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第六章 夏休み
89話 閑話 お祖父様お祭りに行く
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儂の下に新たな報告書が速達で届いた。ターナーでお祭りが行われる。発案、企画にレイシアが入っている? アマリー含め近隣の地域まで興味を持ち始めた? どういうことだ?
「どういうことだと言われましても、私も書いてあること以上の事は分かりかねます」
儂はポエムに調査チームの立ち上げを命じた。
◇
次々に上がってくる調査書。目を通してはその無謀さにあきれ果てた。
無理だろ、これは……。
誰が指揮を取るというのだ? ヤツか? レイシアか? ギルドどうしが連携? 出来るわけなかろう! 孤児の賛美歌? 誰が見たがると言うのだ。まともに歌なんか歌える訳がないだろう。新作料理対決? 何だそれは! 料理の開発がどれだけ大変なのか、レイシアなら分かっているだろうに。
しかし、同時に楽しみを感じている儂もいる。もしかしたら何かしでかしてくれるのではないか。そんな期待がうごめく。儂は執事を呼んで、祭りに行けるようスケジュール調整と宿の手配を頼んだ。
「旦那様、ターナー領へ向かわれるのですか?」
「ああ」
「あれほど……いえ、かしこまりました」
「それから、正式に行くのではない。忍びで行く。商人のふりができるように手配をするように」
「商人ですか。分かりました」
執事はすぐに出て行った。執事の驚きは分からんでもない。あれほどターナー領には足を踏み入れようとはしなかったからな。しかしなんだ。以前レイシアの言っていた言葉がどうにも引っかかるのだ。孤児院で学んだ。孤児が字を読める。一体、ターナー領は、あの男はどんな政策をしているんだ? もしかしたら少しは出来るヤツなのか?
しかし、このことは妻には内緒にしないといかんな。
儂は執事を呼び戻し、秘密裏にするように釘を刺した。
◇◇◇
「神々しい」
孤児たちの歌声を聞いて、思わずつぶやいてしまった。技巧的な聖歌隊とは違う、素朴な、しかし心のこもった男女2部合奏。おい、指揮をしているのはクリシュか? 大きくなったな。アリシアの面影が強く出ている。父親に似なくてよかったな。
やがて歌が終わった。
チャン♪チャラチャラララ♪ チャン♪チャラチャラララ♪ チャチャチャ チャララン♪ チャラ チャン チャン♫
儂の感動を切り裂くように、オルガンがけたたましい音を奏でた。
すーはー???!!!
よく分からんが腕を広げる。体が硬い。運動など最近はしていないからな。
すーはー すーはー すーはー すーはー
何だこの心地よさは。体が温まる。頭がスッキリとする。まるで神の愛に包まれているようなこの感覚は……。
必死についていったら、いつの間にかすーはーは終わった。
聖なる儀式! 神の呼吸『スーハー』
確かに神の福音かもしれん。体が熱い。
儂の感動をかき消すように、ヤツがステージに上がった。
ふむ、真っ当なことが言えるではないか。領民たちが割れんような拍手でたたえておる。普段から慕われておるのか?
料理コンテスト。斬新な料理の数々が並ぶ。いくつか食べたがうちの食品開発室の連中にも食べさせたかった。発想が斬新だ! この領の人々は何でこんなに楽しそうなんだ? 何でこんなに自由なんだ?
楽しいではないか。祭り。
2日目も驚くことばかりであった。
孤児が字を読んでおる! レイシアから聞いてはいたが、やはり異様だ。しかも孤児たちが健康そうで楽しそうだ。この教会は何をしているのだ?
一瞬、霧雨が降り、空に虹が掛かった。
この気配は! あの時と同じだ。レイシアが特許を申請したときの神殿での神の気配。わずかだが神を感じる。
ここにレイシアはいないのか? レイシアに対する福音ではないのか。
だとすると……
この地は神が愛されている土地なのか?
この領の人々が神に愛されていると言うのか?
神殿のあり方が、神に認められているとでも言うのか?
