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第五章 夏休みまで

55話 黒猫甘味堂のこれから①

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 これはメイがメイドになる、ちょっと前から始まる話。



「と、言われまして」

 レイシアがカンナから「休め」と言われた話を開店前に店主に話すと、店主は一瞬頭を抱えたが、ドアの外から聞こえるガヤガヤとした熱気を感じるとすぐに現実に引き戻された。

「その話は、今日を乗り切ったら話そう。さあ、開店だ」
 店主がドアを開けると、レイシアが笑顔で挨拶をした。
「いらっしゃいませ、お嬢様方。黒猫甘味堂、開店いたします」

 「「「キャ—————!」」」と、黄色い声が街中に響いた。

 店主はすぐにふわふわパンを焼きだした。
 レイシアは優雅にお嬢様方を席にうながした。

 「一回目はここまでです。整理券をお渡しします。二回目のお客様は10時25分、三回目のお客様は10時55分。4回目のお客様は…………」

 いまや週末の黒猫甘味堂は、30分完全入れ替え制。メニューは1種類『ふわふわハニーバター生クリーム添え紅茶セット』のみ、というめちゃくちゃ強気の商売方法でしか回せなくなったのだが、それでも女の子たちは朝早くから並んでは黒猫甘味堂でお嬢様扱い扱いされるのを待ち望んでいた。



「お願いがあるの」

 一人のお客様がレイシアに声をかけた。レイシアは「いかがいたしました?」と答えた。

「みんなで話してたんいだけど、『いらっしゃいませ』ではなく『おかえりなさい』って言ってもらえないかな。私たち、ここを自分の家だと思いたいの」

 レイシアが周りを見渡すと、女の子たち全員が無言で首を縦に振るとレイシアを熱いまなざしで見つめた。

「おかえりなさいませ。お嬢様」

 レイシアがそう語りかけると店中が歓喜の声に包まれた。

「では、お帰りの際は『行ってらっしゃいませお嬢様』がよろしいのでしょうか」

 店内は絶叫に包まれた。

「「「それ! それでお願いします!!!!」」」

 黒猫甘味堂の人気が不動のものになった瞬間であった。



「本日はありがとうございました。それではお気をつけてお出かけください。行ってらっしゃいませお嬢様」

 最後のお客様をお見送りした。時間は午後4時半。もうじき空はオレンジ色になりそうな時間。

「今日の後片付けはいいから、少し話そうか」

レイシアを座らせ、簡単なまかないを出す店主。

「お疲れ様」
「お疲れさまでした」

「食べながら聞いて。朝の話なんだけど、確かに働きすぎかもしれないね。お昼ご飯も食べる暇ないほど忙しくなってしまったからね」

「でもこうやって夕ご飯出して頂いていますし、お給料も上げてもらいましたし。入れ替え制にしてかららくになりましたよね。メニューも聞かなくていいですし」

「そうなんだけどね。お昼1時間お店閉める?」
「いまでも入れないお客様が多いのに…………暴動起きますよ」

 店主は想像してみて、頭を抱えた。
 レイシアは、「大丈夫ですよ今のままで」そう答えた。
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