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第二章 学園です。乙女ゲームは面倒です。

11 入学試験は楽勝ですね

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 そうして、私が元王様、現ミスリル大公の養子となって早三年。
 貴族としての礼儀作法や勉強を仕込まれ、……特に口調ね。

 冒険者というならず者たちと対等に並び立つには、ていねいな言葉なんて使っていられないじゃない? でもここに来たらあの口調はねぇ。そりゃ駄目に決まっているよ。
 だから直しましたわよ。わたくし、こう見えても常識人ですから。

 もっとも、冒険者もやりつつだけど。だってさ、毎日鍛えないと筋力って落ちるじゃない。ましてや成長期だよ。

 これから魔王退治のためパーティを組むメインキャストたちに、私は立ち向かわなくてはいけないの。
 それにゴールドランク、レベル80の冒険者は国としても失う訳にはいけなくない?

 そんなわけで、ギルドへの通常的な出入りは禁止されたけど、ギルドから定期的に依頼が来て、その中からいくつか選んだものを受けるという特別待遇になったの!
 まあ、爵位的にもトップクラスだからね。

 そんなことで、もともと転生前は農高と言えども高校生。小中学生レベルの基礎学習程度なら、習わずとも習得済み。

 この国の歴史は設定資料集を読み込んでいたせいでかなり覚えている。そこにマナーを仕込まれ、体力は冒険者としても最高レベルである。

 魔法は本来学園で習うものだが、私には関係ない。メジャーな白魔法だけでなく、攻撃のための黒魔法もできる! まあ内緒だけどね。

 これだけできるから、学園、行かなくてもいいですか? ダメですか。そうですか。

 学園は勉強だけでなく、人間関係を作るところ? 知ってるよ。だから行きたくねーんだよ。おっと口調が、おほほほほ。

 絡まないように、って言っても絡むんだよね、王子と親戚になってしまいましたから。はあ~。立場的に、わたくし王子達の叔母様なのよ。なぜこうなった?

 ゲームでは、姉のウーリと一緒に、ゴールドラッシュ家の令嬢として入学するはずだった。
 姉と義母に虐げられていた私は一人部屋で勉強していたため、周りより少しだけ学習面で先んじていたくらいの優位性しかなかったはず。

 親子関係のこじれから、他者に対する振る舞いや慈愛が欠落し、動物を痛めつけたりとか、残酷なことが平気で出来るサイコパス気味のお嬢様。

 ……のはずなんだけどね。それだったら絡まないようにすればいいのかなとも思いながら、ミニコカトリス締めていたんだけど……。絡まざるを得ないよね。正直めんどい。

 でもさ、よく考えたら追放された方がよくない? お母様の出身地、ウインター・コールドに追放されたらここの人たちと絡まなくてよくならない?

 お母様の実家のシルバースミス侯爵家を訪ねてもいいし、冒険者で生き延びるのもいいし。

 よし! 立派な悪役令嬢となって追放されるよ! 方針は決まった! ということで、今日は寝ようか。試験は明後日。楽勝でしょう。





 試験に行くよ。ってだけでなんでこんなに時間がかかるの⁉
 メイド長が私を止めた。

「お嬢様。試験と言えど気を抜いてはいけません」

 試験と言えど気を抜かない? 当たり前じゃない!

「いいえ、成績ではございません。身だしなみです」

 はい? 体力測定もあるからジャージでいいよね? ツナギは着ないからさ。

「お嬢様は大公令嬢ですよ。その様な格好で試験に向かわせる訳にはいきません」

「そんなこと言ったって、体力測定があるのよ。その時に着替えるのって大変じゃない?」

「いいえ、着替えなど必要ありません。お嬢様にはそれくらいのハンデを付けないと他の生徒が可哀そうなことになりますわ」

 まあそうか。ん? そうなのか? それでいいのか? ドレスで体力測定。無理じゃね?

「3割ほどの力でおやりください」
「わたくしを何だと思っていますの?」
「お嬢様ですよ。もちろん」

 うふふふふ、と笑い合いながら、お互い心の中でため息をつく。私はあきらめて、一番派手な真紅のドレスを指差し、「これでいいわ」とドレスを決めた。

 メイドたちが私にドレスを着つける。メイド長が「戦闘色の赤。素敵ですわ」と褒めているのかあきれているのか分からない感想を言っている。だからジャージでいいじゃん!

 そのまま馬車に押し込まれ、学園に向かった。メイリは用心棒枠で付けられたよ。





 ドレス着てるの私だけじゃん!

 分かっていたけど場違いだね。
 貴族の男性は騎士服とか着ているし、女性は乗馬服みたいなの着ている。その手があったのか!

 平民らしき者達は、普段着だよ。普段着動きやすそうだね。仕方がない。

 目立つときには思いっきり目立った方が恥ずかしくない。躊躇ちゅうちょするのが一番危険。

 鶏の首を刎ねるときはスパッと一撃でやるのがお互いの為。中途半端な優しさは苦しみと痛みを与えるだけ。

 狩りの時もそう。躊躇は隙を作るだけ。思いっきり行くのが生き残る最短ルート。

 何事も一緒よ! 恥ずかしがって躊躇したら負け! 堂々と、堂々と歩くのよ。



 馬車から降り背筋を伸ばす。大勢いる生徒たちが一斉にこちらを見た。
 恐ろしいものでも見たかのように驚いた顔をしながらザザザザザッと左右に分かれ、受付までの一筋の道ができた。私は扇子で口元を隠したよ。ちょっと動揺しちまったみたいだね。

 あ、義姉がいる! 側を通る時、高笑いでもした方がいいのか? 目立ちたくはないから小声で「格下のお義姉様」って言ったら、真っ赤な顔してプンプンしてたね。
 この状況であからさまに怒鳴れないよね。はいはい、よく出来ました。ざまぁ。

 午前中は教室でテスト。うん、楽勝だね。問題は午後だ。その前にお弁当。

 ……いいや、一人で食べるか。サンドウィッチ食べるだけだ。二分ありゃ十分じゅうぶん。ここが狩場だと思えば、悠長に飯を食っている時間はいらないよね。ささっと食って終わらせよう。

 私はサンドウィッチを頬張ると、よく噛んで食べた。すぐに食べ終えてグラウンドに向かう。ドレスで行っても大丈夫か試験内容を確認するためだ。

 うん、ドレスでもやれるね。

 行く所もないから、ウオーミングアップを始めたよ。よし絶好調! 頑張るぞ~!
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