神よ。
儂はいつの間にか虹に向かい祈りを捧げていた。
◇
あの神官に見覚えがある。
儂はポエムに神官をこっそりと連れてくるように命じた。
「何かありましたでしょうか? トラブルでも……」
「儂じゃ。オズワルド・オヤマーだ。お主はあの時教会にいた神官だな」
神官は儂の顔を見て驚いておった。
「なぜここにいる」
「はいっ! 本部の命令で1年間こちらの教会で研修しろと移動になりました」
「なぜお前が?」
「恥ずかしながら、立候補致しました。ここに来ればレイシア様に会えるかと」
「レイシアに? なぜだ!」
「神に……神に示唆を頂きました。レイシア様に聖詠を教えた者を訪ねよと。そして、あの素晴らしい福音を頂いたレイシア様を間近で見てみたかったのです」
「なるほど。敵意はないとそう言うのか」
「神に誓って」
「よろしい。それでこの教会、そして孤児院はどうなっているのだ。詳しく教えろ」
神官は、「忙しいので」と言いながら神父と領主、それにレイシアの素晴らしさを熱を入れて語った。
儂は神官に、今夜教会でこっそりと泊まれるように手配させた。
◇
祭りが終わって片付けが始まった。儂は一台残した馬車で、その様子を見ていた。
レイシアが集めたごみの山に近づくと、一気に炎が上がった。何をしたんだ?
領民が集まって酒飲みを始めた。あの男とレイシアとクリシュが固まっている。仲が良さそうだ。ケッ。
どうしたんだ? 領民が大声を出し始めた。
「クーリフト!」
「クーリフト!」
「クーリフト!」
みんながヤツの名前を叫んでいる? アイツがステージに上がったら、どこからか光がヤツを照らした。どうなっているのだ? 何が行われるんだ?
「皆、よくやった! 来年も祭りをやろう! 皆で楽しむんだ」
ヤツがそう言った途端、割れんばかりの歓声が上がった。
「「「おおお――――」」」
「クーリフト!」
「クーリフト!」
「クーリフト!」
クリフトコールが止まらん!
手でリズムをとる者。足を叩きつける者。領民が全身で喜び、ヤツを讃えた。
うらやましい程慕われているな、クリフト。領民にも子供たちにも。
アリシアは、そんな所が好きであったのだろうか。
アリシアが結婚する前にちゃんと向き合ってやればよかったのか?
儂らはアリシアの幸せを願って……。いや、儂らが向き合っていなかっただけなのかもしれんな。
いい男かもしれんな、クリフト・ターナー。認めたくはないが……。
アリシア、すまんかったな。
儂がアリシアの事を考えていたその時、また、神の気配がこの地に感じられた。
ああ、神よ。私たちを許してくれ給え。
そんな思いがあふれた。神の気配はちょうど酒樽が置かれていた辺りに集まると、やがてふわっと消えていった。
「どういうことだと言われましても、私も書いてあること以上の事は分かりかねます」
儂はポエムに調査チームの立ち上げを命じた。
◇
次々に上がってくる調査書。目を通してはその無謀さにあきれ果てた。
無理だろ、これは……。
誰が指揮を取るというのだ? ヤツか? レイシアか? ギルドどうしが連携? 出来るわけなかろう! 孤児の賛美歌? 誰が見たがると言うのだ。まともに歌なんか歌える訳がないだろう。新作料理対決? 何だそれは! 料理の開発がどれだけ大変なのか、レイシアなら分かっているだろうに。
しかし、同時に楽しみを感じている儂もいる。もしかしたら何かしでかしてくれるのではないか。そんな期待がうごめく。儂は執事を呼んで、祭りに行けるようスケジュール調整と宿の手配を頼んだ。
「旦那様、ターナー領へ向かわれるのですか?」
「ああ」
「あれほど……いえ、かしこまりました」
「それから、正式に行くのではない。忍びで行く。商人のふりができるように手配をするように」
「商人ですか。分かりました」
執事はすぐに出て行った。執事の驚きは分からんでもない。あれほどターナー領には足を踏み入れようとはしなかったからな。しかしなんだ。以前レイシアの言っていた言葉がどうにも引っかかるのだ。孤児院で学んだ。孤児が字を読める。一体、ターナー領は、あの男はどんな政策をしているんだ? もしかしたら少しは出来るヤツなのか?
しかし、このことは妻には内緒にしないといかんな。
儂は執事を呼び戻し、秘密裏にするように釘を刺した。
◇◇◇
「神々しい」
孤児たちの歌声を聞いて、思わずつぶやいてしまった。技巧的な聖歌隊とは違う、素朴な、しかし心のこもった男女2部合奏。おい、指揮をしているのはクリシュか? 大きくなったな。アリシアの面影が強く出ている。父親に似なくてよかったな。
やがて歌が終わった。
チャン♪チャラチャラララ♪ チャン♪チャラチャラララ♪ チャチャチャ チャララン♪ チャラ チャン チャン♫
儂の感動を切り裂くように、オルガンがけたたましい音を奏でた。
すーはー???!!!
