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第三章 頑張るお姉様 レイシア7〜11歳

32話 新たな旅立ち(第三章 完)

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「では、今日は貴族について説明しましょう。主に長男以外の身の振り方について。これは本には書いていないですからね。レイシアの将来を考える上で大切な課題です」

 レイシアに相談された神父は、すぐに答えるのではなく、考えるための知識を与えた。講義は長いので要約するとこんな感じ。






 まず、土地持ちの貴族は数が限られてしまう。戦争に勝つか開墾しない限り、土地は増えないから。この100年戦争はないから平和だけど土地は増えない。

 貴族の称号を継げるのは一人だけ。家によっては次男(長女)が保険としてキープされるが、そうなると当主が亡くならない限り、家も継げず結婚も出来ない。部屋住みは肩身が狭い。トラブルの元だね。

 女性が貴族でいるためには、結婚、あるいは側室を狙うのが一番。男性は入婿だが、本当に少ない。
 ちなみに、レイシアと同い年に王子が生まれたので、今王子狙いで婚約していない貴族の子弟が多く、欲をかかなければ婚約出来る可能性が高くなっている。

 次に狙うのは、法衣貴族。土地なし一代限りの貴族だ。要は公務員。騎士は騎士爵。国家公務員は法衣子爵。地方公務員は法衣男爵。しかし希望者が多い。法衣貴族の子も狙うからだ。試験は厳選。コネは効かない。

 騎士爵落ちた者は、平民として領主が私兵として雇ったり、冒険者になったりする者が多い。公務員落ちは、やはり平民。商会に就職したり商売を始めたり、自領で領地運営の手伝いとして雇われたり。

 女性もやはり平民。商会の息子や金持ちと結婚できれば万々歳。後は貴族に雇われ、メイドをしたりしながら貴族との縁をつなぎ、貴族の側室や法衣貴族との結婚のチャンスを狙ったりする。

 貴族が嫌だったりして平民になったり、教会で一旗揚げようとする者など、レアケースはいろいろあるが、大体こんな感じ。

 それなので、毎年何人もの貴族だった平民が増えていく。大きな商会なんかは、そんな元貴族、元元貴族、先祖が貴族、そんな血統だらけで構成されていく。ゆえに王都や王都に近いエリアは、純粋な平民は少ない。貴族街、裕福層街、貧民街とはっきり分かれる。逆にターナー領のような外れた領地には、元貴族は少ないが、貴族街と平民街は分かれている。

 学園は、貴族のための学校。法衣貴族も入る。
 学校は、裕福層のための学校。貴族の血筋を持った者たちが自らの子供のために運営している。学費が高いため入れる層が決まってくる。

 平民の多くは読み書きが出来ない。なぜなら、教会を中心とした政治勢力と裕福層が、利益を独占し平民を支配しやすくするため、教育をさせないように誘導しているから。

 ターナー領の教会改革は、中央教会から見れば、異端に近い裏切り行為だ。彼らからすれば、孤児など無学で汚れ仕事をさせる最下層民でなければならないから。そこらの平民より賢くすることはあってはならないこと。
 しかし、万人に愛を語る教会がそれを表明するわけにもいかない。ゆえにクリフトとバリューは教会から強い敵視をされているのだ。




「学園はね、『貴族の貴族による貴族のための学校』なんだ。貴族と、稀に聖女の力、光属性の魔法を発現した者しか入れない。いや、必ず入らなければいけない所なんだ。だから、最初から平民を目指すコースもある。これから2年かけて、いろんなものを見て、自分がなりたい道を探しなさい」

 レイシアは、まだまだ自分が知らない世界があるのだと知った。そして、ここと違う世界も見てみようと、オヤマーへ向かうことに決めた。



 レイシアは夏の間、お試しでオヤマー領に行くことに決まった。サチも一緒に行きたがったが、レイシアの身の回りは、オヤマーに帰ったノエルとポエムがいるので、サチは残ってメイド歩行術の特別強化修行月間を向かえなければいけなかった。そう、都会に行きたいのではなく、修行を逃げたかったのだ。

 オヤマーからの迎えが来た。すぐに行くのかと思ったが、ノエルポエムはじめ、ターナー領で生活していた使用人たちが、どうしても温泉に行きたいというので、その日は総出で温泉へ。一晩ターナー家に泊まり、使用人どうし旧知を温めた。



「明日からしばらくの間、お姉様はお祖父様とお祖母様の所に行ってきます。しばらくの間会えないけど、クリシュ大丈夫だよね」

 枕元で絵本を読み聞かせたレイシアは、クリシュの頭をなでながら聞いた。

「お姉様、いなくなるの? さみしい」

「う~ん。……でもね、本格的に学園に行ったら、中々帰って来れなくなるの。だから、その練習。いきなりいなくなったら嫌でしょ」
「…………」

「お姉様ね、クリシュが生まれる時、お母様が、お祖父様お祖母様の所にずっと行っていてね、お父様と二人で一年以上過ごしていたのよ。その時サチと[素敵なお姉様計画]を立てたの」
「素敵なお姉様計画?」

「そう。だから頑張れたし、何でも出来るようになったのよ。クリシュもやる?[素敵な弟計画]」
「素敵な弟計画! やる! やりたい! お姉様みたいになりたい!」

「そう。じゃあサチと相談しなさい。サチならきっとクリシュを立派な弟にしてくれるわ」

 もう一度頭をなでて、おやすみの挨拶をしてからレイシアは部屋を去った。

 クリシュは、[素敵な弟計画]が気になって、なかなか寝付くことが出来なかった。

◇◇◇



 翌日、高く晴れ上がった青空の下、レイシアはオヤマーに向けて出発した。

 荷物はほとんどない。多少の着替えだけ。それでも、髪留めの猫だけは大事に着けていた。サチと一緒にいるようで心強かった。

(頑張って勉強してくるよ。みんな待っててね)

 馬車はガタゴトとレイシアを揺らしながらオヤマーに向かって進んでいった。

第三章(完)
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