12 / 177
第二章 お母様と弟 レイシア6歳
12話 お母様の帰還
しおりを挟む
アリシアが、里帰り出産のため実家に帰ったのが、レイシアの5歳の誕生日が終わった、王国歴405年11月末。
翌年の2月5日出産。赤子を連れての馬車旅など、簡単に出来るわけもなく、父母の
「いつまでもいていいのよ~」
「何なら別れて戻っておいで」
「あんな男のどこがいいのよ~」
「そうだ。今からでも良い縁談が、」
「あなた!アリシアちゃんは、ずっと家にいててもいいのよ~」
「そうだな。早く別れて家にいなさい」
と言う精神を削られる攻撃をかいくぐり、ターナー領に戻れたのは、約一年半後の407年6月になってからだった。
◇ ◇ ◇
「お母様と弟が帰って来るのですか、お父様!」
6歳になったレイシアは、『素敵なお姉さま計画』のおかけでボキャブラリーも増え、お姉さまらしく振る舞える自信があった。元になっている情報が、なんとなく怪しい感じはあるが……。
「ああ、来月の6月4日に帰ってくると手紙が来た」
「やったー」
レイシアはぴょんぴょんと飛び跳ねて喜んだ。
「弟のクリシュにもやっと会える」
満面の笑顔で喜んでいたが、父は、
「クリシュは一緒には来ないようだ」
と、手紙を差し出して言った。
「なんで……」
「すぐに来ないだけだ。母さんが来て、部屋の準備とか育児環境を確認してからゆっくり来るからら6月中には一緒住めるよ」
「よかった」
レイシアはフゥと安心した息をついた。
「じゃあ、お母様のための『お帰りなさいお母様パーティー』を開かなくてはいけませんね。お父様、予算下さい」
と言うと、メイド長の所に走って行った。父クリフトは、(レイシアもしっかりしてきたな)と暢気に思った。
そして、レイシアの一年半の努力と成長の集大成、レイシアと師匠達(お父様抜き)が全力で企画した、
『お帰りなさいませアリシア様パーティー』
が、幕を上げるのだった。
◇
アリシアがターナー家に戻る当日。
アリシアはまっすぐ帰る事ができなかった。
とんだ所で足止めをくらっていたのだ。
◇
「ふぅ~。やっぱり温泉は最高~」
アリシアは一時の自由と開放感と温泉を心ゆくまで満喫していた。
前日まで移動に着いてきた父母は、ターナー領に足を踏み入れる気は更々なく、前の宿場町でお別れ。別れる際も、「戻っておいで」「早く別れろ」の雨嵐。夜明けと共に逃げるように馬車を出させて今に至る。
「温泉でデトックスしないと、愛しい夫と娘に気分良く会えないわ。あ~、癒やされる~」
予定を変更して温泉に来たのは、(この一年半で溜まった毒素を抜いてから会いたい)、と言う思いからなのだが、もう一方では、(心の底から温泉に浸かりたい)、と言う欲求からの行動である事も否定出来ない。
なにせこの世界において、風呂とは、『水を張った行水する場所』でしかないのだから。
『お風呂でお湯を沸かす』という思考はターナー領ですらない。
温かいお湯に浸かると言う文化はわずかに温泉が湧き出る所、いずれも王国の端にある辺鄙な場所にあるくらいだ。
冬場も冷たい風呂で体を拭きながら、温泉を夢見ること一年半。
愛しの夫や娘に合う前に温泉に浸かることの何が悪い。
綺麗になった私を見せたい。そんなどうでもいい言い訳を考えながら温泉に入っているのであった。
もちろん従者達も、温泉に魅了されているため、誰も温泉に寄ることを諌める者はなく、一同、温泉でくつろいでいるのだった。
(待っていてね、レイシア。お母さんもうすぐ行くから)
心の中ではそう思うのだがなかなか湯からは上がれない。
アリシアは、その後メイクにも時間がかかり、結局3時間程、温泉に居続ける事になってしまった。
◇
という情報は、温泉で働いているサチを中心とした孤児院の情報網をフル活用し、逐一レイシアに報告が上がっていた。
「今その状況ですと、アリシア様の身支度、メイクの時間を計算に入れたら、こちらに到着するのは15時半~16時かと思われます」
メイド長が到着見込み時間を告げる。レイシアは、スタッフ全員を見渡し、
「これからプランCバージョン4を決行します。総員、マニュアル確認と持ち場の最終確認を。15:10分までには各部署指定された場所にて待機。楽団の皆様はそれまでに着換えとチューニングを終わらせて下さい。それでは皆さま、素敵なパーティーになりますように、ご協力お願いします」
レイシアが大声で告げ皆を見渡すと、この一年半のレイシアの努力を知っているスタッフからは、感動の涙と盛大な拍手と喝采が起きたのだった。
翌年の2月5日出産。赤子を連れての馬車旅など、簡単に出来るわけもなく、父母の
「いつまでもいていいのよ~」
「何なら別れて戻っておいで」
