貧乏奨学生の子爵令嬢は、特許で稼ぐ夢を見る 〜レイシアは、今日も我が道つき進む!~

みちのあかり

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第8章 黒猫甘味堂

111話 密談

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 レイシアはこれからの説明をサチにまかせ、お祖父様と一足先に帰ることになった。お祖父様は、店の空気に当てられたのか、馬車の中ではおとなしくしていた。

 馬車は平民街を抜けて貴族街へ入った。一軒の料理屋の前で止まる。

『帝国料理 クラシル』

 お祖父様は先に入り、レイシアを導いた。



 個室の部屋。レイシアは前菜を食した感想を話した。

「お祖父様。私が帝国料理に興味を持っていたのを覚えていていらしたのですか?」
「もちろんだ。あのレシピ集は役に立っておるのか?」
「もちろんです。ですが、こうして本物を食べてみると、私たちの解釈違いが浮き彫りになりますね。なるほど塩加減が……」

 そんなレイシアを見て、お祖父様は食品開発室でのレイシアの姿を思い出していた。

「ところで、先ほどの店の料理だが、あれは何だ? あんな柔らかな食感の物など儂は食したことがないが。レイシア、またお前が開発したのか?」
「いいえ、あれはあのお店のオリジナルです」
「特許は?」
「取るように勧めたのですけど」
「取っていないのか」
「ええ」

「今は小娘に広まっているだけだろうが……。あれに目を付ける者が出てきたら面倒になるぞ。とっとと特許を取った方がいい」

 お祖父様は真剣な顔で言った。

「もう一度勧めてみます」
「そうだな。その方がいい」

 次の料理が出て来た。一旦会話が途切れる。
 料理を味わいながら、レイシアはお祖父様に聞いた。

「ところで、あのお店にお祖父様は将来性を感じましたか?」

 レイシアの質問に、よく考えてからお祖父様は答えた。

「ああ。今のままでは大したことはないが、きちんと整備をすれば大きなビジネスになるであろう」
「たとえば?」
「そうだな……。レイシア。お前はどう思っとるんだ? 何か考えがあるんだろう? 儂の答えより、お前のプランを煮詰めた方がいいのではないか?」

「さすがお祖父様です」

 レイシアはそう言うと、店長に提出した企画書を箇条書きにしたメモをお祖父様に手渡した。

「これは!」

 お祖父様は目を通すなり企画に引き込まれた。

「明日から店舗は休みにして人員の補充と育成を行います。同時に引っ越し先の選定。あの場所であの人数をこなすのはもはや限界。近隣の方々からやがて苦情が来ることでしょう」

「そうだな。あの声を毎日聞くのは苦痛だな」

「同時に、新商品の開発。及びサービスの向上。店長と私だけでの調理も何とかしないといけませんね。あとは、バイトリーダーの育成。これはトップを3~5人体制にして複数で回せるようにしないといけませんね。トップリーダーとサブリーダー制にしていつでも責任者が店にいられるように」

「ああ。そうだな」

「それで、お祖父様?」
「なんだ」

「一商売人としてお聞きします。もし、この事業に一枚嚙めるとしたら、お祖父様は投資なさいますか? 身内の関係をないものとして」

 お祖父様は、あごに手をやりしばらく唸りながら考えた後こう言った。

「そうだな。いくつかの条件を付けてなら参入するかもしれん。もちろん相手側に利があるようにだ。必要なのはなんだ? 資金か? 人材か?」

 レイシアは即答した。

「情報です」
「情報だと?」

「ええ。私に足りないのは情報と根回し。後は信用ですね。いくらプランが良いものであっても、実行できないのであれば所詮絵空事。お祖父様、お祭りに来ていましたよね」
「ばれていたのか?」
「私にだけですわ。父には教えておりません。いかがでしたか?」

「ああ。素晴らしかった。あれはお前の領地でしかできんな」

「そうなんです。逆に言えば私は、ターナー領でしか人員も計画も動かすことは出来ないのですよ。地盤がありませんから」

「そうだな」
「そうでしょ」

 レイシアとお祖父様は、商売人の顔で笑い合った。

「私には経験も信用も実績もないのです。まして年齢も。店長にしても所詮一介の喫茶店のマスター。かなり資金は貯めましたがそれだけです。お祖父様、後ろ盾になってはいただけませんか?」

「利益はもらうぞ」
「当然です。損はさせませんわ。まあ、私は今年いっぱいで、あの店をやめなければいけないのですが」
「なぜだ」
「学園長の命令です。断れませんでした」

「なら、なぜ今経営に口を挟むんだ? 半年バイトをするだけでよいのではないのか?」

 レイシアはニッと笑って答えた。
「恩返しです。それに……」
「それに?」
「目の前にチャンスがあるのに、それを逃すのは勿体ないじゃないですか」

 お祖父様は、笑った。大笑いをした。

「素晴らしい! それでこそ我が孫だ! 契約については明後日学園で話そう。授業らしい授業はないのであろう。時間がもったいない。儂にして欲しいことはなんだ?」

「では、引っ越し先の店舗の紹介をして下さいますか? 今のお店の4~5倍は入る空き店舗があればうれしいです」

「よし、何件か探しておこう」
「ありがとうございます」

「では、商売の話はここまでだ。レイシア、儂はお前を認めている。いや、孫として愛おしく思っているんだ。ナルシア、お前のお祖母様とお前の価値観が違っているのは分かっている。だがな、一人の孫と爺《じじい》として付き合うことはできんか?」

 レイシアは考えながら答えた。

「私は……貴族になる気はないですよ」
「それでもいい。儂がお前に商売を教えよう。実績づくりも手伝える。いや、そんなことより、たまに食事をしながら話し合える関係になるだけでもいいんだ。どうかな?」

「お食事くらいなら」
「それでいい。では、レイシア。お前の今までの事を聞かせてくれないか」

 なんとなく、わだかまりが減ったレイシアは、お祖父様となんともない会話をしながら食事を続けた。

 ただの孫とお祖父様として。

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