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第六章 夏休み
88話 閑話 オズワルドへの報告
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「こちらが、学園でのレイシア様のご様子です」
ポエムが儂の孫、レイシアに関する報告書を持ってきた。ノエルはメイドだが、我が領に伝わる秘技、【オヤマー・メイド術】を体得している数少ない諜報部員でもある。儂がいる限り、息子にも伝えられることはない秘密を持つ貴重な人材だ。
儂は、才能あふれるレイシアの情報を定期的に知らせるように命じていたのだ。
「ほう。学園では首席か。王子よりテストの得点が……、何だと、満点以上だと」
どういうことだ? 満点ではなくプラスになっているというのは? 聞いたこともないぞ。
「調査によると、レイシア様は選択問題を全て正解し、さらに問題の内容を深めるレポートを解答用紙の裏面に書いたそうです」
ほう。さらに深くか。米玉の開発の時も、最初のハムだけでは満足せず次々に改良させていたな。やはり、儂の元に欲しいな。その思考、洞察力。どんな育ち方をしたんだ?
報告書を読みながら、どうすればレイシアを引き入れることが出来るかを頭を考えていた。しかし、読み進めていくととんでもない内容に変わっていった。
「なぜ社交を取らない! ダンスも。貴族としての必須が何も取っていないではないか!」
何を考えているのだレイシアは。それだけの才があるのに。貴族としての必修をとらないだと?
「レイシア様は奨学生でございます。ゆえに貴族としての資格を失いますので平民として生きていくための授業を選択しているみたいですね」
「なんてことだ。儂に相談してくれれば授業料などいくらでも払ってやるのに。何とかならんのか」
「2年前のあの件が尾を引いていますね。まあ、今年でなくとも、遡って授業料と寄付金を入れれば貴族になる道も復活します。あせっては逆効果かと」
そうだな。本当は去年もここに呼んで儂の持つ貴族のコネクションを紹介するはずだったのだが……。レイシアは妻に苦手意識を持ち過ぎていたよな。
「儂が会うようにはできんか」
「何か困ったタイミングができれば、その時手を差し延べるのが一番かと思われます」
「なるほど。では引き続きレイシアの調査を頼む」
「かしこまりました」
ポエムが去った後、もう一度調査書を読み返した。欲しい。儂の手で育てたい。
儂は息子の顔を思い出し、ため息をついた。あれほど手をかけたのになぜ分からないのだろう。レイシアの半分も才能が有ればよかったのに。孫たちと言ったら……。あの嫁は甘やかす事しか考えてない。それではだめだ。どうしようというんだこの先を。この儂のオヤマーを守れる人材は育っているのか?
儂はレイシアを孫たちの誰かと結婚させて儂の下で育てたい。本気でそんなことを考えた。そのためには奨学生を返上させなければ。
◇◇◇
「何だこれは!」
「最近の学園でのご活躍です」
新たな報告書を見て、儂は目を疑った。成績が良いためほとんどの授業が免除。これは良い。しかしだ。
「なぜ、騎士コースを取っているのだ? そして王子をボコボコにして、最終的に優勝? しかも武器がフォーク? 何だこの報告書は!」
「実際そうでしたので」
「じゃあこれは! 生徒が恐怖で逃げ惑っている中、喜々としてナイフを振り回し血しぶきをまき散らす? しかも生徒たちは返り血で酷いことになっているのに、レイシアは血の一滴も被ってないだと? 何だそれは! そんなことあるか!」
儂は報告書を叩きつけた。
「いえ、この目で見ていました。戦うレイシア様の身のこなしの美しさと言ったら言葉では言い表せないほどのものでした」
「なぜだ。レイシアは女の子だろう。なぜそんなに戦えるんだ。おかしいだろう」
「いいえ。レイシア様はお強いですよ。私くらいには」
「何だと」
「おそらくですが、かのターナー領にも『オヤマー・メイド秘術』に匹敵するメイド術が存在していると思われます。レイシア様はその使い手ですね」
何だそれは……。もうそれしか言ってないな、儂は。いやしかしだ。なぜ子爵の令嬢がそんな危険な事を習う。おかしいだろう。
「フォーク一本で王子を倒す。テーブルナイフを投げウサギを仕留める。それに、あの足さばきと体幹の素晴らしさ。レイシア様は、紛うことなき戦闘メイドです。おそらく5~6歳の頃から仕込まれています。あちらのメイド長にメイドの作法を仕込まれていましたので」
「5~6歳からだと! その頃お前はターナーにいたよな」
「はい。アリシア様のメイドとして」
「ではなぜ止めなかった」
「私は当時アリシア様のお付きのメイドですよ。なぜレイシア様の事に口を出せると思っていらっしゃるのでしょうか」
「……アリシアはどうしていたんだ」
「アリシア様はレイシア様に淑女教育をなさっていました。その頃は、メイドも料理長も手を出す事はやめていたのですが……。アリシア様がお亡くなりになった後は、我々は引き戻されたので分かりかねますが……おそらく、その後過酷な訓練が行われたのではないかと推測されます」
「料理長? メイド長は分かるが、なぜ料理長が出てくる?」
「おそらく、料理人にも独自の戦闘技術が継承されているかと思われます。レイシア様はそちらも習得している可能性が高いです」
一体何を考えているんだ、クリフト・ターナー! 儂の孫、アリシアの娘をどう育てようというのか。
妻が聞いたら卒倒した後、儂に何時間も文句を言い続けそうな報告書。儂の中だけに留めておかんと……。
「このことは儂以外には漏らさぬように。いいな」
我が家の平和のためポエムにそう命じたが、はてさてどうしたものかと、儂は頭を抱えたのだった。
ポエムが儂の孫、レイシアに関する報告書を持ってきた。ノエルはメイドだが、我が領に伝わる秘技、【オヤマー・メイド術】を体得している数少ない諜報部員でもある。儂がいる限り、息子にも伝えられることはない秘密を持つ貴重な人材だ。
儂は、才能あふれるレイシアの情報を定期的に知らせるように命じていたのだ。
「ほう。学園では首席か。王子よりテストの得点が……、何だと、満点以上だと」
どういうことだ? 満点ではなくプラスになっているというのは? 聞いたこともないぞ。
「調査によると、レイシア様は選択問題を全て正解し、さらに問題の内容を深めるレポートを解答用紙の裏面に書いたそうです」
ほう。さらに深くか。米玉の開発の時も、最初のハムだけでは満足せず次々に改良させていたな。やはり、儂の元に欲しいな。その思考、洞察力。どんな育ち方をしたんだ?
報告書を読みながら、どうすればレイシアを引き入れることが出来るかを頭を考えていた。しかし、読み進めていくととんでもない内容に変わっていった。
「なぜ社交を取らない! ダンスも。貴族としての必須が何も取っていないではないか!」
何を考えているのだレイシアは。それだけの才があるのに。貴族としての必修をとらないだと?
「レイシア様は奨学生でございます。ゆえに貴族としての資格を失いますので平民として生きていくための授業を選択しているみたいですね」
「なんてことだ。儂に相談してくれれば授業料などいくらでも払ってやるのに。何とかならんのか」
「2年前のあの件が尾を引いていますね。まあ、今年でなくとも、遡って授業料と寄付金を入れれば貴族になる道も復活します。あせっては逆効果かと」
そうだな。本当は去年もここに呼んで儂の持つ貴族のコネクションを紹介するはずだったのだが……。レイシアは妻に苦手意識を持ち過ぎていたよな。
「儂が会うようにはできんか」
「何か困ったタイミングができれば、その時手を差し延べるのが一番かと思われます」
「なるほど。では引き続きレイシアの調査を頼む」
「かしこまりました」
ポエムが去った後、もう一度調査書を読み返した。欲しい。儂の手で育てたい。
儂は息子の顔を思い出し、ため息をついた。あれほど手をかけたのになぜ分からないのだろう。レイシアの半分も才能が有ればよかったのに。孫たちと言ったら……。あの嫁は甘やかす事しか考えてない。それではだめだ。どうしようというんだこの先を。この儂のオヤマーを守れる人材は育っているのか?
儂はレイシアを孫たちの誰かと結婚させて儂の下で育てたい。本気でそんなことを考えた。そのためには奨学生を返上させなければ。
◇◇◇
「何だこれは!」
「最近の学園でのご活躍です」
新たな報告書を見て、儂は目を疑った。成績が良いためほとんどの授業が免除。これは良い。しかしだ。
「なぜ、騎士コースを取っているのだ? そして王子をボコボコにして、最終的に優勝? しかも武器がフォーク? 何だこの報告書は!」
「実際そうでしたので」
「じゃあこれは! 生徒が恐怖で逃げ惑っている中、喜々としてナイフを振り回し血しぶきをまき散らす? しかも生徒たちは返り血で酷いことになっているのに、レイシアは血の一滴も被ってないだと? 何だそれは! そんなことあるか!」
儂は報告書を叩きつけた。
「いえ、この目で見ていました。戦うレイシア様の身のこなしの美しさと言ったら言葉では言い表せないほどのものでした」
「なぜだ。レイシアは女の子だろう。なぜそんなに戦えるんだ。おかしいだろう」
「いいえ。レイシア様はお強いですよ。私くらいには」
「何だと」
「おそらくですが、かのターナー領にも『オヤマー・メイド秘術』に匹敵するメイド術が存在していると思われます。レイシア様はその使い手ですね」
何だそれは……。もうそれしか言ってないな、儂は。いやしかしだ。なぜ子爵の令嬢がそんな危険な事を習う。おかしいだろう。
「フォーク一本で王子を倒す。テーブルナイフを投げウサギを仕留める。それに、あの足さばきと体幹の素晴らしさ。レイシア様は、紛うことなき戦闘メイドです。おそらく5~6歳の頃から仕込まれています。あちらのメイド長にメイドの作法を仕込まれていましたので」
「5~6歳からだと! その頃お前はターナーにいたよな」
「はい。アリシア様のメイドとして」
「ではなぜ止めなかった」
「私は当時アリシア様のお付きのメイドですよ。なぜレイシア様の事に口を出せると思っていらっしゃるのでしょうか」
「……アリシアはどうしていたんだ」
「アリシア様はレイシア様に淑女教育をなさっていました。その頃は、メイドも料理長も手を出す事はやめていたのですが……。アリシア様がお亡くなりになった後は、我々は引き戻されたので分かりかねますが……おそらく、その後過酷な訓練が行われたのではないかと推測されます」
「料理長? メイド長は分かるが、なぜ料理長が出てくる?」
「おそらく、料理人にも独自の戦闘技術が継承されているかと思われます。レイシア様はそちらも習得している可能性が高いです」
一体何を考えているんだ、クリフト・ターナー! 儂の孫、アリシアの娘をどう育てようというのか。
妻が聞いたら卒倒した後、儂に何時間も文句を言い続けそうな報告書。儂の中だけに留めておかんと……。
「このことは儂以外には漏らさぬように。いいな」
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