上 下
170 / 177
第8章 黒猫甘味堂

107話 開店します!

しおりを挟む
 サチを連れたレイシアは、大勢のお客様に向かって宣言した。

「ただいまより、黒猫甘味堂開店いたします。その前に、今回の特別ゲストのご紹介です。私のお姉様枠、姉猫です!」

「うわぁ—————」と盛り上がるお嬢様たち。レイシアはサチを前に出す。

「何を言えと」
「とりあえず、よろしくくらい言って! お姉さん風に」
「お姉さん風?」
「孤児院でみんなのお姉様だったでしょ!」

 サチは一歩前に出た。集まる視線に囲まれる。

「あー、今日はよろしく。いつもこいつかわいがってくれてありがとな。黒猫のだ」

(言い間違った! アニキじゃない! 姉貴でしょ! その前に下町言葉! メイド風のお姉様期待していたのに。そうね、孤児院と言ったわよ。でもね、あ~!)

 レイシアは言葉の選択を間違えたことを後悔した。
 サチは、言い間違えたことに気づいていない。

 お嬢様達は大喜び! 美しい大人のメイドがお兄様キャラ! 新たな世界が!!!

 サチは、お兄様キャラの麗人メイドとして一日過ごす事となった。



 姉猫様は、兄猫様として大人気! レイシアに低い声を出すように命ぜられてしぶしぶ従った。

「お嬢様、こちらにどうぞ」
「きゃー!」

「なにか御用でしょうか」
「あ、あの……紅茶のおかわりを」
「かしこまりました。では、私が注がせていただきます」
「ふあー……」

「あの……握手してもらえませんか?」
「握手ですか? いいですよ」
「あっ、ありがとうございます! ああっ! 一生洗いませんから!」
「いや洗おうよ」
「「「キャー! わたしにも!!!」」」

 サチの人気は留まることを知らない。かわいらしいメイドにお嬢様扱いされることに喜びを見出していた彼女らに、新しい燃料が放り込まれたのだ。
 大人の香りが漂う、すてきなお姉様。あるいは疑似恋愛として的のお兄様。憧れの対象。様々な感情で満ちあふれる店内。

(もしかしたら、サチはメイド服ではなく執事の格好をさせた方がいいかもしれないわ)

 レイシアはこの状況を見ながら、よからぬことを考えていた。


「「「行ってらっしゃいませお嬢様。お帰りお待ちしております」」」

 最後のお客様たちが帰った。これから片付けがあるが、レイシアはバイトの2人に帰っていいと言った。

「ランさん、リンさん、お疲れ様。上がっていいわよ。今まで大変だったでしょう。片づけは私とサチでやるから」

 そう声をかけると、2人はお礼を言った。

「「レイシア様! 帰って来てくれてありがとうございました!」」
「私たちだけでは、どうしようもありませんでした!」
「メイさんが倒れて、どうしようかと……」

 安心したのか泣き出す2人。レイシアは頭をなでながら、
「よく頑張りましたね。明日も私にまかせて」
 と約束した。

「「ありがとうございます」」

「それから、これおみやげ。よかったら、メイさんにも持って行って」
「「はい! ありがとうございます」」

 レイシアは、2人にサクランボジャムが練り込まれたクッキーを渡した。
 2人は大事そうに鞄にいれた。

「それから、サチさん。ありがとうございました」
「サチさんいなかったら、乗り切れませんでした」
「「明日からもよろしくお願いします!!」」

「えっ、明日? 今日だけだよあたし」

「「えっ!」」
「えっ?」

「それも含めて、これからお話しましょうか、店長。いまのままではダメなの分かっていますよね」

 レイシアが店長を見つめる。店長の背に寒気が走った。

「じゃあ、お疲れ様ランさん、リンさん。明日もよろしくね」
「「はい。お疲れさまでした」」

 2人がドアから出ていくのを見守った後、レイシアは店長に言った。



「さあ、これからの事についてお話しましょうか」
しおりを挟む
感想 32

あなたにおすすめの小説

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます

宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。 さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。 中世ヨーロッパ風異世界転生。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

婚約破棄されなかった者たち

ましゅぺちーの
恋愛
とある学園にて、高位貴族の令息五人を虜にした一人の男爵令嬢がいた。 令息たちは全員が男爵令嬢に本気だったが、結局彼女が選んだのはその中で最も地位の高い第一王子だった。 第一王子は許嫁であった公爵令嬢との婚約を破棄し、男爵令嬢と結婚。 公爵令嬢は嫌がらせの罪を追及され修道院送りとなった。 一方、選ばれなかった四人は当然それぞれの婚約者と結婚することとなった。 その中の一人、侯爵令嬢のシェリルは早々に夫であるアーノルドから「愛することは無い」と宣言されてしまい……。 ヒロインがハッピーエンドを迎えたその後の話。

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

処理中です...