貧乏奨学生の子爵令嬢は、特許で稼ぐ夢を見る 〜レイシアは、今日も我が道つき進む!~

みちのあかり

文字の大きさ
上 下
13 / 177
第二章 お母様と弟 レイシア6歳

13話 ティーブレイク

しおりを挟む
「ターゲット目標地点まで後、30 …… 20 …… 10 9 8 7 6 5 ミュージック~ スタート」

 レイシアの号令により高らかに鳴るファンファーレ。そして威風堂々と流れる行進曲。

 馬車の動きに合わせ、静かにおさまったと同時に馬車が動きを止めた。

「さあ、お父様。出番ですよ」

 レイシアに言われ、よくわからないまま父クリフトは馬車に近づき、母アリシアをエスコートする。

 盛大な拍手の中、仮舞台の上に二人で上がる。挨拶だったら慣れている。大丈夫だ。大きくなる拍手をクリフトは右手を高く上げて制した。

「今日は私の妻アリシアのために、このような歓迎セレモニーを開いて貰えたこと、心より感謝する。何かやるとはレイシアから聞いてはいたが、ここまで素晴らしいものとは思わなかった。ありがとう」

 レイシアが裏で合図を出す。

 空砲が鳴り、青空の下割れるくす玉。舞い散る紙吹雪は風になびく花びらのよう。大空に鳩がいっせいに翔び立つ。大空を旋回する鳩に合わせるように鳴り響くファンファーレ。二人を祝福するように鳴り止まない拍手。
 
 ……途方に暮れる父と母。

 レイシアが両親に近づくと、拍手が途切れた。皆がレイシアを見つめ息を飲む。静寂と張り詰めた緊張感が辺りを包む。

「お帰りなさい、お母様」 

 とレイシアが母に抱きつくと、ギャラリーと化したスタッフから歓声と涙と拍手。

 スタッフ感動の中、楽団は軽快な音楽を奏で、レイシアは父にお母様をエスコートして部屋に行くようにコソッと指示をだす。

 クリフトは、(今去らなければマズイ)と本能で悟り、にこやかな作り笑顔で手を振りながら、アリシアと共に式場から退場した。そして、((これで終わった(わ)))と一息付いた。



 父と母、並びに母の従者一同が去ったのを確認し、レイシアはスタッフに向かって言った。

「皆さまのおかげで無事、は終了しました。 とても良いオープニングでした。…………ではこれより、。全員総力を上げて、おもてなしの心で取り組んで下さい。では、各チーフの指示に従い活動開始!」

 スタッフは、これからが本番だと気合を入れ直し、移動を始めた。



 盛大な歓迎を受けたアリシアは、感動と嬉しさの中で、わずかに違和感を覚えていた。
 
 (あの人クリフトがこんな気の利いた事ができるとは思えない)

 こういった気遣いに対しての夫への信用度は限りなく低い。むしろ、そこをフォローするのが妻である私の役目、だとアリシアは思っている。

 まあしかし、何も知らされず普段通りの帰宅だと思っていた所に、あれ程までのサプライズなお出迎えは、結婚披露パーティー以来。いやそれ以上の演出と感動である。
 温泉でデトックスを終えた女心に、キュンキュンと感動の矢が突き刺さったのは、至極当然の事だった。

 (あの人も私がいない一年半で成長したのね。私も頑張らなくては)

