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第一章 ステキなお姉様になるよ(レイシア5歳)

9話 閑話 料理長の困惑

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 俺は料理長のサム。部下は見習いのシム。奥様が出産のため実家に帰ってから使用人もだいぶ減ってしまった。まあ、旦那と嬢ちゃんと2人なら、これだけいれば上等だろうよ。

 昼休憩もそろそろ終わろうとしていたらレイシア嬢ちゃんがトコトコと近付いてきて、「お願いがあるの」と言われたんだ。おやつでも欲しいのかと思えば、料理を習いたいそうだ。

「いや、レイシア様、キッチンは危険がいっぱいですぜ。なんでも好きなものは私が作りますのでご注文下さい」

 言っては見たものの聞きゃあしない。何でも『素敵なお姉さま計画』ってヤツを立ててるらしい。旦那様に相談したら、

「まあ、レイシアもアリシアがいなくなって寂しいんだろう。今は良い姉になると頑張っているから、遊ばせてあげると思って少し付き合ってやってくれ」

 嬢ちゃんの遊び相手か。ならいいか。そう思って教えることにした。

「いいか、食材に触る前はまず手洗いだ。汚い手で触った料理を弟や妹に食べさせたいか」
「いやです。キレイがいいです」

「そうだろう。食べてくれる人の気持ちになって作る。それがなければ料理しちゃだめだ」
「ありがとうございます。先生。手を洗って来ます」

 キラキラした目で先生って言われたよ。でも師匠って呼んでね。



 嬢ちゃんは月~金曜教会に行っているらしく、土曜日を料理の日と決めたようだ。日曜日はメイドの日だそうだ。



「まずは掃除から」
そう言うと嬢ちゃんは料理作るんじゃないの? って顔をした。

「手を洗う時も言ったが、汚れた場所で作った食事と清潔な場所で作った食事、どっち食べさせたい」
「汚くない方です」
「だから掃除だ」

「分かりました。掃除得意です。教会でも孤児院でもやってます。お任せ下さい」

 そう言うと、凄く丁寧にテーブルを拭きだした。

 イヤ、あのね、掃除は見習いの基本だけどさ……、嬢ちゃんに調理とか危ないからね……、掃除って言ったら飽きるか嫌がって訓練辞めるかな~って感じだったんだけどさ……、なんで油汚れのこびり付いたテーブルが光り輝いてるの!

 嬢ちゃんが本気なら、俺も本気で応えてやるか。



「師匠~。掃除終わりやした~。薪運ぶんっすよね」

 嬢ちゃん、シムの喋り方真似してるのか? どしたの?

「いや~、神父様もメイド長も『人は時と場所と立場によって、話し方も態度も変えなければいけません。TPOを身に着けましょう』って言うんでね、調理見習いらしくしてるんでさ~。ガッハッハ」

 ……そうなの?神父とメイド長がそういったの?………………ならいいか。



「勝手に包丁を触るな!」

 3ヶ月目のそろそろ慣れたある日。嬢ちゃんが気を利かせて洗い物を始めたとき、俺の包丁を持ち上げたのだ。俺はゆっくり置くように指示し、安全を確認してから言った。

「いいか、包丁は危険だ。取り扱い次第では大怪我をする。だがな、それだけじゃない。騎士が己のソードを触らせないように、魔法使いが己の杖を触らせないように、料理人に取っては包丁は自分の分身と同じ位大切な物なんだ。包丁を大切にしない料理人なんて三流以下。人の包丁を触る者は見習い以下だ。覚えておけ」

 嬢ちゃんは涙を堪えながら 「はい。一生心にきざんでおきます。師匠」と、俺に言った。今が嬢ちゃんの成長のタイミングか。いつ渡そうか決めかねていたブツを戸棚から出した。

「よし、ならばこれを使え。お前のファーストナイフはこの果物ナイフだ。扱い方を教えよう」

 嬢ちゃんは涙を流して「ありがとうございます、師匠」と果物ナイフを胸の前で抱えて喜んていた。

 一年後、嬢ちゃんはシムより早く見習いを終了した。シムよ、週1しか来ない嬢ちゃんに抜かれてどうする。

 料理人一人前の証として、ペティナイフをプレゼントしたら飛び跳ねて喜んでたよ。忘れてたけど、まだまだ子供だな。

 ◇

 レイシアお嬢様の料理修行は、奥様が帰ってくるまで続き、メキメキ腕を上げたのだった。

 どうやらメイド修行も、こんな感じで一人前と認められたそうだが、それはまた別のお話。
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