上 下
154 / 177
第七章 後期授業開始

91話 秘密の書類

しおりを挟む
 貴族のご令嬢と言うことで、聞き取りは官僚が一人で使っている特別室で2時間ほど行われた。それだけ長くなったのは、ポエムがあの騒ぎの最中、あのおっさんがやられるまで見てみぬ振りをしていた衛兵がいたのを糾弾したためだ。

「もういいですよ、ポエム」
「いけません、レイシア様。貴族はなめられたらお終いです」
「でももう帰りたいし」
「でしたら本気でやってくださいよ」

 ポエムとレイシアが小声で言い合っていると、指摘された2人の兵士がやってきた。

「俺たちが何をしたって言ってるんだ!」
「濡れ衣です。言いがかりですよ」

 2人は口々に「やってない」とか「無実だ」とか言っては騒いだ。男の一人が「証拠は!」と言った時、レイシアが言った。

「お二人とも、その場で何度かジャンプしてみてください。ジャラジャラと音がするはずです。ズボンのポケットの中に銀貨が何枚か入っていますね。勤務中は私物を持たないはずですが、なぜそんなものが入っているのでしょうか?」

 レイシアが指摘をすると、2人は言いがかりだと拒否した。しかし、取り押さえられた2人のポケットからは、銀貨が5枚ずつ出て来た。

「これはなんだ!」

 隊長が怒鳴ると、2人は言い逃れを始めた。

「これは…………落とし物です!」
「そっ、そうです。後で提出しようと拾ったのです」

「お前らなあ」

 隊長があきれながら怒鳴ると、この調査をしていた事務方のお偉さんが言った。

「拾ったのはいつどこでだね」

 眼鏡越しに二人を睨んだ。2人は緊張しながらも

「おっ、お昼ごろ。門前の広場であります」
「自分もであります」
 と答えると、

「そうですか。ではこちらで預かっておきましょう」
 と何事もなかったかのように処理した。

「上官殿。これはどういう事……」

 隊長がそう言いかけると、ひと睨みして答えた。

「だまらっしゃい! 私の管理下で不正など起こらないのですよ。私の汚点になるようなことは何もね」

 隊長は「クッ」と言葉に詰まった。上官が白と言えば白。それが軍というもの。逆らうことなど出来はしない。

「お嬢様方。失礼いたしました。うちの若い者のしつけができていなかったようで。驚かれたことでしょう」
「大声を出して申し訳ございません」

 上官は、隊長に頭を下げさせ終わりにしようとした。レイシアは隊長にたずねた。

「本当にいいのですか?」

 真っすぐな目が隊長を見つめる。心の底を見透かされていると感じさせる視線が隊長に注がれた。

「……はい……」
「そうですか。……残念ですね」

 ふうとため息をつくレイシア。もう一度隊長を見つめた。

「お……、俺は間違っていると思っております!」
「それでいいのですよ。隊長さん」

 レイシアは、目の前の上官を睨んだ。

「何をおっしゃっているのでしょう、お嬢様。兵士たちの単なる報告ミスですよ。それ以上でもそれ以下でもないのです。お分かりいただけますよね」

 上官はレイシアに近づき圧をかけた。
 レイシアは上官の胸倉をつかむと

「何しとんじゃわれぇ。それが国防担う漢のやることが! 下衆がぁ! ど外道がぁ! 貴様にゃぁ地獄見せたるでぇ!」

 と料理人サム仕込み、ヤサグレ料理人スーパーモードで因縁をつけ始めた。

「うおりゃあ!」
 と上官の首に手を回し、顔から地面に落とすとそのまま頭を踏みつけた。

「ぐぶゎぁ」
 潰されたカエルの断末魔のようなうめき声を出す上官の顔は、擦り傷だらけになった。

「サチ」

 レイシアがそう呼ぶと、上官の机の向こうにサチが現れた。
 サチは、最初からこの部屋にいたのだが、レイシアの指示で気配を断っていたのだ。さすがメイド術相伝者サチ。誰にも気づかれずにヤバい書類を探していた。

「レイシア様。こちらが二重帳簿です。武器の質を落とし私腹を肥やしていた記録などが読み取れました。そしてこちらは、奴隷商人とのやり取りを書き記している秘密の日記帳。先ほどのクックルーとかいうおっさんの名前も頻繁に出てきます。がっちりつるんでいます。あとは帝国へ情報も流していますね。スパイですね。真っ黒です」

