72 / 177
第二章 入学式
13話 閑話 王子の鬱屈
しおりを挟む
「王子、なんで正装してないんですか!」
ステージ袖で待機している俺に向かって、宰相の息子チャーリーが声を掛けた。
「学生の正装をしているが何か?」
「さっきまでタキシード着ていたじゃありませんか」
「あれは普段着だ。ちゃんと学生らしく制服に着替えたんだ。文句を言われる筋合いはないよな」
「ありますよ! ってかタキシード普段着ってなんなんですか! この後親睦会が開かれるんですよ。まさか制服で出席する気じゃないでしょうね」
「まさか」
「そうですよね」
「出席する気はないぞ」
「ええっ!」
「あれは任意だよな」
「王族は義務です!」
「そんなはずはないが」
「暗黙の了解ってものを無視しないでください」
「明文化してないよね」
「だから、暗黙なんです!」
俺は大きなため息をついた。宰相の息子チャーリーはもっと大きなため息をついていたが、そこは無視しておこう。
◇
大体、この国はおかしい。王族として幼い時より教育を受けてきた俺は、他の貴族の子供より早熟だったのかもしれない。
それにしてもだ。
俺が7歳から勉強しているのに、なんであいつら10歳まで何もしないんだ?
未来の王妃候補、つまり俺が将来結婚する相手が集められた8歳の時……。何一つ俺の言うことに反応を示すことが出来ない無学な女の子に囲まれて何が楽しいというんだ? こっちは会話がしたいだけなのに、自慢話や悪口だけを延々と聞かされて……。
この中から、結婚相手を選べ? 無理。絶対嫌。そう思った8歳の俺。
どうして、こう、幼稚なんだ。いや、どうして幼稚にさせているんだ?
俺と同じように、7歳から勉強させればいいだけじゃないのか?
なんで10歳と決まっているんだ? なんで王族は7歳から勉強できるんだ?
同じ年代で、同じ話ができる。そんな友がいたら……。
そう思って10歳まで過ごしてきた。
◇
10歳になったら、こいつらも勉強を始めるんだ。少しは楽しくなるはず。
そう思っていたが、実際は違った。
読み書きができるようになった? まだそこか。
足し算、引き算? それが?
どこまでも、女の子は着飾ることばかり……。
なぜ楽しめる? 俺もこいつらのように馬鹿だったら楽しく暮らせるのか?
騎士の子たちとの訓練。これだけが生きている感じがする。彼らは真面目だ。生きる目標がはっきりしている。強さ。それだけは分かりやすくそこにある。
王子は何を求められているんだ?
◇
図書館で勉強。自習時間に見たことのない本を見つける。
「ラノベ?」
小説か。どうせお堅いつまらないどこぞの貴族の自慢話だろう。小説などそんなものしかない。……そう思いながら読み進めた。
ナンダコレハ……。
面白い。なぜこんな発想が出来る? まるで異世界の知識の塊! 俺が今まで学んできたものでは解釈できない魔法・道具・常識・社会制度……。
なぜ、こんな発想ができる? こんな道具どうやったら作れる? いや、どうやったら思い浮かべることができるんだ!
俺は、夢中になってラノベを読んだ。女子向けもあるのか。ふむふむ。
……王子に期待しているのは、こんな馬鹿か? 女の見る目もなく国をかたむけたらいいのか?
なぜ……。あんな馬鹿な女子どもは、俺をこんな風にしか見ていないのか?
『ざまあ』 もう読むのはよそう……。
◇
俺に勉強を教えている神官達は、ラノベを読むことを禁止した。
「王子、このような低俗なものを読んではいけません」
「なぜ? このような素晴らしい発想にあふれたラノベを読んだらいけないのですか?」
「これは、悪魔の知恵です。このような本は焚書にしてやりたいと教会では思っているのです」
「なぜ? こんなに素晴らしい……」
「王子! 魅入られてはいけません。まったく嘆かわしい。司書にラノベを置かないよう進言しなければ」
こうして、図書室からラノベは撤去された。
◇
つまらない日常。つまらないパーティー。つまらない貴族の子どもどうしの会話。
ちょっとは勉強したんだろう? なぜ、そんなくだらない事しか話ができないんだ?
この国を良くしようとか思わないのか?
そして、学園の入学式が始まる。
◇
着飾った新入生がホールに集まっている。いつものつまらないパーティーと一緒か。
向こうに騎士服を着た新入生がいる。やはり、信じられるのは彼らだけか。俺も騎士服で出ようか。はは、まさかな。
おや? あの女子は? 変わった格好? 制服。そうか、制服だ! まだ時間はある。大至急制服を届けるよう命じた。
◇◇◇
制服姿で壇上に立つ。会場がどよめいている。気分がいいものだな。
会場の動揺を楽しみながら、新入生の挨拶を始める。
「本日は、我々新入生のために、このような立派な式を行っていただきありがとうございます。われわれは……」
決められた当たり障りのない挨拶。それが終わったら嫌味のひとつも言ってやるんだ。
「ところで、新入生諸君。何か勘違いしていないでしょうか。ここは学園。学問の学び舎です。浮ついて着飾って、一体なにをしようとしているのでしょうか? 学園には制服というものがあるというのに。皆様の興味は宝石やドレスしかないのでしょうか? 男性諸君も同様です。これからの王国を担う皆様は、学園に何をしにきているのでしょうか? どうやらわたくしと同じ心持を持てる者は、そこの騎士服をまとっている彼ら……ああ、あそこに制服の女子がいますね。それくらいですか? 残念でなりません」
ありがとう、そこの制服女子! 爵位が下みたいだからもう会うこともないだろうが。法衣貴族かな? まあどうでもいい。楽しめたよ。
今日は誰が何と言おうが制服で過ごしてやる。パーティーなんぞウンザリだ。
俺は気分よくステージを去り、さっさと控室に戻った。
ステージ袖で待機している俺に向かって、宰相の息子チャーリーが声を掛けた。
「学生の正装をしているが何か?」
「さっきまでタキシード着ていたじゃありませんか」
「あれは普段着だ。ちゃんと学生らしく制服に着替えたんだ。文句を言われる筋合いはないよな」
「ありますよ! ってかタキシード普段着ってなんなんですか! この後親睦会が開かれるんですよ。まさか制服で出席する気じゃないでしょうね」
「まさか」
「そうですよね」
「出席する気はないぞ」
「ええっ!」
「あれは任意だよな」
「王族は義務です!」
「そんなはずはないが」
「暗黙の了解ってものを無視しないでください」
「明文化してないよね」
「だから、暗黙なんです!」
俺は大きなため息をついた。宰相の息子チャーリーはもっと大きなため息をついていたが、そこは無視しておこう。
◇
大体、この国はおかしい。王族として幼い時より教育を受けてきた俺は、他の貴族の子供より早熟だったのかもしれない。
それにしてもだ。
俺が7歳から勉強しているのに、なんであいつら10歳まで何もしないんだ?
未来の王妃候補、つまり俺が将来結婚する相手が集められた8歳の時……。何一つ俺の言うことに反応を示すことが出来ない無学な女の子に囲まれて何が楽しいというんだ? こっちは会話がしたいだけなのに、自慢話や悪口だけを延々と聞かされて……。
この中から、結婚相手を選べ? 無理。絶対嫌。そう思った8歳の俺。
どうして、こう、幼稚なんだ。いや、どうして幼稚にさせているんだ?
俺と同じように、7歳から勉強させればいいだけじゃないのか?
なんで10歳と決まっているんだ? なんで王族は7歳から勉強できるんだ?
同じ年代で、同じ話ができる。そんな友がいたら……。
そう思って10歳まで過ごしてきた。
◇
10歳になったら、こいつらも勉強を始めるんだ。少しは楽しくなるはず。
そう思っていたが、実際は違った。
読み書きができるようになった? まだそこか。
足し算、引き算? それが?
どこまでも、女の子は着飾ることばかり……。
なぜ楽しめる? 俺もこいつらのように馬鹿だったら楽しく暮らせるのか?
騎士の子たちとの訓練。これだけが生きている感じがする。彼らは真面目だ。生きる目標がはっきりしている。強さ。それだけは分かりやすくそこにある。
王子は何を求められているんだ?
◇
図書館で勉強。自習時間に見たことのない本を見つける。
「ラノベ?」
小説か。どうせお堅いつまらないどこぞの貴族の自慢話だろう。小説などそんなものしかない。……そう思いながら読み進めた。
ナンダコレハ……。
面白い。なぜこんな発想が出来る? まるで異世界の知識の塊! 俺が今まで学んできたものでは解釈できない魔法・道具・常識・社会制度……。
なぜ、こんな発想ができる? こんな道具どうやったら作れる? いや、どうやったら思い浮かべることができるんだ!
俺は、夢中になってラノベを読んだ。女子向けもあるのか。ふむふむ。
……王子に期待しているのは、こんな馬鹿か? 女の見る目もなく国をかたむけたらいいのか?
なぜ……。あんな馬鹿な女子どもは、俺をこんな風にしか見ていないのか?
『ざまあ』 もう読むのはよそう……。
◇
俺に勉強を教えている神官達は、ラノベを読むことを禁止した。
「王子、このような低俗なものを読んではいけません」
「なぜ? このような素晴らしい発想にあふれたラノベを読んだらいけないのですか?」
「これは、悪魔の知恵です。このような本は焚書にしてやりたいと教会では思っているのです」
「なぜ? こんなに素晴らしい……」
「王子! 魅入られてはいけません。まったく嘆かわしい。司書にラノベを置かないよう進言しなければ」
こうして、図書室からラノベは撤去された。
◇
つまらない日常。つまらないパーティー。つまらない貴族の子どもどうしの会話。
ちょっとは勉強したんだろう? なぜ、そんなくだらない事しか話ができないんだ?
