私、凄いスキルが遺伝しました。

龍夢

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第二章

ライノサラスは美味かった

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 宿泊場所の片付けが終わり外へ出ると、朝という事もあり、多くのパーティーがダンジョンに移動している最中だった。
 ティアは人の多さにびっくりし、私の後ろに隠れてる。まあ、イダンセに戻れば嫌でも人混みに慣れるだろう。
 全員で厩舎前に移動すると、エリーゼからこれからの行動予定が手短かに話される。

「ここを出発したら来た時の逆順でイダンセまで帰るわ。夜営場所は帰路の進み具合で決めましょう。ラパンが馬車の準備をしたら荷物を積み込みすぐ出発します」

『了解!』

「ええと、コーディに知ってたらでいいけど教えてほしい事があるの」

「どんな事だ?」

「今の教会の大司教は誰だか分かる?」

「教会か……あそこはだいぶ昔にいろいろとあって何度も大司教が変わっている筈だ。何代か前には二つに割れて争ったりもしたしな。今の大司教が誰かは分からない。まあ、神聖魔法が使えるエリーゼは教会と無関係ではないんだろうけど」

「ええ……教えてくれてありがとう」

(やはり実際に自分で調べなくてはだめね……十九年も放っておいた事を気にし過ぎかしら)

 なぜエリーゼが教会の事を知りたがったのか私も気になったけど、今はイダンセに帰る事。他の事はその後だろう。
 出発準備が整うと、来た時のメンバーにティアを加え、パーティーはダンジョンキャンプを後にした。
 帰路は特に何か起きるという事もなく、朝早く出発しただろうパーティーとすれ違いながら順調に進んでいく。その間、ティアはずっと外の風景を見続けている。
 大部分を魔界や薄暗いダンジョンで暮らしていたらしいので、明るい世界というのは見ていて飽きないみたい。
 そして、太陽が中点に差し掛かった頃、馬車はライノサラスが出るという危険地帯に入った。
 念の為コーディーが御者席にいるラパンの後ろに立ち警戒してるけど、特に遭遇する事なく危険地帯を進みきる事が出来た。

「エリーゼ、危険地帯も抜けたしそろそろ休憩しないか?」

 御者席から声を掛けられ、考え事をしていたエリーゼはハッとなり振り向く。出発してからずっとこんな感じなんだけど、どうしちゃったんだろう?

「ええ、適当な所に馬車を停めてくれる?」

 見通しがよく、何か不測の事態が起きた場合も対応可能な場所を選定し馬車を停める。全員馬車から降りると、私は空間に差し入れた手から飲み物とグラスを出し、注いだものから皆に配った。

「その能力は便利だな。一家に一人ほしいぜ」

「うふふ~ん。私とエリーゼはそう簡単に手に入らないわよ?」

「アイシャはダメ!」

「おいおい、怒るなティアルカ! 別に取って食おうって訳じゃないんだからよ」

「食べちゃだめ」

『………』

 ラパン! ティアルカに普通の会話は通じないのよ?
 飲み物で全員喉を潤し、馬も十分休ませる事が出来た。ではそろそろ出発しようかという時だった。

「あれは……ライノサラスか?」

 コーディの指差す方向を見ると、林縁に沿って大きな四速歩行動物が動いているのが見えた。しかし、何だか様子がおかしい。やけにフラフラしながら止まっては歩くを繰り返しているのだ。

「あのライノサラスは怪我でもしてるようだな。ちょっと様子を見てこよう」

 コーディが立ち上がると『私も』と言ってイリージャも一緒について行っちゃった。

「なんだかあの二人は最近怪しいな……」

「二人というよりはイリージャのほうかな」

 じつは私もそれには気付いていた。二人の仲が怪しいとラパンは言うが、今のところイリージャが一方的に好いているような気配がある。
 いわゆる片思いというやつだけど、コーディはそれに気付いていないのか、今の所態度に出す事は無いみたい。
 少しして二人が帰ってくると、コーディが偵察結果を報告した。

「やはり様子がおかしいのは怪我をしているからで、おそらく他のモンスターと戦闘でもしたのか腹部に大きな怪我をしている。内蔵もはみ出してるし、致命傷だから長くは持たないだろう」

「それじゃ……そのまま死んじゃったら誰のものでもない?」

「まあ、そうなるだろうな」

「ねえねえ、ライノサラスがタダで手に入っちゃう?」

「あれを頂いちまおうってのか? あんな大きいのどうやって持ち帰ろうって……まさかスキルか?」

「そのまさかよ! そう、私とエリーゼには可能なのよね」

「やっぱりとんでもないスキルだな……」

 すると、ティアが話しを聞いていたのかいなかったのか、猛ダッシュでライノサラスの方へ走り出した。

「ちょっとティア! 一人で行かないで!」

 止めようとしたけどすでに遅かった。全員で後を追うけど追いつく事が出来ない。っていうかティア速すぎ。そして、ライノサラスのすぐ近くまで行くと、当たり前のように腰の剣を抜き上段から振り下ろした。
 『ドオオォォォン』と物凄い音がし、周囲に土煙が舞い上がって視界が奪われたけど、少し待つと風が洗い流してくれて見えるようになった。
 武器は剣であった筈だが、振られた剣の攻撃は見事に首を一刀両断したようで、地面に当った所に穴を作るほどの威力を持っていた。
 ゆっくりズレて首が穴へ転がり落ちると、その場に崩れ落ちたライノサラスの首から大量の血が吹き出し穴へと流れ込む。
 私も何度かやった事があるけど、ティアは血抜きをしないと肉が不味くなるというのを知っているみたい。