 歓迎式典の興奮をまだ残し、甘い気持ちを味わうアリシアだった。



 ノックの音。

「お茶をお持ちしました」
と言うメイド長の声。

 アリシアが「どうぞ」と言うと、メイド長とワゴンを押した小柄なメイドを先頭に、アリシアに付いて行かなかったメイド一同が、挨拶のためにが部屋に入る。

「奥様の無事のお帰り、メイド一同心より喜んでおります。お帰りなさいませ。アリシア様」

 メイド長が頭を下げると一斉にメイド達も頭を下げる。アリシアはメイド一同で挨拶に来てもらえるとは思ってもいなかってので、メイド長の心遣いに感激していた。

 気がつくと目の前にお茶とお菓子がセットされていた。クッキーの脇に初めてみた色のジャムがある。

「これは?」

「スペシャルメニューでございます。どうぞ、紅茶と一緒にお召し上がり下さい」

 メイド長の言葉にうながされ濃い桃色をしたジャムをクッキーに乗せる。

 サクッとした口当たり。いつもより控えめの甘さのクッキーが、爽やかで甘酸っぱい不思議な味のジャムを引き立てている。

 紅茶を口にすると、甘酸っぱいジャムの香りと、芳醇な紅茶の香りが混ざり合い、格調高い香りのハーモニーを生み出した。

「これは……」

 アリシアが感嘆の声を挙げた時、ワゴンの陰から小柄なメイドが現れた。

「僭越ながら、本日のメニューはわたくしが用意させて頂きました」

 アリシアは、メイドをじっと見つめた……。

(レイシア?なんでメイドの姿?なに?)

「本日の紅茶は、グラニュール地方で採れた、カーラードの一番摘みの茶葉で入れております。クッキーは、いつもよりバターと砂糖を減らし、小麦の味を立たせるあっさりとした仕上げに。そして、この度の一押しサクランボのジャム。ターナー領特産、今が旬のサクランボをジャムにしました。砂糖に蜂蜜を加えることで、単純でない甘さを出すことに成功。そこに酢を適量加えることによって、爽やかな酸味と保存期間の延長に成功した至極の逸品。今まで痛みやすく、他領に出荷できなかったサクランボを、ジャムに加工する事によって、新たなターナー領の産業、名産品として活用出来るのではないかと自負しています」

「…………?」

「お母様、このように弟がいつ来ても心遣いができ、更にターナー領が発展することで、弟の将来に希望が持てるように、私は姉としてお母様がいない間頑張ってきました。安心して弟のお世話をお任せ下さい。では、本日はごゆっくりお過ごし下さい」

 レイシアはメイドの口調でお辞儀をし、ドアへと向かった。

 アリシアはあまりの展開に思考停止していた。メイド達の拍手のもとレイシアは退場。その後全員がお辞儀をし、ターナー家付きのメイド達は退室した。

 部屋には、茫然自失したアリシアだけが、残されたのだった。
しおりを挟む
「貧乏奨学生の子爵令嬢は、特許で稼ぐ夢を見る 〜レイシアは、今日も我が道つき進む!~」https://www.alphapolis.co.jp/novel/892339298/357766056 #
感想 32

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!

ペトラ
恋愛
   ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。  戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。  前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。  悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。  他サイトに連載中の話の改訂版になります。

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

逃げて、追われて、捕まって

あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。 この世界で王妃として生きてきた記憶。 過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。 人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。 だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。 2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ 2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。 **********お知らせ*********** 2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。 それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。 ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

追放もの悪役勇者に転生したんだけど、パーティの荷物持ちが雑魚すぎるから追放したい。ざまぁフラグは勘違いした主人公補正で無自覚回避します

月ノ@最強付与術師の成長革命/発売中
ファンタジー
ざまぁフラグなんて知りません!勘違いした勇者の無双冒険譚  ごく一般的なサラリーマンである主人公は、ある日、異世界に転生してしまう。  しかし、転生したのは「パーティー追放もの」の小説の世界。  なんと、追放して【ざまぁされる予定】の、【悪役勇者】に転生してしまったのだった!  このままだと、ざまぁされてしまうが――とはならず。  なんと主人公は、最近のWeb小説をあまり読んでおらず……。  自分のことを、「勇者なんだから、当然主人公だろ?」と、勝手に主人公だと勘違いしてしまったのだった!  本来の主人公である【荷物持ち】を追放してしまう勇者。  しかし、自分のことを主人公だと信じて疑わない彼は、無自覚に、主人公ムーブで【ざまぁフラグを回避】していくのであった。  本来の主人公が出会うはずだったヒロインと、先に出会ってしまい……。  本来は主人公が覚醒するはずだった【真の勇者の力】にも目覚めてしまい……。  思い込みの力で、主人公補正を自分のものにしていく勇者!  ざまぁフラグなんて知りません!  これは、自分のことを主人公だと信じて疑わない、勘違いした勇者の無双冒険譚。 ・本来の主人公は荷物持ち ・主人公は追放する側の勇者に転生 ・ざまぁフラグを無自覚回避して無双するお話です ・パーティー追放ものの逆側の話 ※カクヨム、ハーメルンにて掲載

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

処理中です...