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第六章 夏休み
76話 お料理教室
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「早く帰って待っていたのに!」
レイシアを待っていたクリシュはご機嫌斜め。夕飯すらも一緒に食べることが出来なかったから。
「こんな時間まで何していたの!」
「えっ、そのう……。神父様と経営戦略を」
「えっ? 教会にいたの!」
帰ってこなければよかったと思いながらも、ここ数日、いや大好きなお姉様が帰って来てから一度たりともゆっくり二人で話す事がなかったことが、腑に落ちないクリシュ。
「ええと、そうね。読み聞かせでもしてあげましょうか」
何とかご機嫌を取ろうと言い出すレイシアに
「もうそんな年じゃないです!」
とクリシュは怒った。
「明日は僕がお休みだから一緒にいられますよね」
そう言われても、明日は神父さまと約束しているレイシア。そちらはそちらで早く解決の糸口を見つけないと……。
「そうだ! 明日一緒にお料理を作りましょう。クリシュ、狩りで獲物が捌けなかったんでしょ? 普段からお肉とか魚とかになれているといいと思うの。お姉様が教えてあげるから、一緒にお料理して食べましょう。もちろんお菓子とかも作ってね」
「お姉様が教えてくれるの?」
「ええ。もちろんよ」
クリシュの機嫌がよくなった。明日は神父様もこちらに来てもらうことにしよう。料理長も巻き込んで。その段取りを頭の中で組み立てながら、クリシュの機嫌をとるレイシアだった。
◇◇◇
翌朝、真っ先にメイド長と料理長に話を通した。その後、朝の礼拝で神父様にも伝えた。皆、こころよく賛成してくれた。
さあて、レッツ・クッキング!
クリシュには、下処理の終わったウサギ肉を解体するところから経験してもらうことにした。皮と内臓は取り除かれている。筋肉の塊を意識して捌くことが重要だ。
「本当はあまり触ると肉が傷むから手早くするのがいいんだけど、今日は両手でよく触りながら、骨の位置や筋肉の塊を意識して。そう。感じるの。気持ち悪い? 大丈夫、慣れるから。そう。その筋。筋肉の流れが分かるかな。そう、そこ。そこにナイフを入れて切るのよ」
クリシュは、慣れない生肉の感触に不快感を持ちながらも、なんとか分けることが出来た。
レイシアは、クリシュに自分の腕や足の筋肉を触らせながら、動物の体の構造を教え込んだ。筋肉の流れが分かるようになれば、弱点の意味が理解しやすい。そうすると、狩りをするとき非常に楽になる。レイシアは、料理を通じて狩りのテクニックまで仕込もうとしていた。
「出来た」
クリシュが満足そうにしていた。レイシアは肉をチェックしながら言った。
「よく出来ているわ。筋にそってナイフを当てるのは分かったみたいね。そう。切るんじゃなくて分ける。その感じを忘れないで」
お姉様に褒められ笑顔になるクリシュ。次は塩の振り方を教わる。
レイシアは、クリシュに付き添いながら各所に指示を出していた。
料理長には、サクランボのジャムを使ったソースの開発。
シムには、同じくジャムを使ったデザートの開発。
これらは自領での消費拡大を狙ったものだ。上手くできれば、貴族やお金持ち向けのお店で採用してもらい、ジャムの消費を上げようとするためだ。
神父と領主や執事には、サクランボ消費キャンペーンの企画立案のアイデアを考えてもらうことにした。
メイド達には、女子に受けるサクランボジャムの商品アイデアを考えてもらう。レイシアは黒猫甘味堂での経験で、女子のパワーの凄さを感じていたため販路に女子を入れるのは必要とかんじていたのだ。
それぞれの報告を聞いて意見を述べながらクリシュと料理を作るレイシア。
「サクランボ料理コンテスト? いいですね。プロ枠と素人枠と2つ作ったらいかがでしょうか?」