 次々と積み上げられていく書類。上官は上手く声を出せず「ふぬがー」「グゴキゴオォォ」など喚いていた。うるさいので、レイシアは背中を踏みつけ意識を刈った。

「隊長さん。いかがなさいますか?」

 お嬢様風に質問を投げかけるレイシア。目は笑っていない。

「使い切ることが出来るのでしたらお渡しいたしますが。……もし握りつぶして闇に葬られるのならば」

「何をする気だ」

「これを基にして小説を出版しましょう。私、知り合いに売れっ子作家がいるのですよ。ドキュメンタリーの方がいいでしょうか?」

「軍を崩壊させる気か!」
「あら、こんなウジ虫が上官なのでしょう? もう崩壊しているのではなくて?」

「力ずくでよこせと言ったら?」
「5人対3人ですか。少ないですね。5人では。私1人で勝てそうです。ねえポエムさん」
「瞬殺できると思います」

 レイシアとポエムとサチは、思いっきり殺気をだした。

「やりましょうか?」
「いやいい。聞いてみただけだ」

 殺気を出し続ける3人。若手の兵士がへたりこんだ。

「おい。そろそろやめてくれないか。若いのが耐えられない」

「「「鍛えなおさせろ! どれだけ甘ちゃんだよ」」」

 3人が呪いのような、恨みのような声で言った。あの辛い修行の日々を思い出すと、目の前の兵士たちのなんと生ぬるい感じが許せない。一気に殺気を放出し、そのあと殺気を抑えた。

 殺気に耐え切れず、パタパタとたおれる兵。
 立っていられたのは隊長一人だけだった。
 サチとポエムに同士訓練辛かったのね! という感情深い理解が生まれた。

「頼む。その資料を渡してくれ。必ず役立てる。闇に葬らないと誓おう。頼む」

 隊長は頼んだ。頼み込んだ。五体投地のような恰好をしてまでお願いした。

「では、まずはこれから預けましょう」

 レイシアは奴隷商人とのやり取りが書いてある秘密日記を手渡した。

「それがきちんと処理できたと判断したら、次の資料を渡しましょう。ポエムさん。書類はお祖父様に預けます。お祖父様への報告お願いします」

 レイシアは隊長に「いいですね」と確認を取った。
 隊長は全部欲しかったが、しぶしぶ了承した。

「では、私たちはこれで帰ってもよろしいでしょうか」

 ポエムの言葉に(早く帰ってくれ)とうなずいて答えた隊長だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

なりゆきで、君の体を調教中

星野しずく
恋愛
教師を目指す真が、ひょんなことからメイド喫茶で働く現役女子高生の優菜の特異体質を治す羽目に。毎夜行われるマッサージに悶える優菜と、自分の理性と戦う真面目な真の葛藤の日々が続く。やがて二人の心境には、徐々に変化が訪れ…。

【完結】ずっと一緒だった宰相閣下に、純潔より大事なものを持っていかれそうです

雪野原よる
恋愛
六歳で女王として即位したとき、二十五歳で宰相職を務めていた彼はひざまずいて忠誠を誓ってくれた。彼に一目惚れしたのはその時だ。それから十年…… シリアスがすぐに吹っ飛んでギャグしか無くなるラブコメ(変態成分多め)です。  ◆凍り付くような鉄面皮の下に変態しかない宰相閣下に悩まされる可哀想な女王陛下の話です。全三話完結。  ◆変態なのに健全な展開しかない。エロス皆無。  追記:番外終了しました。ろくに見通しも立てずに書き過ぎました……。「短編→長編」へと設定変更しました。

王妃から夜伽を命じられたメイドのささやかな復讐

当麻月菜
恋愛
没落した貴族令嬢という過去を隠して、ロッタは王宮でメイドとして日々業務に勤しむ毎日。 でもある日、子宝に恵まれない王妃のマルガリータから国王との夜伽を命じられてしまう。 その理由は、ロッタとマルガリータの髪と目の色が同じという至極単純なもの。 ただし、夜伽を務めてもらうが側室として召し上げることは無い。所謂、使い捨ての世継ぎ製造機になれと言われたのだ。 馬鹿馬鹿しい話であるが、これは王命─── 断れば即、極刑。逃げても、極刑。 途方に暮れたロッタだけれど、そこに友人のアサギが現れて、この危機を切り抜けるとんでもない策を教えてくれるのだが……。

