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第七章 後期授業開始

95話 閑話 学園長シャンパーニの戸惑い

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「今日からレイシアが登校します」

 シャルドネ先生が手に持った手紙3をひらひらとさせながら、私に言った

「授業が終わった午後3時にこちらに向かうように寮母に言い伝えました。その前に学園長はこの手紙、いやレポートをどう読んだのか。お聞かせ願えますか?」

 新学期が始まるギリギリのタイミングで着いた手紙。奨学生のレイシアが自領の祭りを企画運営するために新学期に間に合わないという報告と、祭りの計画をまとめた報告書だ。

「おや? 私はまだ先生のゼミ生でしたでしょうか? なつかしいやりとりですが」
「学問に終わりなどないのですよ、シャンパーニ。あなたが学園長になったとしてもね」

 シャルドネ先生は、いつも私を試す。師弟とはそういう関係だ。

「相変わらず手厳しいですね」
「当然です」

 お互い目を見合わせ「ははは」と乾いた愛想笑いをした。

「はあ~。なんというか。さすがバリューの秘蔵っ子。13才とは思えない」

 私は手紙を受け取りながら答えた。

「バリューだったらこんなことはしないでしょう。ヤツは他人を巻き込んだり金儲けを実践したりするような、そんな小器用なことはできない」
「そうね」

 端的に相槌がきた。

「ゆえに、これを考え実行に移したのは……………。誰なんだ? 領主か? 官僚か? レイシアか? いずれにしてもおかしい」
「どこら辺がおかしいと言える?」

 相変わらず突っ込まれる。

「これだけ平民と同じ目線で協力態勢に入れる領主や官僚がいるとは思えない。基本的に官僚は平民に対して命令を行うものだ。その意識があるものがこのような計画を実行できるはずがない」
「ふむ」

「さらに孤児の扱い。これはバリューの仕業だろう。おかしすぎる。教会組織に喧嘩売っているのか?ヤツは。 だとしても領主や官僚がそれを扱えるとは思えん」
「そうだな」

 おや、いつもより良い評価だ。

「もしレイシアがバリューの教え子として優秀だとしても、彼女も子爵令嬢。こんな突飛な計画など立てられない。ましてや学園に入ったばかり。いくら入学最初のテストで好成績だったとしてもこれは……。ありえない」

 先生は「ふう」とため息をつきながらメモの束を私に手渡した。

「学園長ともなると忙しすぎて雑な情報収集をするようになるのね。いえ、元からでしょうかシャンパーニ。あなたは大雑把すぎます。バリューと足して二で割れば丁度よいのですが」
「久しぶりに聞きましたよ。それ」

 懐かしいフレーズ。続きは相変わらずだろう。

「「まあ、足して二で割れば凡庸になるのかもしれませんが」」

 声を合わせてやった。いつも決まった言葉だから。
 お互い「ふっ」と笑い、場をなごませた。

「こちらがレイシアの授業の報告書です。担当教諭に書かせました」
「ほう……。えっ?……なんだこれは!」

 渡された報告書を見たが、あまりにもおかしい。

「そう。子爵令嬢のやることではないのですよ。それを踏まえたうえでレポートの世見直しをしてみなさい。シャンパーニ」

 読み直すでもなかった。嬉々として馬小屋の掃除をする? 血だらけになりながらウサギを狩る? 騎士見習いの男子たち、さらに王子を含めて手加減無しでやりあい優勝? 魔法が全属性? なのに貴族のマナーがなってなくメイドとしては完璧? なんだそれ?

「彼女をあなたレベルの常識で計ろうとしないことね。さすがバリューの教え子というべきか、それ以上の器というべきか」

 私はゴクリと喉を鳴らした。

「いずれにせよ、あなたが教育改革をやろうとしているこの時に、バリューの教え子が入学してきた。その子は常識で計れないポテンシャルを秘めている。運命だとは思わない? このチャンス、生かすも殺すもあなた次第よ。学園長」

 こんな時だけ先生は学園長と言う。たしかに私は学園を改革したい。教会に振り回され知識が制限されている現状、それを誰もおかしいと感じていないおかしさ。

 バリュー、君は気づいていたのか? 何をしているんだ? 私が君の教え子を利用してもいいのか?

「シャルドネ先生」
「なんだい」

「私にできますかね。教育改革」

 先生は私を見つめ言った。 

「やりたいのだろう。だからあなたは私を引き上げた。弟子が信念をもってやりたいことを止めるわけにはいかないよ。泥はかぶろう。やりたいようにやればいいさ」

 先生!

「それに、教育改革はあたしの夢でもあるからな。むしろお前たちを巻き込んだのかもしれんな」

 先生はそう言うと頭を下げた。

「止めてください! ……先生、私の夢に付き合ってもらいますよ。いいですね」
「学園長の命令ですか?」
「いえ、個人的なお願いです」

 先生はため息をついた。

「そこは命令と言うくらいの心持を保ちなさい。どのみちバリューの教え子レイシアも巻き込まれるのだからね。その覚悟はしなさい」

「バリューか。会いたいな」

 私が何気なくつぶやいた言葉に、先生は「呼び出したら」と事もなげに言った。
 そうだな。それもありかもしれないな。

 私はバリューの教え子レイシアの真価を見誤らないために、レポートのような手紙を精査し直した。
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