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第四章
プチカ族の村に向かってます
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全員で空を仰ぎ見ると、遥か上空で巨大な鳥の脚に人が掴まっているのが見えた。
「おいっ!? 何やってんだティアルカはっ!」
「あれってやっぱりティア?」
「のようだが……あの巨鳥はモンスターじゃない。神が乗る鳥と言われるガルーダ、それに似ている事からフェイクガルーダ、またはフェイクバードと呼ばれている鳥だ。といっても俺は本物の神鳥ガルーダなど見た事はないがな」
「よくあんな遠いの見えるわね。それじゃあんまり危険は無いって事でいいの?」
少し考え込み、「う~む」と一度唸ってからグランツは答える。
「まあ、そうなんだろうが状況がよくわからん」
それに対し、私は今までティアの行動を見てきた事からなんとなく予想がついた。
「たぶんだけど、ティアは今日の夕飯に捕まえようとしたんだと思うの」
「あんな大きいの食いきれないだろうがっ!」
「いいのよ。余ったら私がしまっちゃえばいいんだもん。それにね、ダンジョンでクロノスと暮らしていた時は自分でモンスターを狩って食べてたらしいの。だからまだいろいろと常識外の行動とか多いのよね」
「なるほどな。なんとなく納得したよ」
話している間にも状況は変化し、話し終わったと同時くらいに錐揉み状態で落ちて来た。そして、ティアは地面に激突する遥か手前で飛び降りると、何事もなかったようにフェイクガルーダの首を短剣で斬り落としてしまった。
切り口から大量の血が流れ出て、辺りには濃い血の匂いが漂い始める。フェイクガルーダをよく見ると、長い尾の半分くらいと根本が千切れかけていて、私が見た惨劇の跡はそれが原因だろう事がわかった。
傷を負わせられた為に暴れ、辺りに血が大量に飛び散った事で惨劇の跡が出来上がったのだろう。
ティアは薪集めの事なんてもう頭にないようで、黙々と短剣で解体を始めてしまった。それを見た私達は、全員頭をおさえて溜息をついた。
「すまんな……俺はティアルカの事をよく分かってなかったようだ。これからは適材適所で作業分担するよ。悪いがティアルカが途中まで集めた薪を拾って来てくれ」
「わかったわ。ウル、一緒に行きましょ」
「は~い」
二人が居なくなると、グランツはティアルカの手際良い解体を見ながらこれからの事を考えた。
おそらく今居る場所はもう安全ではない。これだけ血臭がすればモンスターを引き寄せる可能性が高く、安心して夜を明かす事は出来ないだろう。だが、時間的に新しい野営場所を探すのだって難しい。それならば野営せず夜間行軍というのも訓練になり良いかもしれない。
そう決めると次に問題になるのはウルの事だった。冒険者ではない為そんなに無理はさせられない。であれは自分が背負ってやるという選択肢もあるが、それはウルが嫌がらなかった場合だ。
暫く今後の事をあれこれ考えていると、アイシャとウルの話し声が近づいてくる事で帰ってきたのがわかる。
良い野営場所が見つかった為、早めに野営準備に取り掛かったので周囲はまだ明るい。まだ夕飯には早すぎる時間だが、グランツはそのまま食事の準備を進めさせる。
ティアルカの解体作業も終わり、これまでの行動について一通りの注意が終わると、全員で焚き火を囲んで肉を焼き食事を摂る。
意外にもフェイクガルーダの肉は柔らかくジューシーで美味かった。何かの調味料があればもっと美味しくいただけたのだろうが、そこまで贅沢は言えない。
「ある程度お腹もいっぱいになった所で、これからの行動について示す。まず、食事が終わったら焚き火を消し、速やかにこの場所を離れる。アイシャ、理由はわかるな?」
「血の臭いに釣られてモンスターとかが来るからでしょ?」
「そうだな。なので今日は寝ずに夜間行軍する事にした。目的地であるヴィラ・ププリまでは俺の概算であと二日程の距離だと思うが、何日かかけて湿地帯を大きく迂回したし、もしかしたら二日かからない距離まで来てるかもしれない」
「私やティアはいいけど、ウルはどうするの?」
「僕は大丈夫だよ。アイシャに一体ガーディアンを出してもらえれば乗って移動するから」
夜間行軍が決まり、食事の後はすぐ出発準備にかかる。
辺りが薄暗くなってきた頃には全員準備が終わり、後はグランツの声掛けで出発するばかりとなった。
「ここからは先頭を俺が行く。続いてアイシャ、ウル、ティアルカの順で進むが、各自油断せず周囲を警戒しろよ。特にティアルカは自分の判断で魔眼を発動してくれ。まあ、魔族は普通に夜目が利くんだろうけどな。では出発だ」
開闊地はまだ明るかったのに、森の中へ入るとだいぶ暗い。
グランツを先頭に指示通りの隊形で進んで行き、ある程度の距離を河に沿って北上した後は、ゆるやかに進む方向を東に修正しながら歩き進める。
もう真っ暗闇の中を進んでいるというのに、先頭を行くグランツは、周囲が見えているかのように日中とかわらぬ足取りで歩いていく。
私にはそれが不思議でたまらなかったけど、歩いているうちになんとなくコツのようなものが分かって来た。
今までモンスターの気配を察知する感覚を磨いて来た。それが夜は森の気配とでもいうのだろうか、目が当てにならないぶんそういった別なものを感じとり、周囲の状況を徐々に捉える事が出来るようになってきた。
比較的近くに潜む小動物の気配、または、どのようなモンスターかまでは分からないけれど、何種類か違う気配を遠くに感じ取る事が出来る。
グランツは戦闘になるような遭遇を避けながら進んでいるようで、私やティアと違い、かなり強力な威圧のようなものを周囲に発散させている。中途半端なものならば逆に相手を挑発する行動となるけど規模が違う。
私達他の三人にも分かるような濃厚なそれは、体の動きを束縛するようなプレッシャーにはなっていないけど、それが何か分からないならば近づかないほうがよい。自分より強い何者かがいる。そういったものを肌にピリピリする感覚で伝えてくる。
野生の動物やモンスターなら感覚的にもっと強く感じ取っているかもしれない。
そのお陰かは分からないけど、まったくモンスターに襲われる事なく朝方まで歩き進める事が出来た。
何度か小休止を挟むだけでひたすら歩いた成果もあってか、朝焼けが東の方角を染め上げ始めた頃には、ラタ大森林を抜けでて細い林道に合流した。
そのまま北の方角を見ると、今は林道が伸びる遥か北に、カルダート山脈の連なる山影がだいぶ近くに見えている。
地理に疎い上に地図もない。そこへ夜を徹して歩いたので、自分が何処にいるかなど私にはまったく分からないけれど、それでも冒険者として鍛えてきたし体力的にはまだ余裕がある。
だけどウリにはやっぱり無理があったみたいだ。久しぶりに自由に体を動かせるようになった反動のせいか、ガーディアン上で居眠りして何度も落ちそうになった。
今は安全を考慮し、グランツに背負われ、紐で括り付けられた状態で眠っている。寝顔もすっごくカワイイ!
私は愛玩動物でも愛でるようにウルの頭を撫でると、自分の体が先程から主張している要求をグランツに伝えた。
「ねえ、そろそろ休憩も兼ねて朝食にしましょうよ?」
「ティアもお腹空いた」
「よし、ウルもずっと俺の背中じゃ嫌だろうし、そうするか」
決めてから時間を置かずに休憩に適した場所を見つけ、ウルを起こしてグランツの背から降ろしてやる。その後はアイシャがスキルでちょっとした食べ物を出し、全員に飲み物と一緒に配り朝食となった。
「そのスキルは反則だな。商人なんかが知ったら目の色を変えてお前を勧誘するぞ?」
「そうかもね。それよりも軍に知れたら厄介かも知れないって思うけど、どうなんだろ?」
「大きな戦でもあれば重宝するかもしれないが、普段はあまり所用が無いだろう」
「僕はガーディアンを全部持ち歩いてもらって助かってるけどね。あれはいろいろと役に立つから」
ウルの話しでは、起動した者が誰であっても、製作者である自分が全ての権限を奪い取る事が出来るのだという。更に、同時に操作出来る数に制限はなく、それぞれ個別に命令したり伝播して同じ命令を共有するなども可能なのだそうだ。
権限奪取に関しては、湖底遺跡で起動した魔導兵が停止され、既に経験済みでもある。なので今聞いた他の事も嘘ではないだろうとわかるし、ウルは見せていないだけでまだいろいろな力を持っているのかもしれない。だとしても、自分達に敵意などが無いならば問題はない。まずは保護下に置き、暫く様子を見ようとグランツは決めているようだ。
「さて、そろそろ出発しようか」
では出発という時だった。林道に出ると遥か南方から多数の騎馬が走ってくるのが見えた。
「あれは……ティアルカ、盗賊かどうか確認出来るか?」
グランツの言葉に魔眼を発動すると、ティアの両眼はゆっくりと深紅に染まっていく。それから数十秒ほど遠くを凝視した後、盗賊では無いと自信を持って報告する。
「黒い鎧に赤い鳥が書いてある。何だかわかる?」
「赤い鳥……タキア軍の騎兵隊だと? こんな辺境に何の用が!?」
タキアはカルダート山脈の南東に位置する小国で、建国の母体となったのは騎馬民族らしい。
強力な騎兵隊を傭兵として運用する軍事国家である事でも有名だ。しかし、小国が生き残る為にとった手段ではあるけど、あまりに代償が大き過ぎた。
各国が覇を争う戦国時代には、傭兵業最盛期に一時は人口が半分まで減少し、他国から女の奴隷を買い集めては繁殖の為に使い潰したという黒歴史まであるのだ。
そんな国の軍隊や騎士達がまともな訳が無いと思うかもしれないけど、決してそうではない。ある程度平和な現在は、傭兵業はそこそこ行う程度であり、『大国と大国の国境を守護する』という各国の協定に基づいた新たな生き残りの手段さえ得ているらしい。と、私が知っているのはイダンセで冒険者になる前に勉強して覚えた知識だけ。
それにしても、私達が今居るのは国境でもなければ国同士が小競り合いをする紛争地帯でもない。
そんな場所に一国の軍隊が出向く理由とは一体何なのか、グランツも思い当たらないのか首を捻って悩んでいる。
騎馬が二列しか並べないような林道をタキアの騎兵らしき者達はゆっくりと近付いてくる。
もうお互いに存在を視認出来ている筈だけど、流石に向うも素通りはしない。
先頭から徐々に速度を落としていき、数歩手前でピタリと全軍が止まる。まだ遠い時には見えていなかったけど、その数は五十を超えていた。
「おいっ!? 何やってんだティアルカはっ!」
「あれってやっぱりティア?」
「のようだが……あの巨鳥はモンスターじゃない。神が乗る鳥と言われるガルーダ、それに似ている事からフェイクガルーダ、またはフェイクバードと呼ばれている鳥だ。といっても俺は本物の神鳥ガルーダなど見た事はないがな」
「よくあんな遠いの見えるわね。それじゃあんまり危険は無いって事でいいの?」
少し考え込み、「う~む」と一度唸ってからグランツは答える。
「まあ、そうなんだろうが状況がよくわからん」
それに対し、私は今までティアの行動を見てきた事からなんとなく予想がついた。
「たぶんだけど、ティアは今日の夕飯に捕まえようとしたんだと思うの」
「あんな大きいの食いきれないだろうがっ!」
「いいのよ。余ったら私がしまっちゃえばいいんだもん。それにね、ダンジョンでクロノスと暮らしていた時は自分でモンスターを狩って食べてたらしいの。だからまだいろいろと常識外の行動とか多いのよね」
「なるほどな。なんとなく納得したよ」
話している間にも状況は変化し、話し終わったと同時くらいに錐揉み状態で落ちて来た。そして、ティアは地面に激突する遥か手前で飛び降りると、何事もなかったようにフェイクガルーダの首を短剣で斬り落としてしまった。
切り口から大量の血が流れ出て、辺りには濃い血の匂いが漂い始める。フェイクガルーダをよく見ると、長い尾の半分くらいと根本が千切れかけていて、私が見た惨劇の跡はそれが原因だろう事がわかった。
傷を負わせられた為に暴れ、辺りに血が大量に飛び散った事で惨劇の跡が出来上がったのだろう。
ティアは薪集めの事なんてもう頭にないようで、黙々と短剣で解体を始めてしまった。それを見た私達は、全員頭をおさえて溜息をついた。
「すまんな……俺はティアルカの事をよく分かってなかったようだ。これからは適材適所で作業分担するよ。悪いがティアルカが途中まで集めた薪を拾って来てくれ」
「わかったわ。ウル、一緒に行きましょ」
「は~い」
二人が居なくなると、グランツはティアルカの手際良い解体を見ながらこれからの事を考えた。
おそらく今居る場所はもう安全ではない。これだけ血臭がすればモンスターを引き寄せる可能性が高く、安心して夜を明かす事は出来ないだろう。だが、時間的に新しい野営場所を探すのだって難しい。それならば野営せず夜間行軍というのも訓練になり良いかもしれない。
