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第六章 夏休み
68話 戦闘メイドレイシア
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「結局クリシュの授業見られなかった」
夕食時、レイシアはブツブツ愚痴をこぼしていた。
「仕方ないですよ。あれだけやったら……」
クリシュは一方的な残虐シーンを思い出しながら「でもお姉様の強さは素晴らしいですね」と褒め称えた。
「それにしても、なぜそんなに強いんだぃ?レイシア」
「なぜでしょうね?」
聞かれても心当たりのないレイシア。体が動くのは当たり前でしかない。
「やってみたらみなさんに勝てました」
なんとも言えない空気が流れる夕餉のひととき。何かをあきらめたのか、メイド長がクリフトに語りかけた。
「そろそろ、旦那様にはお伝えしてもよろしいかもしれませんね」
普段と違う雰囲気をまとったメイド長。何事かとびくつくクリフト。キャパはいっぱい。心の余裕がなくなっている。
「何が起こるんだ?」
「それは明日。朝5時にホールへお越しください」
そう言うと、何事もなかったかのように仕事に戻った。
◇
翌朝、ホールに来たクリフトは簡易なパーティー会場となった状況に戸惑っている。
「では、本日は領主をお迎えした実践練習を行います。レイシアは、この中にいる二人の暗殺者を捕まえること。ただし、証拠をつかんでからです。『専守防衛』がメイドの基本。よろしいですね」
「「「はい!」」」
何ごと? と理解不能なクリフト。メイドに誘われ席に着く。
「旦那様にはターゲットになって頂きます。いえ、何もしなくてけっこうですので座っていて下さい」
言われるがまま何もできないでいるクリフト。
「では始めます。レイシア、皆様に飲み物を」
「はい」
そうして、メイド修行の模擬戦が開始された。
◇
「ワインのおかわりをどうぞ」
メイドがクリフトのグラスを取り替えた瞬間だった。
レイシアがどこからか現れメイドに膝蹴りをかますと、さっとグラスを取り上げた。
「色が若干深くなっています。毒が仕込まれました」
「正解です。よくできました」
笑顔で語り合うメイド長とレイシア。
「おい! 今飲むところだったんだが!」
クリフトがわめくと、
「旦那様、注意力が低すぎです。今回は毒性が低く設定していますのでご安心を」
「安心できるか~!」
その時、レイシアがトレイを投げた。
カキン!
トレイにスプーンが当たって落ちた。クリフトを狙った投てき。レイシアは、見事に防いだ。
「おい! 今の俺を狙ったのか!」
「もちろんです。訓練ですから」
「レイシアが防がなかったらどうする気だ」
「安心を。ナイフでなくスプーンにしておきましたので」
「安心できるか!」
メイド長とクリフトが漫才をしている間もレイシアは気を抜かない。
「そこだ!」
レイシアが、瞬歩を駆使しカーテンをめくると……そこにはサチが隠れていた。
「やっぱりラスボスはサチね」
「当たり前でしょ。メイド修行こなせるの、あたしとレイしかいないんだからさ」
二人はトレイとカトラリー、ナプキンやグラス、様々に駆使しながら戦いを始めた。
「強くなったね、サチ」
「そっちこそ、学園行って腕鈍ってない?」
「まさか、まだまだ負けないよ」
サチが投げたフォークをレイシアがトレイで落とす。すかさず足元を狙い定めてレイシアがナイフを投げた。
一瞬の間違いが大怪我を生む。白熱したバトルは、周りを巻き込む。
トレイにフォークやナイフが当たるたび、カキンカキンと音が鳴り響く。弾かれた凶器を周りのメイドが、トレイで避けながらかき集める。
たまにクリフトに当たりそうなナイフなどは、メイド長が処理した。「この程度、ご自分で対処して頂きたいものですが」といいながら。
戦いは終盤に近づく。お互いに濡らしたナプキンを手に持ち相手を捉えようとする。
ブンブンと振り回し攻撃をするサチ。紙一重で避けながら足首を絡めようとするレイシア。
「背が低いと足しか狙えないの? おこちゃまね」