「あんな男のどこがいいのよ~」
「そうだ。今からでも良い縁談が、」
「あなた!アリシアちゃんは、ずっと家にいててもいいのよ~」
「そうだな。早く別れて家にいなさい」
と言う精神を削られる攻撃をかいくぐり、ターナー領に戻れたのは、約一年半後の407年6月になってからだった。
◇ ◇ ◇
「お母様と弟が帰って来るのですか、お父様!」
6歳になったレイシアは、『素敵なお姉さま計画』のおかけでボキャブラリーも増え、お姉さまらしく振る舞える自信があった。元になっている情報が、なんとなく怪しい感じはあるが……。
「ああ、来月の6月4日に帰ってくると手紙が来た」
「やったー」
レイシアはぴょんぴょんと飛び跳ねて喜んだ。
「弟のクリシュにもやっと会える」
満面の笑顔で喜んでいたが、父は、
「クリシュは一緒には来ないようだ」
と、手紙を差し出して言った。
「なんで……」
「すぐに来ないだけだ。母さんが来て、部屋の準備とか育児環境を確認してからゆっくり来るからら6月中には一緒住めるよ」
「よかった」
レイシアはフゥと安心した息をついた。
「じゃあ、お母様のための『お帰りなさいお母様パーティー』を開かなくてはいけませんね。お父様、予算下さい」
と言うと、メイド長の所に走って行った。父クリフトは、(レイシアもしっかりしてきたな)と暢気に思った。
そして、レイシアの一年半の努力と成長の集大成、レイシアと師匠達(お父様抜き)が全力で企画した、
『お帰りなさいませアリシア様パーティー』
が、幕を上げるのだった。
◇
アリシアがターナー家に戻る当日。
アリシアはまっすぐ帰る事ができなかった。
とんだ所で足止めをくらっていたのだ。
◇
「ふぅ~。やっぱり温泉は最高~」
アリシアは一時の自由と開放感と温泉を心ゆくまで満喫していた。
前日まで移動に着いてきた父母は、ターナー領に足を踏み入れる気は更々なく、前の宿場町でお別れ。別れる際も、「戻っておいで」「早く別れろ」の雨嵐。夜明けと共に逃げるように馬車を出させて今に至る。
「温泉でデトックスしないと、愛しい夫と娘に気分良く会えないわ。あ~、癒やされる~」
予定を変更して温泉に来たのは、(この一年半で溜まった毒素を抜いてから会いたい)、と言う思いからなのだが、もう一方では、(心の底から温泉に浸かりたい)、と言う欲求からの行動である事も否定出来ない。
なにせこの世界において、風呂とは、『水を張った行水する場所』でしかないのだから。
『お風呂でお湯を沸かす』という思考はターナー領ですらない。
温かいお湯に浸かると言う文化はわずかに温泉が湧き出る所、いずれも王国の端にある辺鄙な場所にあるくらいだ。
冬場も冷たい風呂で体を拭きながら、温泉を夢見ること一年半。
愛しの夫や娘に合う前に温泉に浸かることの何が悪い。
綺麗になった私を見せたい。そんなどうでもいい言い訳を考えながら温泉に入っているのであった。
もちろん従者達も、温泉に魅了されているため、誰も温泉に寄ることを諌める者はなく、一同、温泉でくつろいでいるのだった。
(待っていてね、レイシア。お母さんもうすぐ行くから)
心の中ではそう思うのだがなかなか湯からは上がれない。
アリシアは、その後メイクにも時間がかかり、結局3時間程、温泉に居続ける事になってしまった。
◇
という情報は、温泉で働いているサチを中心とした孤児院の情報網をフル活用し、逐一レイシアに報告が上がっていた。
「今その状況ですと、アリシア様の身支度、メイクの時間を計算に入れたら、こちらに到着するのは15時半~16時かと思われます」
メイド長が到着見込み時間を告げる。レイシアは、スタッフ全員を見渡し、
「これからプランCバージョン4を決行します。総員、マニュアル確認と持ち場の最終確認を。15:10分までには各部署指定された場所にて待機。楽団の皆様はそれまでに着換えとチューニングを終わらせて下さい。それでは皆さま、素敵なパーティーになりますように、ご協力お願いします」
レイシアが大声で告げ皆を見渡すと、この一年半のレイシアの努力を知っているスタッフからは、感動の涙と盛大な拍手と喝采が起きたのだった。
53
お気に入りに追加
667
あなたにおすすめの小説
私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?
水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。
日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。
そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。