「ティア凄~いっ!」

 ティアの膂力を目の当たりにして皆が驚く。これだけの力を持つというのに、それでも捕らえられ食べられようとしていたティア。
 捕まった時の状況を詳しく聞いていないけれど、この実力でも生き残れない場所にいたというのなら、そこは尋常ならざる場所だったのだろう。
 確かに身体能力が優れているとクロノスは言っていた。だけどそれがこれほどの力だとは私だって思わなかった。ティアの見た目からだいぶ控えめに取ってしまっていたみたい。

 全員でティアの近くに行くと、咽かえるような血の匂いが辺りに漂っていた。このままじゃ別なモンスターが匂いに釣られて近づいてくる可能性もあるし、この場所に長く留まる事は危険だ。
 しかし、ティアの作った穴があり血抜きも進行しているので、コーディが手際よく解体して内臓を処理すると、本日食べる分だけを切り分け、残りは私がスキルを使って格納した。
 その後は長居は無用とばかりすぐ馬車に乗り出発する。

 適当に夜営出来そうな場所を見つけると、馬車を停めて準備をする。アイシャとティアルカは薪を拾いに行き、コーディとイリージャは周囲に危険が無いか偵察に出た。そして、残りの二人は夜営場所から少し離れた場所で肉を焼く為の準備をはじめる。

「ティアルカがいないから言っておこうと思うんだが、王都に連れて行けば間違い無く難癖つけてくる奴がいるぞ」

「構わないわ。ティアには冒険者になってもらうし、あとは実力で黙らせるから」

「エリーゼが保護者になるってわけか?」

「………」

「まあ、見た目は魔族に見えないけどな」

「ティアには正規パーティー登録時に三人目としてパーティーに入ってもらうわ」

「そうか……」

 会話はここまでだった。
 四人が帰ってくると次は夕飯の用意を始める。
 コーディとイリージャがそのまま警戒につき、他の者で火を起こし肉を焼く。
 暫くすると辺りにはなんともいえない肉を焼く美味しそうな香りが漂い始めた。

「これはたまんねえな」

「ティアも早く食べたい!」

「おう、これ焼けたから食え」

 早速ティアが焼けた肉を受け取りかぶり付いた。

「おっ! おぉぉぉぉっ!!」

「アイシャも食べろ」

 私も受け取りかぶり付く。

「お、おいしいっ!」

 ライノサラスの肉は脂もしつこいという事はなく、それでいて噛むと旨味がしっかりと肉汁として染み出てくる。
 エリーゼが美味しって言うから気になっていたんだけど、私もまさかこれほど美味しいとは思っていなかった。
 他の人も肉を受け取りかぶり付き、ライノサラスの肉の味には皆満足しているみたい。

「ティア、もっと欲しい!」

「よし、焼いてやるからどんどん食え」

 ラパンがすっかり肉焼き係りになっちゃってる。
 そのお陰で私とティアは次の肉を受け取って食べれてるんだけどね。
 ああ、満足です。そして満腹です。
 暗くなってからの食事は油断になるという事で、明るいうちから早めの食事をとったけど、気付くと辺りは薄暗くなってきていた。
 食事が終わると火を消して多めの土をかける事で防火処理をする。あとは馬車の中で休む者と周囲の警戒をする者とに三対三で別れて野営体制になった。

 私は馬車の中で休みながらこの数日の事を思い返す。
 臨時パーティー結成から今日までの事を思い返してみると、王都周辺にいただけでは経験出来ない事をたくさん経験できたんだなって思う。
 その臨時パーティーも明日で解散してしまうのだ。そう思うと少し寂しさが込み上げてくる。
 このメンバーなら楽しいし正規パーティーとして登録というのも選択肢にあったけど、自分の目指すものとは少し違う。
 私とエリーゼは不老であり、魔族のティアルカも人間と違い長命だ。そんな三人がこれから一緒に生きていくとなれば、普通の生活は出来ないかもしれないのだ。
 いろいろなマイナス要素もあるとして、それを差し引いたとしても、これからの冒険者生活は胸弾む事の方が多いように思えた。だって冒険者をしていないと経験出来ない事ってそういう事ばかりだから。

 いろいろと考えていたらなんだか眠くなってきちゃった。
 隣りで規則正しい寝息をたてるティアにピッタリ寄りそうと、私も眠りの世界へゆっくりと落ちていく。
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