引きこもりたい伯爵令嬢

Episode.00 引きこもりの少女

１

 その日は、わたしがちょうど２０歳になる日だった。



 小さい頃から人と接するのが苦手で、それが対人恐怖症というものであると気付いた中学２年生の夏休み。

 驚きと恐怖でわたしはその夏休みを１歩も外へ出られない過ごしてしまい、始業式の日が来ても、外へ出ることはなかった。


 わたしを１人で育ててくれた母には本当に申し訳ない気持ちでいっぱいだった。

 その罪悪感から、母と顔を合わせることにも怯えて。


 ずっと、ずっと、部屋に閉じこもっていたのだ。



 あの日、２０歳の誕生日。


 「今日は久しぶりに、どこかに行かない？」


 優しい声色で母に誘われ、わたしは足を震わせながらも外へ出たのだ。

 「どこに行きたい？」

 そう尋ねてくれた母の顔を見ることはできなかった。


 「今日はよく晴れてるわね。」

 人気のない小さな公園にある、古いベンチに２人で座る。

 母はわたしの顔を心配そうに見て、それからそっと目線を下げた。


 わたしは、人と接することが怖いと、母に言えなかった。ずっと、隠してきた。

 何故引きこもるのかもわからない、どうしようもない娘なのに、母がわたしのことを気にかけてくれていたことを知っている。



 本当に、わたしには勿体ないくらいの良い母親だった。