よく分からんが腕を広げる。体が硬い。運動など最近はしていないからな。
すーはー すーはー すーはー すーはー
何だこの心地よさは。体が温まる。頭がスッキリとする。まるで神の愛に包まれているようなこの感覚は……。
必死についていったら、いつの間にかすーはーは終わった。
聖なる儀式! 神の呼吸『スーハー』
確かに神の福音かもしれん。体が熱い。
儂の感動をかき消すように、ヤツがステージに上がった。
ふむ、真っ当なことが言えるではないか。領民たちが割れんような拍手でたたえておる。普段から慕われておるのか?
料理コンテスト。斬新な料理の数々が並ぶ。いくつか食べたがうちの食品開発室の連中にも食べさせたかった。発想が斬新だ! この領の人々は何でこんなに楽しそうなんだ? 何でこんなに自由なんだ?
楽しいではないか。祭り。
2日目も驚くことばかりであった。
孤児が字を読んでおる! レイシアから聞いてはいたが、やはり異様だ。しかも孤児たちが健康そうで楽しそうだ。この教会は何をしているのだ?
一瞬、霧雨が降り、空に虹が掛かった。
この気配は! あの時と同じだ。レイシアが特許を申請したときの神殿での神の気配。わずかだが神を感じる。
ここにレイシアはいないのか? レイシアに対する福音ではないのか。
だとすると……
この地は神が愛されている土地なのか?
この領の人々が神に愛されていると言うのか?
神殿のあり方が、神に認められているとでも言うのか?
神よ。
儂はいつの間にか虹に向かい祈りを捧げていた。
◇
あの神官に見覚えがある。
儂はポエムに神官をこっそりと連れてくるように命じた。
「何かありましたでしょうか? トラブルでも……」
「儂じゃ。オズワルド・オヤマーだ。お主はあの時教会にいた神官だな」
神官は儂の顔を見て驚いておった。
「なぜここにいる」
「はいっ! 本部の命令で1年間こちらの教会で研修しろと移動になりました」
「なぜお前が?」
「恥ずかしながら、立候補致しました。ここに来ればレイシア様に会えるかと」
「レイシアに? なぜだ!」
「神に……神に示唆を頂きました。レイシア様に聖詠を教えた者を訪ねよと。そして、あの素晴らしい福音を頂いたレイシア様を間近で見てみたかったのです」
「なるほど。敵意はないとそう言うのか」
「神に誓って」
「よろしい。それでこの教会、そして孤児院はどうなっているのだ。詳しく教えろ」
神官は、「忙しいので」と言いながら神父と領主、それにレイシアの素晴らしさを熱を入れて語った。
儂は神官に、今夜教会でこっそりと泊まれるように手配させた。
◇
祭りが終わって片付けが始まった。儂は一台残した馬車で、その様子を見ていた。
レイシアが集めたごみの山に近づくと、一気に炎が上がった。何をしたんだ?
領民が集まって酒飲みを始めた。あの男とレイシアとクリシュが固まっている。仲が良さそうだ。ケッ。
どうしたんだ? 領民が大声を出し始めた。
「クーリフト!」
「クーリフト!」
「クーリフト!」
みんながヤツの名前を叫んでいる? アイツがステージに上がったら、どこからか光がヤツを照らした。どうなっているのだ? 何が行われるんだ?
「皆、よくやった! 来年も祭りをやろう! 皆で楽しむんだ」
ヤツがそう言った途端、割れんばかりの歓声が上がった。
「「「おおお――――」」」
「クーリフト!」
「クーリフト!」
「クーリフト!」
クリフトコールが止まらん!
手でリズムをとる者。足を叩きつける者。領民が全身で喜び、ヤツを讃えた。
うらやましい程慕われているな、クリフト。領民にも子供たちにも。
アリシアは、そんな所が好きであったのだろうか。
アリシアが結婚する前にちゃんと向き合ってやればよかったのか?
儂らはアリシアの幸せを願って……。いや、儂らが向き合っていなかっただけなのかもしれんな。
いい男かもしれんな、クリフト・ターナー。認めたくはないが……。
アリシア、すまんかったな。
儂がアリシアの事を考えていたその時、また、神の気配がこの地に感じられた。
ああ、神よ。私たちを許してくれ給え。
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