100 / 177
第四章 実技の授業
40話 お仕事コース(冒険者基礎) ①
しおりを挟む
冒険者。それは若者のロマン。そして、真の平民にとっては最低の職業。
トップランカーは脚光を浴び、底辺はその日暮らし。どこの業界も同じだが、命のやり取りの激しい冒険者稼業は、若者の夢などでは入らない方がいい世界だ。
学園の方針は、いかにトップランカーレベルの者を作るか、底辺を彷徨う者をあきらめさせるか。その二本柱でカリキュラムを組んでいる。そのため、初回が大事と気合を込めるのが冒険者基礎の恒例行事。ここの出来事は緘口令が代々課せられる程、壮絶を極めるものだ。
◇
「冒険者を目指す諸君! 気は確かか!」
「「「おー!!!」」」
という、コールアンドレスポンスで始まるおかしなテンションの授業。それが冒険者基礎。
最初から法衣貴族をあきらめている者と、騎士コースだけでは就職が不安な者。単に好奇心で受ける者。雑多な者どもが入り乱れている訳の分からない集団。
第一回目は、本気度を試される、そんな試験が行われる。
「お前らの教師は俺ではない! 冒険者になりたけりゃ冒険者に学べ! この授業の教師は、現役の冒険者の皆様だ」
ランクもバラバラな冒険者たちがステージに現れた。皆の歓声と拍手が沸き起こる。ここから、冒険者たちのリアルな日常が語られ始めた。
テンションが下がる会場。聞くに堪えない悲惨な話が延々と語られる。
将来はAランクと言われた同級生が、初回にやらかし半身不随になった話。
ちょっとした油断で左腕をなくした剣士。
ローンで剣を買ったのはいいが、無茶な使い方をして折ってしまった借金まみれの剣士。
喉をつぶされて杖を折られ、ゴブリンに連れて行かれた魔法使いの少女。
罠にかかって動けなくなった同僚を見捨てないと死ぬことになるクエスト。
自分を守って死んでいった血まみれの恋人が、最後に言った恨みの言葉。
すべてが現実にあった話なだけに、会場は水を打ったように静まり返った。
「この現実を受け止めて、それでも生きるためにやり続けるのが冒険者よ」
女性冒険者のこの発言に、今までの話がより現実味を帯び、生徒たちの心を抉った。
「さあ、休憩に入ろう。もし、冒険者をあきらめたいならこのまま帰るように。ただし、ここでの話は他言無用。もし話したら……冒険者ギルドと学園上げて犯人を見つけ出すからそのつもりでいて下さい。分かりますよね、この意味」
教師がそう言うと半分以上の生徒が、逃げる様に会場を出て行った。
◇
「思ったより残ったか。ではこれから実践を行う」
残った生徒の前に、持ち運び用の小型のオリが置かれる。中にはかわいらしい、一角ウサギが入っていた。
「今からこの一角ウサギを締めて血抜きをした後解体。その後、今日の昼飯を作って食事。ここまでが今日の課題だ。ノルマは1人3匹。ではスタート」
スタートと言われても……。生徒たちはつぶらな瞳で見つめる一角ウサギに対して、どうしていいか分からない。冒険者になりたいという者の、今までロクに生き物と向き合い、命のやり取りをしたこともない子供たち。覚悟など何もない。
だが、冒険者の仕事は命のやり取り。殺るか殺られるかだ。一角ウサギは初心者でも狩れる動物。ここを倒して肉と皮と角を持ち帰るのが初心者冒険者の最初のミッション。それを練習できる貴重な授業なのだが、生徒はそこまで分かっていない。
可愛らしい瞳で見つめてくる一角ウサギに生徒たちは手を掛けられなかった。レイシア以外は……。
レイシアは手慣れた作業を淡々とこなしていく。料理長と狩りに行っては、何百回も繰り返してきた。喉笛を掻っ切り、足に紐を掛け吊るす。血抜きだ。三匹のノルマをこなすと、先生に確認してもらった。
「素晴らしい。合格だ」
早々に合格をもらってやることのないレイシア。
他の生徒は、そんなレイシアを見ることもなく一角ウサギと見つめ合っていた。
「今年は冒険者になる奴は1人しかいないのか? しかも女子だぞ!」
教師の煽った声に、数人の男子が覚悟を決めた。
トップランカーは脚光を浴び、底辺はその日暮らし。どこの業界も同じだが、命のやり取りの激しい冒険者稼業は、若者の夢などでは入らない方がいい世界だ。
学園の方針は、いかにトップランカーレベルの者を作るか、底辺を彷徨う者をあきらめさせるか。その二本柱でカリキュラムを組んでいる。そのため、初回が大事と気合を込めるのが冒険者基礎の恒例行事。ここの出来事は緘口令が代々課せられる程、壮絶を極めるものだ。
◇
「冒険者を目指す諸君! 気は確かか!」
「「「おー!!!」」」
という、コールアンドレスポンスで始まるおかしなテンションの授業。それが冒険者基礎。
