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第七章 後期授業開始
98話 学園長の提案
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午後の自習の図書館通い。流通について資料を見ていたが、いかに安く仕入れるかと言うものばかりで、いかに生産物を高く売るかという資料は極端に少なかった。
(これは筆者が街寄りの学者や、買い手側の領主に向けての本が作られるからであって、できる売り手は手の内をさらしたくないから文字化しないのかもしれないわね。あるいは、田舎の農産物や鉱石を安く買いたたくために知識を与えたくないのか……。お祖父様に買っていただいた『果樹産業における新しい経営。第六次産業についての手引き』は本当に珍しい役に立つ本だったようね。あのレベルの資料は学園の図書室にはないわ)
などと思いながら、安く買いたたく本の裏読み、つまり隙を見つけ高く売るための理論武装をまとめていた。
レイシアは気がついていなかったが、図書室の隅では王子が独り自習をしていた。Aクラスの授業課題は前期の内にクリアしていた。というか、テストで手を抜いていただけなので、本来持っていた知識の確認だけで済んでいたのと、担当教師のシャルドネが早く終わらせたかった事が一致したため、再試験で合格させたのだ。ゆえに、帝王学と趣味で取った騎士コース以外の時間は、生徒会の仕事を姉から押し付けられるか図書館で自習をするのが王子の学園生活のルーチンだった。
王子はたまに、気づかれないようにレイシアを見ていた。話しかける理由が見つからないから。もし殺気が視線に乗っていたらレイシアは気配を察知したのだろうが、残念ながら殺気ではなくぼんやりとした感情しかこもっていなかったため、レイシアに気づかれることはなかった。
王子はため息をついて、ノートをとる作業に戻った。
結局のところ、王子もぼっち。出来過ぎる2人は、周りの生徒と同じ歩みは出来なかった。
その情景を更に陰で見守りながら、やはりぼっちのイリアが『制服王子と制服少女』の続編(ラブロマンス)のプロットをまとめようと、決意していた。
◇
時間になったので、レイシアは学園長室に行く。
中に入ると、学園長とシャルドネ先生がいた。レイシアをイスに座らせると、手紙とともに提出された企画書を差し出した。
「さてレイシア。この祭の件に関して報告して欲しい。君はいったい何をしていたんだ?」
「その件に関しましては、こちらに第一次報告書をまとめております。まだ決算報告など出ていないのであくまで概略ですが」
「早いな。預からせてもらってもいいかい?」
「どうぞ」
レポートをパラパラとめくって、学園長は言った。
「思ったより枚数の多い報告書だな。後で読ませてもらうよ。ところでいくつか質問をしていいかい? この「孤児院の子供たちの出し物。聖歌隊。朗読。演劇。ってなんだい?なぜ孤児が朗読や演劇をするんだ? 歌なら分からないでもないが、まるで字が読めるようじゃないか」
「何を言っているんですか? 6歳にもなれば普通読めますよね」
レイシアは小首をかしげた。学園長は頭を抱えた。
「普通は10歳の子でも字は読めないんだよレイシア。孤児は一生読めない。この学園でも1年生の1~2割ほどの学生は字の覚え直しからやっているんだ。何をしているんだバリューは」
「えっ、字を覚えるだけですよ。5歳の子でもできるのに」
レイシアの非常識はバリューの教育のせいだとは前回会った時に分かってはいたが、領全体が非常識だとは思っていなかった学園長。笑いをこらえているのはシャルドネ。
「そうか……。バリューだしな……。いや、おかしいだろそれ」
ブツブツつぶやく。
「まあいい。それから発端がサクランボジャムの在庫を何とかするためというのは?」
「文字通りですね。農業ギルドから教会に「売れ残ってしまって困っている」と相談があったので祭りを開催することにしました」
「なんでそうなる!」
「必然? ですか?」
「疑問形か!」
「結果的には、農業ギルド、商業ギルド、冒険者ギルドがお互い手を結び連携をし、さらに隣町アマリーの宿泊施設も潤いスポンサー料まで頂けることに。税収も増え、外貨獲得も出来ました。もちろんジャムは完売いたしました。詳しくはそちらの第一次報告書をご覧ください」
「とりあえず読ませてもらうよ。上手くいったのなら他の領地でも出来るかと思っていたのだがどうやらレアケースの可能性の方が高そうだな」
非常識な話は文字で確認しよう。そう思った学園長。
「ところでレイシア。君は土日に下町でアルバイトをしているそうだね」
「はい。喫茶店でアルバイトをしています」
「君は奨学生だ。学業が優先される。土日は社交のための日なのだが? 貴族として、お茶会や疑似パーティーを開いて練習をしなければいけないのだが」
レイシアは答えた。
「奨学生は平民になるのですよね。私は貴族になるわけではないので、社交は必要ないです」
学園長は優しくレイシアに提案をした。
「建前はそうだよ。でもね、君の成績や才能は平民にしておくのは惜しい。君のお祖父様からも相談されているのだよ。もし君が貴族として卒業してもいいというのなら、授業料は払ってもいいとね。もともと奨学生は生活に困らないように寮も食事の提供も衣料も学園から提供しているはずだ。生活には困らないよね」
レイシアは答えた。
「研究や実験にはお金がかかるものですよ。資金管理は必要ですわ」
「何を研究する気なんだい?」
「まだ一年生ですよ。経済、魔法、覚えなければいけないことは沢山ありますわ。魔道具の研究なんかも素敵ですよね」
「覚えなければいけないことが多いのなら、なおさらバイトはできないのでは?」
お互いに言葉尻をとらえては、笑顔で応酬しあう。ここでもお母様の貴族教育が光っていた。基礎は大事だ。
「貴族として学んでいく気はないのか?」
「ありませんね」
「それでも冒険者や研究者を目指すのであれば土日は忙しくなるぞ。冒険者なら遠征。研究者なら毎日の観察記録が大事になる。メイドならなおさらだ。貴族クラスの土日のお茶会やパーティーの手伝いをしないといけなくなるからな」
レイシアは考えた。せっかくお店が繁盛して今が大切な時。自分がいない間にどうなったか確認したい。そして、今後の方針も立ててからでないと辞めたくない。引継ぎはどうしよう。
「今私はバイトとして店舗経営の実験をしているのです」
シャルドネが反応した。
「どういうこと?」
「私のアルバイト先『黒猫甘味堂』は、もともと普通の喫茶店で常連も少なく数ヶ月後には廃業を予定しておりました。そこに私がアルバイトとして新商品を開発、接客の質を改善し、現在はアルバイトを私含め6名を雇うほどの人気店になりました。もちろん売り上げは500倍ほど変わっております」
「「どういうこと!」」
「こちらもレポートで提出したいと思っていますが、今年いっぱいデータを取ってからと思っています。バイトは経営の実験と研究も兼ねているのです。今辞めたら、せっかくの研究の発表が出来なくなってしまうのですが、それでも辞めなければいけないのでしょうか?」
「何をしているの? 詳しく話して」
シャルドネが興味津々に聞いてくる。
「それはまとめてレポートでご報告しますわ。でも、辞めさせられたらレポートは破棄……」
「おやりなさい、レイシア。私が担当になってあげる」
「勝手に決めないでください先生」
「いいじゃない。あと半年よ。レイシア期待してるわ」
「はい」
学園長はため息をつきながらも許可をしない訳にはいかなくなった。
「はあ、いいかいレイシア。今年いっぱいだ。それから、君のお祖父様の提案は今でなくてもいいからよく考えておくんだ。いいね」
レイシアは「はい」とうなずいて、学園長室を出て行った。
(これは筆者が街寄りの学者や、買い手側の領主に向けての本が作られるからであって、できる売り手は手の内をさらしたくないから文字化しないのかもしれないわね。あるいは、田舎の農産物や鉱石を安く買いたたくために知識を与えたくないのか……。お祖父様に買っていただいた『果樹産業における新しい経営。第六次産業についての手引き』は本当に珍しい役に立つ本だったようね。あのレベルの資料は学園の図書室にはないわ)
などと思いながら、安く買いたたく本の裏読み、つまり隙を見つけ高く売るための理論武装をまとめていた。
レイシアは気がついていなかったが、図書室の隅では王子が独り自習をしていた。Aクラスの授業課題は前期の内にクリアしていた。というか、テストで手を抜いていただけなので、本来持っていた知識の確認だけで済んでいたのと、担当教師のシャルドネが早く終わらせたかった事が一致したため、再試験で合格させたのだ。ゆえに、帝王学と趣味で取った騎士コース以外の時間は、生徒会の仕事を姉から押し付けられるか図書館で自習をするのが王子の学園生活のルーチンだった。
王子はたまに、気づかれないようにレイシアを見ていた。話しかける理由が見つからないから。もし殺気が視線に乗っていたらレイシアは気配を察知したのだろうが、残念ながら殺気ではなくぼんやりとした感情しかこもっていなかったため、レイシアに気づかれることはなかった。
王子はため息をついて、ノートをとる作業に戻った。
結局のところ、王子もぼっち。出来過ぎる2人は、周りの生徒と同じ歩みは出来なかった。
その情景を更に陰で見守りながら、やはりぼっちのイリアが『制服王子と制服少女』の続編(ラブロマンス)のプロットをまとめようと、決意していた。
◇
時間になったので、レイシアは学園長室に行く。
中に入ると、学園長とシャルドネ先生がいた。レイシアをイスに座らせると、手紙とともに提出された企画書を差し出した。
「さてレイシア。この祭の件に関して報告して欲しい。君はいったい何をしていたんだ?」
「その件に関しましては、こちらに第一次報告書をまとめております。まだ決算報告など出ていないのであくまで概略ですが」
「早いな。預からせてもらってもいいかい?」
「どうぞ」
レポートをパラパラとめくって、学園長は言った。
「思ったより枚数の多い報告書だな。後で読ませてもらうよ。ところでいくつか質問をしていいかい? この「孤児院の子供たちの出し物。聖歌隊。朗読。演劇。ってなんだい?なぜ孤児が朗読や演劇をするんだ? 歌なら分からないでもないが、まるで字が読めるようじゃないか」
「何を言っているんですか? 6歳にもなれば普通読めますよね」
レイシアは小首をかしげた。学園長は頭を抱えた。
「普通は10歳の子でも字は読めないんだよレイシア。孤児は一生読めない。この学園でも1年生の1~2割ほどの学生は字の覚え直しからやっているんだ。何をしているんだバリューは」
「えっ、字を覚えるだけですよ。5歳の子でもできるのに」
レイシアの非常識はバリューの教育のせいだとは前回会った時に分かってはいたが、領全体が非常識だとは思っていなかった学園長。笑いをこらえているのはシャルドネ。
「そうか……。バリューだしな……。いや、おかしいだろそれ」
ブツブツつぶやく。
「まあいい。それから発端がサクランボジャムの在庫を何とかするためというのは?」
「文字通りですね。農業ギルドから教会に「売れ残ってしまって困っている」と相談があったので祭りを開催することにしました」
「なんでそうなる!」
「必然? ですか?」
「疑問形か!」
「結果的には、農業ギルド、商業ギルド、冒険者ギルドがお互い手を結び連携をし、さらに隣町アマリーの宿泊施設も潤いスポンサー料まで頂けることに。税収も増え、外貨獲得も出来ました。もちろんジャムは完売いたしました。詳しくはそちらの第一次報告書をご覧ください」
「とりあえず読ませてもらうよ。上手くいったのなら他の領地でも出来るかと思っていたのだがどうやらレアケースの可能性の方が高そうだな」
非常識な話は文字で確認しよう。そう思った学園長。
「ところでレイシア。君は土日に下町でアルバイトをしているそうだね」
「はい。喫茶店でアルバイトをしています」
「君は奨学生だ。学業が優先される。土日は社交のための日なのだが? 貴族として、お茶会や疑似パーティーを開いて練習をしなければいけないのだが」
レイシアは答えた。
「奨学生は平民になるのですよね。私は貴族になるわけではないので、社交は必要ないです」
学園長は優しくレイシアに提案をした。
「建前はそうだよ。でもね、君の成績や才能は平民にしておくのは惜しい。君のお祖父様からも相談されているのだよ。もし君が貴族として卒業してもいいというのなら、授業料は払ってもいいとね。もともと奨学生は生活に困らないように寮も食事の提供も衣料も学園から提供しているはずだ。生活には困らないよね」
レイシアは答えた。
「研究や実験にはお金がかかるものですよ。資金管理は必要ですわ」
「何を研究する気なんだい?」
「まだ一年生ですよ。経済、魔法、覚えなければいけないことは沢山ありますわ。魔道具の研究なんかも素敵ですよね」
「覚えなければいけないことが多いのなら、なおさらバイトはできないのでは?」
お互いに言葉尻をとらえては、笑顔で応酬しあう。ここでもお母様の貴族教育が光っていた。基礎は大事だ。
「貴族として学んでいく気はないのか?」
「ありませんね」
「それでも冒険者や研究者を目指すのであれば土日は忙しくなるぞ。冒険者なら遠征。研究者なら毎日の観察記録が大事になる。メイドならなおさらだ。貴族クラスの土日のお茶会やパーティーの手伝いをしないといけなくなるからな」
レイシアは考えた。せっかくお店が繁盛して今が大切な時。自分がいない間にどうなったか確認したい。そして、今後の方針も立ててからでないと辞めたくない。引継ぎはどうしよう。
「今私はバイトとして店舗経営の実験をしているのです」
シャルドネが反応した。
「どういうこと?」
「私のアルバイト先『黒猫甘味堂』は、もともと普通の喫茶店で常連も少なく数ヶ月後には廃業を予定しておりました。そこに私がアルバイトとして新商品を開発、接客の質を改善し、現在はアルバイトを私含め6名を雇うほどの人気店になりました。もちろん売り上げは500倍ほど変わっております」
「「どういうこと!」」
「こちらもレポートで提出したいと思っていますが、今年いっぱいデータを取ってからと思っています。バイトは経営の実験と研究も兼ねているのです。今辞めたら、せっかくの研究の発表が出来なくなってしまうのですが、それでも辞めなければいけないのでしょうか?」
「何をしているの? 詳しく話して」
シャルドネが興味津々に聞いてくる。
「それはまとめてレポートでご報告しますわ。でも、辞めさせられたらレポートは破棄……」
「おやりなさい、レイシア。私が担当になってあげる」
「勝手に決めないでください先生」
「いいじゃない。あと半年よ。レイシア期待してるわ」
「はい」
学園長はため息をつきながらも許可をしない訳にはいかなくなった。
「はあ、いいかいレイシア。今年いっぱいだ。それから、君のお祖父様の提案は今でなくてもいいからよく考えておくんだ。いいね」
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