56 / 177
第五章 旅立ち レイシア11〜13才
56話 閑話 とある神官見習いの研修①
しおりを挟む
「お前達見習い神官の中から、誰かターナー領のアクア神殿に一年間研修に行ってもらいたい。誰もいなければこちらから指名するが、受けたものには特別に出張費と研修ポイントの割り増しを行う。明日までに名乗り出てくれ。以上だ」
朝礼の最後に、神官長が言った言葉に見習い一同はざわついた。ターナー領? どこだ? いや? ターナー? どこかで……。レイシア・ターナー! あの聖詠の!
僕は大声で、「行かせてください」と叫んでいた。
◇
応接間に連れて行かれた僕は、上役から派遣の目的を聞かされた。どうやら、ターナー領の神父と領主は結託して協会本部に歯向かっているらしい。様々な言いがかりと条件を付けて本部の人間を遠ざけているというのだ。そんなことできるのか?
僕に与えられた任務は、ターナー領と教会の内部を探り、月に一度報告書を送ることだ。あとは好きにしていいらしい。出発は2ヶ月後。5月になってからだ。
◇◇◇
遠い。こんな遠くとは……。地図では見ていたが、実際移動するとこれほど遠かったのか。かたい馬車の座席に、絶えず叩きつけられるような尻の痛みをこらえながら、3日目の昼にターナー領に入った。
大きな荷物を抱えて乗合馬車から降りた僕は、教会の場所を聞いた。教会は、町の外れにあるという。荷物を抱え、痛む尻を気にしながらかなりの距離を歩いたら、広い草原の中に、ぽつんと教会と孤児院らしき建物があった。
子供たちが元気よく草原で遊んでいる。町の子供たちだろうか。
教会から身なりの良い子供が出てきて、手に持った大きなベルをカランカランと鳴らした。遊んでいた子供たちは一斉に孤児院らしき建物に消えていった。
「教会にご用事ですか? あちらにどうぞ。
神父様~、お客様です」
少年は、神父を呼びに教会の中に走っていった。教会からまだ若い神父が現れた。
「神官様ですか? ようこそおいで下さいました。お疲れでしょう。こちらに」
柔らかな表情と声だが、目は笑っていない。明らかに警戒されているようだ。私は言われるまま教会の中に入っていった。
◇◇◇
翌日から教会のスケジュール通りにこなしてみようと思った。神父は「そんなに急がなくても、1日くらいゆっくりしていたらどうです」と言ったのだがそうもいかない。
朝、4時半起床。支度を整え神父と合流。
6時半 礼拝。熱心な市民と孤児院の子供たちが礼拝席を埋める。朝から満堂の教会など、初めて見る光景だ。
神父が祈りの言葉を捧げる。皆で讃美歌を歌う。朝ゆえにほんのわずかの儀式。さあ終わったと席を立とうとしたその時、軽快な音楽がオルガンから流れた。
チャン♪チャラチャラララ♪ チャン♪チャラチャラララ♪ チャチャチャ チャララン♪ チャラ チャン チャン♫
「腕を大きく開いて~」
「ス――――」
「腕を閉じて~」
「ハ――――」
「はいっ みんな揃ってスーハースーハー。腕を開いてスー。腕を閉じたらハー。ご一緒に朝の儀式を行いましょう」
「ほら、神官様も一緒にどうぞ」
神父が僕に言った。やれと言うのか? それがここの習わしなのか? 毒食わば皿まで! やってやろう!
「まずは体をひねりましょう♪ いっちに さんし♫ にいに さんし♫ 吸って~ 吐いて~ 吸って~ 吐いて~♫ いっちに さんし♪」
「体を回して~♪ 呼吸は大事~♪ っはい いっちに さんし♪ にいに さんし♪」
「腕も回しましょう♪ 呼吸といっしょに~」
「首の運動~ っはいっ!」
「最後は深呼吸~ ゆっくりと~ スーハー スーハー スーハー スーハー」
なんなんだ、これは? この訳の分からない心地よさと、一体感は!
「今日も1日、元気にすごしましょう! これで聖なる儀式『スーハー』は完了です。皆様よい1日を!」
司会の信者が声を掛けると、スーハーしていた信者たちは、みんな笑顔で帰っていった。
この教会はなんなんだ? 僕はどうしようかと頭を抱えた。
朝礼の最後に、神官長が言った言葉に見習い一同はざわついた。ターナー領? どこだ? いや? ターナー? どこかで……。レイシア・ターナー! あの聖詠の!
僕は大声で、「行かせてください」と叫んでいた。
◇
応接間に連れて行かれた僕は、上役から派遣の目的を聞かされた。どうやら、ターナー領の神父と領主は結託して協会本部に歯向かっているらしい。様々な言いがかりと条件を付けて本部の人間を遠ざけているというのだ。そんなことできるのか?
