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第三章 テスト期間
22話 黒猫甘味堂
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カラン
ドアベルが鳴り響く、誰もいない店内。
レイシアが店に入ると、奥から店主が出て来た。
「いらっしゃいませ。もうじき店は閉まりますがそれでもよろしいですか?」
レイシアはコクンと頷くと、カウンターに座った。
「メニューです」
店主は愛想なく言うとメニューをわたした。
レイシアは、おすすめと書いてあるティーセットを注文した。
疲れているときは、甘いものが欲しくなる。それは本能ともいうべき体からの欲求。
レイシアは、目の前に出されたクッキーを一枚食べた。
「甘い!!」
そう、王都のクッキーはレイシアにとっては甘すぎた。歯が浮くような砂糖の暴力! レイシアはあわてて紅茶をすすり、口の中を立て直した。
しばらく、クッキーと紅茶を眺めていたら、不意に涙が流れてきた。ポタポタと。ポタポタと。
「どうしました?」
店主があわてて声を掛ける。
「甘いんです。クッキーが。甘いんです」
レイシアがそういうと、店主は優しくこう言った。
「君は、辺境の出かい? 僕の妻も、最初に出会った時同じような反応していたよ。……なにか辛い事でもあったのかい? 話してごらん?」
店主は、学園の制服を着ている女の子に、出会った頃の妻の姿を重ねたのか、少しだけ親身になっていた。
店主の妻は、1年ほど前に亡くなっている。だからだろうか。眼の前の女の子を放っておけなかった。
レイシアは、王都に来てからの事、今日仕事が探せなかったことを店主に話した。
いつもなら、もう店は閉める時間だが、店主はそのまま女の子に付き合ってあげることにした。
「そう、奨学金で学園に……。えらいね」
不意にきた「えらいね」と言う言葉に、レイシアの涙腺は崩壊した。無言でポロポロこぼれる涙。
店主はそんなレイシアを一人残し、厨房に去った。
◇
しばらくして、店主はレイシアの前にお皿と紅茶を置いた。
「これは、僕の妻が好きだったパンだよ。甘すぎるのが苦手だったら、これを食べて見たらいいよ」
レイシアがお皿を見ると、まあるい茶色がかった黄色い物が乗っていた。
「どうやって食べるの?」
見たこともない食べもの。食べ方が分からないのは当たり前。
「うちの妻は手づかみで食べていたけど、フォークとナイフで食べても、どっちでもいいよ」
レイシアは、フォーク刺してみた。「やわらかい!」ナイフできって口に入れた。
「!!!!!!!」
言葉にならない感動! これは!
「ふわふわのパン! ふわふわのパン! なんで!」
それは、ラノベでよく見るふわふわのパンにレイシアには思えた。やわらかい。こんなやわらかいパンがなぜここに?