【完結】無意識 悪役公爵令嬢は成長途中でございます!幼女篇

愚者 (フール)
恋愛
プリムローズは、筆頭公爵の末娘。 上の姉と兄とは歳が離れていて、両親は上の子供達が手がかからなくなる。 すると父は仕事で母は社交に忙しく、末娘を放置。 そんな末娘に変化が起きる。 ある時、王宮で王妃様の第2子懐妊を祝うパーティーが行われる。 領地で隠居していた、祖父母が出席のためにやって来た。 パーティー後に悲劇が、プリムローズのたった一言で運命が変わる。 彼女は5年後に父からの催促で戻るが、家族との関係はどうなるのか? かなり普通のご令嬢とは違う育て方をされ、ズレた感覚の持ち主に。 個性的な周りの人物と出会いつつ、笑いありシリアスありの物語。 ゆっくり進行ですが、まったり読んで下さい。 ★初めての投稿小説になります。  お読み頂けたら、嬉しく思います。 全91話 完結作品

似非聖女呼ばわりされたのでスローライフ満喫しながら引き篭もります

秋月乃衣
恋愛
侯爵令嬢オリヴィアは聖女として今まで16年間生きてきたのにも関わらず、婚約者である王子から「お前は聖女ではない」と言われた挙句、婚約破棄をされてしまった。 そして、その瞬間オリヴィアの背中には何故か純白の羽が出現し、オリヴィアは泣き叫んだ。 「私、仰向け派なのに!これからどうやって寝たらいいの!?」 聖女じゃないみたいだし、婚約破棄されたし、何より羽が邪魔なので王都の外れでスローライフ始めます。

【完結】悪役だった令嬢の美味しい日記

蕪 リタ
ファンタジー
 前世の妹がやっていた乙女ゲームの世界に転生した主人公、実は悪役令嬢でした・・・・・・。え?そうなの?それなら破滅は避けたい!でも乙女ゲームなんてしたことない!妹には「悪役令嬢可愛い!!」と永遠聞かされただけ・・・・・・困った・・・・・・。  どれがフラグかなんてわかんないし、無視してもいいかなーって頭の片隅に仕舞い込み、あぁポテサラが食べたい・・・・・・と思考はどんどん食べ物へ。恋しい食べ物達を作っては食べ、作ってはあげて・・・・・・。あれ?いつのまにか、ヒロインともお友達になっちゃった。攻略対象達も設定とはなんだか違う?とヒロイン談。  なんだかんだで生きていける気がする?主人公が、豚汁騎士科生たちやダメダメ先生に懐かれたり。腹黒婚約者に赤面させられたと思ったら、自称ヒロインまで登場しちゃってうっかり魔王降臨しちゃったり・・・・・・。もうどうにでもなれ!とステキなお姉様方や本物の乙女ゲームヒロインたちとお菓子や食事楽しみながら、青春を謳歌するレティシアのお食事日記。 ※爵位や言葉遣いは、現実や他作者様の作品と異なります。 ※誤字脱字あるかもしれません。ごめんなさい。 ※戦闘シーンがあるので、R指定は念のためです。 ※カクヨムでも投稿してます。

ぽっちゃり令嬢の異世界カフェ巡り~太っているからと婚約破棄されましたが番のモフモフ獣人がいるので貴方のことはどうでもいいです~

碓氷唯
ファンタジー
幼い頃から王太子殿下の婚約者であることが決められ、厳しい教育を施されていたアイリス。王太子のアルヴィーンに初めて会ったとき、この世界が自分の読んでいた恋愛小説の中で、自分は主人公をいじめる悪役令嬢だということに気づく。自分が追放されないようにアルヴィーンと愛を育もうとするが、殿下のことを好きになれず、さらに自宅の料理長が作る料理が大量で、残さず食べろと両親に言われているうちにぶくぶくと太ってしまう。その上、両親はアルヴィーン以外の情報をアイリスに入れてほしくないがために、アイリスが学園以外の外を歩くことを禁止していた。そして十八歳の冬、小説と同じ時期に婚約破棄される。婚約破棄の理由は、アルヴィーンの『運命の番』である兎獣人、ミリアと出会ったから、そして……豚のように太っているから。「豚のような女と婚約するつもりはない」そう言われ学園を追い出され家も追い出されたが、アイリスは内心大喜びだった。これで……一人で外に出ることができて、異世界のカフェを巡ることができる!?しかも、泣きながらやっていた王太子妃教育もない!?カフェ巡りを繰り返しているうちに、『運命の番』である狼獣人の騎士団副団長に出会って……

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

処理中です...