煽るサチの隙をついて、手首を上に返したレイシア。
「うわっ!」
足元を注意していたサチの手首にナプキンが巻き付いた。
「これでお終い」
レイシアがナプキンごと腕を引き寄せ鳩尾に拳を入れる。
「グフッ」
よろけるサチ。そのままサチの両手をナプキンで縛ったところで勝負が終わった。
「終了です。二人ともよくできました」
パチパチパチと会場全体に鳴り響く拍手。
良いものが見られたと感動しているメイドや使用人達。
この場のノリに取り残されているクリフト一人、疎外感を味わっている。
「何なんだこれは!」
「これが、ターナー式メイド術です」
メイド長が、もったいつけながら語りだした。
「ターナー式メイド術。それはまだこの領が政治的な争いに巻き込まれていた400年前、主人の身を守るために編み出された絶対防御、『不殺』の戦闘術です。不殺なのは証拠隠滅を防ぐためと、相手貴族との取り引き材料にするためですね。殺った方が早いのですが、そうしないのがメイド道。昔は拷問の仕方も伝わっていたのですが、残念ながら平和な世が続き伝承が途絶えてしまいました」
ドヤ顔で語るメイド長の言葉を聞きながら「怖っ」と呟くクリフト。
「しかし、このように2人も伝承者があらわれました。特にレイシア様は奥様が実家に帰られた5歳の時から、ターナー式メイド術を仕込んでいます。歴代最強の一人として数えてもよいでしょう。そして、それに応じられるサチ。これでターナー家の秘術『ターナー式メイド術』は正しく引き継がれました。レイシア、そしてサチ。免許皆伝です。おめでとう。皆さんお二人に拍手を」
あふれる拍手。飛び交う歓声。
いつの間にかナプキンを解いて、抱き合うレイシアとサチ。
クリフトは、(なぜこんなことに)と思いながらも、戦闘術をメイド長が仕込んだということだけは理解した。
そして妻アリシアが出産のためいなくなった時、安易にレイシアをメイド長に預けた自分を恨めしく思うのだった。
夕食時、レイシアはブツブツ愚痴をこぼしていた。
「仕方ないですよ。あれだけやったら……」
クリシュは一方的な残虐シーンを思い出しながら「でもお姉様の強さは素晴らしいですね」と褒め称えた。
「それにしても、なぜそんなに強いんだぃ?レイシア」
「なぜでしょうね?」
聞かれても心当たりのないレイシア。体が動くのは当たり前でしかない。
「やってみたらみなさんに勝てました」
なんとも言えない空気が流れる夕餉のひととき。何かをあきらめたのか、メイド長がクリフトに語りかけた。
「そろそろ、旦那様にはお伝えしてもよろしいかもしれませんね」
普段と違う雰囲気をまとったメイド長。何事かとびくつくクリフト。キャパはいっぱい。心の余裕がなくなっている。
「何が起こるんだ?」
「それは明日。朝5時にホールへお越しください」
そう言うと、何事もなかったかのように仕事に戻った。
◇
翌朝、ホールに来たクリフトは簡易なパーティー会場となった状況に戸惑っている。
「では、本日は領主をお迎えした実践練習を行います。レイシアは、この中にいる二人の暗殺者を捕まえること。ただし、証拠をつかんでからです。『専守防衛』がメイドの基本。よろしいですね」
「「「はい!」」」
何ごと? と理解不能なクリフト。メイドに誘われ席に着く。
「旦那様にはターゲットになって頂きます。いえ、何もしなくてけっこうですので座っていて下さい」
言われるがまま何もできないでいるクリフト。
「では始めます。レイシア、皆様に飲み物を」
「はい」
そうして、メイド修行の模擬戦が開始された。
◇
「ワインのおかわりをどうぞ」
メイドがクリフトのグラスを取り替えた瞬間だった。
レイシアがどこからか現れメイドに膝蹴りをかますと、さっとグラスを取り上げた。
「色が若干深くなっています。毒が仕込まれました」
「正解です。よくできました」
笑顔で語り合うメイド長とレイシア。
「おい! 今飲むところだったんだが!」
クリフトがわめくと、
「旦那様、注意力が低すぎです。今回は毒性が低く設定していますのでご安心を」
「安心できるか~!」
その時、レイシアがトレイを投げた。
カキン!
トレイにスプーンが当たって落ちた。クリフトを狙った投てき。レイシアは、見事に防いだ。
「おい! 今の俺を狙ったのか!」
「もちろんです。訓練ですから」
「レイシアが防がなかったらどうする気だ」
「安心を。ナイフでなくスプーンにしておきましたので」
「安心できるか!」
メイド長とクリフトが漫才をしている間もレイシアは気を抜かない。
「そこだ!」
レイシアが、瞬歩を駆使しカーテンをめくると……そこにはサチが隠れていた。
「やっぱりラスボスはサチね」
「当たり前でしょ。メイド修行こなせるの、あたしとレイしかいないんだからさ」
二人はトレイとカトラリー、ナプキンやグラス、様々に駆使しながら戦いを始めた。
「強くなったね、サチ」
「そっちこそ、学園行って腕鈍ってない?」
「まさか、まだまだ負けないよ」
サチが投げたフォークをレイシアがトレイで落とす。すかさず足元を狙い定めてレイシアがナイフを投げた。
一瞬の間違いが大怪我を生む。白熱したバトルは、周りを巻き込む。
トレイにフォークやナイフが当たるたび、カキンカキンと音が鳴り響く。弾かれた凶器を周りのメイドが、トレイで避けながらかき集める。
たまにクリフトに当たりそうなナイフなどは、メイド長が処理した。「この程度、ご自分で対処して頂きたいものですが」といいながら。
戦いは終盤に近づく。お互いに濡らしたナプキンを手に持ち相手を捉えようとする。
ブンブンと振り回し攻撃をするサチ。紙一重で避けながら足首を絡めようとするレイシア。
「背が低いと足しか狙えないの? おこちゃまね」
煽るサチの隙をついて、手首を上に返したレイシア。
「うわっ!」
足元を注意していたサチの手首にナプキンが巻き付いた。
「これでお終い」
レイシアがナプキンごと腕を引き寄せ鳩尾に拳を入れる。
「グフッ」
よろけるサチ。そのままサチの両手をナプキンで縛ったところで勝負が終わった。
「終了です。二人ともよくできました」
パチパチパチと会場全体に鳴り響く拍手。
良いものが見られたと感動しているメイドや使用人達。
この場のノリに取り残されているクリフト一人、疎外感を味わっている。
「何なんだこれは!」
「これが、ターナー式メイド術です」
メイド長が、もったいつけながら語りだした。
「ターナー式メイド術。それはまだこの領が政治的な争いに巻き込まれていた400年前、主人の身を守るために編み出された絶対防御、『不殺』の戦闘術です。不殺なのは証拠隠滅を防ぐためと、相手貴族との取り引き材料にするためですね。殺った方が早いのですが、そうしないのがメイド道。昔は拷問の仕方も伝わっていたのですが、残念ながら平和な世が続き伝承が途絶えてしまいました」
ドヤ顔で語るメイド長の言葉を聞きながら「怖っ」と呟くクリフト。
「しかし、このように2人も伝承者があらわれました。特にレイシア様は奥様が実家に帰られた5歳の時から、ターナー式メイド術を仕込んでいます。歴代最強の一人として数えてもよいでしょう。そして、それに応じられるサチ。これでターナー家の秘術『ターナー式メイド術』は正しく引き継がれました。レイシア、そしてサチ。免許皆伝です。おめでとう。皆さんお二人に拍手を」
あふれる拍手。飛び交う歓声。
いつの間にかナプキンを解いて、抱き合うレイシアとサチ。
クリフトは、(なぜこんなことに)と思いながらも、戦闘術をメイド長が仕込んだということだけは理解した。
そして妻アリシアが出産のためいなくなった時、安易にレイシアをメイド長に預けた自分を恨めしく思うのだった。
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