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第七章 後期授業開始
90話 王都に入るの大変です
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乗合馬車を乗り継ぎ、レイシアとサチが王都に着いたのは午後の3時過ぎ。王都の門前は入り口が4つある。他領の者が並ぶ一般門。王都の住民のための通用門。法衣貴族が使う貴族門。土地持ちの貴族が馬車で通る貴族のための特別な門。レイシアとサチは、貴族門に並んだ。
「おいおい、小汚い娘ども。お前らどこの田舎もんだ! 向こうへ行け!」
後ろから来た偉そうなおっさんが怒鳴りながら近づいてきた。
「失敬な」
サチがおっさんに向かって言うと、男は馬鹿にされたと騒ぎだし従者に命じた。
「この失礼な平民を捕らえろ! そこの生意気な女、体だけは良さそうだな。儂の奴隷として可愛がってやろう。ガキは売り払え」
従者2人は主のわがままに嫌気が差していたが、命令には従わなくてはならない。仕方なく剣を構えサチに向かって言った。
「おとなしくいう事を聞けば危害は加えない。降伏してくれ」
「お前ら、儂の命令が分かっているのか!」
おっさんはキレていた。穏便に済まそうとする従者に蹴りを入れると、従者の剣を取り上げサチに向けた。
「こんな女、儂一人で十分だ。儂に逆らうお前らは首だ! とっとと去れ! 女、儂の前にひざまずけ。かわいがってやろう」
いやらしい顔をしながらおっさんはサチに命令した。
サチが攻撃を仕掛けようと動くのを、レイシアが止めた。
「失礼しました。あなた様はどのようなお方なのでしょうか」
レイシアが聞くと、おっさんはふんぞり返って答えた。
「儂はオヤマーの人事課長を担っているクックルー法衣男爵だ。今さら謝っても遅いぞ。女は儂の奴隷。ガキ、お前は売り飛ばしてやる」
いやらしい笑い声を上げながら剣を前に出すおっさん。従者2人はこれ以上巻き込まれたくも無く、もはや関係ないとどこかへ去っていった。
(お祖父様、なにやっているんですか)
レイシアは心の中でつぶやいた。サチはレイシアに(とっとと殺っていいですか)とサインを送った。
(まだ早い。きっちり攻撃されてから!)
レイシアは必死で止めた。まわりが注目して距離を保ちながら見ているから。
(分かりました。攻撃されればいいんですね)
(違うから!)
サチはキレていた。このいやらしいおやじに鉄槌を!
「その年で課長ですか。さぞ若手に追い抜かれたことでしょうね」
サチはあおった。核心をつかれたおっさんは、顔を赤らめて怒鳴った。
「きさまぁ! 許さん!」
ブンブンと振る剣を身軽にかわすサチ。まだですかとレイシアにサインを送り続ける。
おっさんは小娘にかわされ続けている現実を受け入れることが出来なかった。プライドが許せない。こうなったらと、標的をレイシアに変えた。人質にしようと作戦を変えたのだ。ガキなら捕まえるのは簡単。そう思いレイシアに向かったおっさんは、しかしレイシアの一撃で意識を失った。
騒ぎを聞きつけ衛兵たちが周りを囲む。レイシアとサチは犯罪者扱いで剣を向けられていた。
「抵抗するな。お前たちは貴族に逆らい怪我を負わせた重罪人だ。命が惜しくばおとなしく捕縛されよ」
最初の成り行きを見ていない衛兵たち。彼らから見れば小汚い平民の少女たちが、法衣と言えども貴族に攻撃をしたようにしか見えない。レイシアは叫んだ。
「ポエム、いるんでしょ。出てきて説明を」
スタッと衛兵の前に現れたポエム。
「気づいていましたか?」
「入学当初からね」
「さすがですね」
にこやかに話す2人を警戒する衛兵たち。ポエムはその中から兵長を見つけ挨拶を始めた。
「いつもお世話になっております。私、オズワルド・オヤマーの秘書メイド、ポエムです」
「ああ。なんどもお会いしていますね」
ポエムはにっこりと笑った。そして、おっさんの頬を叩き意識を取り戻させた後、「こいつを押さえておくように」と兵士に命じた。
訳の分からないおっさんはわめき騒いでいたが、兵士の一人が剣を向けて黙らせた。
「それでどういうことです?」
兵長がたずねると、ポエムはレイシアに学生証を出すように言った。
「こちらは、前オヤマー領主の孫レイシア・ターナー様でございます。その男は子爵令嬢を誘拐し奴隷商人に売り飛ばそうとした重罪人。ここにいる皆様が一部始終目撃しております。後ほど説明に伺いますが、まずはその汚らしい男を牢にぶち込んでくださいませ」
「なんだと! この小汚い娘が貴族な訳あるか! はやく放せ。儂を誰だと思っているんだ」
おっさんはわめいたが、ポエムはおっさんの喉元にステーキナイフを押し付けささやいた。
「クックルー人事課長。お久しぶりですわね。あなたはオヤマーの看板に泥を塗る真似をしました。この事は前領主夫妻並びに領主に直々に報告いたします。前領主のお気に入りであるレイシア様への暴言並びに殺傷未遂。どのような処分になるのでしょうか。覚悟しておきなさい」
おっさんは青ざめ腰を抜かして崩れ落ちた。兵長はおっさんを連れて行くように指示を出し、また周囲の者への聞き取りを兵たちに命じた。
兵長はレイシアに恭しく礼をした。
「レイシア・ターナー令嬢。ご身分は確認できました。さぞ恐ろしかったことでございましょう。貴賓室にご案内いたします。そちらで少しばかりお話をお聞かせ願えれば。ポエム様もよろしいでしょうか」
「サチも一緒なら」
「サチ? ああお付きの者ですか。もちろんでございます」
レイシアはポエムを見た。ポエムがうなずくのを確認し「分かりました」と了承した。
「おいおい、小汚い娘ども。お前らどこの田舎もんだ! 向こうへ行け!」
後ろから来た偉そうなおっさんが怒鳴りながら近づいてきた。
「失敬な」
サチがおっさんに向かって言うと、男は馬鹿にされたと騒ぎだし従者に命じた。
「この失礼な平民を捕らえろ! そこの生意気な女、体だけは良さそうだな。儂の奴隷として可愛がってやろう。ガキは売り払え」
従者2人は主のわがままに嫌気が差していたが、命令には従わなくてはならない。仕方なく剣を構えサチに向かって言った。
「おとなしくいう事を聞けば危害は加えない。降伏してくれ」
「お前ら、儂の命令が分かっているのか!」
おっさんはキレていた。穏便に済まそうとする従者に蹴りを入れると、従者の剣を取り上げサチに向けた。
「こんな女、儂一人で十分だ。儂に逆らうお前らは首だ! とっとと去れ! 女、儂の前にひざまずけ。かわいがってやろう」
いやらしい顔をしながらおっさんはサチに命令した。
サチが攻撃を仕掛けようと動くのを、レイシアが止めた。
「失礼しました。あなた様はどのようなお方なのでしょうか」
レイシアが聞くと、おっさんはふんぞり返って答えた。
「儂はオヤマーの人事課長を担っているクックルー法衣男爵だ。今さら謝っても遅いぞ。女は儂の奴隷。ガキ、お前は売り飛ばしてやる」
いやらしい笑い声を上げながら剣を前に出すおっさん。従者2人はこれ以上巻き込まれたくも無く、もはや関係ないとどこかへ去っていった。
(お祖父様、なにやっているんですか)
レイシアは心の中でつぶやいた。サチはレイシアに(とっとと殺っていいですか)とサインを送った。
(まだ早い。きっちり攻撃されてから!)