最初から法衣貴族をあきらめている者と、騎士コースだけでは就職が不安な者。単に好奇心で受ける者。雑多な者どもが入り乱れている訳の分からない集団。
第一回目は、本気度を試される、そんな試験が行われる。
「お前らの教師は俺ではない! 冒険者になりたけりゃ冒険者に学べ! この授業の教師は、現役の冒険者の皆様だ」
ランクもバラバラな冒険者たちがステージに現れた。皆の歓声と拍手が沸き起こる。ここから、冒険者たちのリアルな日常が語られ始めた。
テンションが下がる会場。聞くに堪えない悲惨な話が延々と語られる。
将来はAランクと言われた同級生が、初回にやらかし半身不随になった話。
ちょっとした油断で左腕をなくした剣士。
ローンで剣を買ったのはいいが、無茶な使い方をして折ってしまった借金まみれの剣士。
喉をつぶされて杖を折られ、ゴブリンに連れて行かれた魔法使いの少女。
罠にかかって動けなくなった同僚を見捨てないと死ぬことになるクエスト。
自分を守って死んでいった血まみれの恋人が、最後に言った恨みの言葉。
すべてが現実にあった話なだけに、会場は水を打ったように静まり返った。
「この現実を受け止めて、それでも生きるためにやり続けるのが冒険者よ」
女性冒険者のこの発言に、今までの話がより現実味を帯び、生徒たちの心を抉った。
「さあ、休憩に入ろう。もし、冒険者をあきらめたいならこのまま帰るように。ただし、ここでの話は他言無用。もし話したら……冒険者ギルドと学園上げて犯人を見つけ出すからそのつもりでいて下さい。分かりますよね、この意味」
教師がそう言うと半分以上の生徒が、逃げる様に会場を出て行った。
◇
「思ったより残ったか。ではこれから実践を行う」
残った生徒の前に、持ち運び用の小型のオリが置かれる。中にはかわいらしい、一角ウサギが入っていた。
「今からこの一角ウサギを締めて血抜きをした後解体。その後、今日の昼飯を作って食事。ここまでが今日の課題だ。ノルマは1人3匹。ではスタート」
スタートと言われても……。生徒たちはつぶらな瞳で見つめる一角ウサギに対して、どうしていいか分からない。冒険者になりたいという者の、今までロクに生き物と向き合い、命のやり取りをしたこともない子供たち。覚悟など何もない。
だが、冒険者の仕事は命のやり取り。殺るか殺られるかだ。一角ウサギは初心者でも狩れる動物。ここを倒して肉と皮と角を持ち帰るのが初心者冒険者の最初のミッション。それを練習できる貴重な授業なのだが、生徒はそこまで分かっていない。
可愛らしい瞳で見つめてくる一角ウサギに生徒たちは手を掛けられなかった。レイシア以外は……。
レイシアは手慣れた作業を淡々とこなしていく。料理長と狩りに行っては、何百回も繰り返してきた。喉笛を掻っ切り、足に紐を掛け吊るす。血抜きだ。三匹のノルマをこなすと、先生に確認してもらった。
「素晴らしい。合格だ」
早々に合格をもらってやることのないレイシア。
他の生徒は、そんなレイシアを見ることもなく一角ウサギと見つめ合っていた。
「今年は冒険者になる奴は1人しかいないのか? しかも女子だぞ!」
教師の煽った声に、数人の男子が覚悟を決めた。
24
お気に入りに追加
667
あなたにおすすめの小説
毒花令嬢の逆襲 ~良い子のふりはもうやめました~
りーさん
恋愛
マリエンヌは淑女の鑑と呼ばれるほどの、完璧な令嬢である。
王子の婚約者である彼女は、賢く、美しく、それでいて慈悲深かった。
そんな彼女に、周りは甘い考えを抱いていた。
「マリエンヌさまはお優しいから」
マリエンヌに悪意を向ける者も、好意を向ける者も、皆が同じことを言う。
「わたくしがおとなしくしていれば、ずいぶんと調子に乗ってくれるじゃない……」
彼らは、思い違いをしていた。
決して、マリエンヌは慈悲深くなどなかったということに気づいたころには、すでに手遅れとなっていた。
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
【完結】慰謝料は国家予算の半分!?真実の愛に目覚めたという殿下と婚約破棄しました〜国が危ないので返して欲しい?全額使ったので、今更遅いです
冬月光輝
恋愛
生まれつき高い魔力を持って生まれたアルゼオン侯爵家の令嬢アレインは、厳しい教育を受けてエデルタ皇国の聖女になり皇太子の婚約者となる。
しかし、皇太子は絶世の美女と名高い後輩聖女のエミールに夢中になりアレインに婚約破棄を求めた。
アレインは断固拒否するも、皇太子は「真実の愛に目覚めた。エミールが居れば何もいらない」と口にして、その証拠に国家予算の半分を慰謝料として渡すと宣言する。
後輩聖女のエミールは「気まずくなるからアレインと同じ仕事はしたくない」と皇太子に懇願したらしく、聖女を辞める退職金も含めているのだそうだ。
婚約破棄を承諾したアレインは大量の金塊や現金を規格外の収納魔法で一度に受け取った。
そして、実家に帰ってきた彼女は王族との縁談を金と引き換えに破棄したことを父親に責められて勘当されてしまう。
仕事を失って、実家を追放された彼女は国外に出ることを余儀なくされた彼女は法外な財力で借金に苦しむ獣人族の土地を買い上げて、スローライフをスタートさせた。
エデルタ皇国はいきなり国庫の蓄えが激減し、近年魔物が増えているにも関わらず強力な聖女も居なくなり、急速に衰退していく。
番とは呪いだと思いませんか―聖女だからと言ってツガイが五人も必要なのでしょうか―
白雲八鈴
恋愛
魔王が討伐されて20年人々が平和に暮らしているなか、徐々に魔物の活性化が再び始まっていた。
聖女ですか?わたしが世界を浄化するのですか?魔王復活?
は?ツガイ?5人とは何ですか?そんな者必要ありません!わたしはわたし一人でやり切ってみせる!例えその先にあるモノが…あの予言の通りであったとしても
主人公のシェリーは弟が騎士養成学園に入ってから、状況は一変してしまった。番とは分からないようにしていたというのに、次々とツガイたちが集まってきてしまった。他種族のツガイ。
聖女としての仕事をこなしていく中で見え隠れする魔王の影、予兆となる次元の悪魔の出現、世界の裏で動いている帝国の闇。
大陸を駆け巡りながら、世界の混沌に立ち向かう聖女とその番たちの物語。
*1話 1000~2000文字ぐらいです。
*軽い読みものとして楽しんでいただけたら思います。
が…誤字脱字が程々にあります。見つけ次第訂正しております…。
*話の進み具合が亀並みです。16章でやっと5人が揃う感じです。
*小説家になろう様にも投稿させていただいています。
*題名の副題変更しました。あまりにも進みが遅いので。
モブのメイドが腹黒公爵様に捕まりました
ベル
恋愛
皆さまお久しぶりです。メイドAです。
名前をつけられもしなかった私が主人公になるなんて誰が思ったでしょうか。
ええ。私は今非常に困惑しております。
私はザーグ公爵家に仕えるメイド。そして奥様のソフィア様のもと、楽しく時に生温かい微笑みを浮かべながら日々仕事に励んでおり、平和な生活を送らせていただいておりました。
...あの腹黒が現れるまでは。
『無口な旦那様は妻が可愛くて仕方ない』のサイドストーリーです。
個人的に好きだった二人を今回は主役にしてみました。
母の中で私の価値はゼロのまま、家の恥にしかならないと養子に出され、それを鵜呑みにした父に縁を切られたおかげで幸せになれました
珠宮さくら
恋愛
伯爵家に生まれたケイトリン・オールドリッチ。跡継ぎの兄と母に似ている妹。その2人が何をしても母は怒ることをしなかった。
なのに母に似ていないという理由で、ケイトリンは理不尽な目にあい続けていた。そんな日々に嫌気がさしたケイトリンは、兄妹を超えるために頑張るようになっていくのだが……。
〈完結〉八年間、音沙汰のなかった貴方はどちら様ですか?
詩海猫
恋愛
私の家は子爵家だった。
高位貴族ではなかったけれど、ちゃんと裕福な貴族としての暮らしは約束されていた。
泣き虫だった私に「リーアを守りたいんだ」と婚約してくれた侯爵家の彼は、私に黙って戦争に言ってしまい、いなくなった。
私も泣き虫の子爵令嬢をやめた。
八年後帰国した彼は、もういない私を探してるらしい。
*文字数的に「短編か?」という量になりましたが10万文字以下なので短編です。この後各自のアフターストーリーとか書けたら書きます。そしたら10万文字超えちゃうかもしれないけど短編です。こんなにかかると思わず、「転生王子〜」が大幅に滞ってしまいましたが、次はあちらに集中予定(あくまで予定)です、あちらもよろしくお願いします*
私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?
水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。
日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。
そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。
一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。
◇小説家になろうにも掲載中です!
◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる