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第四章 実技の授業

40話 お仕事コース(冒険者基礎) ①

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 冒険者。それは若者のロマン。そして、真の平民にとっては最低の職業。
 トップランカーは脚光を浴び、底辺はその日暮らし。どこの業界も同じだが、命のやり取りの激しい冒険者稼業は、若者の夢などでは入らない方がいい世界だ。

 学園の方針は、いかにトップランカーレベルの者を作るか、底辺を彷徨さまよう者をあきらめさせるか。その二本柱でカリキュラムを組んでいる。そのため、初回が大事と気合を込めるのが冒険者基礎の恒例行事。ここの出来事は緘口令かんこうれいが代々課せられる程、壮絶を極めるものだ。



「冒険者を目指す諸君! 気は確かか!」
「「「おー!!!」」」

 という、コールアンドレスポンスで始まるおかしなテンションの授業。それが冒険者基礎。
 最初から法衣貴族をあきらめている者と、騎士コースだけでは就職が不安な者。単に好奇心で受ける者。雑多な者どもが入り乱れている訳の分からない集団。
 第一回目は、本気度を試される、そんな試験が行われる。

「お前らの教師は俺ではない! 冒険者になりたけりゃ冒険者に学べ! この授業の教師は、現役の冒険者の皆様だ」

 ランクもバラバラな冒険者たちがステージに現れた。皆の歓声と拍手が沸き起こる。ここから、冒険者たちのリアルな日常が語られ始めた。

 テンションが下がる会場。聞くに堪えない悲惨な話が延々と語られる。
 将来はAランクと言われた同級生が、初回にやらかし半身不随になった話。
 ちょっとした油断で左腕をなくした剣士。
 ローンで剣を買ったのはいいが、無茶な使い方をして折ってしまった借金まみれの剣士。
 喉をつぶされて杖を折られ、ゴブリンに連れて行かれた魔法使いの少女。
 罠にかかって動けなくなった同僚を見捨てないと死ぬことになるクエスト。
 自分を守って死んでいった血まみれの恋人が、最後に言った恨みの言葉。

 すべてが現実にあった話なだけに、会場は水を打ったように静まり返った。

「この現実を受け止めて、それでも生きるためにやり続けるのが冒険者よ」

 女性冒険者のこの発言に、今までの話がより現実味を帯び、生徒たちの心を抉った。 

「さあ、休憩に入ろう。もし、冒険者をあきらめたいならこのまま帰るように。ただし、ここでの話は他言無用。もし話したら……冒険者ギルドと学園上げて犯人を見つけ出すからそのつもりでいて下さい。分かりますよね、この意味」

 教師がそう言うと半分以上の生徒が、逃げる様に会場を出て行った。



「思ったより残ったか。ではこれから実践を行う」

 残った生徒の前に、持ち運び用の小型のオリが置かれる。中にはかわいらしい、一角ウサギが入っていた。

「今からこの一角ウサギを締めて血抜きをした後解体。その後、今日の昼飯を作って食事。ここまでが今日の課題だ。ノルマは1人3匹。ではスタート」

 スタートと言われても……。生徒たちはつぶらな瞳で見つめる一角ウサギに対して、どうしていいか分からない。冒険者になりたいという者の、今までロクに生き物と向き合い、命のやり取りをしたこともない子供たち。覚悟など何もない。
 だが、冒険者の仕事は命のやり取り。殺るか殺られるかだ。一角ウサギは初心者でも狩れる動物。ここを倒して肉と皮と角を持ち帰るのが初心者冒険者の最初のミッション。それを練習できる貴重な授業なのだが、生徒はそこまで分かっていない。

 可愛らしい瞳で見つめてくる一角ウサギに生徒たちは手を掛けられなかった。レイシア以外は……。

 レイシアは手慣れた作業を淡々とこなしていく。料理長と狩りに行っては、何百回も繰り返してきた。喉笛を掻っ切り、足に紐を掛け吊るす。血抜きだ。三匹のノルマをこなすと、先生に確認してもらった。

「素晴らしい。合格だ」

 早々に合格をもらってやることのないレイシア。

 他の生徒は、そんなレイシアを見ることもなく一角ウサギと見つめ合っていた。

「今年は冒険者になる奴は1人しかいないのか? しかも女子だぞ!」

 教師のあおった声に、数人の男子が覚悟を決めた。
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