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第七章 後期授業開始

91話 秘密の書類

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 貴族のご令嬢と言うことで、聞き取りは官僚が一人で使っている特別室で2時間ほど行われた。それだけ長くなったのは、ポエムがあの騒ぎの最中、あのおっさんがやられるまで見てみぬ振りをしていた衛兵がいたのを糾弾したためだ。

「もういいですよ、ポエム」
「いけません、レイシア様。貴族はなめられたらお終いです」
「でももう帰りたいし」
「でしたら本気でやってくださいよ」

 ポエムとレイシアが小声で言い合っていると、指摘された2人の兵士がやってきた。

「俺たちが何をしたって言ってるんだ!」
「濡れ衣です。言いがかりですよ」

 2人は口々に「やってない」とか「無実だ」とか言っては騒いだ。男の一人が「証拠は!」と言った時、レイシアが言った。

「お二人とも、その場で何度かジャンプしてみてください。ジャラジャラと音がするはずです。ズボンのポケットの中に銀貨が何枚か入っていますね。勤務中は私物を持たないはずですが、なぜそんなものが入っているのでしょうか?」

 レイシアが指摘をすると、2人は言いがかりだと拒否した。しかし、取り押さえられた2人のポケットからは、銀貨が5枚ずつ出て来た。

「これはなんだ!」

 隊長が怒鳴ると、2人は言い逃れを始めた。

「これは…………落とし物です!」
「そっ、そうです。後で提出しようと拾ったのです」

「お前らなあ」

 隊長があきれながら怒鳴ると、この調査をしていた事務方のお偉さんが言った。

「拾ったのはいつどこでだね」

 眼鏡越しに二人を睨んだ。2人は緊張しながらも

「おっ、お昼ごろ。門前の広場であります」
「自分もであります」
 と答えると、

「そうですか。ではこちらで預かっておきましょう」
 と何事もなかったかのように処理した。

「上官殿。これはどういう事……」

 隊長がそう言いかけると、ひと睨みして答えた。

「だまらっしゃい! 私の管理下で不正など起こらないのですよ。私の汚点になるようなことは何もね」

 隊長は「クッ」と言葉に詰まった。上官が白と言えば白。それが軍というもの。逆らうことなど出来はしない。

「お嬢様方。失礼いたしました。うちの若い者のしつけができていなかったようで。驚かれたことでしょう」
「大声を出して申し訳ございません」

 上官は、隊長に頭を下げさせ終わりにしようとした。レイシアは隊長にたずねた。

「本当にいいのですか?」

 真っすぐな目が隊長を見つめる。心の底を見透かされていると感じさせる視線が隊長に注がれた。

「……はい……」
「そうですか。……残念ですね」

 ふうとため息をつくレイシア。もう一度隊長を見つめた。

「お……、俺は間違っていると思っております!」
「それでいいのですよ。隊長さん」

 レイシアは、目の前の上官を睨んだ。

「何をおっしゃっているのでしょう、お嬢様。兵士たちの単なる報告ミスですよ。それ以上でもそれ以下でもないのです。お分かりいただけますよね」

 上官はレイシアに近づき圧をかけた。
 レイシアは上官の胸倉をつかむと

「何しとんじゃわれぇ。それが国防担う漢のやることが! 下衆がぁ! ど外道がぁ! 貴様にゃぁ地獄見せたるでぇ!」

 と料理人サム仕込み、ヤサグレ料理人スーパーモードで因縁をつけ始めた。

「うおりゃあ!」
 と上官の首に手を回し、顔から地面に落とすとそのまま頭を踏みつけた。

「ぐぶゎぁ」
 潰されたカエルの断末魔のようなうめき声を出す上官の顔は、擦り傷だらけになった。

「サチ」

 レイシアがそう呼ぶと、上官の机の向こうにサチが現れた。
 サチは、最初からこの部屋にいたのだが、レイシアの指示で気配を断っていたのだ。さすがメイド術相伝者サチ。誰にも気づかれずにヤバい書類を探していた。

「レイシア様。こちらが二重帳簿です。武器の質を落とし私腹を肥やしていた記録などが読み取れました。そしてこちらは、奴隷商人とのやり取りを書き記している秘密の日記帳。先ほどのクックルーとかいうおっさんの名前も頻繁に出てきます。がっちりつるんでいます。あとは帝国へ情報も流していますね。スパイですね。真っ黒です」

 次々と積み上げられていく書類。上官は上手く声を出せず「ふぬがー」「グゴキゴオォォ」など喚いていた。うるさいので、レイシアは背中を踏みつけ意識を刈った。

「隊長さん。いかがなさいますか?」

 お嬢様風に質問を投げかけるレイシア。目は笑っていない。

「使い切ることが出来るのでしたらお渡しいたしますが。……もし握りつぶして闇に葬られるのならば」

「何をする気だ」

「これを基にして小説を出版しましょう。私、知り合いに売れっ子作家がいるのですよ。ドキュメンタリーの方がいいでしょうか?」

「軍を崩壊させる気か!」
「あら、こんなウジ虫が上官なのでしょう? もう崩壊しているのではなくて?」

「力ずくでよこせと言ったら?」
「5人対3人ですか。少ないですね。5人では。私1人で勝てそうです。ねえポエムさん」
「瞬殺できると思います」

 レイシアとポエムとサチは、思いっきり殺気をだした。

「やりましょうか?」
「いやいい。聞いてみただけだ」

 殺気を出し続ける3人。若手の兵士がへたりこんだ。

「おい。そろそろやめてくれないか。若いのが耐えられない」

「「「鍛えなおさせろ! どれだけ甘ちゃんだよ」」」

 3人が呪いのような、恨みのような声で言った。あの辛い修行の日々を思い出すと、目の前の兵士たちのなんと生ぬるい感じが許せない。一気に殺気を放出し、そのあと殺気を抑えた。

 殺気に耐え切れず、パタパタとたおれる兵。
 立っていられたのは隊長一人だけだった。
 サチとポエムに同士訓練辛かったのね! という感情深い理解が生まれた。

「頼む。その資料を渡してくれ。必ず役立てる。闇に葬らないと誓おう。頼む」

 隊長は頼んだ。頼み込んだ。五体投地のような恰好をしてまでお願いした。

「では、まずはこれから預けましょう」

 レイシアは奴隷商人とのやり取りが書いてある秘密日記を手渡した。

「それがきちんと処理できたと判断したら、次の資料を渡しましょう。ポエムさん。書類はお祖父様に預けます。お祖父様への報告お願いします」

 レイシアは隊長に「いいですね」と確認を取った。
 隊長は全部欲しかったが、しぶしぶ了承した。

「では、私たちはこれで帰ってもよろしいでしょうか」

 ポエムの言葉に(早く帰ってくれ)とうなずいて答えた隊長だった。
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