一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。
◇小説家になろうにも掲載中です!
◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています
転生したので前世の大切な人に会いに行きます!
本見りん
恋愛
魔法大国と呼ばれるレーベン王国。
家族の中でただ一人弱い治療魔法しか使えなかったセリーナ。ある出来事によりセリーナが王都から離れた領地で暮らす事が決まったその夜、国を揺るがす未曾有の大事件が起きた。
……その時、眠っていた魔法が覚醒し更に自分の前世を思い出し死んですぐに生まれ変わったと気付いたセリーナ。
自分は今の家族に必要とされていない。……それなら、前世の自分の大切な人達に会いに行こう。そうして『少年セリ』として旅に出た。そこで出会った、大切な仲間たち。
……しかし一年後祖国レーベン王国では、セリーナの生死についての議論がされる事態になっていたのである。
『小説家になろう』様にも投稿しています。
『誰もが秘密を持っている 〜『治療魔法』使いセリの事情 転生したので前世の大切な人に会いに行きます!〜』
でしたが、今回は大幅にお直しした改稿版となります。楽しんでいただければ幸いです。
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!
【完結】捨てられた双子のセカンドライフ
mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】
王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。
父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。
やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。
これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。
冒険あり商売あり。
さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。
(話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)
30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。
ひさまま
ファンタジー
前世で搾取されまくりだった私。
魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。
とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。
これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。
取り敢えず、明日は退職届けを出そう。
目指せ、快適異世界生活。
ぽちぽち更新します。
作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。
脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。
婚約破棄してたった今処刑した悪役令嬢が前世の幼馴染兼恋人だと気づいてしまった。
風和ふわ
恋愛
タイトル通り。連載の気分転換に執筆しました。
※なろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、pixivに投稿しています。
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
思い込み、勘違いも、程々に。
棗
恋愛
※一部タイトルを変えました。
伯爵令嬢フィオーレは、自分がいつか異母妹を虐げた末に片想い相手の公爵令息や父と義母に断罪され、家を追い出される『予知夢』を視る。
現実にならないように、最後の学生生活は彼と異母妹がどれだけお似合いか、理想の恋人同士だと周囲に見られるように行動すると決意。
自身は卒業後、隣国の教会で神官になり、2度と母国に戻らない準備を進めていた。
――これで皆が幸福になると思い込み、良かれと思って計画し、行動した結果がまさかの事態を引き起こす……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる