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第二章 お母様と弟 レイシア6歳
13話 ティーブレイク
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「ターゲット目標地点まで後、30 …… 20 …… 10 9 8 7 6 5 ミュージック~ スタート」
レイシアの号令により高らかに鳴るファンファーレ。そして威風堂々と流れる行進曲。
馬車の動きに合わせ、静かにおさまったと同時に馬車が動きを止めた。
「さあ、お父様。出番ですよ」
レイシアに言われ、よくわからないまま父クリフトは馬車に近づき、母アリシアをエスコートする。
盛大な拍手の中、仮舞台の上に二人で上がる。挨拶だったら慣れている。大丈夫だ。大きくなる拍手をクリフトは右手を高く上げて制した。
「今日は私の妻アリシアのために、このような歓迎セレモニーを開いて貰えたこと、心より感謝する。何かやるとはレイシアから聞いてはいたが、ここまで素晴らしいものとは思わなかった。ありがとう」
レイシアが裏で合図を出す。
空砲が鳴り、青空の下割れるくす玉。舞い散る紙吹雪は風になびく花びらのよう。大空に鳩がいっせいに翔び立つ。大空を旋回する鳩に合わせるように鳴り響くファンファーレ。二人を祝福するように鳴り止まない拍手。
……途方に暮れる父と母。
レイシアが両親に近づくと、拍手が途切れた。皆がレイシアを見つめ息を飲む。静寂と張り詰めた緊張感が辺りを包む。
「お帰りなさい、お母様」
とレイシアが母に抱きつくと、ギャラリーと化したスタッフから歓声と涙と拍手。
スタッフ感動の中、楽団は軽快な音楽を奏で、レイシアは父にお母様をエスコートして部屋に行くようにコソッと指示をだす。
クリフトは、(今去らなければマズイ)と本能で悟り、にこやかな作り笑顔で手を振りながら、アリシアと共に式場から退場した。そして、((これで終わった(わ)))と一息付いた。
◇
父と母、並びに母の従者一同が去ったのを確認し、レイシアはスタッフに向かって言った。
「皆さまのおかげで無事、オープニングは終了しました。 とても良いオープニングでした。…………ではこれより、本編を決行します。全員総力を上げて、おもてなしの心で取り組んで下さい。では、各チーフの指示に従い活動開始!」
スタッフは、これからが本番だと気合を入れ直し、移動を始めた。
◇
盛大な歓迎を受けたアリシアは、感動と嬉しさの中で、わずかに違和感を覚えていた。
(あの人がこんな気の利いた事ができるとは思えない)
こういった気遣いに対しての夫への信用度は限りなく低い。むしろ、そこをフォローするのが妻である私の役目、だとアリシアは思っている。
まあしかし、何も知らされず普段通りの帰宅だと思っていた所に、あれ程までのサプライズなお出迎えは、結婚披露パーティー以来。いやそれ以上の演出と感動である。
温泉でデトックスを終えた女心に、キュンキュンと感動の矢が突き刺さったのは、至極当然の事だった。
(あの人も私がいない一年半で成長したのね。私も頑張らなくては)
歓迎式典の興奮をまだ残し、甘い気持ちを味わうアリシアだった。
◇
ノックの音。
「お茶をお持ちしました」
と言うメイド長の声。
アリシアが「どうぞ」と言うと、メイド長とワゴンを押した小柄なメイドを先頭に、アリシアに付いて行かなかったメイド一同が、挨拶のためにが部屋に入る。
「奥様の無事のお帰り、メイド一同心より喜んでおります。お帰りなさいませ。アリシア様」
メイド長が頭を下げると一斉にメイド達も頭を下げる。アリシアはメイド一同で挨拶に来てもらえるとは思ってもいなかってので、メイド長の心遣いに感激していた。
気がつくと目の前にお茶とお菓子がセットされていた。クッキーの脇に初めてみた色のジャムがある。
「これは?」
「スペシャルメニューでございます。どうぞ、紅茶と一緒にお召し上がり下さい」
メイド長の言葉にうながされ濃い桃色をしたジャムをクッキーに乗せる。
サクッとした口当たり。いつもより控えめの甘さのクッキーが、爽やかで甘酸っぱい不思議な味のジャムを引き立てている。
紅茶を口にすると、甘酸っぱいジャムの香りと、芳醇な紅茶の香りが混ざり合い、格調高い香りのハーモニーを生み出した。
「これは……」
アリシアが感嘆の声を挙げた時、ワゴンの陰から小柄なメイドが現れた。
「僭越ながら、本日のメニューは私が用意させて頂きました」
アリシアは、メイドをじっと見つめた……。
(レイシア?なんでメイドの姿?なに?)
「本日の紅茶は、グラニュール地方で採れた、カーラードの一番摘みの茶葉で入れております。クッキーは、いつもよりバターと砂糖を減らし、小麦の味を立たせるあっさりとした仕上げに。そして、この度の一押しサクランボのジャム。ターナー領特産、今が旬のサクランボをジャムにしました。砂糖に蜂蜜を加えることで、単純でない甘さを出すことに成功。そこに酢を適量加えることによって、爽やかな酸味と保存期間の延長に成功した至極の逸品。今まで痛みやすく、他領に出荷できなかったサクランボを、ジャムに加工する事によって、新たなターナー領の産業、名産品として活用出来るのではないかと自負しています」
「…………?」
「お母様、このように弟がいつ来ても心遣いができ、更にターナー領が発展することで、弟の将来に希望が持てるように、私は姉としてお母様がいない間頑張ってきました。安心して弟のお世話をお任せ下さい。では、本日はごゆっくりお過ごし下さい」
レイシアはメイドの口調でお辞儀をし、ドアへと向かった。
アリシアはあまりの展開に思考停止していた。メイド達の拍手のもとレイシアは退場。その後全員がお辞儀をし、ターナー家付きのメイド達は退室した。
部屋には、茫然自失したアリシアだけが、残されたのだった。
レイシアの号令により高らかに鳴るファンファーレ。そして威風堂々と流れる行進曲。
馬車の動きに合わせ、静かにおさまったと同時に馬車が動きを止めた。
「さあ、お父様。出番ですよ」
レイシアに言われ、よくわからないまま父クリフトは馬車に近づき、母アリシアをエスコートする。
盛大な拍手の中、仮舞台の上に二人で上がる。挨拶だったら慣れている。大丈夫だ。大きくなる拍手をクリフトは右手を高く上げて制した。
「今日は私の妻アリシアのために、このような歓迎セレモニーを開いて貰えたこと、心より感謝する。何かやるとはレイシアから聞いてはいたが、ここまで素晴らしいものとは思わなかった。ありがとう」
レイシアが裏で合図を出す。
空砲が鳴り、青空の下割れるくす玉。舞い散る紙吹雪は風になびく花びらのよう。大空に鳩がいっせいに翔び立つ。大空を旋回する鳩に合わせるように鳴り響くファンファーレ。二人を祝福するように鳴り止まない拍手。
……途方に暮れる父と母。
レイシアが両親に近づくと、拍手が途切れた。皆がレイシアを見つめ息を飲む。静寂と張り詰めた緊張感が辺りを包む。
「お帰りなさい、お母様」
とレイシアが母に抱きつくと、ギャラリーと化したスタッフから歓声と涙と拍手。
スタッフ感動の中、楽団は軽快な音楽を奏で、レイシアは父にお母様をエスコートして部屋に行くようにコソッと指示をだす。
クリフトは、(今去らなければマズイ)と本能で悟り、にこやかな作り笑顔で手を振りながら、アリシアと共に式場から退場した。そして、((これで終わった(わ)))と一息付いた。
◇
父と母、並びに母の従者一同が去ったのを確認し、レイシアはスタッフに向かって言った。
「皆さまのおかげで無事、オープニングは終了しました。 とても良いオープニングでした。…………ではこれより、本編を決行します。全員総力を上げて、おもてなしの心で取り組んで下さい。では、各チーフの指示に従い活動開始!」
スタッフは、これからが本番だと気合を入れ直し、移動を始めた。
◇
盛大な歓迎を受けたアリシアは、感動と嬉しさの中で、わずかに違和感を覚えていた。
