53 / 177
第五章 旅立ち レイシア11〜13才
53話 レイシア13歳 秋
しおりを挟む
結局、レイシアは奨学生として申請することになった。国から調査の役人が数名来て領の財政、個人財産など事細かに調べられた。レイシアの特許については、お祖父様が管理していたため気づかれることはなかった。
レイシアは晴れて奨学生としての権利を手に入れることが出来た。
それを耳にしたお祖父様は、レイシアに支援を申し出ようとしたが、息子たちがそれを阻止に走った。
前回の養子の件が今だったら、もしかしたら国からの助力も得て上手くいったのかもしれないが、時期を間違えたおかげで、息子たちの思うように支援ができる道を外されてしまったのだ。
そして、春には領主交代が行われることになった。お祖父様とお祖母様は、名実ともに隠居させられることとなった。
といっても、悠々自適な隠居生活。息子が領主として下手なことをしないように、息のかかったものを重要な役職につけるように手配していた。
◇◇◇
十一月
11日はレイシアの誕生日。お母様の命日。親子3人で迎えられる、たぶん最後の誕生日。
ささやかな、本当にささやかな誕生日会を、使用人たちと一緒に行った。
「これが私の特許案件の『握り飯』よ。みんな、食べてみてね」
レイシアが、自慢げにテーブルの上の米玉改め握り飯を指し示した。商人に頼んで、王都から米を手に入れたレイシアが、みんなに食べてもらいたいと頑張ってつくったのだ。
「おいしいです。お姉様」
「本当に美味いな。レイシア、すごいな。よく考えついたな」
弟もお父様も大絶賛。料理人トムとシムも作り方を知りたがった。
「う~ん。特許使用許可を取らないと作れないわ」
「ならば、使用料は私が払おう。レイシア、明日にでも教会で必要な使用許可を取らせなさい」
「(ここの)教会でできるのですか?」
「当たり前だろ。特許の申請は出来ないが、使用許可を取ることは出来る。でないと大変だろ?」
「そうなんですか? 分かりました。明日教会に行きます」
「では、特別な日にはこの握り飯をみんなで食べよう。いいな料理長」
「はい! ありがとうございます」
「やったー、お姉様のお料理、いつでも食べられるようになるんだね」
弟クリシュは嬉しそう。みんなにこにこと誕生日を祝った。
◇◇◇
今年は特許で返済額が400万リーフ程減っていた。かなり返済が楽になった。
「この握り飯が、これだけの価値を生むのか。レイシアの才能はどうなっているんだ?」
領主クリフトは、親友である神父バリューに尋ねた。
「レイシア様の才能は、好奇心と固定概念のなさです。我々は、どうしても常識というか、固定概念で物事を捉えてしまいます。変化を嫌うのが美徳とされています」
「ふむ」
「それは、なぜだかお分かりですか?」
「なぜか? そういうものだろう。普通」
「普通。それで物事を考えなくしているのですよ。我々は考えることをしないように教育させられているんです」
「どういうことだ?」
「皆が新しいことを考えず、従順に、いつも通りの生活をしていればそれでよい。新しいことを考えるのは誰にとって危険なのでしょうか」
「何を言っているんだ? バリュー」
「レイシア様は、常識にとらわれません。常識を教える人がいなかったから。
だから自由なのです。この世界から見ると異端ですね」
「異端? バリュー、お前が教育したのではなかったのか?」
「私は知識を与えただけですよ。レイシア様にも、孤児たちにも」
「なんだと」
「クリフト様、あなたは教会を変えたかったのでしょう。可哀そうな孤児の実情を知って」
「ああ。今はよくなった。お前と2人で頑張ったからな」
「クリフト様、常識では駄目なのですよ。孤児が幸せになるのは。それが教会の教えです。神の教えではありませんけどね」
「なんだと」
「教会の常識では、孤児は蔑まれ、知識もなく放り出され、最下層の奴隷として扱われなければならないものなのですよ。クリフト様にその常識が無かったため、この領地の孤児は救われました。しかし、それは異端なのです」
「……」
「平民の識字率を上げない。新しいものは排除する。それが教会の常識です。王族もそれにならっています。それが常識だから」
「……何を言っているんだ……バリュー」
「30年前、ラノベという新しい小説が世に出た時、作者を暗殺しようという計画が教会で起こったのですよ。信じられますか? 新しい知識に敏感なのですよ」
「……そうなのか?」
「そのラノベを、新しい読み方で解釈しているのがレイシア様です。常識で計ろうにも計りきれませんよ。彼女の才能は」
「……」
「分かっていますか? この領の教会をここまで改革したのはあなたですよ、クリフト様。そして、その娘は常識にとらわれていない。教会組織としては、私たちは存在自体が異端なのです。その覚悟だけは持っていてください。どちらかというと、クリフト様の自業自得のようなものなのですけどね」
クリフトは、若い頃の、いや、今においても正しいと思って行った行動が間違っているとは思っていなかったが、バリューの言葉に戦慄を覚えたのは確かだった。
レイシアは晴れて奨学生としての権利を手に入れることが出来た。
それを耳にしたお祖父様は、レイシアに支援を申し出ようとしたが、息子たちがそれを阻止に走った。
前回の養子の件が今だったら、もしかしたら国からの助力も得て上手くいったのかもしれないが、時期を間違えたおかげで、息子たちの思うように支援ができる道を外されてしまったのだ。
そして、春には領主交代が行われることになった。お祖父様とお祖母様は、名実ともに隠居させられることとなった。
といっても、悠々自適な隠居生活。息子が領主として下手なことをしないように、息のかかったものを重要な役職につけるように手配していた。
◇◇◇
十一月
11日はレイシアの誕生日。お母様の命日。親子3人で迎えられる、たぶん最後の誕生日。
ささやかな、本当にささやかな誕生日会を、使用人たちと一緒に行った。
「これが私の特許案件の『握り飯』よ。みんな、食べてみてね」
レイシアが、自慢げにテーブルの上の米玉改め握り飯を指し示した。商人に頼んで、王都から米を手に入れたレイシアが、みんなに食べてもらいたいと頑張ってつくったのだ。
「おいしいです。お姉様」
「本当に美味いな。レイシア、すごいな。よく考えついたな」
弟もお父様も大絶賛。料理人トムとシムも作り方を知りたがった。
「う~ん。特許使用許可を取らないと作れないわ」
「ならば、使用料は私が払おう。レイシア、明日にでも教会で必要な使用許可を取らせなさい」
「(ここの)教会でできるのですか?」
「当たり前だろ。特許の申請は出来ないが、使用許可を取ることは出来る。でないと大変だろ?」
「そうなんですか? 分かりました。明日教会に行きます」
「では、特別な日にはこの握り飯をみんなで食べよう。いいな料理長」
「はい! ありがとうございます」
「やったー、お姉様のお料理、いつでも食べられるようになるんだね」
弟クリシュは嬉しそう。みんなにこにこと誕生日を祝った。
◇◇◇
今年は特許で返済額が400万リーフ程減っていた。かなり返済が楽になった。
「この握り飯が、これだけの価値を生むのか。レイシアの才能はどうなっているんだ?」
領主クリフトは、親友である神父バリューに尋ねた。
「レイシア様の才能は、好奇心と固定概念のなさです。我々は、どうしても常識というか、固定概念で物事を捉えてしまいます。変化を嫌うのが美徳とされています」
「ふむ」
「それは、なぜだかお分かりですか?」
「なぜか? そういうものだろう。普通」
「普通。それで物事を考えなくしているのですよ。我々は考えることをしないように教育させられているんです」
「どういうことだ?」
「皆が新しいことを考えず、従順に、いつも通りの生活をしていればそれでよい。新しいことを考えるのは誰にとって危険なのでしょうか」
「何を言っているんだ? バリュー」
「レイシア様は、常識にとらわれません。常識を教える人がいなかったから。
だから自由なのです。この世界から見ると異端ですね」
「異端? バリュー、お前が教育したのではなかったのか?」
「私は知識を与えただけですよ。レイシア様にも、孤児たちにも」
「なんだと」
「クリフト様、あなたは教会を変えたかったのでしょう。可哀そうな孤児の実情を知って」
「ああ。今はよくなった。お前と2人で頑張ったからな」
「クリフト様、常識では駄目なのですよ。孤児が幸せになるのは。それが教会の教えです。神の教えではありませんけどね」
「なんだと」
「教会の常識では、孤児は蔑まれ、知識もなく放り出され、最下層の奴隷として扱われなければならないものなのですよ。クリフト様にその常識が無かったため、この領地の孤児は救われました。しかし、それは異端なのです」
「……」
「平民の識字率を上げない。新しいものは排除する。それが教会の常識です。王族もそれにならっています。それが常識だから」
「……何を言っているんだ……バリュー」
「30年前、ラノベという新しい小説が世に出た時、作者を暗殺しようという計画が教会で起こったのですよ。信じられますか? 新しい知識に敏感なのですよ」
「……そうなのか?」
「そのラノベを、新しい読み方で解釈しているのがレイシア様です。常識で計ろうにも計りきれませんよ。彼女の才能は」
「……」
「分かっていますか? この領の教会をここまで改革したのはあなたですよ、クリフト様。そして、その娘は常識にとらわれていない。教会組織としては、私たちは存在自体が異端なのです。その覚悟だけは持っていてください。どちらかというと、クリフト様の自業自得のようなものなのですけどね」
クリフトは、若い頃の、いや、今においても正しいと思って行った行動が間違っているとは思っていなかったが、バリューの言葉に戦慄を覚えたのは確かだった。
34
お気に入りに追加
669
あなたにおすすめの小説

〈完結〉毒を飲めと言われたので飲みました。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。
国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。
悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する
cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。
しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は
「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」
夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。
自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。
お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。
本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。
※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

【完結】無能聖女と呼ばれ婚約破棄された私ですが砂漠の国で溺愛されました
よどら文鳥
恋愛
エウレス皇国のラファエル皇太子から突然婚約破棄を告げられた。
どうやら魔道士のマーヤと婚約をしたいそうだ。
この国では王族も貴族も皆、私=リリアの聖女としての力を信用していない。
元々砂漠だったエウレス皇国全域に水の加護を与えて人が住める場所を作ってきたのだが、誰も信じてくれない。
だからこそ、私のことは不要だと思っているらしく、隣の砂漠の国カサラス王国へ追放される。
なんでも、カサラス王国のカルム王子が国の三分の一もの財宝と引き換えに迎え入れたいと打診があったそうだ。
国家の持つ財宝の三分の一も失えば国は確実に傾く。
カルム王子は何故そこまでして私を迎え入れようとしてくれているのだろうか。
カサラス王国へ行ってからは私の人生が劇的に変化していったのである。
だが、まだ砂漠の国で水など殆どない。
私は出会った人たちや国のためにも、なんとしてでもこの国に水の加護を与えていき住み良い国に変えていきたいと誓った。
ちなみに、国を去ったエウレス皇国には距離が離れているので、水の加護はもう反映されないけれど大丈夫なのだろうか。

城で侍女をしているマリアンネと申します。お給金の良いお仕事ありませんか?
甘寧
ファンタジー
「武闘家貴族」「脳筋貴族」と呼ばれていた元子爵令嬢のマリアンネ。
友人に騙され多額の借金を作った脳筋父のせいで、屋敷、領土を差し押さえられ事実上の没落となり、その借金を返済する為、城で侍女の仕事をしつつ得意な武力を活かし副業で「便利屋」を掛け持ちしながら借金返済の為、奮闘する毎日。
マリアンネに執着するオネエ王子やマリアンネを取り巻く人達と様々な試練を越えていく。借金返済の為に……
そんなある日、便利屋の上司ゴリさんからの指令で幽霊屋敷を調査する事になり……
武闘家令嬢と呼ばれいたマリアンネの、借金返済までを綴った物語

【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

【完結】勘当されたい悪役は自由に生きる
雨野
恋愛
難病に罹り、15歳で人生を終えた私。
だが気がつくと、生前読んだ漫画の貴族で悪役に転生していた!?タイトルは忘れてしまったし、ラストまで読むことは出来なかったけど…確かこのキャラは、家を勘当され追放されたんじゃなかったっけ?
でも…手足は自由に動くし、ご飯は美味しく食べられる。すうっと深呼吸することだって出来る!!追放ったって殺される訳でもなし、貴族じゃなくなっても問題ないよね?むしろ私、庶民の生活のほうが大歓迎!!
ただ…私が転生したこのキャラ、セレスタン・ラサーニュ。悪役令息、男だったよね?どこからどう見ても女の身体なんですが。上に無いはずのモノがあり、下にあるはずのアレが無いんですが!?どうなってんのよ!!?
1話目はシリアスな感じですが、最終的にはほのぼの目指します。
ずっと病弱だったが故に、目に映る全てのものが輝いて見えるセレスタン。自分が変われば世界も変わる、私は…自由だ!!!
主人公は最初のうちは卑屈だったりしますが、次第に前向きに成長します。それまで見守っていただければと!
愛され主人公のつもりですが、逆ハーレムはありません。逆ハー風味はある。男装主人公なので、側から見るとBLカップルです。
予告なく痛々しい、残酷な描写あり。
サブタイトルに◼️が付いている話はシリアスになりがち。
小説家になろうさんでも掲載しております。そっちのほうが先行公開中。後書きなんかで、ちょいちょいネタ挟んでます。よろしければご覧ください。
こちらでは僅かに加筆&話が増えてたりします。
本編完結。番外編を順次公開していきます。
最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる