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第五章 夏休みまで
51話 閑話 王子の青春
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なぜ俺の剣はヤツにとどかない。
騎士コース実践。俺はいつもこいつと組まされる。分かっているよ、誰も俺と組むのは気が引けるというのは! 試しに何度か組ませてもらったが、みんな手加減をはじめる。見かねた先生が俺の相手をヤツに固定した。
「だって、君らと組みたい人いないんだし」
アレと一緒の扱い! ボッチ同士みたいに言わなくてもいいじゃん! 俺だってみんなとワイワイやりたいのに。
教室でも一人。一人しかいないから。
馬小屋掃除でも一人。一人一区画だから。
生徒会でも一年生は一人。
そして貴族コース。貴族コースの『ダンス』以外で俺が取れるのは騎士コースだけ。どちらも日々の鍛錬が必要だから。
なのに、ダンスは「他の貴族男性の邪魔になる」からと取らせてもらえなかった。理由は察した。ゆえに辞退した。
だから、騎士コースにかけていたのに! なぜここであぶれ者二人、みたいにならなきゃいけないんだ!
◆◆◆
レイシアを初めて見たのは入学式の午前中。制服で独り佇む彼女は、背筋を伸ばし凛とした姿をしていた。
俺はその姿に目を奪われた。
他の入学生がドレスを着飾りチャラチャラと浮足立っている中、その姿は美しく見えた。
貧乏な法衣貴族の娘かな?
そこで俺は考えた。俺も制服で出てみよう。軽い気持ちで制服に着替えた。
後でその少女が大変な逃亡劇をしなければならなくなったと怒られた。
悪いことをした。そうは思ったがもう会うこともない法衣貴族の娘。なんともならないだろう。
そう思っていた。
◇
オリエンテーションで彼女はいた。子爵家の娘? 奨学生? どの貴族グループにも属さず、あまりにも独特な雰囲気と立ち位置のため近づく事ができない。側近からも近づかないようにガードされている。どうしていいか分からないままテストが終わった。
◇
Aクラス。一人きりの授業。
やっぱり私に並べるものはなかったか。わざとテストの回答間違えたのに……。
初めての授業で、先生が俺より成績が良い者がいたと言った。
「レイシア・ターナー。奨学生だよ」
「奨学生? 制服少女か!」
「ちなみにな、彼女に『Aクラスで王子と一緒に勉強するか?』と尋ねたら、速攻でお断りされたよ。王子とお近づきになれたり、王妃教育を受けたりしてもいいと言ったんだがねぇ」
なんだと……! これじゃあ俺が馬鹿みたいじゃないか! しかも一緒のクラスメートになるのを断った?! しかも速攻で?! なぜ俺が嫌われているんだ?! 話したこともないのに!
彼女とクラスメートだったら楽しかったのかも、一瞬そう思った。いや、気の迷いだ。
◇
俺は騎士コースにかけた!
ここで親友を得るんだ!
馬小屋の掃除。なぜ皆嫌な顔をする? 馬と触れ合うには基礎の基礎ではないか。私なぞ8歳の頃からやっているのに。なるほど、教師はこれを見て本気度を試そうというのだな。おお、何人かの者はきちんとやっている。彼らは信用に値する者だな。騎士として成長するだろう。
あ、あの娘は!
俺の成績を上回った制服少女レイシアではないか。ていねいに馬小屋の掃除をしている。俺の中で彼女の印象がはね上がった。
◇
そして例の試合。
メイド服などとふざけた格好に、ヤツへの評価はすべて消え去った。
俺は全力で戦った。
………………惨敗。
本気でやったのに、フォークに負けた……。
◇
魔法の取得。男のロマンだ。
まあ、取っても使い所はないが。
王子として、最初に神の審判を受けた。
「属性 火 1属性。 リスク 頭髪の30%減少」
「いかがなさいますか?」
「俺に禿げろというのか!」
「……ご自由に」
「却下だ!」
王族として禿げるわけにはいかないだろうが! 勉強も剣術も見た目も、すべて王族として恥ずかしくないように努力と気づかいを欠かせない。
王族には王族の、見せる努力と見せない努力があるんだ! できて当たり前。そう思わせるためにどれほど頑張っているのか知らずにチャラチャラしている上位貴族のアホども……! 何が「ご自由に」だ!
そうこうするうちどよめきが起こった。
「風 土 2属性 リスク 脂肪30%低下。 役に立たんな」
「取る! 取ります! 取らせてください!!! 痩せるのね私! ぽっちゃり体系が!!」
「仮契約完了」
「これよ! なにこのウエスト! ズボンがゆるいわ!!」
ぽっちゃり女子が急にスタイルが良くなった。こんなこともあるんだ! 女子たちが睨むような目で見つめている。 怖っ!
「光 闇 風 火 水 土 6属性 リスク バスト6%低下」
「「「6属性⁈」」」
「「「バスト6%⁈」」」
またレイシアか!
魔法騎士達は役に立たないとか言うけど、魔法のコンプリートだと! なんか羨ましい。
指先から火⁉ 手のひらから水?! なにそれ、格好いい!
