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第三章 頑張るお姉様 レイシア7〜11歳

26話  想いは風にとける レイシア10歳

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 〈前回、読み飛ばした人への状況説明〉

 梅雨の大雨で土砂崩れがおきる。
 農地が荒れ、魔物が暴れ、街道が崩れ、ターナー領が借金まみれ。
 教会本部と大喧嘩、寄付金ネコババされる
 お母様が実家に金策に行く。

 お母様、蜘蛛に噛まれて亡くなる。

 借金を抱えて、農地が荒れたターナー領のこれからは←いまここ

では、物語再開です


◇◇◇



〈レイシア視点〉

 もうすぐ、クリシュ5歳の大切な誕生日。
 洗礼を受ける大切な誕生日。

 それでも、去年のようには豪華に出来ない。

 お母様が亡くなってからは、使用人の数も減った。メイドのノエル、ポエムはじめ、お母様付きの祖父母が送ってきた使用人は、全てオヤマー領に引き上げたんだ。
 実家が心配で辞めた人もいたよ。これを機に結婚するから、と辞めた人もいた。

 みんな、分かっていたんだ。これ以上、お給金で迷惑はかけられないと……

 お母様はもういない。人も減った。お金もない。

 ……それでも、クリシュは5歳になる。

 お祝いは丁寧にやろう。
 豪華でなくていい。
 心を込めて。
 できることを精一杯。

 無いことを嘆く前に、やれることをやるんだ。

 ないなら作ればいい。
 ないならやればいい。

 何もなくても、お祝いはできる。

 飾り付けはできる。メイドのみんなと協力して。

 料理も作れる。師匠とシムと協力して。

 楽団も呼べない? 私が歌うよ。みんなで歌おう。

 プレゼントも作ればいい。絵本を作ろう。あれだけ本を読んできたんだ。

 お母様がいないなら、私がお母様の分まで愛せばいい。

 お母様が実家に帰っていたあの時期は、これからの練習だったんだ。あの時はお父様と二人。今はクリシュがいる。そうよ、平気。

 だからクリシュ。あなたは大丈夫。まっすぐ育ってね。

 お誕生日、おめでとう、クリシュ。クリシュのためなら、お姉さま何だって頑張るよ。



◇三人称◇


「「お誕生日おめでとう、クリシュ」」

 レイシアとクリフトがお祝いの言葉をかけると、使用人のみんなが紙吹雪を撒いた。二階の窓や木の上からも。
 大量の紙吹雪。紙はそれでも田舎ではまだまだ手に入りにくい。でもこれだけの紙は神父様が用意してくれた。捨てなくちゃいけない、沢山の薄い本を細かく切ったものだ。

 お母様の想いが、風と共に舞い散る。心残りを浄化するように。過去の辛い思い出や出来事も、細かく千切って撒いてしまえば美しい情景に変わる。古い言葉も内容も、新たな意味に塗り替えられる。

 神父はレイシアに紙を渡すときにこう言った。

「誕生日に、この紙を撒きなさい。アリシア様が、君のお母様が(この本を)残していくことを心配していたんだ。これを撒いてしまえば、何も心残りはなくなる。安心して神の国から君たちを見守ることが出来るだろう」

「お母様が(私たちを)残していくことを心配してくれていたのですね。これを(クリシュのための祝福として)撒けばお母様の心残りはなくなるのですね。分かりました。お母様、安心して私たちを見守って下さい」

 お母様の紙吹雪が舞い散る中、クリシュは笑顔で「ありがとうございます。お父様、お姉様、そして、神の国のお母様」とお礼を言った。

 思い残す事はもうない。これからは家族三人、前を向いて歩もう。

 誕生日は、みんなの愛に包まれて、穏やかな空気で進行していった。
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