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第六章 夏休み

69話 一子相伝者 サチ

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「どうして僕は入れてもらえなかったのですか!」

 朝食を食べながら、クリシュは朝ホールに入れてもらえなかったことを怒っていた。のぞき見くらいはと思っていたのを、執事から引き離されてしまったことも含めて。

「私も今回初めて知ったターナー家の秘密だ。お前にはまだ早い。いや、本当に」

 父として実感を込めてクリフトは語った。
 
「ぜんぜんお姉様と一緒にいられない」
「まだ夏休みは残っているだろう。時間ならあるさ」
「そうだけど」

「それより料理長」
 クリフトは料理長を呼んだ。

「レイシアと狩りに行っているそうだが、レイシアは本当に狩りが出来るのか? 一昨日鹿を持ってきたんだが、どうにも理解できなくてな」

「狩れますよ旦那。そうですね、見てもらった方が早いな」

 そう言うとレイシアを見て

「嬢ちゃん、どうせなら冒険者登録しておこうか。学園で冒険者の授業受けているんだろう。この際取っときな」
「いいの? 授業では2年生にならないと取れないって言ってたけど」

「う~ん。王都ではそうかもしれんが、うちじゃ8歳の子供でも取れるさ。子供が働けなきゃ困るからな」
「取ります!」
「じゃあ、登録したら狩りにいくか。皿洗ったら支度しな」
「はい!」

「僕も行きたい!」
 クリシュが声を上げた。

「どう思う、料理長」
「坊ちゃんですかい? まあ、ついてくるだけなら心配はないが」

「レイシアは?」
「クリシュにお姉様の雄姿をみせてあげますわ」
「……そうか」
 クリフトは一抹の不安をおぼえたが、考えても仕方がないと流した。

「いいの? 一緒に行っても」
 クリシュは嬉しそうに言った。お姉様の雄姿なんて見たことも……あ、昨日のは……雄姿と言えるのだろうか。雄姿? 雄姿って何だろう。
 悩み始めたクリシュ。さえぎるように父クリフトは言った。

「まて、教会に行って神父様に許可をもらってからだ。孤児院での仕事はないのかい?」
「今日は大丈夫。すぐに話してくる」
「待て。ご飯を食べ終わってからだ」

 食事を終え喜んで教会に向かったクリシュ。
 片付けを終え、狩りの支度をするレイシアと料理長。
 久しぶりに剣を腰に差したクリフト。

 メイド長が料理長に声をかけた。

「お嬢様が冒険者登録をするのなら、サチもついでに登録して。侍従メイドが主の行き先に行けないのは困るからね」
「は? あたし?」
「私と言いなさいサチ。どんな状況でも身を挺して守るのがメイドの役目。あなたなら、そこいらの冒険者より強いですよ」
「はあ……」
「返事は!」
「はい!」
「よろしい」

 料理長は、今朝の出来事を聞いていたため仕方なく了解した。

「でも私、武器はこれしかないんですけど」

 ジャラジャラとステーキナイフやフォークなどを出しては並べたサチ。

「う~ん。ちいと弱いな。止めが刺せん」
「そうですよね」

 武器を見ながら悩む料理長。

「それではサチ。あなたにはメイドが使える最終ウエポンを授けましょう」

 メイド長はそう言うとベルベットでおおわれ、さらに宝石が散りばめられた美しい縦長の箱をメイドに持ってこさせた。
 おもむろに箱を開け、中からきらびやかに輝く宝石たちが埋め込まれた柄がついた、刃渡り45センチ程の短刀が出て来た。

「これがメイドが主人に渡せる、言うなればメイドが扱える最大の刃物、『ウエディングケーキナイフ』。一子相伝。免許皆伝の証です。このナイフを血にまみれさせてもレイシア様を守りぬきなさい」
「これを私に?」
「そうです。よく頑張りました。私が認めたのです。自信をもってメイド道を励みなさい」
「はい! このサチ。命に代えてもレイシア様を守り抜きます!」

 レイシアは、「私には?」と言ったが「「あなたは守られる方」」という2人のツッコミにより敗退。一子相伝の宝刀はサチが受け継ぐことになった。

 初めて通ったメイド長とサチの信頼関係。分かりあえた瞬間! 
 しかし、感動的なシーンに水を差すようにクリフトが言う。

「クリシュは血塗られたナイフでウエディングケーキを切るのか?」

 その場にいた全員が固まった。メイド長が誤魔化すようにかわいらしく言った。

「その時は、新調してくださいませ。旦那様」
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