「口に合わなかった? うちの妻が失敗してできた不思議な料理だからね。妻は最高! って食べていたんだけど……」
レイシアは、頭の中が料理人モードに切り替わった。これを!、この料理はまだ何か足りない! 塩気? コク? 甘さ? レイシアは店主に言った。
「もう1枚、いえ、2枚焼いて! あと、はちみつとバターを下さい! お願いします!」
いきなり真剣に頼まれた店主は、よく分からないが目の前の女の子が元気になるならと2枚焼いてくれた。
レイシアは、重ねて出された丸いパンをさっき食べたお皿に1枚乗せて、その2つのパンにバターをそれぞれ一切れづつのせ、はちみつをたらした。
「食べてみて!」
店主は訳が分からないが、言われた通り食べてみた。
「おいしい! なんで……」
店主はいつも食べていたパンがまるで違うものになっている事に驚いた。
「アツアツの生地にバターを塗ることで、いい感じの塩分とコクが出たの。そこに、砂糖とは違うはちみつの甘さを足すことによって、たんなるパンではなく、甘味、お菓子として成立したわ。思った以上に良い出来ね」
レイシアはそう言うと、お茶を一口くちにした。
ドアベルが鳴り響く、誰もいない店内。
レイシアが店に入ると、奥から店主が出て来た。
「いらっしゃいませ。もうじき店は閉まりますがそれでもよろしいですか?」
レイシアはコクンと頷くと、カウンターに座った。
「メニューです」
店主は愛想なく言うとメニューをわたした。
レイシアは、おすすめと書いてあるティーセットを注文した。
疲れているときは、甘いものが欲しくなる。それは本能ともいうべき体からの欲求。
レイシアは、目の前に出されたクッキーを一枚食べた。
「甘い!!」
そう、王都のクッキーはレイシアにとっては甘すぎた。歯が浮くような砂糖の暴力! レイシアはあわてて紅茶をすすり、口の中を立て直した。
しばらく、クッキーと紅茶を眺めていたら、不意に涙が流れてきた。ポタポタと。ポタポタと。
「どうしました?」
店主があわてて声を掛ける。
「甘いんです。クッキーが。甘いんです」
レイシアがそういうと、店主は優しくこう言った。
「君は、辺境の出かい? 僕の妻も、最初に出会った時同じような反応していたよ。……なにか辛い事でもあったのかい? 話してごらん?」
店主は、学園の制服を着ている女の子に、出会った頃の妻の姿を重ねたのか、少しだけ親身になっていた。
店主の妻は、1年ほど前に亡くなっている。だからだろうか。眼の前の女の子を放っておけなかった。
レイシアは、王都に来てからの事、今日仕事が探せなかったことを店主に話した。
いつもなら、もう店は閉める時間だが、店主はそのまま女の子に付き合ってあげることにした。
「そう、奨学金で学園に……。えらいね」
不意にきた「えらいね」と言う言葉に、レイシアの涙腺は崩壊した。無言でポロポロこぼれる涙。
店主はそんなレイシアを一人残し、厨房に去った。
◇
しばらくして、店主はレイシアの前にお皿と紅茶を置いた。
「これは、僕の妻が好きだったパンだよ。甘すぎるのが苦手だったら、これを食べて見たらいいよ」
レイシアがお皿を見ると、まあるい茶色がかった黄色い物が乗っていた。
「どうやって食べるの?」
見たこともない食べもの。食べ方が分からないのは当たり前。
「うちの妻は手づかみで食べていたけど、フォークとナイフで食べても、どっちでもいいよ」
レイシアは、フォーク刺してみた。「やわらかい!」ナイフできって口に入れた。
「!!!!!!!」
言葉にならない感動! これは!
「ふわふわのパン! ふわふわのパン! なんで!」
それは、ラノベでよく見るふわふわのパンにレイシアには思えた。やわらかい。こんなやわらかいパンがなぜここに?
「口に合わなかった? うちの妻が失敗してできた不思議な料理だからね。妻は最高! って食べていたんだけど……」
レイシアは、頭の中が料理人モードに切り替わった。これを!、この料理はまだ何か足りない! 塩気? コク? 甘さ? レイシアは店主に言った。
「もう1枚、いえ、2枚焼いて! あと、はちみつとバターを下さい! お願いします!」
いきなり真剣に頼まれた店主は、よく分からないが目の前の女の子が元気になるならと2枚焼いてくれた。
レイシアは、重ねて出された丸いパンをさっき食べたお皿に1枚乗せて、その2つのパンにバターをそれぞれ一切れづつのせ、はちみつをたらした。
「食べてみて!」
店主は訳が分からないが、言われた通り食べてみた。
「おいしい! なんで……」
店主はいつも食べていたパンがまるで違うものになっている事に驚いた。
「アツアツの生地にバターを塗ることで、いい感じの塩分とコクが出たの。そこに、砂糖とは違うはちみつの甘さを足すことによって、たんなるパンではなく、甘味、お菓子として成立したわ。思った以上に良い出来ね」
レイシアはそう言うと、お茶を一口くちにした。
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