そのまま魔法使いになることを決めたレイシアを羨ましそうに見ていたのかもしれない。
◆◆◆
騎士コース実践。
レイシアはメイド服と暗器は封印させられた。
「木刀、扱いづらいですね」
そう言いながらビュンビュン振り回している。
「たまには他の人と組ませて下さい」
俺は先生に言うがいつもこう言われる。
「お前がレイシアから一本取れたらな」
ヤツの剣筋は日毎に鋭くなる。
ぼっち二人の授業は終わりそうもない……。
レイシアのせいで他の生徒と組むことができない。
俺の望む青春はいつ来るんだろう。
騎士コース実践。俺はいつもこいつと組まされる。分かっているよ、誰も俺と組むのは気が引けるというのは! 試しに何度か組ませてもらったが、みんな手加減をはじめる。見かねた先生が俺の相手をヤツに固定した。
「だって、君らと組みたい人いないんだし」
アレと一緒の扱い! ボッチ同士みたいに言わなくてもいいじゃん! 俺だってみんなとワイワイやりたいのに。
教室でも一人。一人しかいないから。
馬小屋掃除でも一人。一人一区画だから。
生徒会でも一年生は一人。
そして貴族コース。貴族コースの『ダンス』以外で俺が取れるのは騎士コースだけ。どちらも日々の鍛錬が必要だから。
なのに、ダンスは「他の貴族男性の邪魔になる」からと取らせてもらえなかった。理由は察した。ゆえに辞退した。
だから、騎士コースにかけていたのに! なぜここであぶれ者二人、みたいにならなきゃいけないんだ!
◆◆◆
レイシアを初めて見たのは入学式の午前中。制服で独り佇む彼女は、背筋を伸ばし凛とした姿をしていた。
俺はその姿に目を奪われた。
他の入学生がドレスを着飾りチャラチャラと浮足立っている中、その姿は美しく見えた。
貧乏な法衣貴族の娘かな?
そこで俺は考えた。俺も制服で出てみよう。軽い気持ちで制服に着替えた。
後でその少女が大変な逃亡劇をしなければならなくなったと怒られた。
悪いことをした。そうは思ったがもう会うこともない法衣貴族の娘。なんともならないだろう。
そう思っていた。
◇
オリエンテーションで彼女はいた。子爵家の娘? 奨学生? どの貴族グループにも属さず、あまりにも独特な雰囲気と立ち位置のため近づく事ができない。側近からも近づかないようにガードされている。どうしていいか分からないままテストが終わった。
◇
Aクラス。一人きりの授業。
やっぱり私に並べるものはなかったか。わざとテストの回答間違えたのに……。
初めての授業で、先生が俺より成績が良い者がいたと言った。
「レイシア・ターナー。奨学生だよ」
「奨学生? 制服少女か!」
「ちなみにな、彼女に『Aクラスで王子と一緒に勉強するか?』と尋ねたら、速攻でお断りされたよ。王子とお近づきになれたり、王妃教育を受けたりしてもいいと言ったんだがねぇ」
なんだと……! これじゃあ俺が馬鹿みたいじゃないか! しかも一緒のクラスメートになるのを断った?! しかも速攻で?! なぜ俺が嫌われているんだ?! 話したこともないのに!
彼女とクラスメートだったら楽しかったのかも、一瞬そう思った。いや、気の迷いだ。
◇
俺は騎士コースにかけた!
ここで親友を得るんだ!
馬小屋の掃除。なぜ皆嫌な顔をする? 馬と触れ合うには基礎の基礎ではないか。私なぞ8歳の頃からやっているのに。なるほど、教師はこれを見て本気度を試そうというのだな。おお、何人かの者はきちんとやっている。彼らは信用に値する者だな。騎士として成長するだろう。
あ、あの娘は!
俺の成績を上回った制服少女レイシアではないか。ていねいに馬小屋の掃除をしている。俺の中で彼女の印象がはね上がった。
◇
そして例の試合。
メイド服などとふざけた格好に、ヤツへの評価はすべて消え去った。
俺は全力で戦った。
………………惨敗。
本気でやったのに、フォークに負けた……。
◇
魔法の取得。男のロマンだ。
まあ、取っても使い所はないが。
王子として、最初に神の審判を受けた。
「属性 火 1属性。 リスク 頭髪の30%減少」
「いかがなさいますか?」
「俺に禿げろというのか!」
「……ご自由に」
「却下だ!」
王族として禿げるわけにはいかないだろうが! 勉強も剣術も見た目も、すべて王族として恥ずかしくないように努力と気づかいを欠かせない。
王族には王族の、見せる努力と見せない努力があるんだ! できて当たり前。そう思わせるためにどれほど頑張っているのか知らずにチャラチャラしている上位貴族のアホども……! 何が「ご自由に」だ!
そうこうするうちどよめきが起こった。
「風 土 2属性 リスク 脂肪30%低下。 役に立たんな」
「取る! 取ります! 取らせてください!!! 痩せるのね私! ぽっちゃり体系が!!」
「仮契約完了」
「これよ! なにこのウエスト! ズボンがゆるいわ!!」
ぽっちゃり女子が急にスタイルが良くなった。こんなこともあるんだ! 女子たちが睨むような目で見つめている。 怖っ!
「光 闇 風 火 水 土 6属性 リスク バスト6%低下」
「「「6属性⁈」」」
「「「バスト6%⁈」」」
またレイシアか!
魔法騎士達は役に立たないとか言うけど、魔法のコンプリートだと! なんか羨ましい。
指先から火⁉ 手のひらから水?! なにそれ、格好いい!
そのまま魔法使いになることを決めたレイシアを羨ましそうに見ていたのかもしれない。
◆◆◆
騎士コース実践。
レイシアはメイド服と暗器は封印させられた。
「木刀、扱いづらいですね」
そう言いながらビュンビュン振り回している。
「たまには他の人と組ませて下さい」
俺は先生に言うがいつもこう言われる。
「お前がレイシアから一本取れたらな」
ヤツの剣筋は日毎に鋭くなる。
ぼっち二人の授業は終わりそうもない……。
レイシアのせいで他の生徒と組むことができない。
俺の望む青春はいつ来るんだろう。
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