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第六章 夏休み

80話 お祭り(ラッシュの災難)

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「おまえらなぁ。なんで今日の食材、食いつくしてるんだ」

 冒険者ギルドでは朝からギルド長が、集まってきた冒険者たちに向かって暴言を言い放っていた。

「だって、昨日の祭りで働いてたんですよ。打ち上げするくらい当たり前じゃないですか」
「「「そーだそーだ」」」

 二日酔いなのか、酒臭い息を吐きながら冒険者たちが言う。それを聞いたギルド長は怒号をかけた。

「お前らが肉を食いつくしたせいで、今日の焼き肉の材料がないんだ! さっさと外に出て肉を狩ってこい! 今すぐにだ!」

「無理ですって、こんな二日酔いの野郎共で狩りなんぞ行ったらどうなることやら」
「そーだそーだ、殺す気か!」
「ブーブー」

 口々に文句を垂れる冒険者たち。うん。俺もそう思う。

「貴様らあ! ならば昨日の肉と酒代払ってもらおうか。屋台の値段で計算してやろうか? 金貨5枚くらいにしようか。……」
「「「ひでぇ」」」

「ひでぇのは、お前らだ! いいか、俺は今から打ち合わせに行く。帰ってくるまで残ってたやつは金取るからな。うさぎでもなんでもいい、1人一匹は狩ってくるんだ。速攻でな」

 そう言ってギルド長は会議に向かった。
 仕方がない。リーダーっぽい立場になってしまった俺は考えた。

「そう言われてもな~、こいつら狩りに出したらあぶねーよな」

 ため息をつきながらも、妥協案を探す。

「お~い、お前ら。無理はしなくていいぞ。とにかく木の実でも山菜でも食えるもん取ってきな。うさぎでも捕れたら御の字だ。あと、元気良さそうなそこの3人! パーティ組んてるよな。俺とボア狩りに行くぞ。一頭狩ったらなんとかなるだろ。ギルド長の顔だけ立てとかないと。顔洗ったら行くぞ!」

 なんとかやれることをイメージさせて、冒険者たちを森に向かわせた。



 森を散策すると、ボアの糞が見つかった。まだ柔らかい。ここら辺にいるはず。

 気配を消すように指示し、周りにいた他のパーティに追い出しを頼んだ。

 ボアが走って来た! 2頭の子連れだ。マズい! 戦闘態勢に入ったボアが俺たちを見つめる。寄りにもよって子連れとはついてねぇ。普段より攻撃的になるじゃないか。撤退も考えないとな……というか、逃げられるかな……、やべぇや。

「いいか! 命大事にだ。防御をしながら逃げるぞ。相手が引いたら追いかけるな! 子どもには手をかけるなよ。安全第一!」

 俺は、母親のボアにちょっかいをかけながら、3人が逃げるチャンスを作っていた。3人も、攻撃を仕掛けながらも逃げるタイミングを伺っていた。



「2人は逃しました。ラッシュさん、そろそろ逃げる方向で!」

 見ると逃げたかと思った一人が駆けつけてくれた。

「何やってんだ! 早く逃げろ!」
「一人ではチャンスも少ないでしょう。一緒に頑張りましょう」
「すまない」

 パーティのリーダー・ハルが俺のために残ってくれた。ありがたい。一人では荷が重かった。二人で距離を保ちながら、逃げるチャンスを伺う。

 その時、

 パーティリーダーのハルに、背後から、仔ボアが体当たりをしてきた。不意をつかれたハルは、ふっ飛ばされ仔ボアに囲まれた。

「マズい!」

 俺たちは連携を崩された。目の前には母ボアが、呼吸を荒らげ俺を見つめる。逃げられる気がしねぇ。もうだめかな……。その時



「「ブワシュ――――――」」

 派手な音がした。ハルを見ると……


 仔ボアが2頭、首から派手に血を吹き出していた。

 その脇に、メイド服を着た少女と、貴族のドレスを着た少女が、小刀を持って構えていた。……ん? 小刀?……いや、包丁と派手なナイフ? あいつら、この間の新人!

 母ボアは、目標を戦意喪失した俺ではなく、少女たちに変えた。マズい!

「お前ら、今すぐ逃げろ!」

 若い女が死ぬのは駄目だ。俺が身代わりに……。
 そんな気持ちも伝わらないのか、少女は言った。

「サチ、大猟よ! 3頭いれば十分よね」
「レイ、サッサと狩るよ。狙うは頸動脈。血抜きが楽だからね」
「わかってるわ! いくよ」

 何言ってんだ、こいつら。勝つつもりなのか? あんな小刀で……。

「いいから逃げろ!」
「「うるさいな~、黙って!!」」

 その声が引き金になり、突進をしたボア。危ない! ボアが体当たりをする瞬間、左右に飛び逃げる少女たち。

 走り去るボアの首がおかしい? グラッと揺れると、大空に血が吹き出した。

「さっ、回収回収っと。その前にサチ、ナイフを貸して」

 ボアほっといて大丈夫なのか⁉ 余裕しゃくしゃくで何をするのかと見ていたら、手から水を出しナイフの血糊を洗い流していた。何だそれ!

「はい、これで大丈夫」

 その時、「ドスンッ」と地響きがなり、ボアが遠くで倒れた。

 「さっ、回収しましょう」

 少女は、仔ボアに近づくと、手に持ったバックに仔ボアを入れた。

 ?????。何が起こった? 消えた?

「ああ、バックにしまっただけですよ。ほら、こうして出せます」

 ボアが出てきた。またしまわれた。何だそれ!

「そういうものです。気にしないで下さい」

 気になるわ! さっきの水も!
 少女は、母ボアまで走って行くとそれもバックに入れた。残ったメイドが俺に言った。

「まあ、レイシア様のやることにいちいち気にしていたら疲れますよ」

 それでいいんかい! おかしいだろ! と思ったが、声には出せなかった。

 少女は戻って来ると、こう言った。

「では、私達はこのボアを持って行きますので、そちらの怪我人はお願いします。すぐに迎えを頼みますが、血の匂いで他の魔物が来るかもしれません。その時は、このボアの頭を投げて分け与えれば大丈夫だと思いますよ」

 そう言って、母ボアと仔ボアの頭をドンと置いていった。

 あっという間にいなくなった少女たち。

 疲れた……。

 ハルの容態を見たが、気を失っているが大怪我まではしていない。よかった。

 と、思ったら灰色狼に取り囲まれた。

 俺は少女が置いていったボアの頭を3つともリーダーらしき狼に投げた。
 受け取ったリーダーと2匹の狼は、頭を咥えるとゆっくりと立ち去った。狼たちはリーダーと共に去って行った。

 あいつらのおかげで助かったが……、やつら本当に新人なのか?

 世の中には触れては行けないものもあるのではないか。そんな恐怖が俺におそった。

 
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