貧乏奨学生の子爵令嬢は、特許で稼ぐ夢を見る 〜レイシアは、今日も我が道つき進む!~

みちのあかり

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第三章 頑張るお姉様 レイシア7〜11歳

25話 辛い話は聞きたくないよね。うん、書きたくもないんだ。

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 急展開です。いつものほのぼのしたお話は、今回だけはできません。

 辛い話苦手な人は、今回だけ逃げて!!!



  …………………………………………


 アリシアの誕生日パーティーが5月10日におこなわれた。大人のためのシックな誕生日パーティー。久しぶりにアリシアの旧友も呼んだりし、それはまるで夢のような1日。


 幸せな日々はいつまでも続くはずだった。


 ◇◇◇


 6月6日。ゆるやかに降り出した雨は、作物に恵みを与えた。

 7日 8日 9日 雨は降り続く。

 10日。雨上がりの空には虹が掛かり、人々は晴れやかな顔で仕事に取り組んだ。

 12日。突然の雷鳴と共に、嵐がやってきた。バケツをひっくり返すような土砂降り。気温は下がり風が吹き荒れる中、大粒の雹が降ってきた。

 果樹をはじめ、農作物が大ダメージを受けた。

 それでも雨は止むことはなく、13日、長雨で緩んだ山肌か崩壊し土石流がターナー領をかすった。直撃しなかったのは、女神アクアの加護のおかげだった。

 ◇

 だが、住処を失った大型動物や魔物が混乱、移動を始めた。

 冒険者ギルドがいち早く動き、混乱して山から降りてくる魔物を防いでいた。が、初心者の町と言われるほど平和なターナー領。この町にいる冒険者では、全てを防ぐことなど不可能だった。

 領主クリフトも兵を出したが、領民の避難・安全確保で手が一杯。それでも被害が最小限になるように内政を頑張った。

 ◇

 16日。雨は止んだ。魔物も落ち着いた。沢山の避難民と怪我をした冒険者達のために、領主の敷地も館も開放した。教会ではレイシアが指揮を執り、孤児達が炊き出しを始めた。

 領主は冒険者ギルドと教会、その他必要な所には、充分な資金と食材と資材と薬を惜しげもなく回した。それでもなお、人手だけは足りなかった。

 ◇

 17日。中央に、被害の状況報告と支援を頼むため、神父を王都まで向かわせることにした。神父と衛兵3人と冒険者4人で王都に向かった。夕方、冒険者の一人が戻ってきて言った。

「だめだ、街道が土砂崩れで通れない。馬車がぬかるみにはまったため、神父と他のメンバーは野営して明日戻る」

 クリフトは呆然となった。が、すぐに箝口令を出した。新たに手紙を書き、なんとか隣町の町長と教会と冒険者ギルドに手紙を渡すよう、冒険者ギルドに依頼した。道なき道を通るのは、衛兵より冒険者の方が向いている。2日掛かったが手紙は渡された。

 それでも街道が通れないと、支援は届かず人手も来ない。土砂を取り除くのに、発見から10日以上かかった。

 気がつけば8月になっていた。

 ◇

 王都から支援が来た。人手も送ってもらった。復興景気だと一部は盛り上がっていた。

 ところが、復興にかかる資金は膨大。中央からは、。とてもじゃないが足りるはずがない。

 教会は、ここぞとばかり神父の配置換えを画策。領主クリフトは全面的に対抗。おかげで払われる筈の支援金は7割程度しか来ず、善意の寄付も大半が長老達の懐に消えた。

 社交を疎かにしていたツケで、貴族からの寄付や借用金もままならない。

 農産物は大被害。税は半分にしてもらえたが、不作のためそんなに収穫もない。

 ターナー領は、八方塞がりだった。

 ◇◇◇

 9月20日

「お父様にお願いしに行きます」

 アリシアはクリフトにいった。

「あなたと父の仲が悪いのは今更だけど、今はなんとかしなくちゃいけないわ。私が頼んでくるから。あなたも変なプライドを捨てて! 私達のために。このターナー領のために」

 クリフトは、すまないとアリシアに頼った。

 ◇

 10月25日~28日(月末)

 アリシアはレイシアを連れて、故郷のオヤマーに向かった。従者と護衛はしっかりといる。途中魔物と出くわしたが、護衛がきっちりと仕留めた。だが、その時アリシアの足に、小さな蜘蛛が噛みついた事には気が付かなかった。

 11月1日

 オヤマーに着いたアリシアとレイシアは、アリシアの両親から歓迎を受けた。二人はアリシアの両親を説得。その最中、蜘蛛の毒でアリシアが倒れた。遅効性の毒だった。

 王都から名医を呼び、治療に当たらせたが時既に遅し。具合は良くなることはなかった。

 11月11日

 アリシアはレイシアの手を取りながら、父母には感謝の言葉とターナー領の復興の願いを、レイシアには、家族への愛と、クリシュの事を頼んで息を引き取った。最後は苦しむ事なく、安らかに亡くなった。

 ……この日は、レイシアの誕生日……

 ◇

 クリフトは、急いで駆けつけた。初めてオヤマー領に足を踏み入れた。オヤマー夫妻は、クリフトを怒鳴りつけた。お前がいなければ娘は…………。クリフトはただただ泣いた。口答えすることもなく、謝り、ただただ泣いた。
 レイシアが仲を取り持ち、その場は収まった。

 ◇

 オヤマーでのアリシアの葬儀が終わった。別れ際、オヤマー夫妻はクリフトに言った。

「アリシアの最後の望みだ。必要な金は貸してやる。利子はいらん。だが期日は守れ。遅れることは許さん」

 レイシアにはこう言った。

「レイシア、お前は儂らの孫だ。どうだい、ここで儂らと暮らさないか。ここにいれば何も苦労することはない。お前が来てくれたら、借金を減らしてもいい。どうだい」

 レイシアは即座に断った。お母様の最後の言葉が、クリシュをお願いだったと言って。

 お祖父様は
「クリフト、もし期日を守れなければレイシアをよこせ。それが条件だ」
 と、勝手に契約条件を増やした。

 ◇ ◇ ◇

 12月20日

 ターナー領でアリシアのささやかな葬儀が行われた。遺体はすぐに悪くなる。亡くなったオヤマーでアリシアは埋葬されていたが、僅かな遺髪だけをもとに、小さなお墓も作られた。

 お墓の前でレイシアは、

「今日からは、私がみんなのお母さんになるから。安心してね。お母様」

 と、泣くことを我慢しながら誓った。

 これが、クリシュの5歳の誕生日までに起こった、ターナー領とターナー家の悲しい出来事です。
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「貧乏奨学生の子爵令嬢は、特許で稼ぐ夢を見る 〜レイシアは、今日も我が道つき進む!~」https://www.alphapolis.co.jp/novel/892339298/357766056 #
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