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第二部 学園生活(1年生)レイシア13~14歳
1話 閑話 寮母カンナの心配
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はあー。奨学生が来るだって? 初めてだよそんなの。しかも子爵家のお嬢様? やめておくれよ。あたしにゃ荷が重いって。大体なんだい? 奨学生ってのは。えっ、貧乏で学費が払えない? 今は子爵家のお嬢様だけど、卒業したら平民になる? よくわかんないね。やめとくれよ。面倒ごと押し付けるのは。
亭主が死んで、子供を育てるためにここで寮母をやってはや20年。もう子供は独立したよ。寮と言ってもちっちゃな家で数人の面倒を見るだけなんだがね。おまけにウチの寮は人気がない。そもそもが、金持ってる貴族は大概王都かその近辺の領に別邸を持っているし、高位貴族対応の寮もある。あっちの寮はお高いが親切設計だ。たまに安いからと地方の法衣貴族がこっちの寮に入っても、メイド入寮禁止だと知るとすぐにあっちの寮か他に行ってしまう。
この寮に入るのは、よっぽどの変わりもんか貧乏人だけ。多くても6人しか入られない寮だが、今は1人しか入っちゃあいない。今いるイリアは変わりもんだ。法衣貴族の四女。平民と変わらない。それはそれでいい。彼女はきちんと自分で稼いでいるから。
子爵家のお嬢様か。なんだってウチの寮なんぞに。ああ、奨学生だったね。金がないのか。子爵家なのにどういうこったい? 親が悪いのか? 蔑《さげす》まれてでもいるのかい? まあ、どっちでもかまわんさ。
「おはよう、カンナさん。飯は?」
起き抜けのぼさぼさな頭で、たった一人の寮生イリアはあたしに言った。
「もう昼だよ、イリア。朝飯なんざ冷めちまったよ」
「うん、いい。それで」
「まったく。作り甲斐がないね」
「いいじゃん。いただきます」
なんだかんだいいつつ、美味しそうに食うんだよイリアは。憎めない子だよ。
「学園、明後日には始まるんだから、朝起きれるように調整しな」
「ああ。今日で出来上がるからさ。今頑張れば、明日から自由。寮費もまとめて払えるよ」
仕事で半徹かい。仕方ない子だね。
「そうかい。体壊すんじゃないよ。ああ、新入り入寮するから」
「えっ? 何人?」
「1人だよ、貧乏人みたいだね」
「そっか。貧乏なら助けてやらないとな」
相変わらずお人よしだ。
「貧乏な子爵様だよ」
そう言うと、目を大きく開いて食べる手を止めた。
「げっ! お貴族さまか~。近寄らんとこ」
「まあ、それもいいかもね」
貴族はめんどくさい。土地持ちならまして。でも、今回入るのは貧乏人? 平民落ちが決まってるだって? だったら、平民として生きて行けるようにしてやんないといけないじゃないか。学園じゃ無理だろう。……仕方がないね。あたしにやれってんだね。
面倒ごと押し付けやがって。
いいじゃないか。ちゃんとした貴族様の寮じゃなく、こっちに来たってことはそういう事なんだろ。いいさ、これも『神のご配慮』だ。受けて立とう。
「ごちそうさま~。うまかったよ」
「はいな。皿洗っときな」
「はいはい。分かってるよ」
なんだかんだでいい子だよ、イリアは。新入りに煩《わずら》わせさせないようにしてやるか。
お貴族様か、しょうがないね。あたしが平民として生きられるよう仕込んでやろうか。
あ~ めんどくさいねえ。
亭主が死んで、子供を育てるためにここで寮母をやってはや20年。もう子供は独立したよ。寮と言ってもちっちゃな家で数人の面倒を見るだけなんだがね。おまけにウチの寮は人気がない。そもそもが、金持ってる貴族は大概王都かその近辺の領に別邸を持っているし、高位貴族対応の寮もある。あっちの寮はお高いが親切設計だ。たまに安いからと地方の法衣貴族がこっちの寮に入っても、メイド入寮禁止だと知るとすぐにあっちの寮か他に行ってしまう。
この寮に入るのは、よっぽどの変わりもんか貧乏人だけ。多くても6人しか入られない寮だが、今は1人しか入っちゃあいない。今いるイリアは変わりもんだ。法衣貴族の四女。平民と変わらない。それはそれでいい。彼女はきちんと自分で稼いでいるから。
子爵家のお嬢様か。なんだってウチの寮なんぞに。ああ、奨学生だったね。金がないのか。子爵家なのにどういうこったい? 親が悪いのか? 蔑《さげす》まれてでもいるのかい? まあ、どっちでもかまわんさ。
「おはよう、カンナさん。飯は?」
起き抜けのぼさぼさな頭で、たった一人の寮生イリアはあたしに言った。
「もう昼だよ、イリア。朝飯なんざ冷めちまったよ」
「うん、いい。それで」
「まったく。作り甲斐がないね」
「いいじゃん。いただきます」
なんだかんだいいつつ、美味しそうに食うんだよイリアは。憎めない子だよ。
「学園、明後日には始まるんだから、朝起きれるように調整しな」
「ああ。今日で出来上がるからさ。今頑張れば、明日から自由。寮費もまとめて払えるよ」
仕事で半徹かい。仕方ない子だね。
「そうかい。体壊すんじゃないよ。ああ、新入り入寮するから」
「えっ? 何人?」
「1人だよ、貧乏人みたいだね」
「そっか。貧乏なら助けてやらないとな」
相変わらずお人よしだ。
「貧乏な子爵様だよ」
そう言うと、目を大きく開いて食べる手を止めた。
「げっ! お貴族さまか~。近寄らんとこ」
「まあ、それもいいかもね」
貴族はめんどくさい。土地持ちならまして。でも、今回入るのは貧乏人? 平民落ちが決まってるだって? だったら、平民として生きて行けるようにしてやんないといけないじゃないか。学園じゃ無理だろう。……仕方がないね。あたしにやれってんだね。
面倒ごと押し付けやがって。
いいじゃないか。ちゃんとした貴族様の寮じゃなく、こっちに来たってことはそういう事なんだろ。いいさ、これも『神のご配慮』だ。受けて立とう。
「ごちそうさま~。うまかったよ」
「はいな。皿洗っときな」
「はいはい。分かってるよ」
なんだかんだでいい子だよ、イリアは。新入りに煩《わずら》わせさせないようにしてやるか。
お貴族様か、しょうがないね。あたしが平民として生きられるよう仕込んでやろうか。
あ~ めんどくさいねえ。
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