(あの人がこんな気の利いた事ができるとは思えない)
こういった気遣いに対しての夫への信用度は限りなく低い。むしろ、そこをフォローするのが妻である私の役目、だとアリシアは思っている。
まあしかし、何も知らされず普段通りの帰宅だと思っていた所に、あれ程までのサプライズなお出迎えは、結婚披露パーティー以来。いやそれ以上の演出と感動である。
温泉でデトックスを終えた女心に、キュンキュンと感動の矢が突き刺さったのは、至極当然の事だった。
(あの人も私がいない一年半で成長したのね。私も頑張らなくては)
歓迎式典の興奮をまだ残し、甘い気持ちを味わうアリシアだった。
◇
ノックの音。
「お茶をお持ちしました」
と言うメイド長の声。
アリシアが「どうぞ」と言うと、メイド長とワゴンを押した小柄なメイドを先頭に、アリシアに付いて行かなかったメイド一同が、挨拶のためにが部屋に入る。
「奥様の無事のお帰り、メイド一同心より喜んでおります。お帰りなさいませ。アリシア様」
メイド長が頭を下げると一斉にメイド達も頭を下げる。アリシアはメイド一同で挨拶に来てもらえるとは思ってもいなかってので、メイド長の心遣いに感激していた。
気がつくと目の前にお茶とお菓子がセットされていた。クッキーの脇に初めてみた色のジャムがある。
「これは?」
「スペシャルメニューでございます。どうぞ、紅茶と一緒にお召し上がり下さい」
メイド長の言葉にうながされ濃い桃色をしたジャムをクッキーに乗せる。
サクッとした口当たり。いつもより控えめの甘さのクッキーが、爽やかで甘酸っぱい不思議な味のジャムを引き立てている。
紅茶を口にすると、甘酸っぱいジャムの香りと、芳醇な紅茶の香りが混ざり合い、格調高い香りのハーモニーを生み出した。
「これは……」
アリシアが感嘆の声を挙げた時、ワゴンの陰から小柄なメイドが現れた。
「僭越ながら、本日のメニューは私が用意させて頂きました」
アリシアは、メイドをじっと見つめた……。
(レイシア?なんでメイドの姿?なに?)
「本日の紅茶は、グラニュール地方で採れた、カーラードの一番摘みの茶葉で入れております。クッキーは、いつもよりバターと砂糖を減らし、小麦の味を立たせるあっさりとした仕上げに。そして、この度の一押しサクランボのジャム。ターナー領特産、今が旬のサクランボをジャムにしました。砂糖に蜂蜜を加えることで、単純でない甘さを出すことに成功。そこに酢を適量加えることによって、爽やかな酸味と保存期間の延長に成功した至極の逸品。今まで痛みやすく、他領に出荷できなかったサクランボを、ジャムに加工する事によって、新たなターナー領の産業、名産品として活用出来るのではないかと自負しています」
「…………?」
「お母様、このように弟がいつ来ても心遣いができ、更にターナー領が発展することで、弟の将来に希望が持てるように、私は姉としてお母様がいない間頑張ってきました。安心して弟のお世話をお任せ下さい。では、本日はごゆっくりお過ごし下さい」
レイシアはメイドの口調でお辞儀をし、ドアへと向かった。
アリシアはあまりの展開に思考停止していた。メイド達の拍手のもとレイシアは退場。その後全員がお辞儀をし、ターナー家付きのメイド達は退室した。
部屋には、茫然自失したアリシアだけが、残されたのだった。
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