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第8章 黒猫甘味堂
112話 新店舗オープン!(第八章 完)
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翌日から、皆忙しくなった。
レイシアは、平日の日中は学園に通わねばならないため、サチを中心としたメイドの募集と育成、店長はお祖父様からの契約上のあれこれを処理するのに忙殺された。
◇
「レイシアちゃん。なぜオヤマー前領主が喫茶店の引っ越しごときに契約をしようとしているの?」
「私のお祖父様ですから」
「そうなの? でもこんな大したことのない喫茶店だよ」
「店長! 御自分のお店の価値を過少評価しすぎです。強気で行かないと乗っ取られますよ」
「……?」
「大丈夫です。それだけの価値があるんです!」
そんな会話が起こるほど、店長は店の価値に気がついていない。特許を取らせるのも大変だった。
そして価値に気がついていないのはレイシアも同じだった。
「レイシア。この店のスタイルも特許で押さえておけ」
「この店のスタイルですか?」
「ああ。給仕を店員以外の格好で行い店のコンセプトを作るやり方は今までにない方法だ。それだけ新しいやり方なら特許として通るかもしれん」
「メイドが給仕をするのは当たり前のことですよね」
「お前……。気づいてないのか? この凄さに」
「……だそうですよ、店長」
「いやいや、それしたのレイシアちゃんだから! 特許取るのはレイシアちゃん名義で」
「そうですか?」
「レイシア。お前、凄いんだか抜けているんだか……。いいや、自分の事に対しては評価が低いのか?」
「……?」
「まあいい。お前の名で行う」
そうして、店長名義でパンをふわふわにする方法の特許と、レイシア名義で従業員がメイド姿で接客する飲食店のスタイル、が新たに特許として神から認められた。
◇
メイドへの希望者は80人程集まった。レイシア含めて選別するため、第一週の土曜日に面接が行われた。姿勢、体力、話し方など様々にチェックしたが、一番は性格が接客向きかどうか。勘違いしたお嬢様はトラブルの元。慎重に審査をして12人見習いとして採用した。ここから、サチのメイド特訓が始まる。
サチは平日の日中は手が空いていた。さらに店に引っ越したため効率的にメイド道を教える時間ができた。特に、メイ・ラン・リンの三人に対しては、新人とは違う特別メニューでメイド道を仕込んだ。
「だからと言って、ターナー式まで叩き込まなくていいからね、サチ」
「いえ、せめて円舞くらいは」
「円舞か。そうね、それくらいなら」
レイシアの許可が出たため、3人への訓練は一段と厳しさを増した。
◇
それとは別に、メイの家の話。メイがレイシアから貰ったクッキーを惜しみながらも両親に一枚ずつ渡してお茶を飲んでいた時父親が驚いた顔でメイに問いかけた。
「これは! サクランボのジャムではないか! どこでこれを」
「バイト先の先輩から貰ったものよ。どうしたのおとうさん」
「弟のダルクがサクランボのジャムを持ってきた。生徒から一瓶金貨一枚以上で買ったらしい」
「「金貨一枚!」」
メイと母が叫んだ。
「ああ。これを王族に渡せる貴族と取引をしたらどうかといってな。試食用の分も含めて私は金貨4枚で購入したんだ。それが、このクッキーに使われている。一体いくらするんだ? このクッキーは」
「レイシア様は、学園に通っている生徒です。もしかしたらおじさんに売ったのはレイシア様かも」
「メイ! その子を紹介してくれ! うちの商会のチャンスかもしれん!」
そうして、父をレイシアに紹介しようと店に連れて行った。その時店長に挨拶をと顔を出したら、レイシアのお祖父様にも挨拶をするチャンスを得た。
「いつも娘がお世話になっております。私、メイの父ヒビ・カミヤです。カミヤ商会で会長をしております」
カミヤ商会は、歴史こそあるがそれほど大きくはない商会。だが、経済に強いお祖父様は当然知っている。
「ほう。カミヤ商会の会長ですか。儂はレイシアの祖父、オズワルド・オヤマーだ」
「オズワルド・オヤマー……。オヤマーの領主様ですか!」
「領主は息子に譲った。隠居だよ」
お祖父様は値踏みをするような目で会長を見た。
会長も、ここで怯んではいけないと姿勢を正した。
「こちらのお店とお嬢様には、いつも娘がお世話になっております。いかがでしょう。これから店舗をお引越しになさると伺いました。ご入用なものがございましたら我々の商会にご用命下さい。もちろん、娘がお世話になっている分、精一杯勉強させて頂きます」
会長は必死だった。これを機に飛ぶ鳥を落とす勢いのあるオヤマー領とつながりが持てれば。領主が変わったとはいえ、実質は前領主が仕切っている。ここは逃すわけにはいかなかった。
「どうする、店長殿」
お祖父様は店長を試すように聞いた。