「クッキーにジャムを入れる。凡庸だけどおいしいと思うわ。焼いている間、他の事も考えようか。そうね。小麦粉を薄く焼いた生地はジャムを塗って重ねたらどう?」
「ソース。淡泊なウサギ肉にあうのと、濃厚なボアにあうソースって違うよね。何種類か必要かも」
あちらこちらに指示を出しながらも、クリシュと仲良く料理を作る。クリシュも変わっていく食材の形や色、焼いている匂いに大興奮。
「煮込んでいる間に道具を洗うよ。道具の手入れは手を抜いてはダメよ、クリシュ」
料理人の心得も教え込む。実際、狩りでは血や脂のついた剣をそのまま鞘にしまうなどしてはいけない。道具のあと片付けは狩りをはじめ、全ての事に通じている。そのことをていねいに教えた。
クリシュは一つ一つの言葉を大切に覚えようとした。
◇
お昼。試作品をみんなで食べる。
サラダ。サクランボジャム入りのドレッシングを添えて。
スープ。クリシュ特製、ウサギ肉の野菜たっぷりスープ。
パン。 レイシア特製ふわふわパン。ジャムとバターを練り合わせた特製バターを付けて。
メイン。ボア肉のステーキ。濃厚サクランボのソース。
メイン。クリシュ特製、ウサギ肉のソテー。淡泊なサクランボソース。
デザート。サクランボジャムのクッキー。サクランボジャムの生地包み。
みんなで意見を出し合いながら試食をした。
「嬢ちゃん、このパンは何だ! ふわふわで食べたことのない食感!」
「あー、それは開発者が秘密にしているの。レシピは教えられないわ」
「なんと! もったいない。これだけでも料理界に革命を起こせるのに」
料理長もシムもふわふわパンに夢中になった。
クリシュは目を輝かせ、「お姉様すごい!」とほめまくっていた。
メイド達は、クッキーに高評価。どんな紅茶が合うのか試し始めた。
シムの作った生地包みに料理長は、「生クリームにジャムを混ぜてから塗るように」と指示を出した。味が見違えるほどおいしくなり、シムの料理長に対する尊敬度が跳ね上がった。
◇
試食と言う食事が終わり、様々な意見をもらった料理人たちは改善点を話し合うことにした。
神父と領主たちは、販路やキャンペーンについて話し合いを再開した。
レイシアとクリシュはそこに混ざることにした。
これは、レイシアがクリシュを次期領主として仕事に混ぜようと思ったからだ。
こうして、クリシュの願いを叶えながら、クリシュの成長を促すことが出来たレイシアは、思う存分神父様と意見交換したのだった。
レイシアを待っていたクリシュはご機嫌斜め。夕飯すらも一緒に食べることが出来なかったから。
「こんな時間まで何していたの!」
「えっ、そのう……。神父様と経営戦略を」
「えっ? 教会にいたの!」
帰ってこなければよかったと思いながらも、ここ数日、いや大好きなお姉様が帰って来てから一度たりともゆっくり二人で話す事がなかったことが、腑に落ちないクリシュ。
「ええと、そうね。読み聞かせでもしてあげましょうか」
何とかご機嫌を取ろうと言い出すレイシアに
「もうそんな年じゃないです!」
とクリシュは怒った。
「明日は僕がお休みだから一緒にいられますよね」
そう言われても、明日は神父さまと約束しているレイシア。そちらはそちらで早く解決の糸口を見つけないと……。
「そうだ! 明日一緒にお料理を作りましょう。クリシュ、狩りで獲物が捌けなかったんでしょ? 普段からお肉とか魚とかになれているといいと思うの。お姉様が教えてあげるから、一緒にお料理して食べましょう。もちろんお菓子とかも作ってね」
「お姉様が教えてくれるの?」
「ええ。もちろんよ」
クリシュの機嫌がよくなった。明日は神父様もこちらに来てもらうことにしよう。料理長も巻き込んで。その段取りを頭の中で組み立てながら、クリシュの機嫌をとるレイシアだった。
◇◇◇
翌朝、真っ先にメイド長と料理長に話を通した。その後、朝の礼拝で神父様にも伝えた。皆、こころよく賛成してくれた。
さあて、レッツ・クッキング!
クリシュには、下処理の終わったウサギ肉を解体するところから経験してもらうことにした。皮と内臓は取り除かれている。筋肉の塊を意識して捌くことが重要だ。
「本当はあまり触ると肉が傷むから手早くするのがいいんだけど、今日は両手でよく触りながら、骨の位置や筋肉の塊を意識して。そう。感じるの。気持ち悪い? 大丈夫、慣れるから。そう。その筋。筋肉の流れが分かるかな。そう、そこ。そこにナイフを入れて切るのよ」
クリシュは、慣れない生肉の感触に不快感を持ちながらも、なんとか分けることが出来た。
レイシアは、クリシュに自分の腕や足の筋肉を触らせながら、動物の体の構造を教え込んだ。筋肉の流れが分かるようになれば、弱点の意味が理解しやすい。そうすると、狩りをするとき非常に楽になる。レイシアは、料理を通じて狩りのテクニックまで仕込もうとしていた。
「出来た」
クリシュが満足そうにしていた。レイシアは肉をチェックしながら言った。
「よく出来ているわ。筋にそってナイフを当てるのは分かったみたいね。そう。切るんじゃなくて分ける。その感じを忘れないで」
お姉様に褒められ笑顔になるクリシュ。次は塩の振り方を教わる。
レイシアは、クリシュに付き添いながら各所に指示を出していた。
料理長には、サクランボのジャムを使ったソースの開発。
シムには、同じくジャムを使ったデザートの開発。
これらは自領での消費拡大を狙ったものだ。上手くできれば、貴族やお金持ち向けのお店で採用してもらい、ジャムの消費を上げようとするためだ。
神父と領主や執事には、サクランボ消費キャンペーンの企画立案のアイデアを考えてもらうことにした。
メイド達には、女子に受けるサクランボジャムの商品アイデアを考えてもらう。レイシアは黒猫甘味堂での経験で、女子のパワーの凄さを感じていたため販路に女子を入れるのは必要とかんじていたのだ。
それぞれの報告を聞いて意見を述べながらクリシュと料理を作るレイシア。
「サクランボ料理コンテスト? いいですね。プロ枠と素人枠と2つ作ったらいかがでしょうか?」
「クッキーにジャムを入れる。凡庸だけどおいしいと思うわ。焼いている間、他の事も考えようか。そうね。小麦粉を薄く焼いた生地はジャムを塗って重ねたらどう?」
「ソース。淡泊なウサギ肉にあうのと、濃厚なボアにあうソースって違うよね。何種類か必要かも」
あちらこちらに指示を出しながらも、クリシュと仲良く料理を作る。クリシュも変わっていく食材の形や色、焼いている匂いに大興奮。
「煮込んでいる間に道具を洗うよ。道具の手入れは手を抜いてはダメよ、クリシュ」
料理人の心得も教え込む。実際、狩りでは血や脂のついた剣をそのまま鞘にしまうなどしてはいけない。道具のあと片付けは狩りをはじめ、全ての事に通じている。そのことをていねいに教えた。
クリシュは一つ一つの言葉を大切に覚えようとした。
◇
お昼。試作品をみんなで食べる。
サラダ。サクランボジャム入りのドレッシングを添えて。
スープ。クリシュ特製、ウサギ肉の野菜たっぷりスープ。
パン。 レイシア特製ふわふわパン。ジャムとバターを練り合わせた特製バターを付けて。
メイン。ボア肉のステーキ。濃厚サクランボのソース。
メイン。クリシュ特製、ウサギ肉のソテー。淡泊なサクランボソース。
デザート。サクランボジャムのクッキー。サクランボジャムの生地包み。
みんなで意見を出し合いながら試食をした。
「嬢ちゃん、このパンは何だ! ふわふわで食べたことのない食感!」
「あー、それは開発者が秘密にしているの。レシピは教えられないわ」
「なんと! もったいない。これだけでも料理界に革命を起こせるのに」
料理長もシムもふわふわパンに夢中になった。
クリシュは目を輝かせ、「お姉様すごい!」とほめまくっていた。
メイド達は、クッキーに高評価。どんな紅茶が合うのか試し始めた。
シムの作った生地包みに料理長は、「生クリームにジャムを混ぜてから塗るように」と指示を出した。味が見違えるほどおいしくなり、シムの料理長に対する尊敬度が跳ね上がった。
◇
試食と言う食事が終わり、様々な意見をもらった料理人たちは改善点を話し合うことにした。
神父と領主たちは、販路やキャンペーンについて話し合いを再開した。
レイシアとクリシュはそこに混ざることにした。
これは、レイシアがクリシュを次期領主として仕事に混ぜようと思ったからだ。
こうして、クリシュの願いを叶えながら、クリシュの成長を促すことが出来たレイシアは、思う存分神父様と意見交換したのだった。
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