僕に与えられた任務は、ターナー領と教会の内部を探り、月に一度報告書を送ることだ。あとは好きにしていいらしい。出発は2ヶ月後。5月になってからだ。
◇◇◇
遠い。こんな遠くとは……。地図では見ていたが、実際移動するとこれほど遠かったのか。かたい馬車の座席に、絶えず叩きつけられるような尻の痛みをこらえながら、3日目の昼にターナー領に入った。
大きな荷物を抱えて乗合馬車から降りた僕は、教会の場所を聞いた。教会は、町の外れにあるという。荷物を抱え、痛む尻を気にしながらかなりの距離を歩いたら、広い草原の中に、ぽつんと教会と孤児院らしき建物があった。
子供たちが元気よく草原で遊んでいる。町の子供たちだろうか。
教会から身なりの良い子供が出てきて、手に持った大きなベルをカランカランと鳴らした。遊んでいた子供たちは一斉に孤児院らしき建物に消えていった。
「教会にご用事ですか? あちらにどうぞ。
神父様~、お客様です」
少年は、神父を呼びに教会の中に走っていった。教会からまだ若い神父が現れた。
「神官様ですか? ようこそおいで下さいました。お疲れでしょう。こちらに」
柔らかな表情と声だが、目は笑っていない。明らかに警戒されているようだ。私は言われるまま教会の中に入っていった。
◇◇◇
翌日から教会のスケジュール通りにこなしてみようと思った。神父は「そんなに急がなくても、1日くらいゆっくりしていたらどうです」と言ったのだがそうもいかない。
朝、4時半起床。支度を整え神父と合流。
6時半 礼拝。熱心な市民と孤児院の子供たちが礼拝席を埋める。朝から満堂の教会など、初めて見る光景だ。
神父が祈りの言葉を捧げる。皆で讃美歌を歌う。朝ゆえにほんのわずかの儀式。さあ終わったと席を立とうとしたその時、軽快な音楽がオルガンから流れた。
チャン♪チャラチャラララ♪ チャン♪チャラチャラララ♪ チャチャチャ チャララン♪ チャラ チャン チャン♫
「腕を大きく開いて~」
「ス――――」
「腕を閉じて~」
「ハ――――」
「はいっ みんな揃ってスーハースーハー。腕を開いてスー。腕を閉じたらハー。ご一緒に朝の儀式を行いましょう」
「ほら、神官様も一緒にどうぞ」
神父が僕に言った。やれと言うのか? それがここの習わしなのか? 毒食わば皿まで! やってやろう!
「まずは体をひねりましょう♪ いっちに さんし♫ にいに さんし♫ 吸って~ 吐いて~ 吸って~ 吐いて~♫ いっちに さんし♪」
「体を回して~♪ 呼吸は大事~♪ っはい いっちに さんし♪ にいに さんし♪」
「腕も回しましょう♪ 呼吸といっしょに~」
「首の運動~ っはいっ!」
「最後は深呼吸~ ゆっくりと~ スーハー スーハー スーハー スーハー」
なんなんだ、これは? この訳の分からない心地よさと、一体感は!
「今日も1日、元気にすごしましょう! これで聖なる儀式『スーハー』は完了です。皆様よい1日を!」
司会の信者が声を掛けると、スーハーしていた信者たちは、みんな笑顔で帰っていった。
この教会はなんなんだ? 僕はどうしようかと頭を抱えた。
34
「貧乏奨学生の子爵令嬢は、特許で稼ぐ夢を見る 〜レイシアは、今日も我が道つき進む!~」https://www.alphapolis.co.jp/novel/892339298/357766056 #
お気に入りに追加
668
あなたにおすすめの小説
【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。
婚約破棄してたった今処刑した悪役令嬢が前世の幼馴染兼恋人だと気づいてしまった。
風和ふわ
恋愛
タイトル通り。連載の気分転換に執筆しました。
※なろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、pixivに投稿しています。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?
おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました!
皆様ありがとうございます。
「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」
眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。
「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」
ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。
ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視
上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。
王太子妃は離婚したい
凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。
だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。
※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。
綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。
これまで応援いただき、本当にありがとうございました。
レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。
https://www.regina-books.com/extra/login
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持
空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。
その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。
※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。
※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!
愛されない王妃は、お飾りでいたい
夕立悠理
恋愛
──私が君を愛することは、ない。
クロアには前世の記憶がある。前世の記憶によると、ここはロマンス小説の世界でクロアは悪役令嬢だった。けれど、クロアが敗戦国の王に嫁がされたことにより、物語は終わった。
そして迎えた初夜。夫はクロアを愛せず、抱くつもりもないといった。
「イエーイ、これで自由の身だわ!!!」
クロアが喜びながらスローライフを送っていると、なんだか、夫の態度が急変し──!?
「初夜にいった言葉を忘れたんですか!?」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる