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第8章 黒猫甘味堂
104話 朝市 再び
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サチの滞在期間は2週間と決まった。学園からの通達で、2週間は寮にいてもいいが、それ以上は何らかの状況の変化がない限りでなければいけなくなった。
「というか、よく2週間ももぎとったわねぇ。そっちの方が驚きさ。せいぜい3日がいいとこだと思っていたよ」
とは、寮母カンナの意見。
「やだ! こんな便利な人が去るなんて。ずっといて欲しいのに」
とは、寮生イリア。
「何か事件が起きればいいのね。ならあたしが……」
「やめときなイリア。後処理が面倒そうだよ」
イリアがごねる。今は夕食の時間。サチは皆にお茶を配っている。
「いやぁ、2週間もいれるだけでありがたいです。最初は安宿借りながら探そうとおもっていたんで。拠点あるだけ楽っすよ」
大分くだけた話し方でサチは答えた。
「まあ、あたしも知り合いに聞いとくよ。安く借りられる部屋があるかどうか」
「あたしも出版社で聞いてみるよ」
「そうだねぇ。レイシア、明日はどうするんだい?」
「明日はバイト先に顔を出して今後の事を話そうかと思っています。その後、不動産屋へ話を聞きに行こうかと思っているの。サチいい?」
「レイの思った通りにすればいいさ」
そうして、明日は2人で黒猫甘味堂へ行くことになった。
◇◇◇
土曜日の朝
執筆で疲れ寝ているイリアのために、朝食と軽食の昼食を用意して2人は出かけた。レイシアは制服、サチはメイド服を着て。
朝市につくとざわめきが起こり、見知った商人が声をかけてきた。
「制服の・・・久しぶりだな」
「・・・・お嬢様、今日はいいの入ってるよ。あまり無茶いわんでくれよ」
「制服! こいつはどうだい!」
さすがに引き際とやさぐれの出し方を覚えたレイシアに、二つ名の『悪魔』を付けるのは控えるようになった朝市の人たち。心の中でしか言わない。
「人気者なのですね」
「そうかな?」
事情を知らないサチはレイシアが商人たちから可愛がられていると感心した。
「いい、サチ。王都では言われたままに買ってはだめよ。値切るの! 値切りが大切よ。見ていて!」
レイシアは、玉ねぎを買いに店に近づいた。
「貴様は! 制服の・・・。もううちの店には来ないと……。ほら持ってけ二度とこないでくれ」
レイシアは何も言ってもいないのに玉ねぎを5個、手に入れた。
「すごいですね。お金も払わず物を買うなんて」
「違うの! え~と今度こそ。おばさんジャガイモ10個ください」
「10個? 銅貨14ま……。ひっ、制服! 6枚、いや5枚でいいよ」
レイシアは銅貨5枚払った。
「顔を見ただけで半額以下。何をしたのですか?」
「違うの! そうじゃなくて……。次こそ見本を」
しかし、どこで何を買っても最底値が一瞬で提示された。
「これじゃあ、サチへの見本にならない」
「……………………なにやらかしたんですか?」
「なにも……」
その時、通路の奥にいた少年がサチに声をかけた。少年は父親の跡を継ぎ朝市に店を出すことになった新入り。場所が新入り故一番悪く、売り上げが思うようにいっていなかった。
「そこのメイドさん、どう? このキノコ。一カゴ銅貨10枚だよ。お姉さん美人だから9枚でいいや。買ってってよ。まだ誰も買って行ってないから増量もするよ!」
少年は流れるような口上でキノコを勧めた。サチが買おうとすると、レイシアが止めた。
「ダメね。銅貨一枚の価値もないわ」
(((悪魔!!!)))
レイシアを知っている朝市の者達は心の中で叫んだ!
「おいガキ、こいつは売っちゃあダメだ」
「誰がガキだって! お前の方こそガキじゃないか!」
「うるせぇ! 耳の穴かっぽじってよく聞きな!」
レイシアの料理人モードが炸裂した! 人々が周りに集まる。
レイシアはキノコの入ったカゴを取り上げると、キノコをつまみ上げた。
「これは、ミナミダケドクキノコ。弱毒だがめまいを起こさせる。これはホーネルドクキノコ。サーネルキノコと間違えやすいが妊婦が食べると流産する可能性が高くなる。見分けるのは軸の手触り。ざらついているだろう。サーネルキノコはツルツルしている。……こいつはダメだ! アカマダラドクダケ。アカウマダケに似てるしほとんど出ることはないから知らないだろうが、子供が食ったら死ぬぞ! 冒険者ギルドへもっていったら高く買い取ってくれるが、こんなところで売るんじゃねえ! ド素人が!」
「そんな……、俺……」
レイシアはていねいに毒キノコをより分けた」
「ほらよ、こっちなら売っても大丈夫だ。しかし、おめーにゃキノコはまだ早い! 明日からはジャガイモ売りの下請けから始めるんだな。一から修行だ。誰か、こいつの面倒みてやってくれぃ!」
レイシアが辺りを見渡すと、出店主たちがコクコクうなづいた。
「若い時の失敗はよい経験だ。だが、他人を巻き添えにしてはだめだ。ちゃんと教育してやってくれ。じゃあ、このキノコ銅貨8枚で買おう。そうだな三かご買おうか」
そういって小銀貨2枚と銅貨4枚を差し出して、キノコを引き取った。
レイシアは、何事もなかったように歩きだし、その場を去っていった。
「サチ、じゃあこのまま私のバイト先の黒猫甘味堂へ行くわよ」
足早に歩きだすレイシア。
「……なるほど、いろいろやらかしているんですね」
サチは凍り付いた朝市の人々を眺めながら、レイシアの後をついていった。
「というか、よく2週間ももぎとったわねぇ。そっちの方が驚きさ。せいぜい3日がいいとこだと思っていたよ」
とは、寮母カンナの意見。
「やだ! こんな便利な人が去るなんて。ずっといて欲しいのに」
とは、寮生イリア。
「何か事件が起きればいいのね。ならあたしが……」
「やめときなイリア。後処理が面倒そうだよ」
イリアがごねる。今は夕食の時間。サチは皆にお茶を配っている。
「いやぁ、2週間もいれるだけでありがたいです。最初は安宿借りながら探そうとおもっていたんで。拠点あるだけ楽っすよ」
大分くだけた話し方でサチは答えた。
「まあ、あたしも知り合いに聞いとくよ。安く借りられる部屋があるかどうか」
「あたしも出版社で聞いてみるよ」
「そうだねぇ。レイシア、明日はどうするんだい?」
「明日はバイト先に顔を出して今後の事を話そうかと思っています。その後、不動産屋へ話を聞きに行こうかと思っているの。サチいい?」
「レイの思った通りにすればいいさ」
そうして、明日は2人で黒猫甘味堂へ行くことになった。
◇◇◇
土曜日の朝
執筆で疲れ寝ているイリアのために、朝食と軽食の昼食を用意して2人は出かけた。レイシアは制服、サチはメイド服を着て。
朝市につくとざわめきが起こり、見知った商人が声をかけてきた。
「制服の・・・久しぶりだな」
「・・・・お嬢様、今日はいいの入ってるよ。あまり無茶いわんでくれよ」
「制服! こいつはどうだい!」
さすがに引き際とやさぐれの出し方を覚えたレイシアに、二つ名の『悪魔』を付けるのは控えるようになった朝市の人たち。心の中でしか言わない。
「人気者なのですね」
「そうかな?」
事情を知らないサチはレイシアが商人たちから可愛がられていると感心した。
「いい、サチ。王都では言われたままに買ってはだめよ。値切るの! 値切りが大切よ。見ていて!」
レイシアは、玉ねぎを買いに店に近づいた。
「貴様は! 制服の・・・。もううちの店には来ないと……。ほら持ってけ二度とこないでくれ」
レイシアは何も言ってもいないのに玉ねぎを5個、手に入れた。
「すごいですね。お金も払わず物を買うなんて」
「違うの! え~と今度こそ。おばさんジャガイモ10個ください」
「10個? 銅貨14ま……。ひっ、制服! 6枚、いや5枚でいいよ」
レイシアは銅貨5枚払った。
「顔を見ただけで半額以下。何をしたのですか?」
「違うの! そうじゃなくて……。次こそ見本を」
しかし、どこで何を買っても最底値が一瞬で提示された。
「これじゃあ、サチへの見本にならない」
「……………………なにやらかしたんですか?」
「なにも……」
その時、通路の奥にいた少年がサチに声をかけた。少年は父親の跡を継ぎ朝市に店を出すことになった新入り。場所が新入り故一番悪く、売り上げが思うようにいっていなかった。
「そこのメイドさん、どう? このキノコ。一カゴ銅貨10枚だよ。お姉さん美人だから9枚でいいや。買ってってよ。まだ誰も買って行ってないから増量もするよ!」
少年は流れるような口上でキノコを勧めた。サチが買おうとすると、レイシアが止めた。
「ダメね。銅貨一枚の価値もないわ」
(((悪魔!!!)))
レイシアを知っている朝市の者達は心の中で叫んだ!
「おいガキ、こいつは売っちゃあダメだ」
「誰がガキだって! お前の方こそガキじゃないか!」
「うるせぇ! 耳の穴かっぽじってよく聞きな!」
レイシアの料理人モードが炸裂した! 人々が周りに集まる。
レイシアはキノコの入ったカゴを取り上げると、キノコをつまみ上げた。
「これは、ミナミダケドクキノコ。弱毒だがめまいを起こさせる。これはホーネルドクキノコ。サーネルキノコと間違えやすいが妊婦が食べると流産する可能性が高くなる。見分けるのは軸の手触り。ざらついているだろう。サーネルキノコはツルツルしている。……こいつはダメだ! アカマダラドクダケ。アカウマダケに似てるしほとんど出ることはないから知らないだろうが、子供が食ったら死ぬぞ! 冒険者ギルドへもっていったら高く買い取ってくれるが、こんなところで売るんじゃねえ! ド素人が!」
「そんな……、俺……」
レイシアはていねいに毒キノコをより分けた」
「ほらよ、こっちなら売っても大丈夫だ。しかし、おめーにゃキノコはまだ早い! 明日からはジャガイモ売りの下請けから始めるんだな。一から修行だ。誰か、こいつの面倒みてやってくれぃ!」
レイシアが辺りを見渡すと、出店主たちがコクコクうなづいた。
「若い時の失敗はよい経験だ。だが、他人を巻き添えにしてはだめだ。ちゃんと教育してやってくれ。じゃあ、このキノコ銅貨8枚で買おう。そうだな三かご買おうか」
そういって小銀貨2枚と銅貨4枚を差し出して、キノコを引き取った。
レイシアは、何事もなかったように歩きだし、その場を去っていった。
「サチ、じゃあこのまま私のバイト先の黒猫甘味堂へ行くわよ」
足早に歩きだすレイシア。
「……なるほど、いろいろやらかしているんですね」
サチは凍り付いた朝市の人々を眺めながら、レイシアの後をついていった。
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