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第五章 夏休みまで

47話 閑話 魔法少女の威力

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 私は痩せたかった!

 別に騎士になりたいから騎士コースを選んだわけじゃないの。毎日トレーニングして脂肪を燃やしたかったのよ。

 法衣貴族の娘として厳しく育てられた。体を動かすことはむしろ好き。それでも母方の祖母に似て私の体はぽっちゃりしていた。

 母は祖父に似て痩せているのに……

 私が貴族でいるには、試験を通るか貴族の婚約者を見つけるか。……どっちも無理ね。試験なんて受かるのは男子がほとんど。女子は成績が良くてなおかつ可愛げがある子。そう言われてるわ。じゃあ婚約者は……。もっと無理ね。

 メイドだって同じことが出来るのなら美しい子から拾われていく。

 私は、痩せなければスタートにも立てないのよ!

 ◇

 初めての騎士の実習。馬小屋の掃除? やるわよ! これも筋トレ。そう思えば臭いぐらいなんでもない! 頑張れ上腕二頭筋! うなれ自慢の広背筋! こらえろ下腿三頭筋!
 筋肉は喜んでいるが、脂肪は消えない……。なぜだ……。

 ◇

 騎士の実習。今度こそ本番。
 校舎を一周? ぬるい! ぬるすぎる! しかも30分以内ですと?!!!
 10分で回ったので、もう一周した。
 騎士ってこんなもの? 鎧着てても走れよ! むしろ私によこせ! 私が痩せるためにしてきた訓練より生ぬるい状況にため息をついた。

 ◇

 翌日、模擬戦が行われた。相手は白銀の鎧を着こんでいる。残り物同士の組み合わせ。
 よかった。武術なんかしたことないから手加減とかできない。思いっきり当てても怪我しないよね。鎧着てるし! パワーイズラブ! 攻撃が来る前に殴り続けた。大丈夫。鎧に当ててるだけだから。

 ドサッ、という音と共に相手が倒れた。意識不明? まさか。鎧着てるのに。
 一回戦は私が無傷で勝った。

 その後、王子様が試合をした。一部の女子は「王子様よ!」「あれ、黒魔女様じゃない?」と騒いでいたが私には関係ない。相手の女子のメイド服と言うやる気のなさに辟易としていただけ。ところが始まると、王子の攻撃がメイドには届かなかった。
 クルクル回りながら避け続けるメイド。そして王子を転ばし喉元にフォークを当てる。

殺し屋アサシン

 思わずそうつぶやくと、周りに波及していった。

「アサシン?」「アサシンだって?」「メイドのアサシン」「「「メイドアサシン」」」

 ごめん! へんな二つ名付いたみたい。

 私は、2回戦で武術の心得のある者から敗れたが、彼女は優勝した。

 ◇

 魔法の授業。
 私に奇跡が起きた。
 この日の事を私は一生忘れることはないだろう。

「次はお前。結果! 風 土 2属性 リスク 脂肪30%低下。 役に立たんな」
「取る! 取ります! 取らせてください!!! 痩せるのね私! ぽっちゃり体系が!!」
「風も土も役に立たん!」
「いいの取らせて! 魔法を! 脂肪も!」
「……。仮契約完了」

 急にお腹周りに違和感が走り、ズボンが下がった。
「これよ! なにこのウエスト! ズボンがゆるいわ!! 二の腕も!」

 私はずり下がったズボンを見ながら、感動に打ち震えていた。

◇◇◇

 その後、魔法コースを受けることになった。魔法を選択した者の義務だが、風と土の魔法。どうすればいいか私も先生たちもその扱いに悩んでいた。

「魔法契約解除しないか?」
「嫌です!」

 せっかく瘦せたのに! 解除などもってのほかだわ!

「しかしなあ。使えない魔法はなあ」
「じゃあ、あれはどうなんですか?」

 私はアサシンを指差して言った。

「あれは研究するといっているんだ。お前は何もできんだろう」

 あれの扱いには先生たちも困っているみたい。じゃあ、巻き込んでやれ。
 そう思いアサシンに近づいた。



「ねえ、相談があるんだけど」
「なんでしょう?」
「私、風と土の魔法しかないんだけど、なにか使い方知らないかな?」

 アサシンは、嬉しそうに答えた。

「土は分かりませんが、風なら便利ですよ」

 えっ⁈ あるの?

「いいですか? 魔法はイメージが大切です。私の言葉を丁寧にイメージしてくださいね」

 そう言うと、空気と風の関係を話し出した。時々、彼女が魔法で風を送ったりつむじ風を出したりして、私に分かりやすく教えてくれた。

「では、実験してみましょうか?」

 アサシン、いや彼女がそう言うと、私たちは攻撃魔法を撃つための訓練所まで移動した。

「さあ、まずはウインドです。あの的辺りに風を作ってください」

 私はイメージをしながら「ウインド」と唱えた。

    ヒュ——————

 一陣の強い風が的の周りに吹いた。周りにいた先生や生徒たちが近づいてくる。

「いまのはなんだ!」

 先生が言うと、彼女は答えた。

「今のはリリーさんの風魔法です。リリーさんは風魔法が使えるようになったんですよ」

 そう言うと私にだけ聞こえる様に「次はトルネイドです。集中して」とささやいた。

 私は彼女が見せてくれたつむじ風を思い出しながら的に集中した。

「トルネイド!」

 彼女のつむじ風の46656倍の威力が的を襲う。バリバリと壊れ巻きあがる的たち。
 周りの道具も土も巻き込んで、一瞬で消えた竜巻。

 見上げると、空からばらばらになったいろんなものが落ちてくる。
 まだはるか上空にあるがどう見てもヤバい!

「「「ギャ—————」」」

 逃げ惑う人々。落ちてくるであろう凶器たち。

「ウインドよ! 風で吹き飛ばして!」

 言われるままウインドと唱えた。残骸は風に流され遠くに飛んで行った。
 誰もけが人は出なかった。

 恐怖が去るのが分かると、新たな恐怖の主としてみんなが私を見る。いつの間にかアサシンは端に行き、私一人が訓練場のセンターにいる。

 シーンとした空気が痛い。

「今のはなんだ?」

 先生が私に聞く。

「か、風魔法です」

 なんとか答えを吐き出した。


「今のが風魔法か……。よくやったリリー! 騎士団に報告だ!」

 興奮した先生たちは私の腕を抱えて連れて行った。

「違うの! あの子! あの子なのよ~」

 私が何を言っても先生たちには伝わらない。だってやらせたのはあの子でも、やらかしたのは私だから。

 引きずられる私に対し、にこやかに手を振って無関係を装うアサシン。あいつめ……、ゆるさん!



 わたしはその後、風魔法使いとしてその名を残すことになるのだが、それはまた別のお話。
 
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