「メイちゃんのお父様の商会ですか。メイちゃんは働き者ですし私の店にはいなくてはならない人材です。できれば一緒に協力して頂ければありがたいですね」
「レイシア、お前は?」
「メイさんのお父様、安くしてくださいね」
「もちろんです、お嬢様!」
「そうか。ならば頼もうか。仕事ぶりはよく見させてもらおう」
「ありがとうございます!」
こうして、メイの父の商会はビックチャンスをつかんだのだった。
◇
カミヤ商会全面協力のもと、新店舗の改装は終わった。
お祖父様からの各種方面への根回しと、商売上のアドバイスはレイシアの想像を超えるものだった。特に特許の扱いについては予想外のことだらけだ。
お祖父様は、パンをふわふわにする特許は宣伝しないように言い含めた。ふわふわパンを作るには、特許を取った以降は使用許可を取らなければ誰も作ることが出来ない。もし作ろうとしても、神の力が作用して上手く作れない。それが特許の効果だ。
レイシアは金貨一枚払って使用許可を得たので作り続けることが出来る。店長は特許申請したのでもちろん使える。
店で働く調理人については、店長がこっそりお金を収めて作れるようにすること。店を辞めるときは許可を取り下げること。小麦粉と重曹や砂糖などの粉は最初から混ぜて配合が分からないようにしておくこと。これらを徹底させた。
「お祖父様、なぜそこまでするのですか?」
「これがとんでもないものだからだ。下町で楽しむならまあよい。貴族街に持ち込むなら王族からでなくてはいけない。王族に教えるチャンスがあるなら生かせばよい。それまでは積極的に広めないように。よいな」
特許は、登録者が宣伝しなければ広まることもない。ぼろもうけしたかったら宣伝が必要だがそうでもないなら隠しておくのが一番と、お祖父様は真面目な顔で言った。
◇◇◇
怒涛の一ヵ月が過ぎた。
準備は全て整った。
晴れ渡った空の下、
お店の前は、お嬢様たちでいっぱいだった。
今度のお店は、住宅街から少し離れた広場のある一軒家。
ドアを開け、色とりどりのメイド服を着た従業員が並ぶ。
お嬢様たちは拍手で迎える。
最後に真っ黒なメイド服のサチとレイシアがセンターに並ぶ。
レイシアがお辞儀をすると拍手が鳴りやんだ。
静寂の中、レイシアがお嬢様たちに向かって挨拶をはじめた。
「皆様の、新しいお家が完成いたしました。メイド喫茶黒猫甘味堂、ただ今よりオープンいたします。おいしいお食事と紅茶でゆっくりとおくつろぎ下さい。はいっ」
「「「おかえりなさいませ、お嬢様!」」」
メイド達の明るい挨拶が響いた。
拍手の嵐! 泣き出してしまうお嬢様もいた。
さあ、素敵な一日の始まりです!
レイシアは、平日の日中は学園に通わねばならないため、サチを中心としたメイドの募集と育成、店長はお祖父様からの契約上のあれこれを処理するのに忙殺された。
◇
「レイシアちゃん。なぜオヤマー前領主が喫茶店の引っ越しごときに契約をしようとしているの?」
「私のお祖父様ですから」
「そうなの? でもこんな大したことのない喫茶店だよ」
「店長! 御自分のお店の価値を過少評価しすぎです。強気で行かないと乗っ取られますよ」
「……?」
「大丈夫です。それだけの価値があるんです!」
そんな会話が起こるほど、店長は店の価値に気がついていない。特許を取らせるのも大変だった。
そして価値に気がついていないのはレイシアも同じだった。
「レイシア。この店のスタイルも特許で押さえておけ」
「この店のスタイルですか?」
「ああ。給仕を店員以外の格好で行い店のコンセプトを作るやり方は今までにない方法だ。それだけ新しいやり方なら特許として通るかもしれん」
「メイドが給仕をするのは当たり前のことですよね」
「お前……。気づいてないのか? この凄さに」
「……だそうですよ、店長」
「いやいや、それしたのレイシアちゃんだから! 特許取るのはレイシアちゃん名義で」
「そうですか?」
「レイシア。お前、凄いんだか抜けているんだか……。いいや、自分の事に対しては評価が低いのか?」
「……?」
「まあいい。お前の名で行う」
そうして、店長名義でパンをふわふわにする方法の特許と、レイシア名義で従業員がメイド姿で接客する飲食店のスタイル、が新たに特許として神から認められた。
◇
メイドへの希望者は80人程集まった。レイシア含めて選別するため、第一週の土曜日に面接が行われた。姿勢、体力、話し方など様々にチェックしたが、一番は性格が接客向きかどうか。勘違いしたお嬢様はトラブルの元。慎重に審査をして12人見習いとして採用した。ここから、サチのメイド特訓が始まる。
サチは平日の日中は手が空いていた。さらに店に引っ越したため効率的にメイド道を教える時間ができた。特に、メイ・ラン・リンの三人に対しては、新人とは違う特別メニューでメイド道を仕込んだ。
「だからと言って、ターナー式まで叩き込まなくていいからね、サチ」
「いえ、せめて円舞くらいは」
「円舞か。そうね、それくらいなら」
レイシアの許可が出たため、3人への訓練は一段と厳しさを増した。
◇
それとは別に、メイの家の話。メイがレイシアから貰ったクッキーを惜しみながらも両親に一枚ずつ渡してお茶を飲んでいた時父親が驚いた顔でメイに問いかけた。
「これは! サクランボのジャムではないか! どこでこれを」
「バイト先の先輩から貰ったものよ。どうしたのおとうさん」
「弟のダルクがサクランボのジャムを持ってきた。生徒から一瓶金貨一枚以上で買ったらしい」
「「金貨一枚!」」
メイと母が叫んだ。
「ああ。これを王族に渡せる貴族と取引をしたらどうかといってな。試食用の分も含めて私は金貨4枚で購入したんだ。それが、このクッキーに使われている。一体いくらするんだ? このクッキーは」
「レイシア様は、学園に通っている生徒です。もしかしたらおじさんに売ったのはレイシア様かも」
「メイ! その子を紹介してくれ! うちの商会のチャンスかもしれん!」
そうして、父をレイシアに紹介しようと店に連れて行った。その時店長に挨拶をと顔を出したら、レイシアのお祖父様にも挨拶をするチャンスを得た。
「いつも娘がお世話になっております。私、メイの父ヒビ・カミヤです。カミヤ商会で会長をしております」
カミヤ商会は、歴史こそあるがそれほど大きくはない商会。だが、経済に強いお祖父様は当然知っている。
「ほう。カミヤ商会の会長ですか。儂はレイシアの祖父、オズワルド・オヤマーだ」
「オズワルド・オヤマー……。オヤマーの領主様ですか!」
「領主は息子に譲った。隠居だよ」
お祖父様は値踏みをするような目で会長を見た。
会長も、ここで怯んではいけないと姿勢を正した。
「こちらのお店とお嬢様には、いつも娘がお世話になっております。いかがでしょう。これから店舗をお引越しになさると伺いました。ご入用なものがございましたら我々の商会にご用命下さい。もちろん、娘がお世話になっている分、精一杯勉強させて頂きます」
会長は必死だった。これを機に飛ぶ鳥を落とす勢いのあるオヤマー領とつながりが持てれば。領主が変わったとはいえ、実質は前領主が仕切っている。ここは逃すわけにはいかなかった。
「どうする、店長殿」
お祖父様は店長を試すように聞いた。
「メイちゃんのお父様の商会ですか。メイちゃんは働き者ですし私の店にはいなくてはならない人材です。できれば一緒に協力して頂ければありがたいですね」
「レイシア、お前は?」
「メイさんのお父様、安くしてくださいね」
「もちろんです、お嬢様!」
「そうか。ならば頼もうか。仕事ぶりはよく見させてもらおう」
「ありがとうございます!」
こうして、メイの父の商会はビックチャンスをつかんだのだった。
◇
カミヤ商会全面協力のもと、新店舗の改装は終わった。
お祖父様からの各種方面への根回しと、商売上のアドバイスはレイシアの想像を超えるものだった。特に特許の扱いについては予想外のことだらけだ。
お祖父様は、パンをふわふわにする特許は宣伝しないように言い含めた。ふわふわパンを作るには、特許を取った以降は使用許可を取らなければ誰も作ることが出来ない。もし作ろうとしても、神の力が作用して上手く作れない。それが特許の効果だ。
レイシアは金貨一枚払って使用許可を得たので作り続けることが出来る。店長は特許申請したのでもちろん使える。
店で働く調理人については、店長がこっそりお金を収めて作れるようにすること。店を辞めるときは許可を取り下げること。小麦粉と重曹や砂糖などの粉は最初から混ぜて配合が分からないようにしておくこと。これらを徹底させた。
「お祖父様、なぜそこまでするのですか?」
「これがとんでもないものだからだ。下町で楽しむならまあよい。貴族街に持ち込むなら王族からでなくてはいけない。王族に教えるチャンスがあるなら生かせばよい。それまでは積極的に広めないように。よいな」
特許は、登録者が宣伝しなければ広まることもない。ぼろもうけしたかったら宣伝が必要だがそうでもないなら隠しておくのが一番と、お祖父様は真面目な顔で言った。
◇◇◇
怒涛の一ヵ月が過ぎた。
準備は全て整った。
晴れ渡った空の下、
お店の前は、お嬢様たちでいっぱいだった。
今度のお店は、住宅街から少し離れた広場のある一軒家。
ドアを開け、色とりどりのメイド服を着た従業員が並ぶ。
お嬢様たちは拍手で迎える。
最後に真っ黒なメイド服のサチとレイシアがセンターに並ぶ。
レイシアがお辞儀をすると拍手が鳴りやんだ。
静寂の中、レイシアがお嬢様たちに向かって挨拶をはじめた。
「皆様の、新しいお家が完成いたしました。メイド喫茶黒猫甘味堂、ただ今よりオープンいたします。おいしいお食事と紅茶でゆっくりとおくつろぎ下さい。はいっ」
「「「おかえりなさいませ、お嬢様!」」」
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