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第一章 オンボロ女子寮

3話 ルール確認

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「じゃあこっちに来な、レイシア」

 寮母カンナは、レイシアを食堂に連れて行った。食堂と言ってもそんなに広い訳でもない。六人掛けのテーブルがあるくらいだ。
 もともと、ちょっと大きな家を改造して寮にしたもの。訳アリの学生のための女子寮なのだ。

「あたしは、寮の管理をしているカンナだ。カンナさんって呼びな。あんたのことはレイシアって呼ぶよ。貴族だろうが、ここではあたしの指示に従ってもらうからね。いいね」
「はい。カンナさん。よろしくお願いします」

「……思ったより素直だねえ。いいかい、ここでの生活の決まりを言うよ。文句あるなら聞いてからいいな」
「はい」

「よし。まず今年はこの寮にあんたとイリア2人が在籍する。イリアは3年生。法衣貴族の四女。あんた奨学生だろ。あんたもイリアも卒業したら平民になる。貴族になれない奴のための寮だ。ここまではいいかい」

 カンナはあえて現実を突きつけた。貴族、特に土地持ちが平民になるのはプライドが許さないはず。怒るか泣くか。どっちにしてもめんどくさいだろうなと思っていた。ところが、

「はいっ! 私、立派な平民目指します!」

 嬉しそうに元気よく宣言されてしまった。いかん。あっけにとられてはいけない! カンナは気を取り直すのに必死になった。

「ふんっ、あんたが立派な平民にね、って立派な平民って何だい! 分かってて言ってるのかい? 貴族には戻れないんだよ」
「もちろんです! 貴族無理です。私」

 なんなんだい?この子は。調子狂うねえ。と思いながらもカンナは続けた。
 レイシアはレイシアで、(あ~なんて素敵な寮。貴族らしい人がいないのね)と喜んでいた。

「あ~そうかい。好きにしな。まずは基本的なとこから言うよ。朝食は7時、夕食も7時いいね。昼は好きにしな。弁当とか無しだからね。それから、土曜日と日曜日はご飯が出ないからね。これは意地悪じゃない。決まりなんだ。学園が休みの時はお茶会やパーティーを開いて貴族同士の結びつきや交友を広げる。それがこの学園の方針。飯はそこで食えっていうことさ。ここの住人には関係ないが、あたしも休みがいるしね」
「作るのはいいんですか?」

レイシアは、自炊ができるなら楽になるなと思った。

「作る? ははっ、やめとくれよ。台所汚されても、怪我されてもこっちが困るんだ。あんたが料理をきっちりできるってあたしが認めるまでやめとくれ。夜はランプを付けてもいいが、燃料は自分で買いな。支給はしないよ」
「料理は認められたらですね」

 どうやって認めさせようかと、レイシアはあれこれレシピを思い浮かべた。

「門限は夕食時間10分前まで。遅くなるなら前日までに言っとくれ。ここまではいいかい」
「はい。6時50分が門限ですね」

 カンナは大きく頷いた。

「じゃあ、ここから本題だ。いいかい、働かざる者食うべからず。これが平民の掟だ。分かるかい」
「働いてお金を稼ぐのですね」

「そうだ。イリアは今仕事中だ。自分で稼ぐ道を切り開いて仕事をしている。だから、邪魔してはいけないよ。そのうち会えると思うが、今は紹介はなしだ。イリアのタイミングに合わせな。会ったら挨拶ぐらいはするように。いいね」

「はい。イリアさんは仕事中。邪魔しない」
「そうだ」

「学生でも働いていいんですか」
「ああ。あんたにも働いてもらうよ」
「えっ?」

「あんたは奨学生。学園にも寮にも銅貨一枚も入れてないんだ。それどころか制服も教科書もすべて支給。少しは働いて返そうと思わないかい?」

 働いてお金を返すのは当たり前ね。とレイシアは理解した。

「そうですね。なにをすれば……」

「まずはの手伝いだ。掃除、洗濯、ゆくゆくは料理ね。なにかできるかい」
「なんでもできます」

 何でもできるレイシア。サチ、メイド長、料理長という半端ないスペックの師匠たちに育てられたのだから。

「何でもできる? ははっ 貴族のお嬢様が出来ることなんかないだろうに。あたしが仕込んでやるから覚悟しな」

 カンナは鼻で笑った。レイシアがバケモノ並みの高スペックだとは知らないから。

「まあ、今日はいいさ。もうじき夕食だ。明日の朝から仕事してもらうよ。夕飯まで休憩してな。疲れたろうに」

 なんだかんだ言って、レイシアを気遣う世話好きなカンナであった。
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