レイシアは必死で止めた。まわりが注目して距離を保ちながら見ているから。
(分かりました。攻撃されればいいんですね)
(違うから!)
サチはキレていた。このいやらしいおやじに鉄槌を!
「その年で課長ですか。さぞ若手に追い抜かれたことでしょうね」
サチはあおった。核心をつかれたおっさんは、顔を赤らめて怒鳴った。
「きさまぁ! 許さん!」
ブンブンと振る剣を身軽にかわすサチ。まだですかとレイシアにサインを送り続ける。
おっさんは小娘にかわされ続けている現実を受け入れることが出来なかった。プライドが許せない。こうなったらと、標的をレイシアに変えた。人質にしようと作戦を変えたのだ。ガキなら捕まえるのは簡単。そう思いレイシアに向かったおっさんは、しかしレイシアの一撃で意識を失った。
騒ぎを聞きつけ衛兵たちが周りを囲む。レイシアとサチは犯罪者扱いで剣を向けられていた。
「抵抗するな。お前たちは貴族に逆らい怪我を負わせた重罪人だ。命が惜しくばおとなしく捕縛されよ」
最初の成り行きを見ていない衛兵たち。彼らから見れば小汚い平民の少女たちが、法衣と言えども貴族に攻撃をしたようにしか見えない。レイシアは叫んだ。
「ポエム、いるんでしょ。出てきて説明を」
スタッと衛兵の前に現れたポエム。
「気づいていましたか?」
「入学当初からね」
「さすがですね」
にこやかに話す2人を警戒する衛兵たち。ポエムはその中から兵長を見つけ挨拶を始めた。
「いつもお世話になっております。私、オズワルド・オヤマーの秘書メイド、ポエムです」
「ああ。なんどもお会いしていますね」
ポエムはにっこりと笑った。そして、おっさんの頬を叩き意識を取り戻させた後、「こいつを押さえておくように」と兵士に命じた。
訳の分からないおっさんはわめき騒いでいたが、兵士の一人が剣を向けて黙らせた。
「それでどういうことです?」
兵長がたずねると、ポエムはレイシアに学生証を出すように言った。
「こちらは、前オヤマー領主の孫レイシア・ターナー様でございます。その男は子爵令嬢を誘拐し奴隷商人に売り飛ばそうとした重罪人。ここにいる皆様が一部始終目撃しております。後ほど説明に伺いますが、まずはその汚らしい男を牢にぶち込んでくださいませ」
「なんだと! この小汚い娘が貴族な訳あるか! はやく放せ。儂を誰だと思っているんだ」
おっさんはわめいたが、ポエムはおっさんの喉元にステーキナイフを押し付けささやいた。
「クックルー人事課長。お久しぶりですわね。あなたはオヤマーの看板に泥を塗る真似をしました。この事は前領主夫妻並びに領主に直々に報告いたします。前領主のお気に入りであるレイシア様への暴言並びに殺傷未遂。どのような処分になるのでしょうか。覚悟しておきなさい」
おっさんは青ざめ腰を抜かして崩れ落ちた。兵長はおっさんを連れて行くように指示を出し、また周囲の者への聞き取りを兵たちに命じた。
兵長はレイシアに恭しく礼をした。
「レイシア・ターナー令嬢。ご身分は確認できました。さぞ恐ろしかったことでございましょう。貴賓室にご案内いたします。そちらで少しばかりお話をお聞かせ願えれば。ポエム様もよろしいでしょうか」
「サチも一緒なら」
「サチ? ああお付きの者ですか。もちろんでございます」
レイシアはポエムを見た。ポエムがうなずくのを確認し「分かりました」と了承した。
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「貧乏奨学生の子爵令嬢は、特許で稼ぐ夢を見る 〜レイシアは、今日も我が道つき進む!~」https://www.alphapolis.co.jp/novel/892339298/357766056 #
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