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第一章 オンボロ女子寮

8話 やっと会えたよ (第一章 完)

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「はあー、まったく。イリア~!あんた帰ったそうそうなんだい。飯なら出来てるよ。早く手洗いにいきな」
「分かった。いや~今日は上出来! 高く買い取ってもらえたよ。これで寮費払えるから」

「そうかい。よかったね。あんたも一丁前になったってことかい」
「いや~、まだまだ。これからだよ」

 一旦部屋に荷物を置き、廊下越しに会話をしながら、イリアは食堂まできた。見たことのない小さな女の子が、皿を並べていた。

「んっ? あんた……、もしかして新入生?」

 レイシアは、きれいにカテーシーをきめて挨拶をした。

「はじめまして。新入生のレイシア・ターナーです。お世話になりますが、これからよろしくお願いします」
「あ、……ああ」

 イリアは、すっかり縁遠くなっていた貴族の礼に(こいつ、関わりたくない)と拒否反応が起こった。

「カ……カンナさん」

「なんだい。ああ、大丈夫…やつはこっち側の人間だ。レイシア、料理人モード100倍に薄めて挨拶。女の子っぽくね」

 急にきたカンナの無茶ぶりに対応しようと頑張るレイシア。

「あっし、いえあたしは、レイシア。レイシア・ターナーと申すものでごぜいやす。いやございます。いごおみしりおきをよろしゅうたのんます」

 もはや王国語崩壊。カンナとイリアは腹を抱えて笑うしかなかった。

「あっ、あんた、ハハハッ、あ~おかしい」

 どうしても笑いの止まらないイリア。

「頑張ってみたのですが……」

 もう一度言い直そうとするレイシア。

「ハハハッ、もういいよ。あたしはイリア。今年から4年生だ」
「あら、そうだっけ。3年生だと紹介してたよ」
「カンナさん~。あたしだって成長してんだからね」

 そんなやりとりを聞きながら、レイシアは言った。

「イリアさんですね。よろしくお願いします」

「おう。よろしく」

 イリアの緊張も、レイシアの変な言葉遣いもなくなった。

「はいはい、ご飯にするよ。イリア座りな。レイシアは盛り付け」

 カンナの言葉に従って、レイシアはスープを盛りつけた。夕飯はパンと肉だんご野菜スープ。それだけあれば充分なのが平民の食事。たまに焼いた肉が付くと豪華な食事になる。

「いっただき……」

 イリアが食べようとすると、

「作物の実りを育む、水の女神アクア様。豊かな実りを行き届けるヘルメス様。豊かな実りを芳醇に変えるバッカス様。皆様の恵みに感謝を」

と、レイシアが祈りの言葉を奏でた。さすがに、祈りを邪魔することはできない。スプーンを元に戻して、だまって聞いていた。

「さすがいいとこのお嬢様だね。あたしも祈った方がいいかな」
「どなたを祈るのですか?」
「あたしが祈るのはカクヨーム様さ。カクヨーム様、あたしにアイデアを授けください。これでよしっと。じゃあ、食べよっか」

 そう言うと、スープを飲んだ。

「なにこれ! めっちゃうまい! カンナさん、どうしたの、これ」
「ああ、レイシアが作ったんだ。材料はいつもと変わんないさ」

「朝の炒め物もおいしかったんだけど、あれも?」
「あれもさ」

「カンナさんの料理よりうまい」
「うるさいね! まあ、でもこの子の料理はちゃんとしてるさ。明日から料理は全部レイシアに任せようか?」
「それいいね!」

 次の日からの料理担当はレイシアになった。そして、イリアの胃袋をがっちりつかんだレイシアは、イリアの警戒心を解くことに成功した。

「レイシア、あんたはイリアから下町の言葉遣いをならいな。料理人モードはきつすぎる。イリア、レイシアを立派な下町の娘として生きて行けるように仕込みな。卒業したら貴族に戻れないんだ。庶民のルールってやつを教えておやり。それが嫌なら、アンタの飯はあんたが作りな。このうまい飯は私らだけで食うからね」

「はいはい、カンナさん分かったよ。協力するよ。レイシア、今日からあんたは私の妹分だ。困ったことがあったあたしに聞くように。いいね」

 レイシアは、こんな素敵な人たちと過ごせることに感動しながら、「はい」とだけ答えた。

 明日は入学式。レイシアの学園生活が始まる。

    第一章 完
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