この国を良くしようとか思わないのか?
そして、学園の入学式が始まる。
◇
着飾った新入生がホールに集まっている。いつものつまらないパーティーと一緒か。
向こうに騎士服を着た新入生がいる。やはり、信じられるのは彼らだけか。俺も騎士服で出ようか。はは、まさかな。
おや? あの女子は? 変わった格好? 制服。そうか、制服だ! まだ時間はある。大至急制服を届けるよう命じた。
◇◇◇
制服姿で壇上に立つ。会場がどよめいている。気分がいいものだな。
会場の動揺を楽しみながら、新入生の挨拶を始める。
「本日は、我々新入生のために、このような立派な式を行っていただきありがとうございます。われわれは……」
決められた当たり障りのない挨拶。それが終わったら嫌味のひとつも言ってやるんだ。
「ところで、新入生諸君。何か勘違いしていないでしょうか。ここは学園。学問の学び舎です。浮ついて着飾って、一体なにをしようとしているのでしょうか? 学園には制服というものがあるというのに。皆様の興味は宝石やドレスしかないのでしょうか? 男性諸君も同様です。これからの王国を担う皆様は、学園に何をしにきているのでしょうか? どうやらわたくしと同じ心持を持てる者は、そこの騎士服をまとっている彼ら……ああ、あそこに制服の女子がいますね。それくらいですか? 残念でなりません」
ありがとう、そこの制服女子! 爵位が下みたいだからもう会うこともないだろうが。法衣貴族かな? まあどうでもいい。楽しめたよ。
今日は誰が何と言おうが制服で過ごしてやる。パーティーなんぞウンザリだ。
俺は気分よくステージを去り、さっさと控室に戻った。
34
お気に入りに追加
667
あなたにおすすめの小説
逃げて、追われて、捕まって
あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。
この世界で王妃として生きてきた記憶。
過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。
人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。
だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。
2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ
2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。
**********お知らせ***********
2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。
それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。
ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
虚弱な兄と比べて蔑ろにして来たクセに、親面してももう遅い
月白ヤトヒコ
恋愛
毒親に愛されなくても、幸せになります!
「わたしの家はね、兄上を中心に回っているんだ。ああ、いや。正確に言うと、兄上を中心にしたい母が回している、という感じかな?」
虚弱な兄上と健康なわたし。
明確になにが、誰が悪かったからこうなったというワケでもないと思うけど……様々な要因が積み重なって行った結果、気付けば我が家でのわたしの優先順位というのは、そこそこ低かった。
そんなある日、家族で出掛けたピクニックで忘れられたわたしは置き去りにされてしまう。
そして留学という体で隣国の親戚に預けられたわたしに、なんやかんや紆余曲折あって、勘違いされていた大切な女の子と幸せになるまでの話。
『愛しいねえ様がいなくなったと思ったら、勝手に婚約者が決められてたんですけどっ!?』の婚約者サイドの話。彼の家庭環境の問題で、『愛しいねえ様がいなくなったと思ったら、勝手に婚約者が決められてたんですけどっ!?』よりもシリアス多め。一応そっちを読んでなくても大丈夫にする予定です。
設定はふわっと。
※兄弟格差、毒親など、人に拠っては地雷有り。
※ほのぼのは6話目から。シリアスはちょっと……という方は、6話目から読むのもあり。
※勘違いとラブコメは後からやって来る。
※タイトルは変更するかもしれません。
表紙はキャラメーカーで作成。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
髪を切った俺が『読者モデル』の表紙を飾った結果がコチラです。
昼寝部
キャラ文芸
天才子役として活躍した俺、夏目凛は、母親の死によって芸能界を引退した。
その数年後。俺は『読者モデル』の代役をお願いされ、妹のために今回だけ引き受けることにした。
すると発売された『読者モデル』の表紙が俺の写真だった。
「………え?なんで俺が『読モ』の表紙を飾ってんだ?」
これは、色々あって芸能界に復帰することになった俺が、世の女性たちを虜にする物語。
※『小説家になろう』にてリメイク版を投稿しております。そちらも読んでいただけると嬉しいです。
似非聖女呼ばわりされたのでスローライフ満喫しながら引き篭もります
秋月乃衣
恋愛
侯爵令嬢オリヴィアは聖女として今まで16年間生きてきたのにも関わらず、婚約者である王子から「お前は聖女ではない」と言われた挙句、婚約破棄をされてしまった。
そして、その瞬間オリヴィアの背中には何故か純白の羽が出現し、オリヴィアは泣き叫んだ。
「私、仰向け派なのに!これからどうやって寝たらいいの!?」
聖女じゃないみたいだし、婚約破棄されたし、何より羽が邪魔なので王都の外れでスローライフ始めます。
私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?
水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。
日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。
そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。
一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。
◇小説家になろうにも掲載中です!
◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています
どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~
涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる