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幕間 アルファポリス限定SS

イリア・ノベライズ作 制服王子と制服少女 オープニング

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  「僕は恋に落ちたのだろうか?」



 30年前。東方の国から友好の証として送られた「サクラ」と言う樹が、いつの間にか学園の入学式のシンボルになったと、家庭教師が言っていた。華やかなピンクに色づいたその木の下を、僕は馬車に乗って進んでいた。

「今日の入学式はこの原稿を読めばいいんだな」

 執事は「左様でございます」と答えながら、スケジュールを伝えた。

「休む暇はないのか? 詰め込み過ぎだ」

「今日は入学式なのですよ。皆が祝ってくださるのです。皆様坊ちゃんの事を考えて下さってるのですよ」

「僕の事を考えてくれるなら、休憩をもらった方が有難い」

「そうおっしゃらずに」

 いつの間にか馬車は中央錬に着いた。そのまま僕たちは控えの間に入っていった。


※  ※  ※


 ふいに貰えた休憩時間。先方の都合がつかなくなったらしい。僕はトイレに行くふりをし、こそっと護衛から離れ独り校内を歩んだ。

 入学式のため着飾っている生徒達がガヤガヤと煩い。それを避ける様に人気のない茂みの奥に進んだ。



 そこは開けた空間。一本のサクラの木が咲き誇っていた。その下に真新しい制服を着た少女が立っていた。



「君は……?」

 思わず声を掛けると、制服のスカートをつまみ上げた少女は

「レース・タナスです」

と微笑みながら答えた。



 春の温かい南風が不意に流れた。サクラの花びらが大量に舞い散る。彼女がサクラの妖精の様にはかなく感じた。

「とくん」

 僕の心臓が高らかになった。
 なんだろう。この感じは。

「君は、なぜ制服を着ているんだい? 新入生だろ」

「おかしいですか? 案内には『制服かもしくはそれに準じた物』とあったのですが」

「いや、入学式は着飾るものだろう?」

「着飾るドレスなど持てるほど余裕がないのです。それに、勉強しに来たのですから服装などどうでもいいではありませんか」

 質素な制服を恥じることなく微笑みを返す姿に、僕はドキドキと胸の高鳴りを覚えた。

「オシャレしたいとか思わないの?」

「オシャレより本が読みたいですわ。服は一時のものですもの。知識は一生のものでしょ」

 僕の価値観が揺らいだ。なんなんだ、この子は。

 もう一度風が吹いた。降りしきる桜吹雪にまみれ、いつの間にか少女は消えていた。

 夢でも見たのだろうか。いや……………。
 
 そこにはハンカチが一枚、彼女がいたと主張するかのように落ちていた。





 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

こちらの作品は、カクヨムのサポーター向けに限定公開したSSです。
 数人の方しか見ていないのと、かなりの時間がたったため、アルファポリス限定で発表させていただきます。

 当時のサポーター様には、流用のお詫びと、サポートして頂いた御礼を申し上げます。ありがとうございました。
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