そう決めると次に問題になるのはウルの事だった。冒険者ではない為そんなに無理はさせられない。であれは自分が背負ってやるという選択肢もあるが、それはウルが嫌がらなかった場合だ。
暫く今後の事をあれこれ考えていると、アイシャとウルの話し声が近づいてくる事で帰ってきたのがわかる。
良い野営場所が見つかった為、早めに野営準備に取り掛かったので周囲はまだ明るい。まだ夕飯には早すぎる時間だが、グランツはそのまま食事の準備を進めさせる。
ティアルカの解体作業も終わり、これまでの行動について一通りの注意が終わると、全員で焚き火を囲んで肉を焼き食事を摂る。
意外にもフェイクガルーダの肉は柔らかくジューシーで美味かった。何かの調味料があればもっと美味しくいただけたのだろうが、そこまで贅沢は言えない。
「ある程度お腹もいっぱいになった所で、これからの行動について示す。まず、食事が終わったら焚き火を消し、速やかにこの場所を離れる。アイシャ、理由はわかるな?」
「血の臭いに釣られてモンスターとかが来るからでしょ?」
「そうだな。なので今日は寝ずに夜間行軍する事にした。目的地であるヴィラ・ププリまでは俺の概算であと二日程の距離だと思うが、何日かかけて湿地帯を大きく迂回したし、もしかしたら二日かからない距離まで来てるかもしれない」
「私やティアはいいけど、ウルはどうするの?」
「僕は大丈夫だよ。アイシャに一体ガーディアンを出してもらえれば乗って移動するから」
夜間行軍が決まり、食事の後はすぐ出発準備にかかる。
辺りが薄暗くなってきた頃には全員準備が終わり、後はグランツの声掛けで出発するばかりとなった。
「ここからは先頭を俺が行く。続いてアイシャ、ウル、ティアルカの順で進むが、各自油断せず周囲を警戒しろよ。特にティアルカは自分の判断で魔眼を発動してくれ。まあ、魔族は普通に夜目が利くんだろうけどな。では出発だ」
開闊地はまだ明るかったのに、森の中へ入るとだいぶ暗い。
グランツを先頭に指示通りの隊形で進んで行き、ある程度の距離を河に沿って北上した後は、ゆるやかに進む方向を東に修正しながら歩き進める。
もう真っ暗闇の中を進んでいるというのに、先頭を行くグランツは、周囲が見えているかのように日中とかわらぬ足取りで歩いていく。
私にはそれが不思議でたまらなかったけど、歩いているうちになんとなくコツのようなものが分かって来た。
今までモンスターの気配を察知する感覚を磨いて来た。それが夜は森の気配とでもいうのだろうか、目が当てにならないぶんそういった別なものを感じとり、周囲の状況を徐々に捉える事が出来るようになってきた。
比較的近くに潜む小動物の気配、または、どのようなモンスターかまでは分からないけれど、何種類か違う気配を遠くに感じ取る事が出来る。
グランツは戦闘になるような遭遇を避けながら進んでいるようで、私やティアと違い、かなり強力な威圧のようなものを周囲に発散させている。中途半端なものならば逆に相手を挑発する行動となるけど規模が違う。
私達他の三人にも分かるような濃厚なそれは、体の動きを束縛するようなプレッシャーにはなっていないけど、それが何か分からないならば近づかないほうがよい。自分より強い何者かがいる。そういったものを肌にピリピリする感覚で伝えてくる。
野生の動物やモンスターなら感覚的にもっと強く感じ取っているかもしれない。
そのお陰かは分からないけど、まったくモンスターに襲われる事なく朝方まで歩き進める事が出来た。
何度か小休止を挟むだけでひたすら歩いた成果もあってか、朝焼けが東の方角を染め上げ始めた頃には、ラタ大森林を抜けでて細い林道に合流した。
そのまま北の方角を見ると、今は林道が伸びる遥か北に、カルダート山脈の連なる山影がだいぶ近くに見えている。
地理に疎い上に地図もない。そこへ夜を徹して歩いたので、自分が何処にいるかなど私にはまったく分からないけれど、それでも冒険者として鍛えてきたし体力的にはまだ余裕がある。
だけどウリにはやっぱり無理があったみたいだ。久しぶりに自由に体を動かせるようになった反動のせいか、ガーディアン上で居眠りして何度も落ちそうになった。
今は安全を考慮し、グランツに背負われ、紐で括り付けられた状態で眠っている。寝顔もすっごくカワイイ!
私は愛玩動物でも愛でるようにウルの頭を撫でると、自分の体が先程から主張している要求をグランツに伝えた。
「ねえ、そろそろ休憩も兼ねて朝食にしましょうよ?」
「ティアもお腹空いた」
「よし、ウルもずっと俺の背中じゃ嫌だろうし、そうするか」
決めてから時間を置かずに休憩に適した場所を見つけ、ウルを起こしてグランツの背から降ろしてやる。その後はアイシャがスキルでちょっとした食べ物を出し、全員に飲み物と一緒に配り朝食となった。
「そのスキルは反則だな。商人なんかが知ったら目の色を変えてお前を勧誘するぞ?」
「そうかもね。それよりも軍に知れたら厄介かも知れないって思うけど、どうなんだろ?」
「大きな戦でもあれば重宝するかもしれないが、普段はあまり所用が無いだろう」
「僕はガーディアンを全部持ち歩いてもらって助かってるけどね。あれはいろいろと役に立つから」
ウルの話しでは、起動した者が誰であっても、製作者である自分が全ての権限を奪い取る事が出来るのだという。更に、同時に操作出来る数に制限はなく、それぞれ個別に命令したり伝播して同じ命令を共有するなども可能なのだそうだ。
権限奪取に関しては、湖底遺跡で起動した魔導兵が停止され、既に経験済みでもある。なので今聞いた他の事も嘘ではないだろうとわかるし、ウルは見せていないだけでまだいろいろな力を持っているのかもしれない。だとしても、自分達に敵意などが無いならば問題はない。まずは保護下に置き、暫く様子を見ようとグランツは決めているようだ。
「さて、そろそろ出発しようか」
では出発という時だった。林道に出ると遥か南方から多数の騎馬が走ってくるのが見えた。
「あれは……ティアルカ、盗賊かどうか確認出来るか?」
グランツの言葉に魔眼を発動すると、ティアの両眼はゆっくりと深紅に染まっていく。それから数十秒ほど遠くを凝視した後、盗賊では無いと自信を持って報告する。
「黒い鎧に赤い鳥が書いてある。何だかわかる?」
「赤い鳥……タキア軍の騎兵隊だと? こんな辺境に何の用が!?」
タキアはカルダート山脈の南東に位置する小国で、建国の母体となったのは騎馬民族らしい。
強力な騎兵隊を傭兵として運用する軍事国家である事でも有名だ。しかし、小国が生き残る為にとった手段ではあるけど、あまりに代償が大き過ぎた。
各国が覇を争う戦国時代には、傭兵業最盛期に一時は人口が半分まで減少し、他国から女の奴隷を買い集めては繁殖の為に使い潰したという黒歴史まであるのだ。
そんな国の軍隊や騎士達がまともな訳が無いと思うかもしれないけど、決してそうではない。ある程度平和な現在は、傭兵業はそこそこ行う程度であり、『大国と大国の国境を守護する』という各国の協定に基づいた新たな生き残りの手段さえ得ているらしい。と、私が知っているのはイダンセで冒険者になる前に勉強して覚えた知識だけ。
それにしても、私達が今居るのは国境でもなければ国同士が小競り合いをする紛争地帯でもない。
そんな場所に一国の軍隊が出向く理由とは一体何なのか、グランツも思い当たらないのか首を捻って悩んでいる。
騎馬が二列しか並べないような林道をタキアの騎兵らしき者達はゆっくりと近付いてくる。
もうお互いに存在を視認出来ている筈だけど、流石に向うも素通りはしない。
先頭から徐々に速度を落としていき、数歩手前でピタリと全軍が止まる。まだ遠い時には見えていなかったけど、その数は五十を超えていた。
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