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第六章 夏休み

77話 お祭りに向けて

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 次の日から、一斉に動き出した。レイシアが夏休みの間にお祭りを仕立て上げようと無謀な計画になってしまったから。
 狩りに行ったのが、8日の日曜日。クリシュと料理したのが10日の火曜日。そして11日の朝。
 教会で『スーハー』が終わった後、神父様が皆を待つように指示した。

「これから、領主様から重大な発表がある。皆、心して聞くように」

 領主としてお父様のクリフトが壇上に上がるのを、レイシアとクリシュが見つめる。

「領主のクリフト・ターナーだ。皆、あの災害から今まで本当に苦労をかけた。感謝している」

 領主が頭を下げた。それだけで会場全体に衝撃が走った。

「私たちは、耐えに耐えてきた。復興の名のもとに頑張ってきた。街道を整え、農地を作り直し、木を植え、一つ一つていねいに直してきた。本当に頑張ってくれた。感謝をここに表す。ありがとう」

 会場が「ウオ~」とざわめいた。もともと温泉で見かけるほどの近い関係性のある領主。しかし、ここまではっきりと平民に話しかけることは初めてだった。もっとも、教会なので法衣貴族もたくさんいたが。ここに、貴族も平民も同じ心で感動していた。

「これから、私は皆と一緒によい領を作りたいと思っている。これからは耐えるだけではだめだ。喜びと楽しみと希望の持てる領地経営を目指そうと思う。我々に必要なのは祭りだ! そうだろう」
「おお—————」

「今より、『サクランボフェスティバル』を開始する。皆、アイデアを出し合って盛り上げてくれ。最終日は今月の28日。サクランボ料理コンテストを行う。優勝者には賞金として金貨1枚を進呈する。プロ、アマ、両方のコースを用意するから、腕自慢の奥様たちも参戦してくれ。皆でターナーをサクランボ王国にしようじゃないか!」
「おお—————」

「やるぞ—————」
「おお—————」

「祭りだ—————」
「おお—————」

 地を揺らすようなコールアンドレスポンス。
 人々は、領主の言葉に酔いしれた。

 まだなにも決まっていない企画。
 だが、ここに、確かに、自分たちの未来への希望が見えた。

「「「よく分からないけど、絶対に成功させなければ!!!」」」

 人々は、まだ見ぬ『サクランボフェスティバル』という希望を広めに、家族のもとへ、職場へと、駆け出して行った。

 ここから、『ターナー領、奇跡の18日間』が始まったのだった。



 そこからの動きは早かった。

 領主とレイシアは官庁へ向かい、フェスの宣言とプロジェクトチームの発足。もちろんリーダーはレイシア。普段無謀なことはしない領主に戸惑う官僚たち。しかし、若手を起用することによってやる気を引き出した。予算は予備費からある程度は引き出せた。

 執事は各ギルド長へ手紙を送る。もちろん早急に。昼には農・工・商・冒険者・各ギルド長が集合した。祭りの概要を伝え、各ギルドで出来ることを考えてもらう事と、スポンサー集めを依頼した。

 料理長は、前日に作った新作サクランボ料理を公開する段取りを始めた。領内の料理人に無料で公開とあって翌日たくさんの料理人が集まった。『領主お抱えのシェフの新作料理』。しかも自由に店で出してよい。アレンジもOK。こんなチャンスを逃す経営者も料理人もいない。祭りまで、各店舗でサクランボ新作料理が次々と生まれ提供された。

 神父はフェスティバルのための寄付を募った。フェスの方向性を、『水の女神アクアに捧げる農耕祭。サクランボフェスティバル』にした。そのため、教会で宣言させたのだ。神の名の下には寄付金が集まりやすい。『すーはー』で気分がよくなった人々は、少額ずつだが寄付をした。そして、レイシアと計画をどんどん大きくしていった。

 農協ギルドから報告があった。ジャムの在庫は500個ではなく、3000個ほどあると。神父には500預けたが、それ以外もあったのだ。
 だが、料理屋がジャムをたくさん必要とし、市井の奥様達も金貨という大きな賞金がかかった料理勝負に挑むために買いあさり、ジャムは飛ぶように売れた。試作にも材料は必要なのだ。

 レイシアは、学園長と寮母カンナに速達をだした。このフェスティバルの経緯をレポートとして学園に提出するため、実地でデータを集める必要があるから始業式から一週間休みを取ると。今の成績なら一週間休んだところで問題はないだろう。神父とそう結論を出した。駄目押しに領主と神父の嘆願書も添えて。カンナには、黒猫甘味堂バイト先にも伝えて欲しいと言付けを添えた。

 サチは、休み明けから王都に行くことになった。レイシアのやらかしが心配な保護者達が連絡役並びにストッパーとして送り込もうとしたのだ。寮には入れないから、近くのアパートを借りなければいけない。急な展開とフェスの準備で訳が分かれなくなっていた。

 領主は宣伝に力を入れた。隣町アマリーは宿場町。天領だ。そのため領主はいない。官僚とギルドが各々管理している。そこで商業ギルドに執事を送り込んだ。

「なるほどな。お祭り目当てで客が増えれば、ここの旅館もいっぱいになるってかい。あんたら、金もないのにそんなにでかい事できるのかい? ふ~む。まあ、こちらにはリスクがなさそうだ。いいぜ、商人や旅人に宣伝するくらいならしてやるよ。このクッキー1枚ずつ渡せばいいのかい? 分かった。旅館の朝食に付けたらいいんだろ。いいのかい、ただで。その代わりポスターを町中の旅館に貼ってくれ? ああ。減るもんじゃなし大丈夫だろう」

 クッキーは、一週間ほど毎朝サチとレイシアが届けた。その際ねこばばする店があったが、その店は次の日から配るのをやめたので、商人たちの評判が悪くなり泣きを入れられた。もちろんギルドにも報告し、厳重注意と詫び料を払わされた。
 その交渉に、レイシアの「料理人やさぐれモード」が効果絶大だったのは言うまでもない。

 人々から、ギルドから、様々なアイデアと人手とお金が出て来た。官民たちもよく働いた。もともと温泉効果で身分差が意識されにくい土壌が育っているターナー領は、祭りに向けて官民一体突き進んでいった。

 クッキーでの宣伝と、ターナー領の熱気で本気だと気付いた商人たちは、ここが勝負どころと勝手にあちらこちらの町で噂を流した。それと同時に、祭りに向けて出店の許可と仕込みを始めた。
 娯楽に飢えている近隣の町の金持ち達は、アマリーを目指して移動を始めた。ターナーには宿泊施設がほぼほぼなかったから。
 アマリーの旅館は、宿泊料が高騰していった。アマリーの商業ギルドは、正式にフェスのスポンサーになった。一方的に儲けて分配しないのは商人として三流以下。その気概がアマリーにはあった。

 ジャムの売れ行きが止まらない。アマリーでもサクランボジャムブームが起きていた。クッキーを一週間も配ったため、翌日からの泊り客が騒ぎ始めたから。こまった商業ギルドは、ターナーからクッキーを買い適正な値段で売った。ただではないにしろ評判のクッキーが食べられる。ついでにジャムも。と販路が形成された。

 教会前の広場には、見たこともないほどの屋台が集合した。
 素人参加のサクランボ料理は予選が行われ、10組がエントリーされた。
 料理人の料理も予選が行われ、10組が残った。
 4日前に行われた予選は大盛り上がりだった。まるで祭り当日の様に。

 日に日に盛り上がるターナー領の人々。それを見て成功を確信する商人たち。祭りの準備すら見学して楽しむ観光客たち。

 そして、28日土曜日。
『水の女神アクアに捧げる農耕祭。サクランボフェスティバル』
 が開催された。
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