先の旦那様に溺愛されています。

112
恋愛
夫に売られた。他所に女を作り、売人から受け取った銀貨の入った小袋を懐に入れて、出ていった。呆気ない別れだった。  ローズ・クローは、元々公爵令嬢だった。夫、だった人物は男爵の三男。到底釣合うはずがなく、手に手を取って家を出た。いわゆる駆け落ち婚だった。  ローズは夫を信じ切っていた。金が尽き、宝石を差し出しても、夫は自分を愛していると信じて疑わなかった。 ※完結しました。ありがとうございました。

処理中です...